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2章:1ANOTHER WORLD

早くも何と無く行き詰まった感が出てきました・・・

ちょっと(かなり)苦しい状況です(>_<)

1月4日午前1時5分、雨宮 京―――


「じゃあ頼んだぞ」


 それだけ言い残してゲート魔界へのゲートを潜る。

 踏み込んだ瞬間に奥に吸い込まれるような感じで自らの身体が現界から消える。

 ゲートの中を猛スピードで飛ばされている途中で一瞬、身体が分解され、手足の感覚を異様に遠くに感じ、耳が詰まるような感覚に襲われ、顔をしかめた。


・・・この不快な感覚は何度やってもなれることが出来ないな。



 だが、不快な感覚もすぐに過ぎ去り、あっという間にゲートから吐き出される。

 吐き出された先、魔界。


3年振りか・・・・


 久々に感じる魔界の空気に何となく懐かしさを感じ、少し感傷的な気分になる。

 実は3年前にちょうど爆発的に膨れ上がる魔力を制御出来ず、誤って暴走させてしまい、一人ゲートに飲み込まれ魔界に飛ばされた事がある。

 当時は見知らぬ異界へ一人飛ばされた事への恐怖よりも、 未だ見ぬ世界への好奇心の方が強く、暫く一人で気の向くままに魔界旅をして回ったのだった。

 行く先々で様々な魔獣と対峙、それらをアジーンの助けを借りながら全て制し、その中で得た戦闘経験や魔獣の様々な魔力を用いた技法をアレンジして習得した技法は今日の京の大きな力となっている。

 途中行き倒れていた所を魔人族の女性に助けられたこともあった。

 色々な記憶が走馬灯のように流れていった後、肝心の周囲の安全確保を思い出しアジーンに索敵を頼む。


「アジーン、何か感じるか?」

『うむ、個々から約100メートル北の場所におよそ20匹程度の低級魔族の群れがいるな』


ウォーン


 獲物を見つけ、興奮している獣の遠吠え。


「遠吠えが聞こえた、危険だな。・・・シンクロ100%」


 素早くアジーンと同調し、器を変化させる。

 どういうわけか、現界にいた時とは違い、魔界では身体の変化が早く、約1/10ぐらいの時間で終わる。

 手早く変異を終わらせた京は急いで遠吠えの聞こえた場所へと向かう。

 地を蹴りその勢いのまま飛び上がり、翼を使って高速で地面スレスレを超低空飛行する。


見えた、コリオン、か・・・?


 見えた先では1頭のスレイプニルが引く幌付きの馬車がコリオンの群れに襲われていた。

 スレイプニルはどうやら既にいくつか脚を負傷しているらしく逃げる事が出来ないようだ。 馬車に乗っているのは御者の男一人のようで、何か詠唱しているようだが、魔力が変化するのも遅く、また反応している魔力も少なくこのままではやられてしまうだろう。

 とりあえず街まで道を聞きたいので助ける事にする。


『リーダーだけでも仕留めれば事足りるだろう』


 アジーンの助言によればコリオンは統制を取っているリーダーさえ仕留めれば、他の個体は一目散に逃げ出すらしい。 そうしている間にもコリオンはどんどん包囲網を狭め、その輪は10半径メートル程しかない。

 その中から急に1匹の体に赤いストライプの入った大柄なコリオンが御者に向かって飛び掛かろうとする。

 同時に詠唱が終わった御者の左腕も淡く輝き出す。

 どうやら身体強化の補助魔法を一点集中して発動したらしい。

 消費した魔力の割には腕力が強化されているようだ。 だが、たったそれだけではコリオンの群れを撃退するには余りにも心許ない。

 これは急いで助けねばなるまい。


いくぞ―――


 光魔法、ステルスシールドを無唱発現し、光を屈折させ、数瞬姿を隠しやや高めの高度からコリオンの輪を飛び越えて馬車の真上に到達。

 一度旋回して体制を整えてから、そのままスレイプニルに飛び掛かっていたリーダー格のコリオンの上に直下降、途中で魔法を解除し姿を見せると同時に頭を上げ、脚から落ちる体制を取る。

 異変に気付いたコリオンが首を捻って巨大な竜が降ってくるのを見上げた時にはもう遅かった。


ゴシャッ


 時速90キロで巨大な竜に背中から踏み付けられたコリオンは骨と肉の潰れる嫌な音と共に半身を失い、周囲に肉片を飛散させながらもどういう訳か、半死半生状態になりながらも生きていた。


 見せしめにされ、腹から下を失ったコリオンは意識を失い、切断面からドクドク血を垂れ流し、失血多量によりショック状態に陥りビクンビクン痙攣を起こしていた。


ほう、まだ生きているのか?


 踏み付けた左足を退けながら様子を見てそう思ったが、そのままでは少々気の毒に思い頭を踏み潰してその命を絶つ。


 ふと辺りを見回すと、襲われていた御者は突然現れた敵とも味方ともつかない巨竜に腰を抜かしその場に尻餅をつき、辺りを包囲するコリオンは突然現れリーダーを殺した敵から逃げるべきという生存本能に従うべきなのか、死骸の血の臭いが更に駆り立てる食欲に従うべきか迷っていた。


「おいおい、リーダーを殺れば退散するんじゃなかったのか?」

『通常のコリオンならそのはずだが、奴ら余程餓えているらしい。生存本能と極限食欲との狭間で混乱しているようだ。なに、少し脅かせば直ぐに逃げ出すだろう』

「わかった」


 大きく息を吸い込み・・・体全体を使って咆哮を上げる。


グォォォオアアアアア!!!


 京の証明にいたコリオン数匹が衝撃により1〜2メートル吹き飛ばされ、その圧倒的な力を誇示するパワーボイスに怯えたコリオン達は、我先にと蜘蛛の子を散らすように街道脇の森へと逃げて行った。



『上手くいったようだ』


 そのまま後ろを振り返り御者を睨み付ける。

 既にこちらが竜族だと分かり、身の危険はないと判断した御者は心底感謝した様子で京に頭を垂れて礼を言う。


「危ない所をお助けて頂き感謝します。あのままでは私の命は無かったでしょう。この御恩は何をしても返せるものではありません。どうぞ、何なりと御申し付けください」


 同調率を20%まで下げ、普段の京が黒い鎧を纏ったような人の形を取る。

 男は20代半ばぐらいで、身長は180センチ程で革を鞣して作られた魔界では一般的な服を着ていた。


「そうか、では先ず2、3聞きたい事がある」

「はい、何でしょうか?」


 突如小さくなり、人の形を取った京に驚きながらも、快く承諾する。


 とりあえず立ち上がらせて名前を聞く。


「では最初の質問だが、名は何という?」

「これは申し遅れました、私、グレイ=エイジストと申します」


 名を名乗り遅れたことを詫びる男。



「そうか、然らばグレイよ、して、このような真夜中に何をしていた?何故このような時刻に街道に一人でいた?見れば特にここで夜を明かしていたわけでもあるまい?」


 辺りは確かに野宿するにはちょうど良い街道脇の開けた場所だが獣避けに火を起こした形跡も無く、なにより、スレイプニルが馬車に繋がれたままだった。


「はい、私この先にある街ガレスティアにて代々医者などをやっておりまして、昨日、この街道の反対側にある村で魔族に襲われた急患が出たと知らせを聞いて治療に訪れていました。治療が済んで、村で朝まで待てばよかったのですが生憎家内が身重でして、出来るだけ早く帰ろうとして夜の街道を走っていたところを先程のコリオンの群れに襲われていた次第です」

「そうか、事情は分かった。では早く帰ろうとしている所を悪いのだが、何着か着る物、もしくは体を覆い隠せるような物を持ってはいないだろうか?」

「いえいえ、悪いなど滅相もございません。しかし、衣服と言いますと?」


 グレイは首を傾げ、少々不思議そうに聞き返してくる。

 それはそうだ、突然街道で助けられた竜族に数点の衣服を要求されたのだ、思わず好奇心から聞き返してしまうのだろう。


「まず私は5分程前に数人の連れと異界から来たのだが、そのせいで衣服が無いのだ。それから、私は竜族ではない、人間だ。竜と契約はしているがな」


 最初は驚いた様子だったグレイだが納得して分かりましたと頷いた。

 医者という裕福な家庭に育ったためそれなりに教養があり、異界へのゲートのことや、契約者についてもある程度は知っているらしい。


「それともう一つ悪いのだが、7人程、そのガレスティアと言う街へついでに運んでは貰えぬか?」


「お任せ下さい」


 満面の笑みでそう言い切ったグレイだった。


4日午前0時10分


 ゲートを潜り、順番に魔界へ来た7人。

 魔界と言うからには赤い雲でも立ち込めた真っ黒な空だと思い込んでいたが、思いの外普通の空で、現界よりも綺麗な星空だった。

 出た場所は開けた道のようで脇には広大な森が広がっていたが魔獣の姿は無かった。

 だが、そこに京の姿も無かった。

 あったのは光と水の魔法で作られた霧だけで、その中に入れば首から下は決して見える事が無かった。


「雨宮君、何処行ったんだろう?」

「私がこちらに来た時には既に姿がありませんでした」


 そう話し込んでいる聖と香奈芽を他所に舞と美伶、紗耶香はその場にあった不思議な霧に興奮していた。


「何これ?おもしろーい」

「霧みたいだけど・・・ただの霧じゃないみたいね」

「入ったら何でも消えるみたいだね〜?」


 次にゲートから現れた二人は・・・裸で絡み付きあっていた。


「ちょっと英司、タカ・・・あんた達ってそういう関係だったの?」

「不潔ぅ〜」

「最低です!!」


 汚いものを見るような視線を浴びながら必死で弁解する二人。


「待て、舞。これはだな・・・その、向こうでふざけているうちにだな・・・」

「そうだよ皆、僕をそんな目で見ないで・・・」


 小動物よろしく目をウルウルさせる英司、その様子が可愛かったので英司に対する軽蔑の眼差しは無くなったが、その分、襲い掛かっていた島に集中する。

 こちらは襲っていたのは確かなので成す術が無かった。

 以後一週間に渡り、話を聞いた京やグレイ達からもやや距離を置かれることになる。


 しばらくして、京が謎の生物が引く馬車と御者を引き連れて戻って来た。


「何だこの馬みてぇな生物は!?それにあんた誰だよ、おい!?」

「初めまして、私グレイ=エイジストと申します。先程こちらの雨宮さんに危ない所を助けて頂きました。それとこいつはスレイプニルのマスタングです」


 そう言ってペコリと頭を下げるグレイに皆恐縮したが、挨拶もそこそこに馬車の中をごそごそ探り出したグレイは少ししてから5着の衣服と2つの大きなタオルのような物を持って出て来た。


「すいません、これだけしかありませんでした。後は私の着ている分でよろしければ―――」



 と言って自分が着ている服を脱ごうとするのを皆慌てて止める。

 いきなり見知らぬ世界の知らない人物が衣服を譲ってくれ、さらには足りない分は自ら着ている分まで差し出そうとしているのだ。


「いえいえ、たった今会ったばかりの赤の他人の為にそこまでしてくださらなくとも・・・」


 と香奈芽が止めるのだが、グレイは頑として譲らない。


「いえ、私つい先程雨宮さんに命を救って頂いた恩がありますので!少しでもこの恩にむくいたいのです!!」

「ぶふぉっ!ちょっ、雨宮、お前居なくなったと思えば何やってたの!?」


 依然同調を解除していない京に島が突っ込む。


「魔獣の群れのリーダーを踏み殺して襲われていたグレンの命を助けた」


 淡々とただありのままに伝えられる驚愕の事実。

 まさか魔界に来て数分でもう魔獣を殺していたとは、と驚嘆する香奈芽達だったが、同時にグレイの行動にも納得した。

 だが、納得はしたがやはり受け入れる事は出来ない。

 そこでどうしようか香奈芽が路頭に迷っていた所で京の一言。


「グレイ、そこまでして貰わなくても良い。俺はこのままでも問題無い」


 確かに京のその姿にだれも違和感は無かったし、グレイは京がそう言うのならと渋々引き下がった。


 その後、一行はグレイに回復魔法を掛けられ回復したスレイプニルが引く高速馬車に乗り、グレイの住む街ガレスティアへと向かった。


「なんだかスゲェ内装だな?貴族みてぇ・・・ところでよ〜、グレイは何でこんな時間に街道で魔獣に襲われてたんだよ?」


 9人で乗っても余裕がある大型馬車の中には赤い絨毯や革張りのシートに、壁に施された金の刺繍、中央には大きな材質の良いテーブルが据えられている。


「って、何であんたはもう呼び捨てにしてるのよ!?」

「ははは、いいんですよ舞さん。この方が私も気が楽でいいですので」


 グレイは快活に笑いながら話す。

 御者のグレイまで馬車の中に乗り込んでいるがスレイプニルは利口なので問題は無かった。


「いやー・・・実は仕事で隣の村まで行ってまして、その帰りに早く帰りたかったものですから、仕事が終わってからすぐ馬車を走らせていたらコリオンの群れに襲われてしまいました〜はっはっは。いや〜一時はどうなる事かと・・・」


 グレイは笑いながら言っているが笑い事ではない。

 下手をすれば今頃あのコリオンの腹の中にいたかもしれないのだから。


「それってさ、笑い事になってないよ〜・・・でさ、そのコリオンて何なの?」


 突然、その質問をした紗耶香の前に京が何時ものように何処からともなく白い牙を2本取り出しそっと置いた。


「何、これ?歯?」


 不思議そうに一つを手に取って聞く紗耶香。

 よく見てみるとその大きく湾曲した牙は孤の内側に大きな鋭い返しが付いていた。


「これは・・・コリオンの牙?さっきのやつのですね?」


 正面に座っていたグレイももう一つを手に取りそう言った。

 京はそれに無言で頷く。

 魔界では害獣指定されている魔族を狩った後、討伐を証明するためにその魔族によって指定された部位を剥ぎ取り、それを街のギルドに提出することによって報奨金が貰える。

 今回は別に依頼を受けて狩った訳でも無く、ギルドにも登録してないため報酬もないが、こういった魔族から取れる品には様々な使い道があり、かなりの需要がある。


「毒がまだ生成出来る。医者なら使えるだろう?取っておけ」

「ふふ、貴方には世話になりっぱなしですね。では、有り難くいただいておきます」


 コリオンのリーダーはその鋭い上顎に生えた一対の犬歯から、神経毒を出すことが出来る。

 この毒はそのままでは1ミリグラムでも体内に入れば人間なら30分は痺れて動けなくなる。

 だがこの毒は様々な複雑な処理を加える事により、代謝を高める働きを持つ薬となる。


「ちょ、医者かよ、なるほど」


 豪華な馬車にも納得した。

 なかなか裕福な家なのだろう。


「はい、先祖代々医者の家系でして、それなりに有名なんですよ。・・・コリオンとは低ランクの魔獣です。確か個体自体の強さはギルドでは最低ランクのFランクとなっていますが、通常は15〜30程度の群れで行動するのでその討伐依頼はDランクまで格上げされてますね」


 グレイはそのまま先程の紗耶香の質問に答える。

 これが彼の自然体なのか、かなり打ち解けた今でも丁寧な言葉遣いで話している。


「ランク?ギルド?」


 またも謎のワードが飛び出して来てちんぷんかんぷんな舞。

 グレイがそれに答えようとするが、京が待ったを掛ける。


「それについては朝になってから話してやろう。俺達のこれから暫くの間の最低限の文化的な生活をする上で必要な事だからな」

「なんと、皆様はハンターになられるんですか!?まぁ確かに、雨宮さんはかなりの強さのようですしね・・・」

「ハンター・・・?あぁ、それと俺達と雨宮を一緒にしないでくれ。そいつは本気で化け物並の強さだから」

「ふふふ、確かに、コリオンが吠えられただけで逃げ出す程でしたしね」


 通常、この世界のハンターがコリオンの群れと対峙する場合、ハンターも何人かでパーティーを組んで当たるのがセオリーで、単騎で追い払うなどまず有り得ない。


「コリオンなど、話にならん。ハンターになるのは不本意だが、行く宛も無いし、当面は仕方がない」


 ならばとグレイが口を開く。


「よかったら家に来ませんか?いくつか空いてる部屋もありますし、きっと家族も喜びますよ」

「しかしだな、そこまで世話になるのもな・・・」


 京が申し訳が立たないといった様子で渋る。

 コリオンを追い払ったなど、本当に造作も無いことだったので、京自身にしてみれば、蟻を踏み潰した事で恩を感じられ、感謝されているようなものだった。


「いえいえ、雨宮さんには命を助けて貰ったのですから。遠慮なさらずに!寧ろ、恩人を家に招待して持て成さなかったなど、祖父にバレたら・・・!!」


 とグレイが泣き付く。


「分かった分かった。では、暫くは世話になろうか・・・」


 といった感じで暫くの滞在先が決まった。

 ガレスティアの街へと到着したのはそれから30分程、馬車が走り出してから1時間程してからのことであった。

てなわけで、次回、グレイの家族が登場したりします。

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