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序章:8CRISIS

17日午前6時30分―――


グォォオン


「ちょ、やべ!あいつら数増えてるぜ!!」

「うぅ・・・酔った・・・」

「ちょ、英司!?頼むから堪えてくれ。俺の横で吐くなよ!?」


シャー


静寂なエンジンが踏んでいる為凶暴な唸りを上げ、ブーストコントローラーで過吸圧を一時的に上げたタービンが甲高い悲鳴を上げる。


ギャアアアア!


背後から聞こえる怪物の歓喜の叫び。どうやら獲物を見付けて興奮しているようだ。

この場合獲物は京達一行。

現在歪んだ器達と死の追いかけっこの真っ最中。

流石に秘匿結界も後に残る匂いまでは消せない。

その匂いがどうやら人間より嗅覚が優れた生物、大方野犬辺りが変異した怪物を筆頭に、異形の者達が追ってきている。


キシャアアアア!


某頭文字に出てきそうな峠を150km/h、所によっては200km/h近く出していも易々と着いてくる。さっき見た奴らより身体能力が飛躍的に高まっている。

中には人型もいるので、短時間でより強靭な形へ進化しているのだろう。

これはかなり厄介だ。

恐らくこの身体能力なら銃弾は回避される。

支部が壊滅状態に追い込まれるわけだ。

部隊といっても実戦経験のない素人のような者ばかり。

そんな者が一個師団配備していても勝てる訳が無い。


「うぉおおおぅ!?」


山道に有りがちなS字カーブを抜けシケインに突入する。

直前でABSを切り、タイヤがロックしない絶妙な強さでブレーキを踏み込み、荷重をフロントへ移し、そのまま慣性ドリフトへ移行。

そのままシートベルトをしていても飛ばされそうな後部座席から悲鳴が上がるが、敵に捕まり惨殺されるのに比べればどうということはないので無視する。

バケットシートを導入すればそんなこともないのだろうが、それではいくら車内が広くても窮屈になり、車体が大きい意味が無い。

第一コーナーを抜け、続けてカウンターを当てリアを逆に振り第二コーナーへアウトから侵入。


ギャギャギャ


タイヤが限界を超えグリップを失い悲鳴を上げる。

続く第三コーナーを捨て、アウトから大きく回り込み、クリッピングポイントをかなり奥に取り、ナビによると最終の第四コーナーをほぼ直線に取り目的の街までのストレートに真っ直ぐ移行する。


ゴォォォオ


ここぞとばかりに過吸圧を上げ、思い切り加速する。タービンが更に甲高い音を立て、2速、3速、4速とシフトアップし、加速する。

ちょうど5速に入れた時、怪物達がグイグイ離れ、やがて視界から消え後部座席から安猪のため息が聞こえる。


「ちょ、英司!?死ぬなよ!おい!?」


約一名、あまりの恐怖に失神。

最初は追われていることに恐怖を感じていたが、徐々に物凄いスピードで走りながらコーナーをアウトインアウトでスレスレを走る事への恐怖が大きくなり、最後のドリフトがとどめを刺し、失神。

隣の島はコーナーで飛んだキャリーケースが直撃し軽い打撲。

シートベルトで抑えられていたため動けず、横Gに身体を捕われている最中の出来事で反応出来なかった。

真ん中の3人は恐怖で小さくなる紗耶香に美伶と舞が覆いかぶさり守っていた。

助手席の聖はブレーキング時には京が右腕で身体をシートに固定していたので怪我等は無かったが、コーナー時に衝突する恐怖を、ストレートでは通常では有り得ない速度でガードレールを突き破る恐怖を味わい流石の聖も顔が青くなっていた。

一応顔色が気になって声を掛けてみたものの、返事はなかった。

その後もしばらく高速で走行を続けようやく都市部に到着した。

しかし、街に入ってからが悲惨だった。

あちこちで火災が発生し、大量の引き裂かれバラバラになった死体。

血の臭いや生物の焼ける臭いにあの怪物の形容し難い臭いが混ざり、吐き気を催すような異臭が街全体に漂っている。

何より、巨大な黒い暗雲が山々に囲まれた街の上空をすっぽりと覆い隠していて、朝なのにまるで深夜のような暗さで、火災の明かりのみが広がり、全てが揺らめき、赤く見える異様な光景だった。

街まで行けば助かる、そう思っていた面々は余りの光景に言葉を失っている。


「なんだよ・・・これ?こんな状態ならどこに行ったって同じじゃないのか!?」

「・・・これが現実だ。あそこにある骸の仲間入りをしたくなければ自分で自分を守れるようになることだ」


道路では逃げようと荷物を大量に積んだ車が横転していたり、大破していたりして止むを得ず徐行しながら進んだが、ついに横転したトレーラーに道を塞がれ、車では進めなくなってしまった。

急に停車した事を疑問に思った舞が声を掛けてくる。


「どうしたの?急に止まったりして・・・?」


思わず深く息を吐き出しながら返事をする。


「・・・トレーラーが横転していてこれ以上進めない」


深刻な事態を理解し、皆焦り出す。

何しろ唯一の生存する希望が潰えようとしているのだ。


「迂回出来ないの?」


意外にも冷静に考えている鈴村に感心するが、現実はそうは甘くない。


「迂回路は有るにはあるが、そちらには何かの気配を感じる。おまけにかなりの遠回りで時間に間に合いそうもない。依頼主の組織は恐らく待ってはくれない。遅れたら死んだと判断されるだろう」

「マジかよ!?あと少しなんだろ!?なんとかならねぇのか?」


あぁ・・・どうにもならんとは言ってないがこの恐怖に皆が耐えられるかどうか・・・


「・・・方法はある」


その返事に皆が縋るような視線を向ける。

座席越しに突き刺さる視線が痛い・・・


「どうするんだ?」

「・・・一度、車を降りる」

「え!?」


思わぬ返事に隣にいた聖から驚いたような声が帰ってくる。


「ちょっと雨宮君、本気で言ってるの?」


言われた事を理解した舞も噛み付いてくる。

皆、車から出るのは怖いのだ。


「一度車から出て車を異次元へ転移させ、再びあのトレーラーの向こうへ転移させる。」

「?」


その説明に皆頭上に?を浮かべる。


「簡単に言えば車を向こうへワープさせる」

「で、出来んのかよそんなこと!?」

「出来る。現に宿舎にはそうして車を用意した。」

「で、でも外に出たらたちまちあの怪物にやられるわよ?」

「ククッ・・・フフフハハハハハ」



何故かここで京が堰を切ったように笑い出し、周りがびくっとなる。


「な、何がおかしいのよ?」


いつも強気な舞の言葉にも覇気が無い。


「ククッ・・・あ〜・・・お前ら本当面白いな?」

「?」

「まずは魔力を行使することを考えろ。例えば風の魔法であのトレーラーを動かすとか炎の魔法で大爆発を起こしてあのトレーラーを吹っ飛ばすだとかな・・・他にも方法はいくらでもある」

「そんな無茶な・・・」

「無茶じゃない」


文字通り横から横槍が入って来たので笑いながら反論する。


「ふぅ・・・久々にこんなに笑ったよ。まず第一に外に出ても問題無い。今までお前らに合わせて楽しく車を飛ばさせて貰ったが、逃げる必要は無かった。悪いがあの程度の奴らは話にならん」

「?」

「今でもこの街ごと消滅させれば1分もかからん」


キシャアア!


「おいおい、退路を塞がれたぜ!?どうすんだよ!?」


バックミラーには数多の怪物が道を塞いでいる。

どうやら・・・話し込んでいる内に追い付かれたようだな・・・


「今後の為にも俺の実力を見せてやろう」


そのまま車から出てゆっくりと歩き出す。

いきなりのことで誰も反応出来ず、止められなかったが、不思議と誰も心配や不安は無かった。

別に冷たく見限ったりしたわけではなく、自信に満ち溢れる京の態度と雰囲気に呑まれ、逆に安心感すらあった。


「・・・雨宮君、結構性格悪いね」


沈黙の続く車内で舞が1番最初に口を開いた。

それをきっかけに皆次々と話しだす。


「性格悪いっつうか・・・変わってるよな?」

「あ〜確かにそうかも」


京の性格について否定的な意見が多く上がる中、唯一聖が反論する。


「そんなことないと思う。・・・私は単に不器用なだけだと思うけど・・・?」

「うぅん・・・よく寝た・・・・あれ、ここどこ?みんな何してるの?」


一名意識が戻る。

しかし直ぐさま殴られ気絶。


ドゴッ


「うぉ!?英司死ぬなぁぁぁあ!!」

「ったくうるさいわね〜死にゃしないよ」「舞、お前はどうしてそう暴力的なんだ・・・!?」


ボギッ


「あぁ・・・首が・・・首がぁぁぁぁあ!!」


不思議な安心感からいつものような馬鹿をやりさらに周りをリラックスさせる2人。

が、未だ2名意識が戻らず。

そのうち1名は美伶に抱かれ熟睡。

1名は殴られたショックで気絶。


そんな事が起こっている間にも京は秘匿結界に包まれ気配を消しながらも確実にこちらの存在に気付き、興奮した異形の怪物の大群へと歩みを進める。

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