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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
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空は海を羨みながら海は空を羨む 1

後半戦開始で。王島聡や海など現実世界側の人間関係を少しずつ語っていきたいです。

 万理が倒れているかもしれないという予感はイザークとの戦いが終わった後、ジャック・アールグレイがその場を立ち去ってから頭にふと浮かんだ。

 と言うのも、万理を一人あの場所に置いてきたことをどこかで後悔していたのかも入れない。

 奈美に連絡をさせるが万理は一向に連絡が取れず、俺はマリアに「万里がそっちに言っているか?」と尋ねると、マリアは「きておらん」とだけ答えた。

 俺の中に存在する不安は的中することになり、万理は体育館で仰向けで倒れており、背中からは血を流していた。

 俺は応急処置をしようと必死に竜の欠片を使ったが、あまり効果が見受けられず万理はそのまま救急車に乗って半壊した病院の地下で手術に入ったのは既に夜が更けつつある状況の事である。

 俺は手術室前でそのまま項垂れ、力なくその場で呆けていた。

 両手の血は万理の血、鎧を作る事も出来そうになく、俺はただあの時万理を置いて去っていってしまったことを後悔していた。

 なんなんだ?どうしてこうなるんだ?

 自分への怒りと王島聡という人間への怒り。

 あそこに現れる可能性が高いのは王島聡だけだと判断できるし、俺の椅子と名前の書いている紙を張れるのはあの事件に関わった人物だけだ。

 なにより、二年と半年程前の集団自殺事件の唯一の生存者と言ってもいい彼は最大の容疑者でもあるのだ。

 どうすればいいんだ?

 王島聡は何が狙いなんだ?

 よくよく思い出してみれば、クーデター事件の時は既にある程度の敵の狙いがはっきりしていたからこそ裏をかく事が出来たのだから。

 しかし、今回の敵の目的は全く予想が付かない。

 同級生を皆殺しにして、万理を手にかけている目的。

 おそらく『呪詛の鐘』を所有しているのも彼だろうし、学生やガイノス軍はおそらくかなりの数が先ほどの戦闘で傷ついているだろう。

 しかし、直接手を出したのは間違い無いといえる人物だといえる。

 綺麗な刀傷が特徴的で、俺にはこの街に住んでいるものであそこまで綺麗に刀を振るうことが出来る人物を唯一知っている。

 間違いない。

 海だ。

 俺はどうすればいいんだよ。

 一人悩んでいると手術室前の廊下にみんなが集まって来た。

 奈美は今にも泣きそうな表情になり、俺はつらい表情で返すことしかできそうにない。

 レクターやジュリの顔すらまともに見えず、俺はまっすぐ駆け出して逃げ出した。

 病院から出ると外は豪雨で視界を塞いでおり、雨に濡れながら立ち止まった俺の足。もう一度駆けだそうとする俺の背中を奈美がしがみ付いて止めてくる。

「もう……もう二度とあの頃みたいに戻れないのかな?」

 その言葉は俺の心に響き、答えることが出来そうにない俺は奈美の手を振り切ってそのまま去っていった。


 奈美は駆け出していったソラを追いかけようと右手を伸ばすが、それをアベルが傘と共に現れて引き留める。

「止めておけ。同情されたり諭されたりするのが一番キツイ」

「でも!もう………駄目なのかな?海君も万理お姉ちゃんも……四人で笑っていられることは無いのかな?」

 奈美は涙を流しながらアベルの体に身を預け、アベルは傘を持っていない左手で受け止める。

「奈美はどうなんだ?このままでいいのか?」

「嫌だ!また……昔みたいに笑っていたいよ………」

「ならまだ諦めるのは速いと思わないか?まだ、死んだわけじゃない。万理と言う子も、海と言う子も、お前もソラすらまだ戦っているんだ。まだ結末が見えているわけじゃない。諦めるという事は望みを捨てるという事だぞ」

 アベルの顔を覗き込む奈美にアベルは黙って頷く。

「諦めるな。最後のギリギリまで最高の結末を見つけ出すんだ。失った命は戻ってこない。でも、今を生きている命はまだ助けることが出来るんだ。失ってから諦めればいい。それぐらいソラだって気が付いているさ」

 万理も今必死で戦っているんだと奈美は自分に言い聞かせ、ソラと海の戦いがお互いに納得のいく形で終る事を祈る。

 アベルは微笑みながら父親らしさを果たそうとする。

「それに、お父さんを頼りなさい。いざとなったらお父さんが助けてやるからな」


 万理と出会ったのは剣道場の階段を昇る前の事である。

 この街の剣道場は小高い丘の上にあり、ちょっとした階段を昇らなくてはいけない。

 その辺にある車が一台通れるぐらいの細さの道に突然のように現れる雑草林を分けるように続く階段。

 その前でソラは万理と出会った。

 万理はそもそも階段の上に剣道場があるとは思わなかったし、そもそも剣道着を来て階段を楽しそうに駆けあがっていくソラがどうしても気になってしまった。

 階段をこっそり上がり、剣道場で楽しそうに剣を適当に降るソラが羨ましいと思う一方で、自分も又剣道をしてみたいという気持ちにさせられた。

 万理は初めて両親にわがままを言い剣道を始めることが出来た。

 その時に一個下の海とも出会い、奈美と出会う中で四人はまるで兄弟のように育った。

 実際奈美は今でも万理の事を『おねぇちゃん』としたい、海も小学校まで二人を『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』と呼んでいた。

 四人だけで剣道をしていた時は、海がひたすらソラに勝つ為に勝負を挑み、それを奈美と万理が楽しそうに見ているだけだった。

「がんばって海君!」

「こういう時って兄を応援するんじゃないのか?」

「空君も海君も頑張って!」

「空お兄ちゃん!もう一回!」

 挑みながらもどこか楽しそうにしている海、避けながら一撃を決めていくソラ、海を応援しながら誰よりもはしゃいでいる奈美、海とソラの両方を応援している万理。

 この頃が一番楽しかった。

 四人がそう言える。

 いつの日かこんな毎日が終わりを迎えた。

 切っ掛けは海が県大会に出場したことであり、ソラに至っては全国大会まで進めたからだ。しかし、それが空の最後の大会でもあった。

 多くの人で溢れかえるようになるとソラは自分の戦い方が反則スレスレのやり方をしているという事もあり、外の剣道場で練習する様になり、模範的な戦い方をする海は皆の中心に立つようになる。

 だからだろう。いつの間にかソラと海の間に溝が出来始めると万理はその溝を埋めようと必死になった。

 しかし、万理の努力もむなしく奈美の一言で海とソラの試合が決まってしまい、それと同じ時期にソラは剣道を別の理由で辞めた。

 それはソラ自身が上を目指すうえで必要な事だったのが本当の理由で、全国大会に出れるような実力者なら、こんな小さな剣道場に通うよりちゃんとした設備の揃った所で訓練をするべきだと師範代はソラに告げた。

 空自身は悩んでいたが、高校は剣道場の設備の揃った所に行くと決め、中学時代に剣道の実績を重ねようと剣道場を辞めた。

 結果ら見ればソラが選んだ道が四人の中を決定的な形で分けてしまった。

 四人が望んだ結果ではなく、周囲が望んだ戦いと四人が望まなかった戦いを避け、海の心には深い闇をもたらし、ソラも迷いながら進みだし、万理は目的を見失って、奈美は二人の試合を臨んだことを後悔した。

 その後ソラの行方不明と共に四人の絆はズタズタに引き裂かれ、ソラの再開と共に運命は最悪の方向へと動き出した。

 万理の想いと海の深い闇、奈美の想いとソラの決意が何もかもをぶち壊してしまいそうになっていた。

 決して四人の責任ではない。

 ソラは海と戦わねばならないのだろうし、海もまたそれを望んでいる。

 望んだ戦いはもう目の前に迫っており、それは多くの人の心に罪悪感を植え付けるには十分な材料である。

 しかし、今ソラの心はそれどころではない所まで来ていた。

 天敵との再会やノアズアークとの戦い、万理の事も海の事だって心配で仕方がなく、士官学生の事もこの街の人達だって考えれば考えるほど答えが出てこない。

 思考の迷路に迷いながらもソラは一人、海の自宅前まで来ていた。

 まず話を聞く。


感想は次にて!二時間後に!

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