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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
90/156

空と海 5

闇堕ち回って書いていると結構辛いですね。この辺からいよいよ物語は暗く辛いお話が続くようになっていきます。もう、ワールド・ラインの代名詞かもしれませんね。

 ショッピングモールの駐車場で起きた戦い、それを遠くから見る海の心は目の前で繰り広げられる未知の戦いに興味が惹かれている。

 斬撃と打撃を組み合わせた戦い、命を懸けた殺し合いにどうして心惹かれるのか全く理解できなかった。

 殺し合いをしたいわけじゃない。

 死ぬのも殺すのだって怖く感じるのは事実、でもあの戦いに惹かれる何かを感じた。

 心の奥で海を引き立てる感情が生まれて、同時にそれが今まで抑えていた怒りや憎しみに似た感情を引き立てるのがよく分かる。

 心躍る感情とそれが引き立てる怒りと憎しみが胸を締め付けるような痛みと苦しみを感じてしまう。

 ソラの戦いを見て、彼が空なのかと考えれば考えるほど自分への怒りが増していく。

 この三年間で自分は何が出来たのだろう。

 足踏みしかしてこなかった三年間を送った海、強くなった空との差、海はどうしてもそればかりを考えてしまっていた。

 だからだろう。

 後ろから聞こえてくる鐘の音色に疑問など持たなかった。

 男が聞える度に怒りや憎しみが湧き上がってくる。

 三年前に空が止めたこと、自分の責任だと言い聞かせてきた。

 この三年間だってそうだと、空の同級生がどんどん自殺していく現状を防ぐことが出来なかった事など海にはあまりにも重たすぎる。

 しかし、もしかしたらと海はどうしても考えてしまっていた。

(今の空先輩なら何とかしてしまうのではないか?今の自分には何も出来ないことでも、空先輩なら何でも買えてしまうのではないか?)

 自分を追い詰める事ばかりを考え、その度に他人のふりをしてきた自分がどうしようもなく憎い。

 その憎しみは他人に向けられる。

 空だけではなく、今の義理の両親や学校や剣道場の人々、『海』という人間を構成する上で重要な人間達へ。

 膨れ上がっていく感情は鐘の音色を聞くとドンドン膨れ上がり、爆発しそうになるのを必死に抑える。

 でも、一度考え出してしまった感情はもう抑えることは出来なかった。

 感情は爆発寸前まで膨れ上がり、抑えることのできない感情は海の心を壊すには十分だった。

「その怒りはそのままでいいの?ぶつけたくない?この醜い世界に。だって、この世界が悪いんだよ?この世界が君を拒絶するんだ。俺達みたいな子供を生みだすこの世界を君も破壊しようよ。この鐘はその為にあるんだよ。一緒に壊そう」

 目の前に立つ一人の少年。

 空と同い年の同級生だったはずだと考え、記憶を探るように頭を働かせようとするが、思考は完全に飲まれている。

 髪を茶髪にしているがどこかで見たことがある顔だと思った。

 間違いない空と同じ中学の同級生。

 優しそうな表情と憎しみを混ぜ込んだような表情が印象的な顔立ち、服装は黒と青のパーカーにジーンズという代わり映えのしない格好をしているが、彼の右腕には鐘が握られている。

 古びたイメージを持つ鐘、片手で持てるようになっていて、鐘の形はハンドベルをイメージさせるデザインをしている。

 そこまで思考して意識がどんどん怒りと憎しみに飲まれていく。

 目の前にいる少年の言っている言葉が正しいと思い込むようになり、そうおもうとそれが当たり前のように感じ始めた。

「俺達はこの世界の奴隷なんだ。奴隷を開放し、この世界の形をぶっ壊そうよ。そうすればきっと君の心に根ずく感情を開放できるよ」

 駄目だと分かっていても、それを聞いてはいけないと理解していても、それでもそう考えてしまう。

「怒りを我慢しなくていいんだよ。今まで我慢してきたんだろ?」

 その通りだ。

 我慢してきた。だって、そうしないと両親からもみんなからも見捨てられそうだったから。

 怖かったから、一人になる事が、親から期待されないと縁を切られそうだから。

「それももう終わりだよ。我慢しなくていいよ。抑え込まなくもいいんだよ。だって………そんな世界をぶっ壊すから」

 差し出される左手、海の心が最後の抵抗をしようとしている。

「全部壊そう。君は悪くない。君は正しいんだ」

 そんな抵抗は無駄に終わり海は差し出される左手を握りしめていた。

「おいで……苦しみの無い世界へ。安らかな眠りの世界へ」


 イザークの苛立ちはいよいよ限界に達しようとしており、周囲の部品を次から次へと破壊する一方だった。

 先日の戦闘で受けたダメージが予想以上に響ている。

 ここ三年ほどまともに傷を負った記憶が無いイザークからすれば、久々に負ったダメージが予想以上に痛みを持っている。

 それがイザークの釣り目を更に上へと持ち上げつつ、口から汚い言葉と両腕から炎の弾を周囲にぶつけるという行動に変わっていく。

 アラウからすればストレスを収まるのを待つだけだったが、イザークはヴァースが捕まったと知るとヴァースとイリーナの抹殺をアラウともう一人の仲間である『ベース』という女性に命令することになった。

 ベース。

 ヨーロッパ地方出身の白人女性で、ノアズアークの参加はヴァースやイリーナ同様最近であるが、能力の利便性からイザークは重宝しており、忠実な性格もイザークが気に入っている理由。

 アラウに対しても基本敬語だが、同時にアラウはどうしてベースがこんなにイザークに尽くそうとしているのかがよく分からなかった。

 二人が搬送された病院まで移動する車の中、アラウはどうしても気になっていたことである「どうしてノアズアークに参加したのか」を訪ねた。

 ヴァースは騙されたから、イリーナは知らなかったがそれぞれの理由だったし、アラウはイザークに殺されたくないからなど様々であるが、大概の人間はイザークの狂気性に恐怖を抱いているからだ。

「イザーク様の能力に魅力されたからです。それだけが理由です。あの人が死ねと命令するなら私は死にます」

 理由になっていない様な気がしてならないが、それ以上突っこんでも同じ言葉しか返ってきそうにない。

 ヴァース。

 アラウは彼の事を少なくとも最低限の所で知っている。

 だからだろう。彼が負けた、捕まったと聞いた時はありえないと多少なり乱してしまったぐらいである。

 単純なパワーとディフェンス、回復能力などシンプルながらその力は非常に強く侮ることなどできない。

 そんなヴァースが負けた。

 これから向かう先でそのヴァースを打ち負かした連中がいるかもしれないと思うと正直不安に思う。

 イザーク以上の人間がいるとは思わなかったが、これも今更である。

 イザークを裏切れば殺される。

 最後まで付き合うまでだと心に釘を刺す。

 病院までまだまだ時間が掛かりそうだった。


 ヴァース。

 二メートルをはるかに超える巨漢、パワーとディフェンス能力の高さと回復速度の速さなど、尖った能力や一風変わった力を持っているわけでも無くあくまでも『シンプル』を貫き通した能力。

 しかし、彼自身は生まれや育ちに変わった点が見られない普通の人間だった。

 アメリカのニューヨークで育った彼はそばかすが目立つが、普通の人間。中肉中背で背丈も決して高すぎず、決して太っているわけでも痩せているわけでも無い。

 成績も決して悪くも良くも無い。

 しかし、彼の変化はあまりにも唐突に現れた。

 二年前。

 彼は眩暈や痙攣、痺れと動悸が襲い掛かり、同時に吐き気と下痢がやってくると彼は全身から発火したのではないかと感じさせるほどの汗、全身に痛みが走り、皮が裂けて中から血が流れるといよいよ両親は普通の状態ではないと病院に連れていった。

 彼の体は現在と全く変わらない背丈と体格を得ると、言語能力や思考能力が低下しており、同時にそれ以上の化け物じみたパワーと回復能力を手に入れていた。

 そんな彼を見た両親はヴァースを化け物と呼び避けるようになった。

 居場所を失った彼は病院から逃げ出し、路頭に迷う頃にノアズアークから誘いを受けた。

 自分の生きる世界を見付けたと思い込んだ彼、しかし、彼に言語能力や思考能力がきちんとあればきっとイザークの狂気と思考が読めたはずなのだ。

 彼は………騙された。


まとめは二時間後に!

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