罪悪感 1
本日二話目。好きなモノを好きなように書いているだけで今は楽しいです。いつかはこれを仕事にしたい!そう思う毎日です。
空が裏路地から去ってから三十分が経過しており、静けさが周囲への寒々しさが通り過ぎる。帝都は全体的に北寄りになっているせいか、四月を迎えても基本は気温が低めである。だからか、着込んでいる軍服も基本は長袖。
ガーランド中将は瓦礫に腰を落とし、大剣をえぐれたコンクリートに突き刺して退屈そうに背を伸ばす。
「しかし、最近嫌に呪術薬品に手を伸ばす輩が増えている話をよく聞くな」
壁に背を預けるアベルは黙ってうなずき、サクト中将は顎下に手を添えながら思考する。
「でも、確かに多いわね。共和国との戦争が終わる前から増えていったような印象があるわ」
それは二人も同じ意見。
戦争中、戦場を引っ掻き回されたくないという理由から、本国防衛の任務に就任していた三人であったが、日に日に増えていくようなイメージさえ持てる。
当初はマフィアが関与していると考えているいたが、学生までもがターゲットになっていると考えを改める必要がある。
「マフィアが今まで学生をターゲットにしたことは無かったよな?」
アベルの疑問にガーランドは黙ってうなずき、サクト中将は薬品の入ったケースを手の中で転がしている。
「少なくとも………だけどね」
サクト中将は嫌な予感を脳裏によぎらせてしまった。そんな思考を放棄するつもりで話題を逸らそうとする。
「そういえばアベル。空君には怒らなかったの?」
「?どういうことだ?」
「いえね。結構危険なことをしていると思うわよ。まあ、学生間の喧嘩だと言えばかわいらしいと思うけれど、実際は殺し合いだったわよ」
「まあ、そうだが。喧嘩だしな。それを親が口を出すのは………よっぽど危険ならさすがに怒るが」
サクト中将とガーランド中将は少しだけ安心したような表情を浮かべ、アベルは不思議そうな表情に変わる。
サクトが代表して「いえね」っと言いながら口を開く。
「あなたが親になるって聞いたとき不安だったのよ」
サクト中将の安心しきっている表情に、ガーランド中将の神妙にうなずく動作が同期している。
アベルは内心「そこまでか?」っと疑問に思う。
「愛する人を失い。親戚一同を殺されたあなたが天涯孤独の身になってしまったと聞いた時、心底心配したのよ。私達、同期ではないけれど同じ将軍の元で鍛えられた仲でしょ?」
「そうだな。サクト先輩はともかく。俺も少しは心配していたし、将軍も気にしていたぞ。お前が軍を辞めるのでは?とかな」
(そんな事を考えていたのか?)
アベルがそう思うのは無理もない事である。
両親や愛する人など多くの人を山賊に襲われて失ったアベル。
天涯孤独の身になってしまった彼は結果からすれば軍を辞めなかった。
「別にやめようと思ったことは無いな。というよりは辞めてもやりたいことも無かったというのが本音か」
「だからこそよ。あなたが急に『あの子』を引き取るって言いだしたときはね。実際、ガーランド君は不満げだったしね」
「フン。私が遠征で帝都に居ない間に決まったことだから不満だがな」
「急だったのよ。彼の行き先を一旦施設に預けようと決まりそうな時に、アベルが入ってきて急に「俺の子供にしたいっと言い出して」って言ってね。とんとん拍子に決まったわ」
いつの間にかアベルの昔話に花を咲かせる二人、アベルは少しだけ焦りながら話題を変えようとするが、いつの間にかガーランド中将の一声でアベルは昔話をする羽目になった。
空を養子にする際の出来事を。
アベルが空を見付けたのち、軍部の方から空を連れてくるようにと告げられたのはすぐだった。違和感を覚えたアベルだったが、ジュリを引き離して軍本部まで連れていくのには骨が折れた。
ジュリはすぐに違和感から真実にたどり着いて見せ、嫌がったからだ。しかし、それによって皇帝陛下からすぐに軍本部に「異世界からの来訪者には移民と同じ扱いにすること」という言葉に軍部は渋々従う者が多かった。
問題だったのは誰が引き取るかという事だった。
当初は軍で処理するべきという意見が出てきたが、皇帝の言葉を無視することはできず、最高議長が様子を見に行くという言葉で無視する者が出てくることは無かった。
移民が子供しかいない場合。親がいない場合の処理方法は大きく分けて二つ。孤児施設に預ける場合と養子に引き取る場合である。
大将クラスの将軍達が名乗り出そうとしない状態、そんな中名乗りだしたのがアベルだった。
切っ掛けは空が落としてしまった手帳のような物だった。
それを拾い、中を見たとき、一番後ろのページに写真が張り付けてあったことがきっかけで、その写真を見て驚き、皇帝からの話を聞いた際にさらに驚いた。
その写真に写った幼い空と妹と思わしき女の子、その二人を抱いて優しそうな表情を浮かべた女性。アベルはこれを二人の母親なのだと解釈し、それ自体は決して間違いではなかったが、問題がこの女性が自分の愛していた人に、亡くなってしまった婚約者にあまりにもそっくりだった。
それが切っ掛けだったと言えばそれだけの話で、空の事を他人事のようにも思えなかった。
「俺が引き取る。あの少年は俺が引き取る」
そう言った時の帝国軍総帥の表情が驚きの表情だったことは今でもアベルの脳裏に残っている。
その場で名乗り出る他の者が居るわけがなく、結果アベルが引き取ることになった。
空を連れて軍本部から出ていく姿を多くの人が奇妙な姿で見ており、空と共にアベルが軍本部から出てきた時、門の前で待ち構えていたのはジュリだった。
「待ってた」
そう言いながら心配そうな表情で待っていた彼女、アベルは彼女が何故心配そうな表情をしているのか見当がついていた。
「この子は俺の養子として預かることになる。気になるのであれば俺の家まで来るか?今後この子に帝国の事を教えてあげてほしい」
そんな言葉と共に帰宅していった。
「へぇ。そんなことがあったのね。しかし、そんなことがあるのかしらね。別世界のあなたの婚約者………なんて可能性が」
「あるのかもしれんぞ。まあ、研究者達が様々な可能性を考慮しながら調べているらしいがな。まあ、私としては………皇帝や聖竜が知らないとは思えないが」
ガーランドの言葉に簡単にはうなずけない二人。
聖竜。神や天使、悪魔などの架空の存在を決して信じないこの世界にとって、唯一と言ってもいい超常的な存在が『竜』である。別名『ドラゴン』。
魔法と呼ばれるような力を使いこなし、その中でも聖竜は世界を見ることが出来るとすら言われ、そんな聖竜と対等に話が出来る皇帝。
実際、アベルや空はそんな竜から特別な力を与えてもらっている。
帝国では竜は信仰の対象として見られており、聖竜はその中で抜きんでている。
そんな竜を疑う行為はなるべく取ろうとしないのは、帝国国民の性と言ってもいいだろう。
ガイノス帝国の名の由来は、初代聖竜である『ガイノス』から来ており、初代聖竜ガイノスが現在の皇帝一家、初代当主を国の皇帝に任命したところから帝国は始まった。
初代皇帝と共に戦った人々が貴族として動くようになった。
貴族制度の廃止から八百年が経った今でも、貴族と平民の考え方の差は根深い問題でもある。
「あまり、皇帝陛下や聖竜を疑うものじゃないわよ」
サクトがガーランドを睨むような視線を送り、ガーランドはニヤリと笑いながら視線を逸らす。
「でも、実際どうするんだ?息子への躾はちゃんとしておいた方がいいぞ」
「あら。まともなことを言うのね」
ガーランドがサクトに「どういう意味だ?」っと言い争いになりそうになると、アベルはそんな二人とは全くの別に「躾……?」っと疑問顔をしてしまう。
「何だったら俺が躾をしてやってもいいぞ。何だったらそのまま俺の息子として………」
「それは無い。永遠にない」
「やれやれ。昔は「ガーランドお兄ちゃん」って言ってくれていたのにな」
「昔の話だ」
「懐かしいわね。二人共綺麗な目をしていたわ。なのに………」
「「穢れたみたいな言い方をするな」」
哀れ半分、昔を思い出したような表情を半分混ぜ込んだような表情共に視線を送る。
「でも………昔を思い出すわ。あなた達が剣術試合を見ているのが好きだった」
慈愛に満ちた表情から懐かしむような表情へと変化し、そんな空気に二人は耐えられなくなったのか、お互いに視線を逸らす。
「まあ、躾はともかく出来ることはするつもりだ………父さんの真似事が出来るとは思えないが」
「それでいいのよ。誰だって最初は戸惑って、どうすればいいのか分からないモノよ。失敗した分だけ努力する。剣術と変わらないでしょ?」
「そう………かもしれないな」
一杯失敗して、その分だけ努力する。ガーランドに負ける度、アベルは努力を続けてきた。その姿を最もまじかに見てきたのはサクトである。
「人生皆同じだと思うわ。あなたはやっと同じところに辿り着いたのね」
すごく嬉しそうな表情を浮かべ、アベルは思案しながら何度もうなずき歩いてその場から離れていく。
「………?もしかして、ここのかたずけはこのガーランド様がしなくてはいけないのか?」
「そうね。私は今からこの錠剤を研究所に提出しなきゃいけないしね。っていうか………」
仏のような表情の裏に阿修羅のような恐ろしい存在を感じさせる表情で、なおかつガーランドすら恐れさせるような表情で告げる。
冷たく告げる。
「あなたの所為でしょ?この辺り一帯の破壊ぶりは」
戦いが起きていた広場は原型を保てないほど………荒れ果てていた。
どうでしたか?試行錯誤しながら書いた作品ですので少しでも楽しんでいただけたら幸いです。