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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
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空と海 2

本日二話目!

 ベットの布団を入れ替える間に俺達四人はきっちり説教を受け、何とか解放されてる頃には時刻は十一時を経過しており、俺は朝食を食べていないのでいい加減腹が減った頃合いである。

「俺腹減ったから下のレストランで飯食ってきていい?」

「駄目!寂しいもん!」

「中学三年生になって何を言っているんだお前は……」

 呆れながらも俺はどうやって波を突き放すかどうかと悩んでいると病室の外から父さんと母さんの声が聞えてきた。

 ドアが開かれ母さんは俺の名前を呼びながらカーテンを開いて部屋の中へと入っていく。

 母さんと父さんの視界に奈美が写り、奈美の視界には二人が写る。

 その一瞬で俺は「面倒な事態になったな~」なんて心で呟き、二人の竜は母さんが買ってきたコンビニの袋の中身をひっきりなしに気にしている。

「そ、その人………誰!?」

「あなたのお父さんよ………!」

 面倒な事態になったな。

 母さんは説明を省く癖があり、基本的に詳しい説明をしない。それは母さんからすればこれぐらい説明しなくても分かるでしょという意思表示なのだが、母さん以外からすればチンプンカンプンである。

 それ故にこの結論だけを言う癖、奈美は更に混乱していく。

 思考は完全にフリーズしており、脳の処理能力は完全に追いつかない。

「お前のその……説明を省く癖、やめた方が良いぞ」

「?どうして?」

「この世界でもお前のその癖は健在なんだな。死んだはずの父親が目の前にいたら混乱するだろ?」

「?分かるでしょ?」

「「分からないよ」」

 俺もさすがに突っ込む。

 エアロードとシャドウバイヤは母さんからコンビニ袋を取り上げ、中に入っているポテトチップスを取り出して食べ始める。

「へ?し、死んだお父さんが目の前にいて?え?そ、それがあたりまえ?」

「ほら見ろ!母さんが説明を省くから奈美が漢字を忘れ始めたじゃないか!」

 思考停止寸前まで追い詰められている。

 俺が奈美の目をしっかり見ながら異世界の仕組みから説明するという途轍もないほどめんどくさい行動をする。

 同じことを何度も説明し、何度も何度もしつこく説明して、更に三十分かかって俺は説明した。

「要するにそこにいる人は異世界に居る私のお父さんってこと?」

「その言い方だと誤解を招きかねないが、まあそう言う事だな」

 腹減ったからいい加減飯を食べに行きたいんだけどな。

「そう言えば昼食はどうするんだ?この娘は病院食が出るんだろ?」

「さっき騒いで怒られた時に自分達で調達しなさいって言われた」

「何をしたんだ?」

 布団をジュースで濡らしたなんて口が裂けても言うつもりは無い。

「だったら下でご飯食べる?それとも外で食べる?」

「外で食べたい!」

 病院側が許すのだろうか?

 まあ、騒ぐ元気があるのだから下手をすると追い出されかねないわけだが。なんて思っていると奈美が思い出したように質問した。

「そうだ!イリーナは!?」

 誰?と尋ねると奈美は「自分と一緒にいた女の子」と言うのでようやく異能の力を持っていた少女だと気が付いた。

「B棟の特別治療室だよ。彼女はノアズアークの関係者だからな、最も意識不明とのことだけど」

 俺の説明に不安しか抱かなかったのだろう。表情は暗いままだ。

「あの火災の中で歌何て歌えば煙を吸い過ぎて意識不明にもなる。治療はずっと続いているはずだが、意思からすればいつ意識を取り戻すか分からないってさ。こっちとしても彼女から話を聞かない限りはノアズアークの事が分からないから困るんだけどな」

 奈美はすっかり項垂れるような格好になっており、不安しかないのだろう。俺の服の袖をしっかりつかみ、「お兄ちゃん。イリーナを虐めないでね?」と言うので俺は父さんを指名して「あっちに言ってくれ」と告げた。

 父さんへ上目遣いと涙目のコンボを決めながらお願い事されると、さしもの父さんでも素早く陥落し簡単に約束してしまう。

「それよりどこでご飯を食べる?なんだったらジュリちゃん達も呼びましょ」

 奈美には聞き覚えの無い名前を前にして、俺の方を見るのだから俺の信頼速度は急上昇していると言ってもいいだろう。

 説明するのめんどくさいな。


 短く切り揃えられた黒髪、整った顔立ちは中学生では知らないものなしのイケメン、背丈こそ目立つほど高いわけでは無いが、標準的な背丈を持つ少年こそ『海』である。

 海は剣道場の裏手の密林で必死に竹刀を振っており、一回縦に振る度に額から流れる汗が飛ぶ。

 毎朝の日課でもあるこの行為をずっと続けており、どんな異常事態が起きても辞めようとは思わなかった。

 いや、辞めたくないだけなんだと分かっている。

 こうしている間だけは今の両親の事を忘れることが出来る。

 三年前まではそう思っていた。

 竹刀を見る度に三年前の事を後悔する自分がおり、それを払拭したくて彼は今日も剣を振るう。

 まっすぐで曲がった者が大っ嫌いな性格が良く表れている剣の振るい方、しかしその剣には今や迷いしかない。

「迷ってばかりの剣じゃ先輩にいつまでたっても追いつけないよな」

 竹刀をそばに置き、海は切り株に座りこんで持ってきた水を飲み込む。

 海は両親との関係があまり良くない。

 そんな中で会った剣道、親からのしつこい勧めもあったが、同時に海の父親がやっていたという話を聞いて始めた剣道。

 剣道場にはいつだって先輩の『空』が剣を振るっており、いつか自由な剣の振るい方をする空に憧れを持つようになる。

「僕が……試合をしたいなんて言わなかったら………こんな思いをすることも無かったのかな?」

 相談できる親がいればいいのに、親が生きていれば良かったのに、空がいれば、こんな思いをしないでいられるのに。

 海は自分の不幸がどうしても許せず、勝てる気がしない。

「はぁ………お父さん。お母さん。会いたいよ………」

 膝を抱えて蹲る海は一気にやる気を失っていく。

 今日は街中に繰り出そうかな。

 なんて考えながら剣道場に戻り、着換えてそのまま街中まで出かけていく。

 時刻はすっかりお昼の十二時を迎えており、適当な所で昼食でも取るかな。

「そう言えば………ガイノス帝国だっけ?この街を管理しているんだったかな?いっそのこと……」

 頭の中で嫌な事を呟き、口に出すのを躊躇う。

 すると、目の前に見たことがある女性が立っているのが見えた。

 長い髪を花束のように結んでいるという特徴的な女性は『飯島万里』だろうと声をかけるために近づいていく。

 万理はある場所をじっと見つめたまま固まっており、海も自然とそっちの方を見てしまう。


 そう、見てしまった。

 奈美と奈美の母親である恵美、そして空と瓜二つの少年と一人の男性が楽しそうにレストランに入っていく姿。

 楽しそうに、まるで今までの不幸を払拭したような一家団欒を見せつけるような姿を見てしまった。


 海の中で小さくは無い『しこり』が生まれた。

 胸の奥が小さく痛み、同時に心の奥底で憎しみに近い感情が湧き出る。

(なんで………こんなに?僕は……不幸なんだ?なんで幸せなになれないんだよ)

 他人の幸せを妬む曲がった感情を抱いてしまった海、それは万理も同じことだったのかもしれない。

 万理も今幸せとは言い難い状況にある。

 素直に喜べない感情が一層ギクシャクした感情が心を支配しようと襲い掛かる。だからだろう。

 後ろから鳴り響く鐘の音に二人は気が付かなかった。


 鐘を持つ高校一年生の少年がいるとも気が付かずに。


どうだったでしょうか?ソラ達はここから今までの事を払拭するぐらい仲良くなっていきますが、同時に海や万理とは関係がギクシャクしていきます。そして最後に………いよいよラスボスが動き出しましたね。そろそろ万理のお話も語ると思います。では!次回!

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