空と海 1
タイトルは空と海の名前通りソラと海の物語になります。
小野美里町に唯一存在する剣道道場は少し長めの階段を昇った先に存在する。昔この街に存在していた小さな神社が潰れた後に作られた剣道場。
この街が故郷だという師範代が作ったばかりの剣道道場だったが、ソラが入ったばかりの時はまだ誰もいなかった。
この街では色々な習い事が存在するが、剣道と言うのはなじみがない存在だったのは事実だ。
その珍しさもソラの興味を引き付けたが、当時図書館で見た西洋文化が描かれた辞典が大きなきっかけだった。
辞典に書かれている見たことも無い道具を前に心をときめかせ、頭の中で剣と剣がぶつかり合うシーンを想像しては興奮した。
だから、剣道道場のチラシを見たときは直ぐにでも通いたかった。
しかし、彼の思い描くような場所ではなく、時が経ち道場生が増えていくと彼の興味は無くなっていった。
それでも竹刀を振るうだけでも大好きだったし、それでも剣道場へはそれなりのペースで通っていた。
それも神隠し事件が起きる二か月前までである。
剣道場の師範が個人的に使用している部屋、和室で寝起きする為に造られた部屋には彼の性格が良く表れている。
私物は少なく、部屋はそこまで広くないのに広々と感じるほどのスペースがある。
ソラはその部屋で師範から「剣道場を止めた方が良い」と助言をもらった。
それを立ち聞きしてしまった『万理』はどうしていいのか分からずその場で呆然としていた。
小野美里病院は駅前から歩いて三十分と少しだけ離れた場所に存在し、現在はガイノス帝国が管理しており、多くの看護師や医師の一部はガイノス帝国がよこした人員が紛れ込んでいる。
横にも建物大きな建物で、三つの建物で構成されておりA棟は手術室などの重要設備が、B棟は古い病院等で内科関係の診察室が並んでおり、両方とも通路でつながっており、病室数はさほど変わらない。そして、三年前に完成した真新しい病棟がC棟である。
ここはC棟の五階の個人病室、俺はベットの隣で座りながらコンビニで購入した漫画雑誌を読みふけっている。
微かに空いた窓から流れてくる風が真っ白なカーテンがかすかに揺れている。
流れ出る風が心地よく、下手をすると眠気が襲ってくるのを俺はジュースを飲みながら誤魔化す。
ちなみにジュースの側面には『ガララサイダー』なるネーミングで書かれており、色は紫色でパッケージには紫色のリンゴが書かれている。これ以上は探らないが、おそらくガイノス帝国製だろうことは分かりきっていた。
ていうかガイノス帝国製を日本コンビニで取り扱うという異常な浸食速度だと感心するばかりで、この裏事情なんかは一生かけても覗き込みたくない場所なので黙る。
しかし、ガララサイダーなんて名前は下手をすれば蛇の『何か』で作っているのではと連想しそうになるが、これは『ガララ』と呼ばれる果実で作られており、実際に紫色のリンゴのような見た目をしている。ちなみに中の果肉も紫色をしている。
毒々しい見た目をしているが、強い酸味と爽快感が売りの飲み物で、近くの中学生は見たことも無い飲み物を試し飲みする姿を俺は見かけた。
町のいたるところにガイノス帝国製の自販機や商品を見かけるようになったが、俺からすればすっかり慣れ親しんだ光景である。
そんな俺が病棟にいる理由、それは妹の奈美があの事件以降ここに入院しており、意識が戻らないためである。
あの事件、昨日起きた『ゲート』周辺で起きたノアズアークが襲撃した事件、今日の午前八時まで起きていた緊張状態の事を指す。
ついさっきまで実際に警戒態勢は続き、日本政府とガイノス帝国政府の話し合いは終わり、首相陣は既に帰還しており、代理をよこして現在も細かい政治体制を敷いている。
士官学生もゲート一体で行われている要塞建築に駆り出されており、俺と『レクター』と『ジュリ』と『キャシー』は昨日事件に関わった本人という事で休暇が与えられていた。
そうでもなければ病院で大人しくしていない。
というか、全く寝ていないので……物凄い眠い!
大きくあくびをし、俺は日本で有名な漫画雑誌を目を通し三年ぶりに仕入れる情報に時にショックを受けたりしながら読み進める。
「まさか………俺の好きだった漫画が終わっているとは」
あれ好きだったんだけどな………人気でなかったのかな?
すっかり中身が変わっているので、新しく見る漫画はどんな内容なのか全く理解できない。
「見知っている奴もあまり見てなかった奴だしな………かといって単行本を買うとなると……金がな~」
なんて言いながら俺は膝の上で眠っているエアロードが邪魔だと思いベットの上に片手で移動させる。
その際にエアロードがもぞもぞとベットの上で動き、代わりにシャドウバイヤは俺の膝うへと移動する。
「なんなんだ?どうしてどいつもこいつも俺の膝の上で………」
邪魔なので俺はこいつもベットの上に移動させると、奈美がゆっくりと身体を動かして目を開き始める。
「ここ……どこ?」
「病院……C棟だよ。この寝坊助め。午前の十時だぞ」
体を起こし眠そうに手で両目を擦りながら意識を現実世界にアジャストさせているのだろう。そして、ようやく俺の存在に気が付き視線と視線を合わせ、大きな悲鳴と共に布団を体に巻き付けて混乱する思考を処理しきれず、訳の分からない言葉を放る妹。
「くぁzwsぇdcrfvtgbyhぬjみこl!」
「頼むから日本語かガイノス語で喋ってくれ」
「なんで私の部屋に死んだお兄ちゃんが!?お化け!?亡霊!?」
「お前の意味不明な質問を一つ一つ答えると、ここはお前の部屋じゃなくて病院だし、俺は本物です」
やっと周囲を見回しながら落ち着きを取り戻した奈美、そしてようやく現実を受け止めると涙目で俺の方をじっと見つめる。
いくつもの涙を流し、俺にしがみ付こうとベットから飛び出る奈美はシャドウバイヤとエアロードを巻き込みながら倒れ込んでくる。
「おに、お兄ちゃん!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「何を謝っているのか思い出せないんだけどな?いつの事で謝っているんだ?」
「だって………私酷い事……言ったから。林間学校から…帰ってきたら……謝ろうって決めてて……!」
ああ、そう言う事か。
俺と奈美は林間学校前に喧嘩をしてしまった。
最も俺はあれを喧嘩なんて思っていないが、奈美は俺に酷いことを言ったと後悔していたのだろう。
そう思うとタックルを怒る気にもなれない。
「何事だ!?襲撃か!?シャドウバイヤのせいか!?」
「貴様のせいではないのかエアロード!」
足元では突然の衝撃をお互いのせいにするエアロードとシャドウバイヤがおり、奈美は足元からする声に反応してそちらに視線を送る。
シャドウバイヤが言うには既にあっているらしく、大丈夫だというのが俺の勝手な判断である。
「……………シャドウバイヤが二匹に増えた!?一匹はお兄ちゃんが飼ってるの?」
「名前はエアロードといってな、ちなみにこれは小さくしているほうで本来はもっと大きいんだぞ。ちなみに飼っているわけじゃないからな。俺とエアロードは契約を結んでいる関係にあるから……って分からんか」
目の前で奈美は二人の竜を前に思いっきり抱きしめ、その温かさを噛み締めている。
「あったか~い!」
俺は立ち上がり布団などの片付けをしようとしたところでジュースが無くなっている事に気が付いてしまった。
最悪の予想が脳裏を過り、俺は奈美達を退け布団を取っ払うと下には紫色のジュースが布団を濡らしている場面だった。
俺を含めて全員に沈黙が流れ、やらかしてしまったという気持ちが全員の心を襲う。
「何を騒いでいるんですか!?あなた達は!」
この後、ガイノス帝国出身の看護師から説教を受けた四人の姿が有った。
今回のまとめは次回にでも!では二時間後に!




