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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
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侵略者≪インベーダー≫ 5

激動の一日目がいよいよ終ろうとしています!

 空が谷間を超え小野美里町の一番奥である元村の集落へと辿り着いたのは既にお昼の虹を超えていた。

 田んぼと畑とちらほらと言えばまばらに広がるこの集落、周囲を山々に円状に囲まれているこの集落が俺の故郷でもある。

 一見するとカルデラを下から覗き込んだかのような見た目をしているが、単純に山々に囲まれているだけの寂しい集落。

 バイクで走るだけでは風情もへったくれも無い。

 集落はさすがにお祖母ちゃんやお爺ちゃんなどがその辺をウロウロしているし、さすがに目立つ格好をしている俺は注目の的である。

 もう慣れたので俺はそのまま自分の家へと目指してバイクを動かしていくと、あっという間に俺が三年前まで住んでいた古びた伝統的な日本家屋へと辿り着いた。

 ここだけは昔から変わり映えがしない。

 大きな庭付きの二階建て、中庭を挟んで左隣に剣道場が備え付けられており、外からでも立派な外見が見えてくる。

 俺は中庭の駐車場代わりにしている車庫へと向かってそのままバイクを止める。

「フム。結構な外観だな。古さと伝統を感じる外観をしている。所々シャドウバイヤの匂いを感じるがお前はここにいたのか?」

「そうだ。世話になっていた」

 俺が鎧を完全に解除して車から降りてくるのを俺は待たず玄関に駆け寄らず、縁側から入ろうと裏庭へと回り込む。

 飼い犬であるオスの柴犬の『ゴン』の吠える声が聞えてくるので俺はゴンの元へと急ぐ、するとハウスの中からゴンが身を出し俺の方へと尻尾を大きく降りながら近づいてくる。

「元気にしてたか?」

 ゴンの「ワンワン」という元気そうな声と顔中を舐めまわす行為に多少の恥ずかしさを感じるが、これがゴンなりの親愛の証である。

 どうやら俺の事を忘れずにいてくれたようだ。

 すると玄関から回り込んでレクターとジュリが縁側までたどり着いたようで、ガイノス帝国には見慣れない『犬』という品種を前に驚きと好奇心を混ぜ込んだような表情をしている。

「犬と言ってな。この世界では当たり前の哺乳類なんだけど………ネコ目イヌ科イヌ属の柴犬。ちなみにオス」

「へぇ~ガイノス帝国じゃ存在しないけど……他の国じゃいるのかな?」

「う~ん、聞いたことないけどな」

 ジュリがああいうからいないのだろう。

 俺が顎下を優しい手つきで撫でてやるとゴンは嬉しそうな声を漏らす、すると更に家の中から母さんがアルバムを取り出し、縁側で広げるので俺も縁側に近づいていく。後ろからキャシーが台所から持ってきたジュースやお菓子を広げるとみんなで『海』と両親の写真探しをし始める。

 母さんが『海』と『海の両親』の写真を父さんに見せる、すると父さんはジーと真剣な面持ちで見つめながら自分の携帯を弄り回す。

 父さんは携帯のフォルダの中に入れてある画像を俺達に見せ、もう一つの写真を見比べる。

 そこには大学生時代のガーランドと子供を持って嬉しそうにしている海の両親の写真。

「似てるというか……瓜二つですね。もうこれは……先輩」

「ああ。間違いないな。ガーランドと海の両親は同一人物という事になるな……これで確信したけど……海の今の両親が手放さないだろ?」

 俺がそう言うと母さんがどこか微笑みながら「それは海君を説得すればいい事でしょ?」と言ってくる。

「海君がどうしたいかだし、それを説得するのがソラの役目でしょ?」

「全部俺に投げるつもり?」

「大人が差し出がましい事を言うつもりも無いし、そんな大人は鬱陶しいでしょ?」

 母さんはどこか悟っているような視線を写真に向ける。

「意地になっている子供に「意地にならなくてもいいのよ」なんて言っても意地になるだけだしね。私が何かできるとは思えないから、そこはソラやみんなにお願いするわ。必要なのは海君の心を紐解いてくれる友人の存在だと母さんは思うもの」

 俺には何を言っているのかがよく分からなかったが、要するに母さんは海については何も言うつもりがないらしい。

 そこでキャシーが周囲を見回しているのに気が付き、同時に父さんまでもが何かを探し始める。

 落ち着きのない二人に俺は「どうしたの?」と尋ねると二人は俺の妹の名前を呼び出したところで俺は奈美が家に居ないことに気が付いた。

「そう言えば奈美がいないな。玄関に靴あった?」

「無かったわよ。縁側にはいてないの?」

「無い無い。どこか出かけているのか?全く……いくら当分留守番を任されているからって……」

 そこまで言った所でジュリが考え込んでいるのが見えた。

 ジュリが考え込むと嫌な予感を張り巡らせている証拠である。


「この集落から街までは一本道なんだよね?」


「ああそうだよ。通ってきた道以外にはない。この三年間で出来たなら母さんが何かいいただろうし」

 母さんも黙って頷く。


「でもここに来る過程では見なかったよね?見たらソラ君やお母さんが反応しただろうし、でも家には靴は無い。だったらどこに行ったの?」


 その通りである。

 家に居ない。家に行く過程ではいなかったし、家前には出かけた痕跡が無かった。

 では奈美はどこに行ったのか、俺が嫌な予感を抱くとほぼ同時に裏庭の先を睨みつけるようにゴンの咆哮と同時に爆発音と大きな煙がモクモクと立ち上がる。

「火事!?爆弾!?」

「先輩!あっちはゲートがある方向じゃ!?」

 キャシーが言っていたように向こうには『ゲート』があるはずである。

「今のはただの爆発じゃないぞ!それにあの煙の色は山火事か!?」

 微かにだが赤い色彩が見えるので火災が起きているという事はハッキリと理解できる。

 俺が裏庭から外への道に手を掛けて出ていこうとする間にレクターとキャシーが急いで外履き用の靴に着替える。

「ジュリはホテルに連絡してくれ!父さんは母さんとジュリを頼む!エアロード行くぞ!シャドウバイヤはどうする?」

「ここに居よう。ついて行っても役に立てるとはあまり思わん」

 俺はキャシーとレクターを連れて火事が起きた方向へと素早く移動して行く。

 この距離なら魔導機や竜の欠片を使った高速移動方法の方が速いうえに、川沿いを移動するので砂利道ではバイクは不利だろうという判断である。


 大きな爆発が再度起きると外から援軍が駆け付けてくるが、イザークは特に困ったような表情をすることなく炎の竜巻で被害を拡大していく。

 妬け死んでいく状況を抗おうとイリーナは歌で反撃するが、イザークには通用しない。

「きゃあ!」

 日本人である奈美が服には焦げた跡や、外見にもやけどの跡が目立つようになり、それを庇うように朝比警部補が血だらけでヴァースの前に立ちふさがっている。

「朝比姉!」

「奈美は逃げなさい!ここは私が」

「駄目だよ!朝比姉を見捨てて逃げられない!」

「大人の言う事は聞きなさい!子供を守るのが警察の仕事です!!」

 しかし、銃が効かない相手にどうやって戦えばいいのかなんて結論すら存在しない。

 朝比警部補は幼い顔立ちすら険しさを感じさせるものに変化させ、動かない左腕からは血があふれるように流れ出る。

 足元には大量の警察官と自衛隊の死体、イリーナはアラウと戦っており、イザークは残りの警察官と自衛隊員相手に殺戮を繰り広げている。

「アラウ止めて!これ以上の殺戮がなんの意味があるの!?」

「意味なんてないわ。でも、イザークに殺されたくないもの。それに、アンタは嫌い」

 歌い続けることは決してイリーナにとっては決して楽な攻撃方法ではない。

 実際確実に追い詰められている。

 もう駄目だ。

 この場にいる多くの人があきらめかけたとき、少し離れた所に流れる川から大量の水がまるで竜の顎を連想させるような姿で火災現場の燃えた木々、炎や焦げた戦車後などを巻き込みながら鎮火していく。

 周囲に水を飛ばし続けながら鎮火すると水で出来た竜は竜巻へと変貌し、多くの人の中心で最後の火を消し飛ばす。

「人工的な竜巻が発生したのなら誰か一人を殺してでもストレスを発散したくなるが?」

 竜巻が大きな破裂音と共に周囲に水と風を吹き飛ばし、中から一人の緑色の鎧を着た男がイザークに切りかかる。

 上空に逃げつつ炎をブースター代わりにして滞空するが、鎧の男事ソラはイザークに斬りつけ、イザークはその攻撃をまともに受けてしまう。

 痛みを受けたという感覚と、血が左腕から微かにだが流れ出る懐かしい痛みを前にして頭が沸騰しそうになるほどの怒りを覚える。

 ヴァースの前にキャシーが立ちふさがり、アラウの前にレクターが立ちふさがった。


「ガイノス帝国立士官学校高等部一年ソラ・ウルベクト!」

「同じく一年レクター・カーバイト!」

「中等部三年キャシー・メルバット!」


 それぞれ対峙するべき相手を素早く決め、怒りを交えた声を放つ。

「これ以上は好き勝手させない!」


では二時間後に!

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