侵略者≪インベーダー≫ 4
今回は敵サイドの物語になります。イザークと言うキャラクターの危険性を理解できたらと思います。
アラウは苛立ちを隠せずにいた。イザークは目の前で自衛隊員を拷問して遊んでいるし、隣に立つ巨漢の大男は顔を鉄製のヘルメットで隠して見せないようにして黙っている。
イザークが日本ででっかい事をしようと言うからついて来たのに、やる事と言えば自衛隊員相手に戦うだけ。
どこが大きな仕事なのかと疑問に思う。
しかし、アラウはアメリカ軍なんかを相手にするよりはマシだと思い黙っている。
イザークが大きな仕事だといった以上は大きな仕事なのだろう。
イザークが嘘を言ったことは無い。
彼は言う以上の結果を必ず残そうとするし、それ故に彼は家族を消すために村と周囲の山を焼き払ったのだから。
残忍で惨酷な行動を求め、それらを楽しむことが出来る最低な人間でもあるが、アラウはそんなところもまた惹かれた要素でもある。
別段新人類とか旧人類なんて存在は興味がない。
彼女は自分の周囲にいる人間達を眺める機会を何度も得る、アラウと同じ黒人やイザークと同じ白人、アジア系の人間など様々でその全ての人間が特殊な能力に秀でた存在。
アラウの能力は目にも映らぬ速度で走り、それに見合うだけの反射神経を有する。
イザークが見つけ出した二人目のミュータントであり、彼女の発見が彼をミュータントの集団組織『ノアズアーク』結成へと走らせた。
しかし、彼女はよく知っている。
イザークは心底ミュータントと呼ばれる人間達なんてどうでもよく思っていると、彼が自分の欲求を満たせればそれでいいのだ。
イザークの言う欲求とは人が死ぬ瞬間を眺める事である。
初めて彼が殺人に手を染めたのは彼が五歳の時だった。
事故に見せかけて殺したのは自分の幼馴染と妹、彼の故郷は森林と山々に囲まれており、収入減の殆どが木々の伐採などで得られる丸太のなどの販売や、畑で得られる作物の販売である。
彼は伐採現場に二人を連れていき、その場で木々の倒壊に巻き込んで殺した。
閉じは五歳の少年がそんなことをしてしまったとは誰も考えなかったが、これが彼の殺人欲求と言ってもいい感情に火をつけた。
イザークはその日から必死に勉強をするようになり、それを両親は喜ばしく思うようになる。しかし、両親は知らなかったのだ。
イザークが勉強した理由が人を殺す手段と隠蔽手段を見つけ出すためだという事に。
実際、イザークが勉強をするようになってから近隣の都市や小さな村などで失踪者が増えるようになった。
アラウはそんなイザークの趣味そのものに興味は無いし、それ自体は咎めたいとは思わなかった。
アラウもそれで殺されるぐらいは覚悟したが、イザークはアラウを自分の保身のための道具として手元に置いておくことにした。
アラウも彼から殺されないように代役を多く求めるようになり、同時に襲ってくる軍隊から逃げるための方策を練ると次第にノアズアークが完成した。
イザークはここ一か月日本での動きを気にしていたし、ひっきりなしに「今回の作戦がうまくいけばもっと殺しやすくなる」とやる気を見せていた。
アラウは殺されたくないから付き合っているだけ、イザークの能力はアラウをもってしても勝てる要素の少ない人間だと思った。
それは『歌姫』と呼ばれる裏切り者も同じで、ほとんどの人間は相性が非常に悪い。
炎を生みだし、自らの体を炎と変え、全てを燃やし尽くす能力。
『炎神』
それがイザークの能力でもある。
自らに神を名乗ろうとするその図々しさにアラウはイザークらしさを感じてしまう。
でも、イザークなら神ですら噛み殺すことが出来るのではないか、そう思わせてくれる。
だから裏切らないし、決して戦おうとは思わなかった。
しかし、アラウは知らなかったのだ。
イザークの能力……いや、全ての『ミュータント』と呼ばれる存在にとって天敵と言ってもいい存在がいるなどとは。
ましてや、そんな存在と静かに抗戦のフラグを踏もうとしているとは誰一人思っていなかった。
イザークは目標地点に到着していた。
目の前では異世界への入り口である『ゲート』が静かに佇んでおり、その周囲を自衛隊と警察が警備している。
どれもが殺しがいのありそうな人間ばかりで心の奥がウキウキしてしまう。
ゾクゾクし、人が死んでしまう光景を思い出すたびに心臓が凄まじい速度で動くのが分かるのだ。
殺すたびに死んだ妹と幼馴染の顔が良く思い出せる。
幼馴染も妹もイザークが殺そうとしたとは気が付き、驚きと悲しみと不運を嘆くような表情をしながら死んでいった。
誰もがそうだ。
誰もが自分がこれから殺されるのだと思えば命乞いをし、ある者は脅し、ある者は助けを求めようとする。
その度に首を絞めたり、首を切り落とそうとしたり、崖下から突き落としてみたりもした。
殺した数はもう数えきれないほどである。
それでも最大の快感は村を焼き払った瞬間だった。
炎と煙が視界を塞ぎ、焼き殺され煙でドンドン死んでいく瞬間はイザークに最高の瞬間を与えた。
ここで同じことをする。
警察や自衛隊を巻き込んで何もできずに死んでいくのを見て楽しむ。
そうすれば『歌姫』事イリーナはからなず現れる。
自分を探すためにこれだけの被害が出て居ることが耐えられるような人間ではないとイザークは知っている。
炎は遠くからでもよく分かる。
だから好きだ。
はっきりと視認でき、匂いだけでも殺すことが出来る最大の殺人手段でもある。
自らの体を炎に変え、その全てをゲートの周囲半径一キロ範囲へと広げていくと自衛隊と警察官の前に自ら姿を現す。
「簡単に死なないでくれよ!?楽しませてくれ!お前たちの悲鳴を最大まで奏でろぉ!!」
アラウは逃げようとする自衛隊員に容赦なく殴りつけ、大男は身を振る分けながら鉄でできたヘルメット越しに警察官を睨みつける。
「ウヴォォ!!オ前!殺ス!」
殺意を周囲に向けて野蛮人よろしく暴れ回る大男事『ヴァーズ』と呼ばれ男は超薄着で銃を持つ警察官相手になめ切った格好をしている。
警察もヴァーズに容赦無く拳銃の引き金を引こうとするが、中には怯えて引き金を引けないどころか取る事すらできない者もいる。
引き金を引いた勇敢な警察官の弾丸はヴァースの皮膚に当たるとまるで鉄に当たったような反射を見せる。
「な!?バカな!?」
警察官の頭を掴みそのまま持ち上げる。
ぱっと見四十代の警察官は悲鳴を上げながら万力のような握力を前に拳銃で抵抗を試みる。
周囲は何とか助け出そうと意識を切り替え、拳銃の引き金を引くがヴァースは平気そうに警察官の頭を握力だけでつぶした。
周囲に警察官の血が飛び散り、恐怖を伝えるには十分すぎる光景だった。
逃げようとしても周囲を囲むような炎が邪魔をし、それを掻い潜ろうとしても今度は高速で動くアラウが妨害を働いて結局は火だるまになる。
外から戦車が近づいていくと、イザークはその上に立ち戦車の操縦席目掛けて炎をたたき込む。
戦車が内側から爆発すると、鉄を溶かすほどの温度を放つ槍を別の戦車へと叩き込む。
戦車部隊までもが恐怖で染め上がり、周囲はすっかり恐怖で染め上がると、いったいどれだけの時間が経過しただろうか。たった一つの声が割って現れる。
「止めてください!イザーク!私はここにいます!あなた達の狙いは私でしょう!?」
見知った声を聴き、同時に大きく笑う。
透き通るような金髪と真っ白な肌、歌姫の名前が決して能力から来たものでないことはよく分かる。
アラウとヴァースも視線をそちらに向けると、三人の視線に日本人が混じっている事に気が付いた。
「駄目だよ!」
「奈美さんは逃げてください……彼らの狙いは私。私が大人しくついて行けば済む問題です!」
イザークは後ろの戦車に炎の弾をたたき込み、更に半径一キロほど炎の規模を増やしてから嫌な微笑みを見せた。
「逃がすわけねぇだろ!!全員皆殺しだ!」
どうでしたか?今回のイザークはかなりの危険性を抱えて生みだされました。その危険性はジャック・アールグレイを超えるほどの存在です。次は空サイドの物語から敵との接触が描かれる『侵略者≪インベーダー≫』のラストになると思います。では!次回!