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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
78/156

帰郷 5

遂に帰郷してからの話です。ここから日本での物語となります!

 列車がゲートを潜る瞬間を朝比警部補と周囲から呼ばれる一人の女性は見守らなくてはいけなくなった。

 ここ数日警察だけでなく自衛隊や官僚に至るまで日本中のみならず海外の他国までもが混乱の真っただ中にあった。

 日本政府と取引を行いたいというガイノス帝国と名乗る異世界の国は三年前の『神隠し事件』の真相を知っている数少ない勢力という事と、どういうわけか一部の官僚が極秘裏に行おうとしていたある非人道的な行いを知っている事で、日本政府は取引に応じることに下らしい。

 そして本日異世界からガイノス帝国などの使者が列車でやってくる、という事で自衛隊から警察まで多くの人々が応援に呼ばれており、朝比警部補もその一人として警備担当の一人で現場に来ていた。

 正直異世界なんて眉唾物存在などここにいる半分も信じていない。

 自衛隊もどこか適当な警備をしている者が多く緊張感が欠けるような光景でもある。

 光の壁をスクリーンに見せているだけじゃないのかなんて心許ない声までが聞えてくる。

 それは朝比警部補も同じ意見でもあったが、奥にいる数少ない緊張感を持っている自衛隊の士官が大きな怒号と共に周囲に緊張感を与えようとする。

 それでもだらける人が多いのも事実で、誰一人真剣になろうとしない。そんな時ゲートから列車が走る音が聞こえてくるのを全員が聞いていた。

 少し離れた所では野次馬が集まってきており、その全員が列車が走る音が聞こえてくると全員が「そんな細工までしてんのかよ」とヤジを飛ばす。

 しかし、そんな全員のド肝を抜く形で列車がまず二台現れ、その後に続く形で二台と更に後方に一台。

 次々と列車が現れると士官が真剣な面持ちでどこかへと連絡を取っているのが朝比警部補には見えた。

「ええ。確認が取れました。列車五台。現在小野美里駅へと走っています。到着次第向こうは拠点を張り、交渉の準備に入るという事で良いんですね?分かりました。こちらも同時に『呪詛の鐘』の捜索を始めます」

 朝比警部補はその言葉の中で気になった単語を口づさむ。

「呪詛の……鐘………?」

 聞きなれぬた隠語に朝比警部補も首を傾げる事しかできなかった。


 列車から見える風景に俺自身見覚えがあり、俺にはその風景を見てしまうと胸の奥に懐かしさが込み上げてきて声が出てこなかった。

 次第に町の中へと列車は入っていくといよいよ俺の知る風景に変わっていき、列車の速度も駅に止める為に落ちていく。

 見知った商店街と遠くに見える大学と小高い丘、反対側には瀬戸内海があるはずだ。

 町中の視線がこの列車に集まっているように見えてしまうのは俺の自意識過剰なのだろうか、それとも本当に町中の目がこの列車に集まっているのだろうか?

 俺が言葉も出ず外の景色に集中していると車両の中では………異世界に来た事による盛大な騒ぎが起きていた。

 本来であればそれを止めるべき代表の父さんですらソワソワしているのだからあきれ果てる思いである。

 隣でレクターが窓を開けようと俺の体に体重をかけてきたり、後ろの席では騒ぎ声とそれにふさわしい音が聞こえてくる。

 俺のイライラが少しづつ高まっていき、父さんが立ち上がり窓の外の景色に視線と顔を向け、その後ろで軍関係者までもが浮ついている。

 ジュリや大分後方に座る後輩であるキャシーが俺の苛立ちに気が付いて周囲を止めようと声を発したところで俺は限界を迎えた。


「お前達は静かにしている事が出来ないのか!?もうすぐ到着だぞ!降りる準備ぐらいしろ!!後!父さんや軍関係者は止めろよ!!仕事だろ!!!」

「「「す、すみませんでした」」」


 苛立ちをそのまま周囲にぶつけると周囲は自分達がはしゃぎ回っている事にようやく気が付き降りる準備に入っていく。

 俺は上から鞄を取り大きく息を吐き出し、ジュリが苦笑いと共に表情を少しだけ引きつらせる。

 列車は静かに小野美里駅へと入っていくのを確認できる。

 小野美里駅は決して大きな駅ではないが、どうやら今回の交渉に当たりホームを増設したらしく、見たことも無いような光景が外から見えた。

 俺はカバンを持ちながら先ほどから全く落ち着きのないレクターを引き連れて外へと向かって行く。

 一号車では既に三国関係者と三十九人の遺族の対面、遺骨の返却が滞りなく進んでおり、俺が外に出るころには向こうのホームでは泣く声が聞えてくるので俺はどうにも居心地の悪さを覚える。

 母さんも今頃泣いているのかな?

 そんな風に思いチラッとではあるが向こうのホームを見る。

 すると一瞬ではあるが母さんと視線が合って俺は急いで顔を逸らす。

 笑ってこちらを見ているように見え、俺は気まずさからその場から移動して行く。

 五号車からは俺のバイクが降ろされている最中で、父さんが向こうにいる母さんと目と目で通じ合っている。

 父さんが俺の秘密をその辺で暴露しそうでハラハラして落ち着かない。

「ねえ。ソラのお母さんってあのこっちを見えている女性?」

「そうだけど………なんで?」

「あの人遺骨持ってないよ。たしか、ソラ用の偽物の遺骨を用意したんじゃなかったけ?」

 そう言う話だったし、騙すようで気が引けたのは事実だ。しかし、母さんだけ渡さないと不自然でもあるという意見から遺骨を緊急で作る事になったのは記憶に新しい。

 そう言われてもう一度母さんの方を見たとき、母さんがいないことに気が付いてレクターに尋ねた。

「どこに母さんがいるんだ?消えているんだが」

「?さっき軍関係者と一緒にどこかに移動したよ」

 ジュリが声をかけてきたことに驚き後ろを見ながら大きくため息を吐き出す。

 周囲にいる学生もどこか浮ついた態度が目立ち、父さんはさらにその上を目指す勢いである。

 落ち着いてほしいなという想いがするが、俺としては母さんが消えたことの方が気になっていた。

「この後どうするの?自由時間?」

「レクターに自由時間が許されると思うのか?ホテルに直行だよ。行動するのは明日から……っていうか君は事前説明を聞いていなかったのかね?」

「俺が事前説明を聞くと?」

 納得。超納得。そう言われれば話を聞くとは思えないし、俺はこの三年間でよく分かっていたことじゃないか。

 こいつが俺の話なんて聞くとは思えない。

 俺の後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえてきて、同時にその足音に聞き覚えがある気がした。

 懐かしいと思うのはサールナート事件以降会っていないからだろう。

 俺が振り返るとそこにはカーディガンと白の似合う上下の服、幼女が履くような靴と短く切り揃えられたショートカットが目立つ魔導協会所属の少女。

「久しぶりだな………マリア」

「久しぶりじゃの……ソラよ」

 俺達は一年ぶりの再会を世界で果たすことになったが、俺とジュリを交互に見るとニヤニヤと笑ってやまない。

「付き合っているらしいの。それに……やはり久しぶりの故郷は心躍るものがあるのかの?一番前の車両までお前さんの声が聞えて来たぞ」

「あの声が俺の心躍る声だと思うか?」

「冗談じゃよ。しかし、ぞんがい元気そうで良かったわい。クーデター事件で落ち込んでいるのではと思っておったが……」

「元気が無かったらジュリと付き合わないし、ここに帰ってきていないさ。全部を振り切ったわけじゃない。でも………前に進まないとな」

「それで良い。落ち込んだとて何かが変わるわけじゃないしの。どんな後ろめたい理由でも前に進まない理由にはなるまいて」

 ジュリとレクターが笑っているのを俺は複雑な表情で見送り、その後ろからキャシーが近づいて来た。

「お久しぶりです先輩」

「そんなにお久しぶりだっけか?結構会っているような気がするが?」

「高校に上がってからは全くです。学部が違うと会う機会が減りますから。クーデター事件の時は参加できず申し訳ありません」

「お前が気にする事じゃない。それに、下手に参加して大怪我でもされたら俺が困るだろ?」

「良かったです。先輩があの戦いで傷ついたと聞いて少しだけ会うのが怖かったのですが………元の先輩で」

「………変わらないさ。これからもな」

 俺はもう一度深呼吸しようと体を伸ばしたところであまりにも懐かしく、心に突き刺さる声と名前を聞いた。

「空。やっと会えたわね。三年ぶりかしら。少し身長が伸びたんじゃない」

 喉の奥から漏れ出るような声しか出せない。

 振り返る事すらできず、俺は震える事しかできない。

「お母さんを騙せると思ったら間違いよ。お父さんに似たわね。そっちのもう一人のお父さんの影響かしら?」

 ああ。母さんなんだな。

 勘が鋭いというか……鋭すぎて尖っているよな。

 俺は何とか表情を作りながら振り返ると、目がしらに涙を多少貯めた母さんの姿を見た。

「久しぶりだね。今は……ソラ・ウルベクトだけど」

 母さんは………俺達を唖然とする言葉の爆弾を投下した。

「今日からあなた達の食事は私が作ってあげるからね。

 父さんは「フム」と元気よく、レクターとジュリとマリアとキャシーは嬉しそうに声を上げ、俺は素っ頓狂な声を出していた。

 納得できるか!


詳しい話は二時間後に!

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