帰郷 4
帰郷四話になります。
ガーランドが立ち去った後に墓の前に立って『シーラス・ガーランド』と書かれた名前、生まれと享年が掛かれたところを見ながら心の中で俺の一個下かと思い浮かべる。
二歳で亡くなった計算になるわけか。
そう思い浮かべた所で俺はそう言えばと考えた。
「海の両親が死んだのも海が二歳になったばかりの時か………」
先ほどから引っ掛かる何かの正体がそれなのだという事を理解した。
俺の一個下の後輩で在り、同じ剣道道場出身者であるが両親が二歳で他界していこう階は今の両親に見捨てられたくないという想いから言う通りに生きてきた。俺から言わせてもらえば今の両親はクズのような人間だという事くらいしかイメージに無い。
海をあくまでも自分達のイメージアップの為に利用しており、その為なら暴力も辞さないような両親である。
俺はあの両親が大っ嫌いで海の家では遊んだことが無い。
そんな海の両親とシーラス君の死亡が同じ年と言うのに俺はどうしても引っ掛かってしまう。
対極になる事が多いこの世界。
全てが対極になるわけでは無いが、大体こういう場合は関係がある事が多い。
昔母さんが言っていたが、父さんと母さんは海の本当の両親と個人的な知り合いだったと聞いたことがある。剣道道場に通っていた際、後輩が出来たことを母さんに言い、その際に海の特徴を言うと母さんは「もしかして海って子?」と言い当てて見せた。
海とシーラス君が同一人物だとして俺に何が出来るのだろうか?下手な事を言うわけにもいかないし、特に今は日本とガイノス帝国の緊張が高まっている状態で、父さんのようにテンションが高い人間を増やしたくない。
しかし、俺個人としては海に幸せになってほしい。ガーランドは別にそうでもないけど。あの人に対しては俺は被害を被った記憶しかない。
俺がこの世界に来ることで幸せになれたように海もそうなれるような可能性が存在するのならなんて思う。
しかし、下手なことが出来ない上俺としては今は目の前の問題に集中したい。
それに本当に同一人物かも予想でしかないし。そもそも俺は海の誕生日を知らないわけだし。
なんて思っていると俺は吹き付ける風を不快に感じるようになる。
なんだ、俺って海の誕生日をおろか………万理の誕生日を祝った事すらないじゃないか。
南区に新しく作られた外への列車と線路は現在は南区新駅に集められており、ここから異世界である日本へと向かうわけだが、軍関係者や魔導協会関係者や技術大国関係者などを入れれば列車の数は五つに及ぶ。
この中には移動用に用意した車や俺のバイクまでもが収納されており、俺達学生は二号車と書かれた列車に軍会計者と共に押し込まれることになった。
異世界に行きたいという物好きがこのホームに集まっているわけだが、どこか学生は遠足気分なのはきっとそれが異世界へ行くという未知の体験だからだろうか?
俺もいつもの藍色のブレザーの上下を着、革靴を履きながら片手に旅行用の鞄を持ってホームで大きなあくびを吐き出す。
父さんは先ほどから奥の方で生徒の点呼を取っており、俺達は既に点呼を終えて列車に入るまでの時間を潰していた。
結局この前は夕食を取る気分になれなかったうえ、次の日は父さんのテンションが異様に高くめんどくさかった記憶しかない。
レクターはまた大きなカバンを持っているが一体何が入っているのか分からない。
理解したいとは思わないけれど。
ジュリも俺の旅行鞄より大きなカバンを片手で引きながら移動しており、下級生相手に色々とアドバイスを送ったり面倒を見てやったりと忙しそうだ。
俺としては海とシーラス君の事がどうしても頭から離れなかった。
「何大きなため息吐いてんの?知ってた?ため息一回につき幸せが一つ逃げるらしいぞ」
「そうか……お前がもっとまともでいてくれたらきっとこれ以上なく幸せになれるのにな」
「無理だな」
断言しよった。
本当に少しでいいからまともでいてほしいものだが。無理だと分かっているから余計にそう考えてしまう。
まあ、もう諦めているけどさ。
「で?どうしたの?」
「別に。最近になって考え事が増えてしまってな、余計な知識を増やすぐらいなら知らないでいた方が良かったと今更ながら考えてしまって」
本当に知らないでいたら悩まないで済んだと思う。
ガーランドの萎んだ声なんて聴きたくなかったし、あんな話を聞くと嫌でもガーランドに同情してしまいそうになる。
きっとあの人があそこまで萎んだ理由は父さんが幸せになろうと努力しているのが理由な気がする。
「何々?俺に隠し事!?許さんぞ!全部話すんだ!」
「その時はお前の内臓も全てお前の体から離してやるよ!全部分離だ!」
「フフ………俺は最大限の抵抗をして見せる。学年一位の座は伊達じゃないという事をこの場で教えてやろう」
「いい度胸しているな。今までの俺じゃないことを教えてやる」
一定の距離感を持ちながらお互いに策を練り、今にも戦いそうな俺とレクターの頭を連続で拳骨が飛んだ。
目の前に星が飛んだような錯覚を覚え、俺とレクターは頭を押さえながらその場でうずくまる。
その脇では父さんが立っているので殴って来た張本人なんだと理解できる。
「止めないか?全くあと少しで乗り込むというところでお前達は……どうしたんだソラ?お前らしくもない。昨日から変だぞ」
ジュリまでがやってきて俺の様子を気にするので俺はいい加減隠すのを止めた。元々隠し事がうまい方でも無いし。
俺はありのままを話した。
ガーランドの独り言を立ち聞きしてしまった所から、海という後輩とシーラス君の共通点まで全てを。
ジュリがいの一番に考え込み、父さんも思考していて、レクターはその振りしらしない。
「海ってソラ君の後輩はシーラス君と同年代なんだよね?そして……両親は病死?」
「だと思うけど?確か父親は癌じゃなかったかな?母親は元々心臓病だって聞いたな。父親が死んで直ぐに発作を起こして死んだって聞いた」
「アベルさんもしかしてシーラス君は心臓病か癌でなくなりました?」
「ああ、元々心臓病を患っていて長くは生きられないと言われていたな。ガーランドも覚悟していたらしいが急な話でな。二歳で亡くなったと後で聞いた」
「でもさ、それって共通点としては弱くない?少なくとも海って後輩の子とシーラスって子を繋げるのは弱いと思う」
レクターの意見通りでもある。しかし、ジュリはその先を繋げて見せた。
「ううん。海君の両親とソラ君の両親は接点がある。そして、アベルさんとガーランドさんにも接点があるよね?そして、多分だけどソラ君のお父さんの事件とアベルさんの故郷が襲撃された事件には呪詛の鐘と言う接点もある。なら、この関係も『有る』と見た方が良いと思うよ。と言うより簡単な方法がある」
ジュリが告げる言葉を俺とレクターと父さんで息を呑んで見守る中ジュリは満を持して告げる。
「海君の誕生日とシーラス君の誕生日は多分だけど同じ日だと思うし、もしかしたらソラ君のお母さんは海君を知っていたんなら幼いころの写真とか持っている可能性があると思うよ。それでなくてもガーランドさんの写真をあとで見せても確認は取れると思う」
「となると母さんとの接触は絶対だな」
父さんはとても嬉しそうに表情を綻ばせるので少しだけ苛立つ。
「最も向こうについてから考えた方が良いな。取り敢えず電車に乗りなさい」
学生が次々と電車の中に入っていくので俺とレクターとジュリは急いで電車に乗ろうと足を急がせる。
車両に入るとどうやら俺達が最後だったようで俺は最後にドアを閉める。
すると風が後ろから前へと流れていき、俺は周囲を見回してしまい最後に後ろを向いてきちんとドアが今っていると確認する。
「ソラ!ここ開いてるぞ!」
レクターとジュリが手を振って案内するので丁度ど真ん中へと案内を受け、俺は着席する前に自分の荷物を上に置く。
しかし、またしても風が吹いたのが感じ取り俺は一瞬だけ上を向き左右の窓を確認する。
「レクター前後の窓って開いてるなら注意しておいてくれよ。ゲートを通るときに変な影響が出ても困るしな」
「う~ん………開いてないね~」
「ならいい。さっき風が吹いたからな……」
前方で最後の確認に現れた父さんが覗き込み、確認を取りながら後方車両へと移動して行く。一号車が発射するのが反対側の窓から確認でき、それに合わせるように俺達の二号車も移動して行く。
もう、後戻りはできない。
後はとことん進むだけ。
不安とドキドキを混ぜ込みながら一筋の風と共に俺達は日本へと帰郷しようとしていた。
どうでしたか?少しづつですがソラの周りの幼馴染や後輩たちの物語を語っていくつもりです。今回は『海』の物語を語りました。『万理』についてはもう少し先になるかなとも思います。『海』という名前は『空』の逆をイメージした名前として付け、色々な意味で『海』は空の逆の立場にいるキャラクターです。お互いに影響し合っている二人ですが、そこに万理と妹の奈美が加わっていきます。その辺もお楽しみにしていてください!では次回!




