帰郷 2
帰郷二話目になります!いまだに帰郷せず!
謁見の間と呼ばれる場所に入った瞬間に入ったことを後悔しそうな瞬間を訪れた。直径だけでも倍以上ありそうな長さの先に皇帝が据わる豪華な椅子の前に複数人の男女が集まっており、軍関係枠であろう俺の父親である『アベル・ウルベクト』と『アックス。ガーランド』と『ファラ・サクト』の三名、最高議長と皇帝陛下、更に魔導大国関係者であろう人と技術大国関係者の七名である。
逃げたい………回れ右して去ってしまいたい。
俺の心は帰りたいと叫んでいる。
今なら………この瞬間なら帰れる……走り去って行き…逃げたい。
なんて言いながら回れ右する為に足腰に力を籠めると全員の視線が俺の方に向く。
逃げたいという俺の願望をモノ見事に打ち砕いてくれる大人達だと改めて感じた十六の春でした。
手招きされるままに項垂れながら前へと進んで行く。出来るだけ後ろにいるように、なるべく背の低い父の背中に隠れるようにしておく。
「なぜ私の後ろに隠れる?」
「目立ちたくないからです……ここにいたくないからです」
「なぜそんなに変な喋り方をする?」
もう言葉を失っているように感じ、場違い感が半端ではない。
全員が揃ったと判断されたのかもしれない。最高議長が代理で会議を素早く開始する。
「では、これより重要な会議を開始する。ここでの話は決して外ではしないこと、それだけは守ってもらいたい」
最高議長は念のためと言わんばかりに父さんとガーランドの両名を軽く睨む。二人は視線を素早く逸らす。
何をしたんだ?
「我々ガイノス帝国は一か月と半月の間日本政府と話を続けてきた。その結果、日本政府は異世界交渉に応じてもいいという返答を得た。我々が調べた結果日本政府は『呪詛の鐘』を紛失したことが分かった。多分だが我々と繋がる事で発見したいという思惑と、同時に交渉で我々より有利に立ちたいという思惑もあるようだ。我々はこの交渉を口実に『呪詛の鐘』を破壊する計画を立てることにした。『呪詛の鐘』の所在地だが、魔導協会の呪術探知機がおおよその場所を絞り込むことに成功した」
一気に説明が来たので俺の頭は説明された内容を整理することで精一杯だった。
「ソラの故郷である『小野美里町』にある事が判明した。我々は東京と小野美里町に分かれた交渉を行い、同時に学生たちは呪詛の鐘の捜索に当たってもらう」
正確を言うなら俺は小野美里町の端の方なのであそこ一帯を俺の故郷だと断言さると困る。訂正しないけどさ。
「破壊が最重要ミッションであると判断してほしい。これを海外研修の一環として判断するが、未確定情報が日本政府から提供されている」
「これだ」と告げる最高議長のが示す場所に仮想デスクトップのような物が現れる。俺としてはその先にある言葉をどこかの本で聞いたことがあった。
「ノアズアークと呼ばれる組織が活動を始めており、交渉に割り込んでくるのではと警戒をしいているらしい。彼らは異能を使う事が出来る集団のようで独自に『ミュータント』と名乗っている。名前の意味は不明だが………」
「ノアの方舟。日本語に訳せばそう言う意味です」
俺が間に割って入る。この言葉を使ったことが非常に気になってしまった。
父さんが振り返り尋ねてきたので俺は簡単に説明する為頭の中にある知識を結集させる。
「確か………旧約聖書とかいう本に書かれている洪水から選ばれた人間達を守る船の事だったはずだけど。神が引き起こした洪水から選ばれた人たちを生き残らせるための船を建造させたとか………そんな話だったはずだけど………それが『ノアの方舟』英語では『ノアズアーク』とも呼ぶから多分英語圏が結成場所になると思うよ」
それを聞いていたガーランドが「意味がありそうな名前だな」と小声で、サクトも一度頷く。全員が名前意味を見出せそうだった。
「下手をすると自分達を選ばれた人間だとかそんな愉快な事を考えているのだとしたら頭の中にお花畑が咲いているんだろうな」
ガーランドの皮肉が笑えない。
その推理で行けば最悪は他の人間を滅ぼすぐらいは簡単に思想だ。
「ノアズアークも警戒対象に入れた方がよさそうですね」というのは魔導大国関係者の口だった。技術大国も同意を得る形で俺の仕事が増えた。
しまった。
余計な事を言わなければよかった。
なんて考えたときだった。そう言えば俺は『異能』という言葉にあまり聞きなじみがない。『魔導』や『呪術』はある程度理解しているのでよく分かるが、『異能』についてよく分からない。尋ねようかななんて周囲を見回すが大人たちが難しい話をしていて間に入れそうにない。
諦めて後日にするかどうかと思考した瞬間だった、皇帝陛下が俺の近くまで近づいてきている事に気が付いた。
「異能と言うのはね……君の『竜達の旅団』や私の『守護』のように魔導に非常に近いが、基本は生まれつき持っている魔導に似た才能の事を言うんだよ。分かりやすい能力ならいいが、私や君のように分かりにくい能力も多いからね」
「皇帝陛下も異能を?」
「そうだよ。というよりそれが目的で聖竜は私達一族と契約をしているんだよ。『守護』はあらゆる危機から因果律を操作してでも回避するんだ。どれだけ危険な状況が目の前で起きても私には傷一つつかない。行ってしまえば私の異能の能力は『因果律の操作』という一点なのだろうね」
それを言うなら俺の『竜達の旅団』は異能の排除に当たるのだろう。
「竜達と私達。竜と人間は契約を結ぶことでお互いの異能を使う事が出来るからね。聖竜は私の守護の力を使って未来を見ているようなものだよ。ただし。契約できる竜は一人につき一つ。例外は無い。これは竜側も同じこと」
「だったら。異能を持っている人間には積極的に契約しそうですけど?」
「そうでもないよ。これは人間と竜は対等なんだぞという証拠だからね。竜としてはなるべく回避したいものさ。聖竜はそれでも皇帝という地位の人間だからこそ契約しているというのもある」
そう言えばエアロードが言っていたか……竜とは本来人間を見下す傾向があると。
聖竜や機竜ですらその例外ではない。その唯一の例外なのが風竜エアロードであるとか。
「まあ、エアロード以外にもいるんだがね。例外と言われる竜が。例えば……黒竜シャドウバイヤなんかが例外だね。あれも自由を愛する竜だからね。エアロードとも仲がいいらしいよ」
「そうなんですか………」
シャドウバイヤか………会ったこと無いな。この三年間で多くの竜と出会ったつもりだが、黒竜だけは会った事が無い。
「会ったこと無いです。皇帝陛下はあるんですか?」
「?私も無いな………でも人里に降りてくることは多いらしいよ。最も陰に隠れているから見付けるのは難しいらしいよ」
陰に隠れるなら影竜と呼ぶ方が良いのでは?とおもう。
「黒竜は聖竜と同じく高い力を持っている竜だからね。そう言えば………君の『竜達の旅団』の名付け親だったんじゃないかな?一時は『竜の旅団』とも一緒に旅をしていたはずだよ」
向こうでは大人たちが細かい話し合いをしている最中なのだろう。俺と皇帝陛下が話し込んでいる間に議題は一気に進んで行く。
俺いらなかったじゃん。
なんて思っていると最高議長が俺の方を見る。
「ソラ・ウルベクト君。君の仕事は『呪詛の鐘』を破壊することだ。これは君にしかできない重要な仕事だと思ってくれ。これは魔導協会から君への正式な仕事になる」
それで俺が呼ばれたわけだ。
「では最後に軍関係者から今回の研修について行く将官を選ぶわけだが……」
父さんの目がまるで獲物を見付けたライオンみたいな目になったのが見えた。
「はい!」
元気のいい声が謁見の間に響き渡ると全員の唖然とした表情があった。
あの人………母さんに会いたいばかりにあんなに元気よく。
子供じゃあるまいに。
まだ……帰郷しませんでしたね。もっとも簡単に帰郷するならもっと違いタイトルにしたんですが。今回の帰郷は多分帰郷してからも少し描くので多分小説家になろうでは……6、8話程度かかるんじゃないかなと思います。前半のエピソードは『ノアズアーク』との戦いを描きつつ、後半ではいよいよ呪詛の鐘が猛威を振るう話になる予定です。長いお付き合いになると思いますが改めてよろしくお願いします!では!次回!




