異世界交渉
新章序章の部分になります。早速新しい竜である黒竜が動きを見せる新章となります。日本を舞台に異世界ファンタジーをお楽しみください。異世界ファンタジー………なのに日本。
俺にとって重要な出来事だった。
皇光歴の世界に来てから三年間は激しく忙しい毎日、今四年目に差し掛かろうとしている俺はあらから何も成長できていないのではないかと思える。
死んでいった三十九人に自分は誇れる人間になっているのだろうか?
ソラ・ウルベクトという名前と共に俺が避け続けてきた場所に俺自身が帰る事になるとは思いもしなかった。
日本に帰る事をどこか恐れ、帰れば思い出しそのたびに後悔しそうになるのを避けた。
しかし、逃げることは出来ないのは俺にはよく分かっていた。
魔導協会から任命を受け、魔導都市アルカミスタで式典に参加したときはこの世界に生まれ落ちた存在なんだと確信できるほどだった。
機竜の前に父さん共々呼ばれた時は「何故父さんも?」と疑問を抱いてしまったが、その理由は直ぐに分かった。
俺の継承した『竜の欠片』が父さんが聖竜から受け取った『竜の焔』に影響を当てた結果『竜の欠片』に変貌したことが理由であるらしく、実際父さんは鎧の召喚に成功した。
俺ほど精度の高いわけでは無いが、十分魔導の力を受け継ぐ一族としてお呼び出しを受け、魔導協会に席次を置くことにした。
そんな慌ただしい五月もいよいよ終わりに差し掛かった時、あの話を受けることになった。
ソラ・ウルベクトは『星屑の英雄』と呼ばれているがその本当の理由を知る者が一体どれだけこの『ルーガリア』というガイノス帝国の首都にいるのかと聞かれたらきっとごくわずかなのだろう。
だって『星屑』の意味は俺を覗くクーデター中に息を引き取った三十九人を指す言葉でもあるのだから。
俺は三十九の星を背に抱き、一本の剣を使って世界を守った。
英雄と呼ばれるような活動をしているつもりも無いし、俺は俺のやりたいことをいつだって行っているだけだ。
見捨てられないだけ、助けられる命なら助けたいし、それでも誰かを許せないと思う気持ちだって存在するたった一人の人間でしかない。人間であり、英雄でもある。それだけの話だ。
四月上旬に起きたガイノス帝国首都『ルーガリア』の東区を中心に起きたクーデターは革新派が引き起こしたものだったが、中立派と士官学生の手によって鎮圧される結果に終った。
しかし、この事件は其処だけでは終わらなかった。
実はこの事件の裏で主戦派が十六年前に起こした北の近郊都市襲撃事件も明るみに出、主戦派も罪状がかけられることになった。
穏健派は罪状腰見つからなかったが、中立派に変わって政治に組みいるという計画は失敗に終わり、各地にバラバラに散る結果に終る。
事件の裏で主戦派と穏健派が開発していたウルズ・ナイトは今では中立派と穏健派によって正式ラインナップにならぶほどの品になっており、技術大国の方でも量産体制が始まっている。士官学校でも夏休み以降に授業に取り入れたいと方針を明確化させている。
クーデターが人の心に与えた被害も甚大だが、それと同時に与えたモノも存在する。
復興が本格に始まって五月上旬には区画間列車は素早く運航し、東区も四月中旬に行政機関の殆どが復活を果たしていた。
政府は四月中旬の行政区画の復活と同時に魔導大国と技術大国と共にガイノス帝国は異世界交渉を本格化させた。
今後の事を考えればこの交渉がどらだけ重要な意味を持つのか俺は本当の意味では理解できていなかった。
ガイノス帝国がこの異世界交渉にたいする真剣さは今後の脅威を一つでも減らしたいと考えている為でもあり、『呪詛の鐘』の行方をはっきりさせ出来る事なら破壊したい。
ガイノス帝国が本格的に動き出したのは五月下旬の事であった。
明日からの長期休暇が始まる中、日本が急遽「異世界交渉に応じてもいい」と前向きな返答をしてきたことがきっかけだった。
ガイノス帝国上層部は「日本国内で何か問題が生じているのだろう」と予測し、有利な状況下での交渉を進めることが出来たそうだ。
決定されたのが長期休暇の為に金持ちの学生が海外旅行に出立した翌日の事だった。
そういう意味を持っても今回の交渉が急遽行われたことは否めない。
世界初の異世界交渉という事もあって国内外は不安な意見が多く、魔導同盟は急ぎ過ぎているのではという言葉が殆どだった。
しかし、決定が今更覆ることは無くそのまま正式決定とされた。
異世界交渉という聞きなじみの無い言葉を俺が聞いたのは学校での張り紙を見たのがきっかけだった。
風竜エアロードと呼ばれるようになり一体どれだけの年月が過ぎ去ったのだろうか。難題も前の出来事で自分としてはあまり時間を持てない。そもそも竜は長寿であるため中には不老不死に近い存在までが確認できている。竜は世代交代時に記憶の一部を引き継がせることが出来、私達風竜であってもその辺は変わらないが、風竜としては嫌いな部分なので基本的に記憶は重要なのを覗いて引き継がないようにしている。
私はガイノス帝国が建設中の大型ゲートの最終チェックの為に来ており、私はそれを少し上から隠れながら見下ろしていて、周囲にも隠れるように竜達が興味津々に見ている。
上空で待機している双子の竜。レールの陰に隠れながらジッとゲートを見ている黒竜。木々の間から顔をのぞかせている切竜。
それ以外にも様々な竜がその辺で待機している。
気が付かないふりをしている皇帝と呼ばれる男性は青と白でカラーリングされた豪華な服を着こみながらゲートの周りをウロウロしている。
繋ぎ姿をしている男性がゲートの簡単な説明をしているようで、皇帝はその話を聞きながら「うんうん」やら「なるほど」なんて言いながらその都度小さな質問を繰り返している。
こんなもので異世界へと旅立つことが出来るのだから人間の進歩は驚くことばかりだ。
すると隣から機械音と共になにかヒーター音のような物が聞えてきて、それだけで何が近づいて来たのかが丸わかりだったりする。
隣を見るとそこには鉄でできた小さなプロペラで浮かぶカメラとスピーカーを装備した人間用語でドローンとかいう機械が浮かんでいる。
「奇妙な姿だな………機竜」
「いえ、私も準備が忙しくてね。これでも人間達に内緒で向こうに行くのには難航しそうなんですよ」
どいつもこいつも向こうに行く算段を建てているのか。まあ、それを一番狙っている私が言うのもおかしなことなので口には出さないけどな。
機竜からクスクス笑う声が聞えてくるので私は長い尻尾を振りながら威嚇する。
笑うなと言う私のメッセージはどうやら受け取ってもらえたらしく、機竜は素早く笑う事を止めてくれた。
「一体どれだけのメンツが向こうに行きたがっているのかね」
「少数だと思いますよ。あそこの黒竜はすでに今日にでも向こうに行くつもりなのではないですか?」
黒竜は確かにゲートが開く瞬間を今か今かと待ち寝ているように影の中でソワソワしており、ちらっと陰から顔を出し視線をゲートへと向ける。
ゲートは先ほどからチェックばかりで未だに起動していない。
「ねえ、悪いんだけど一度開けてみてくれないかな?どんなふうにゲートが起動しているのか見てみたんだ」
「いいですよ。実は起動はこれで二回目なので我々もドキドキですよ。では―――――」
私を含めたすべての竜が視線をゲートへと向け、ゲートと呼ばれる二本の支柱が空気をそれぞれの支柱へと向けて振動させる。すると支柱が少しずつではあるが発光していき、強い光へと変わっていくと開始五秒で左右の支柱に挟まれる形光の壁が出現した。
あれが……ゲートだな。
なるほど空気を魔導で振動させることでゲートを疑似的に再現したのか。いや、安定化させたというべきなのだろうな。
実際ゲートは安定しており外から見ても問題はなさそうだ。
しかし、黒竜はまだ動かない。じっとゲートを見ながらゲートが完全に通過できるのかどうかを確認している。
「これはもう潜れるのかね?それともまだ潜れないのかな?」
「潜れますよ。時間はかかりません。むしろ一瞬で向こうに到着します。何でしたら少し潜ってみますか?」
「そうだね………少し見てみようかな」
皇帝が首だけを向こう側に突っ込むと首がこの世界から消えた珍しい光景を私は見ることになった。
二十秒ほどだけ姿を消すと皇帝はどこか興奮しながら現れた。どうやら向こう側はちゃんと繋がっているようだな。
「これはきちんと日本に繋がっているのかね?」
「ええ、日本以外にはつながっていませんよ。ていうか繋げられませんよ」
黒竜は確信による行動を実行に移した。
影が素早く移動して行き、ゲート前で自分の体を小柄にして素早くゲートを潜った。
やれやれ自由な奴が多いな。
「なあ、今何かがゲートを通らなかったかな?」
「?いえ。通ってないと思いますが?何かいましたか?」
皇帝は「なら……いいんだ」といってゲートを閉じるのを少しだけ待つ。
袴着奈美はポニーテールをほどき、腕にピンク色のシュシュを付けながら縁側で仰向けになってだらけている。
五月下旬と言う寒くも無く歩くも無い。しいて言うなら普通の気温。これから暑くなってくるだろうし、梅雨もまじかに迫っていく中奈美はアイスキャンディーのイチゴ味を舐めながら視線を裏の山へと向ける。
奈美にとってはここ三年はどうしてもだらける事が多くなってきており、その理由だって本当はよく分かっている。
消息不明で終っている実の兄『袴着空』と喧嘩別れで終っており、いつか仲直りできると信じる一方でそれが出来ないと告げられているからかもしれない。
テレビでは連日『異世界会談』なる議題でもちきりでその過程で行方不明の四十人が死亡した報道された。
テレビで一方的に告げられる内容に実感がもてず、実際母親も実感がもてないようでいつも通り過ごしていた。
食べきったアイスをそのままゴミ箱まで投げ捨て、同時に脇に置いておいたジュースに手を伸ばす。
「お兄ちゃんがいたら………こんな時」
そう呟くと涙が溢れ出そうになる。起き上がりクーラーボックスに入れておいた新しいアイスを手に空けようとしたときだった。
隣から感じる視線に違和感を感じゆっくりと隣を見る奈美は不通に居座っている黒竜を見た。
食べようと手を伸ばしたオレンジアイス。
口から涎を流しながらおいしそうにアイスを見つめるその視線に奈美は頭の中に抱いたあらゆる疑問が吹き飛んでいきゆっくりとアイスを黒竜の口元まで伸ばしてやる。
(いや……まってこの……?生き物はアイスを食べてもいいの?ていうか羽が生えているし、鱗はあるし………まるで……ドラゴンみたいだけど)
伸ばしたところで悩む奈美だが、奈美からアイスを奪い取って食べ始めてしまう。
(まあ、いいか………可愛いし)
奈美は気にする事を止めた。
もとより悩むなんて自分らしくないと思っていた。
なんて思っているとそれを超える衝撃が聞えてきた。
「これはうまい!人間の食べ物は美味しい!」
「今喋った!?あなた今喋ったの?」
アイスを舐めながら黒竜と視線があってしまう。じっと見つめると黙る黒竜に奈美は「聞き間違えだったのかな?」と呟くだけ。
黒竜は自らの両足で歩きながら奈美の周りを回り込んでクーラーボックスへと辿り着く、アイスを口にくわえてそのまま覗き込む。
「これは全て先ほどの食べ物なのか?」
「やっぱり喋ってる!?何?あなた喋れるの?」
「お前………にぎやかだな。この世界には竜はいないのか?」
『この世界』という聞きなじみのない言葉を前に奈美の頭の中に『?』マークが五個ぐらい現れた。
「ただいま。やけに賑やかね」
なんて言いながら母親の恵美が帰って来た。
縁側でだらしない恰好をしている姿を見ると呆れながら近づいていく。すると奈美は黒竜が新しいアイスクリームを手に歩いているのが見えた。
「あら………新しいお友達かしら?」
「え!?その反応なの?お母さんマイペース過ぎない!?この子喋るんだよ!」
「そうなの?すごいわねぇ」
「全然過ごそうじゃない!」
なんて賑やかな光景を黒竜は下から眺め、「賑やかな家族だな」と呟いてバニラ味を堪能する。奈美は写真を撮る為カメラを探しに自らの部屋に戻っていき、恵美は腰を低く黒竜と視線を合わせる。
「こんにちは……空は元気かしら?」
「そうか……君は噂の少年の母親だな。そうだな……元気なのではないか?今日到着するはずだが?」
「そっか……ならいいのよ。会いに行こうかしら」
母親の表情で息子を思い出す恵美に黒竜はふとどうしても疑問に思ってしまったことがあった。
(どうして彼女は異世界の事を知っているのだろうか?)
なんて思ったがカメラと逃げないようにと冷蔵庫から持ってきたチーズを前に黒竜の心は完全にそっちに向いていた。
どうでしたか?まあ、ある意味ガイノス帝国から見れば日本も十分異世界ファンタジーなのでと自分に言い聞かせるとして、今回のテーマは『呪詛の鐘』にまつわる物語の終わりになります。このジャパン・クライシス編で『呪詛の鐘編』の終わりとなります。ここまでが自分が最初に考えていたお話です。ここまで書けて良かったという気持ちと、まだ始まったばかりという気持ちを半々となりますが、どうか皆さんも追いかけていってくれると助かります!では!次回!




