商業と砂漠の街 サールナート 10
ドラゴンズ・ブリゲード最終話です!最後の時系列は再び元に戻ります。では!
衝動的になってしまった。
メイちゃんが首を絞められている。包丁で殺されそうになっている。その近くにジャック・アールグレイが立っていると思うとどうしようもなく自分を押さえられなかった。
体の中心から溢れ出る力を押さえることもせず、その力は俺の『何か』に反応して吹き出している。
このままだと殺される。
守らなければ。
そう考えたときには既に俺は太った男の体を真っ二つに切ってしまっており、俺の体はメイちゃんを抱きしめながらも男の血で真っ赤に染まっている。メイちゃんは先ほどから恐怖と俺が救ってくれたという安心感の中で大泣きしている。
俺の視線は太った男の後ろで斜め傷を片手で押さえているジャック・アールグレイの方へと移った。
「そうか………そう言う事か……」
いったい何に気が付いたのか、どういう意味なのかもよく分からず、俺にはどうしようもない状況の中ジャック・アールグレイの体は一歩一歩と後ろに移動して行く。
「……全部お前の………貴様の差し金か!?聖竜ぅ!!」
ジャック・アールグレイの怒りを初めて見ることになった。きっと俺は先ほどなんな感じの表情をしていたのだろうことは想像に難くない。
「お前のルートの上で俺達は戦っていたのか、そんなに俺が邪魔なのか!?なら………出ていってやるよ!こんな世界、こんなワールド・ラインに興味なんてない!」
ジャックはあと一歩で外へ飛び出ると言った所で足を止めた。
小さな声で「お前の思惑通りに行くかどうかなんて知ったことか」などと呟く。
「良い事教えてやろう。貴様のその才能についてだ」
「死ぬつもりか?」
「竜達の旅団」
先ほども聞いたのその名。
「その意味を知れば………君も知るさ。この惨酷な宿命をな。知ると良い君自身の運命を、その先に待つ残酷な結末をな!!」
「待て!」
「待たない………また逢おう。別のワールド・ラインでな」
そう言ってジャック・アールグレイは飛び降りてしまった。
俺は止める事すらできなかった。
その言葉の意味を考える事も辞め、俺は抱きしめるメイちゃんが無事なのを確かめて息を漏らす。
良かった………本当に無事で。
なんて思っているとデリアとデリアそっくりの女性が現れた。
俺はただ抱きしめる事しかできず、太った男が未だに生きている事に気が付かなかった。
デリアは俺に近づいてきていつものふざけるような余裕を見せずに優しく接する。
「ごめんなさいね。来るのが遅れたわ」
もう一人の女性の方は今にも死にそうな太った男を前にして怒りをあらわにして腰に装備したナイフで突き刺そうとする。それをデリアが腕をつかんで阻止した。
「なんでだよ!こんな男殺すべきだ!」
「だめよフィフィ。魔導協会の第一席が来たわ。この男は治療した後しかるべき手段で捌かれるべきよ」
「はぁ!?ふざけんな!オヤジをあんな風にしやがった奴が親父と違って生きる!?私は許さねぇよ」
そんなやり取りをいている間に治療が始まており、太った男の体が繋がっていく。
俺にとってもこの男が生きていてほしくなく、出来る事なら死んでいて欲しいのだが、同時に生きている事に安心してしまう。
勝手なものだ。
殺したくないとも思っている。
「だからよ。ここで殺せばあいつと同じになるのよ?それでいいの?フィフィ」
フィフィと呼ばれている女性はナイフを腰に収めすっかり大人しくなっていった。
「ねぇ!あんた……名前は?」
「空………」
「ふぅん………変わった名前だね。あんたにも貸しがあるみたいだし、この子も怖い目に遭っただろ?お詫びじゃないけど土竜と一緒に遊んでみない?」
俺は正直に言えばそんな気持ちじゃないのだが、メイちゃんの気を紛らわせるという意味ではいい傾向かもしれないと思い、俺に黙って頷いた。
土竜の背中で俺とメイちゃんとジュリの三人と共に乗っていたりする。
土竜は大きな咆哮を挙げながらどこか楽しそうに砂漠を泳いでおり、メイちゃんは先ほどまで感じていた恐怖なんてすっかり吹っ飛んでしまったらしく、楽しそうにはしゃいでいる。
「すごいよぉ!」
(楽しそうな女の子だな。いいだろう少しだけ速度を上げてみよう)
なんて声が俺は聞こえてしまい、これ以上の速度が出来ると俺はさすがに安全に乗れる自信が無い。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!これ以上速度をだすと!?」
一段階速度が上昇しメイちゃんは更にはしゃいで見せる。俺とジュリはもうハラハラしながら速度に耐える事しかできない。
(フフフ!楽しそうにしているな!こうなると私も楽しくなってくるぞ!)
「だ、だから………これ以上はやめてくれ!」
いつのまにか俺はどこか楽しくなってきていた。
メイちゃんを救えたというのがどうしようもなく嬉しかった。
メイちゃんがいてくれたから…………きっと後悔せずにいられるのだろう。
「なるほど………そんな経緯があったとはな」
風竜エアロードはポテトチップスからチョコレートへと食べる者を切り替えている。宣言通り本当にポテトチップスを食べながら話を聞く奴がいるのだろうか?まあ、いるんだけどな。
「ジャック・アールグレイが生きていると知ったのは最近の出来事か?」
「ああ、でも元々遺体は見つからなかったって聞いてたから生きているかもって予想はしていたけど」
「あの時ゲートが開くときと同じ波長を感じたからな、奴は宣言通りこのワールド・ラインから去ったという事だな」
利用されることが嫌になり、自分が他人の思惑通りに生きている事に嫌悪感が覚えたのだろう。
「まあ、いずれ戦う機会があるかもしれないから用心していくことだ」
「だと良いけどな。生きているっていうのもあくまでも周囲の意見なわけだし」
「強がる所か?まあ、お前にとってもあの男はある意味天敵なのだろうからな。そうやって強がるのもまあ分からんでもない」
最後にコーラを流し込むエアロード。本当に世俗にまみれているよな。世の中に慣れていくというか。
俺にとってもあまりいい思い出ではない。多くの人が救われたのも事実だし、実際サールナートは多くの人間達の手によって今では生まれ変わった。
今では今まで以上の商人や会社が集まってより良い街づくりにしているらしい。
「今更後悔か……?」
「………かもしれない」
エアロードは「フン」と大きな鼻息をたて、俺にデコピンを決めてくる。俺は目を白黒させながらエアロードの方を向く。
「うぬぼれているな。一人でも多くの人を救いたかったとか………あそこで自分を押さえることが出来ていたはずだとか………そうすれば三十九人だって救えていたんじゃないかとか考えているのか?」
「えっと………かもしれない」
「それがうぬぼれなのだ。お前は多くの命を救ったじゃないか。それ以上の何を望む?すべての人間を救えるほど貴様は全知全能なのか?」
「そんなことは………」
「お前は最強ではあっても完全では無いのだぞ。全力を尽くしてもたどり着けない領域だって存在する。それは……仕方のない事だ。救えているのだ。この世界には救えない人の方が多すぎるんだ。なのにお前はそれ以上を救おうとしている。それをうぬぼれと呼ばずして何をうぬぼれと言うんだ?」
俺はまっすぐ語り掛けてくるその言葉を前に俺は黙り込んでしまう。
「救えているんだ。それはお前を救った三十九人の成果でもあるんじゃないのか?お前が一人を全力救えば三十九人が救った事になるんだぞ。お前の背中には三十九人がいるんだ。竜の欠片の背中に書かれている文様はそう言う事だろ?」
一本の剣と三十九の星の文様。
「それに………『竜の旅団』か。久しく聞いていなかった名前だな」
「そうだ。それってどういう意味なんだ?今まで考えないようにしていたけど、今語っていて気になったんだけど」
「フム………かつてこの世界に存在していた竜と会話をしている一族と言うか、旅団のような存在だな。千年前に消息不明になっていた。竜人戦争にも活躍した一族でな。人の言葉を介さない竜達にとっては貴重な話をする手段でもある」
「俺がそうだって事?」
「そう言う事になるな。お前の生まれた故郷の人間達は皆『竜の旅団』なのだろう。こっちでは北の近郊都市がそうだったのだろう。故にこの世界ではアベルが唯一の生き残りになる。能力は様々な特に強いのは竜が扱う魔導を操る高い技術力と異能に対する耐性だな。彼らがそういう風に言われるようになってから異能としての固有名になったのだろうがな」
ジャック・アールグレイが何を言いたく、何を俺に告げようとしたのかなんて分からなかった。
でも、きっといつの日か戦う日がまた来るだろう。
それだけは避けられない。
でも、一人じゃない。
何度だって戦い食い止めて見せる。
するとドアの向こう側からメイちゃんの走ってくる音が聞こえてきて、俺はドアのノックに合わせて立ち上がった。
「空お兄ちゃん!あそぼ!」
「いいよ」
俺はドアの奥にいるメイちゃんを出迎え、その笑顔に俺も笑顔で返す。
眩しい笑顔の前に俺は―――――、救われたのだから。
どうでしたか?次の長編の細かいお話を考えている最中で少しだけ時間が掛かるとは思いますが、お楽しみにしていてください。取り敢えず次の長編は現実世界の『日本』が舞台になります。超能力者である『ミュータント』と空達の戦いを描きながら『呪詛の鐘』の物語にけりをつけるつもりです。ガイノスエンパイア編から続く物語の一区切りとなる長編を楽しみにしていてください。個人的には少し物足りない物語になりましたが、これも勉強と思っています。今回は一個のストーリーの話数を大きく区切りました。それ故にかける内容をなるべく削る結果になり、それ故に説明不足も多く存在していたと思います。ですが、こうして最後まで書ききる事が出来てよかったです。では次回お会いしましょう!




