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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
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商業と砂漠の街 サールナート 7

サールナート編最新話です。

 俺は一通り話を聞き終えると俺の中にジャック・アールグレイやドン・ローテルへの怒りで燃え上がっていた。

 炊きあがるような感情の嵐は俺に「戦え」と告げているようで、身体を動かしていないのに体の芯から熱くなっていくのがよく分かる。

 悪にたった一人で立ち向かった男。

 この街に蔓延り、侵し続けてきた巨悪を前に立ち向かい敗北した男がどんな無念な気持ちをしていたのか、デリアがそんな父親を前に何を想ったのかなんて俺には想像もできない。

 ジャック・アールグレイも問題だが、ドン・ローテルの方がはるかに問題な様な気がした。

 しかし、戦うとは言っても相手はこの街を牛耳る存在でもある。

 簡単に戦えるような人間じゃない。

「デリアよ………その話は本当なのか?」

 そんな言葉を前に俺達の視線はメインストリートの方を向き、そこにはぱっと見初老の老人が立っていた。

 黒いスーツと蝶ネクタイ、細身で細目と裏腹に油断できない様な立ち振る舞いをしている。

 俺はメイちゃんを後ろに隠し、ジュリがメイちゃんを抱きしめる。

 警戒心を高める俺達にそっと説明してくれたのはデリアだった。

「この人は常任理事のメンバーの一人で、ドン・ローテルの会社と歴史を同じくする古参メンバーの一人よ。父さんとも浸しくしていて、亡くなった時も随分よくしてくれたわ。お久しぶりです………ルガーさん」

 あのデリアが深々と頭を下げる姿は中々見れる所ではなないだろう。

「ドン・ローテルが絡んでいるのだろうことは怪しんでいたし、闇市を未だに続けていることも知っていたつもりだが………ドンめ。由緒正しい常任理事会議場の地下で続けていたとは」

 怒りをあらわにするルガーと呼ばれる老人。

 震える拳と細い目を力一杯まで開かれるとその瞳は怒りの炎を燃やしている。

「土竜様も姿が見えないところを見るとどこかに閉じ込めているのであろう!これ以上この街の秩序や平和を奪われるわけにはいかない。たとえこの街を貶めたとしても私達は立ち上がるべき時だ」

 ルガーと呼ばれた老人は後ろに待機させていた一人の若いスーツ姿の男性に「儂の考えに賛同してくれる同士に話を通せ!今すぐにでもドン・ローテルを引きずり落としてくれるわ!」と怒鳴りこむ。

 俺達としてはありがたいし、出来る事なら一緒に参加したい。

「ならルガーさん。彼だけでも作戦に参加させてあげてくれませんか?」

「しかしな………デリアちゃんよ。これ以上無関係な人間を巻き込むわけにはいくまい」

「安心してください。この少年………空はジャック・アールグレイにとって天敵と言ってもいい存在です。きっと役に立ちます。それに私もいますので安心してください」

 俺はジャック・アールグレイが関わっているのなら戦う覚悟だし、ルガーさんが許してくれるなら最大限まで活躍するつもりだ。

「それに………この少年なら土竜様を救出できるかもしれませんよ。何せ……呪術に対して究極な耐性を持っているのです。竜と話をすることが出来、呪術に耐性も持っている。これ以上ない人材ではありませんか?」

「なるほど………まるで『|竜達の旅団《《ドラゴンズ・ブリゲード》》』じゃな。そうじゃな君も手伝ってもらおう」

 俺は持ってきていたイマジンを触りながらジャック・アールグレイへの決着をつけるためにも人一倍覚悟を固める。すると、俺の後ろから話を黙って聞いていたキャシーが首を突っ込んできた。

「あの!私も戦わせてください!先輩だけでは心配です。先輩の役に立て見せます」

 レイハイムも「何かしたい」と志願してくれる。ルガーさんが悩んでいると、デリアが意見を出してきた。

「なら陽動役と侵入役に分けませんか?敵の戦力はかなり物量でしょう。正面からぶつかれば時間が掛かります。その間に逃げる可能性が高い。正面で戦う人間と裏手から侵入するメンバーに分かれては?彼女達には表で敵をひきつける役を、私と空が中心に侵入します」

「………出来る事なら君達のような学生を戦わせるのは忍びないが、しかし戦力が心許ないのも事実。すまないが一緒に戦ってくれるかな?」

「「勿論」」

 ジュリが後ろで自分にもできることを探そうとしているが、俺は振り返ってジュリに言葉を投げかける。

「ジュリはメイちゃんと一緒に避難していてくれ、戦闘が始まれば………!?メイちゃんはどこに行った!?」

 俺がそこまで来てようやくメイちゃんがいなくなっている事に気が付いた。

 デリアがルガーさんに「ここにいた女の子を知りませんか?」と尋ねるとルガーさんは「儂が来たときはいなかったように思えるがな?」と思案顔で答えて見せた。

「まずいかもしれない。連れ去られたのかも。今すぐにでも探し出さないと!」

 俺達で焦っているとルガーさんとデリアが「落ち着け」と俺達に告げてくれる。

「連れていったのならドンの右腕である『フィローネ』の奴じゃろう。先ほどの話を聞かれた可能性もあるな。作戦を早めよう。今から二時間後に決行じゃ。儂は戦力の当てを急いでつける。お主たち二人は儂に付いてきてくれ、デリアちゃんはその少年と共に侵入ルートの確保をしておくのじゃ。目標は奴隷たちと土竜様の解放。闇市を解体する。この場合は時間を掛ければかけるほどに不利になる。素早く決着をつけるぞ!」

 俺の焦りは中々収まらない。今すぐにでも急ぎたい気持ちであふれている。するとデリアは俺の肩を強めに叩く。

「しっかりしなさい!あなたが焦ればそれこそジャック・アールグレイの思うつぼでしょ!?こういう時こそ冷静によ。あなたは二年前の湖畔の町での失敗を繰り返すつもり?」

 そうだ。

 こういう時こそ冷静に。今自分が出来る最大限の事を考える。

「ジュリ。父さんに連絡して学生をなるべく動かしてくれるように働きかけてくれないか?マリアは魔導協会から増援が見込めないか頼み込んでくれ」

「儂は構わんぞ?しかし、期待するでないぞ。魔導協会の人間がどれだけおるのかという話じゃし」

「分かった。アベルさんに今から急いで連絡してみるね。それと………メイちゃんを絶対助けて!」

 俺は力強くうなずき、デリアと共にその場から素早く移動する。


 ジュリとマリアは途中まで一緒に移動し、ジュリはホテルに近づいた所でエリーと接触した。

 エリーが手を振ってジュリに居場所を告げると、ジュリとエリーは駆け足で近づいていく。ジュリがおおよその話をしようと口を開く前にエリーがアベルからの指示を早口で告げた。

「アベルさんから指示よ。学生は撤退だって。なんでも常任理事のメンバーから学生が勝手な動きをしていて迷惑だって苦情が来たらしいの」

 ジュリの中でそれを言った人物に心当たりがある。

 この段階で学生を撤退させたいのは邪魔になるからだろう。ジュリ達が不用意に闇市に近づいた上の行動なのだろう。しかし、ここで撤退すればそれこそドン・ローテルの思惑通りになる。

「駄目!アベルさんに報告しなくちゃ!今から二時間後に街の人達が常任理事会議場へ攻撃を仕掛けるの!作戦が失敗すれば闇市を壊すことは永遠に不可能になる」

「だったらこの撤退は?」

「それを妨害したい人間の行動だと思う。正面衝突に不利になる戦力を撤退させたいからだよ。このまま引いちゃ駄目!アベルさんを説得しよう」

「私も付き合うわ!このまま引いたら納得できなかったしね」

 エリーはウィンクをジュリへと向け、二人は走ってホテルに向かう。

 するとホテルの前でアベルが撤退の為の準備をしており、そんなアベルの前に二人は急いで近づく。

「来たか。残念だが撤退だ。常任理事を敵に回すわけにはいかない」

 アベルへとジュリが真直ぐ見つめる。

「駄目です。その常任理事メンバーの一部が闇市を潰すために決起するつもりなんです!」

 アベルを含めた軍部のメンバーが驚きを隠せずにいた。アベルの後ろにいた女性士官がジュリに「いつ?」と尋ねるのでジュリは「二時間後です!場所は常任理事会議場です!あそこの地下が闇市なんです!この撤退は敵の罠です」と告げた。

 アベルは瞬時に頭をフル回転させ、撤退の準備をしている学生と軍部のメンバー怒号のような指示を出す。

「撤退中止!学生は武器の確認後二時間後の決起に合わせて行動しろ!士官は軍部に連絡し増援と状況説明を急げ!時間との勝負だ!闇市を崩壊させるぞ!!」

 学生達は唖然としていたが、思考を素早く切り替えて素早く動き出し始める。

 戦いの始まりまではもう………近い。


では次は二時間後に!

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