商業と砂漠の街 サールナート 5
見てくれる人がいると頑張れます。皆さんのアクセスが私の力です!というわけで………そろそろ事件も動き始めます。多分。
常任理事会議場から歩いて三十分の距離にある身を隠せる場所で身を隠しながらみんなが集まってくるのを俺とジュリは待ち続けていた。
ジュリは女の子を膝に抱き、足の治療をしており女の子は最初こそ怯えていたが今ではすっかりジュリに懐いている。
猫耳と尻尾が付いているという珍しさから好奇心が生まれ、尻尾を掴みたい、猫耳を触ってみたいという感情と、それをすれば女の子から嫌われるだろうという常識が常に戦っている。
獣人族何て初めて見たが、こうしてみると俺達と同じ人間なんだと思う。
レクターがかつて俺に言った言葉だっただろうか?
かつてこの世界に来たばかりの頃、俺は周囲とどうしても馴染めなかった。それは俺自身が周囲に対し壁を作っていたからだ。それを取っ払ってくれたのがレクターだ。
「でも人間でしょ?」
そんな言葉があったからこそ俺はきっとこの子を前にしてもこの女の子を人間として見ることが出来るのだろう。
しかし、この女の子の耳と尻尾は目立つだろう。
鎖や首輪などは先ほど俺が壊したが、それでも目立つしこのボロ布では周囲を歩けないだろうと考えた俺はマリア達に合流前にいくつかの買い物を頼んでおいた。
靴と女の子の服上下。服は出来る事ならパーカーが付いている物を指定させてもらった。
なんて考えている間にどうやら治療が終わったらしく、両手足はすっかり年相応に瑞々しさを取り戻し、ジュリの膝の上で足をぶらぶらさせていると可愛らしい。
「そうだ。お名前は?」
ジュリがそう尋ねると女の子は少しだけ考えているようなポーズをとり自信なさげに口を開く。
「メイ………だと思う」
幼い女の子にはきっとこれが自分の名前なんだという自信も無いのだろう。自分の記憶の中にある自分を呼ぶ声、それを必死に思い出し、絞り出した名前なんだろう。
「お姉ちゃん………お姉ちゃんがそう呼んでた」
そうつぶやくと一粒の涙が女の子の頬を伝い地面を静かに濡らす。きっと愛しい人を、大切にしていたモノを思い出し、その辛さから泣いているのだろうことはハッキリわかる。
ジュリはジュリは優しく抱きしめ、女の子はジュリの胸の中で大粒の涙で服を濡らしながら泣いている。俺も優しく女の子―――――メイちゃんの頭を撫でてやる。
辛い事、悲しい事がこの子には多すぎる。
一分ほど泣いてすっきりしたのかメイちゃんは俺とジュリに懐いてしまい。しまいには俺とジュリを『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』と呼ぶようになった。俺としてはくすぐったい限りなのだが、しかし呼ぶ彼女の笑顔を見ると拒否もできない。
俺とジュリの間に座り俺に右腕とジュリの左腕を抱きしめながら再び足をぶらつかせる。
更にそこから待つこと十分。
マリア達が服が入ったショッピングモールの紙袋を持って現れ、エリーとジュリが俺とレイハイムの見えない場所で着替え始める。キャシーも念のため周辺警護について行き、この場には俺とレイハイム以外にマリアだけが残った。
「やっぱり常任理事会議場の地下が闇市の開催場所みたいだな、その証拠と言うわけじゃないが怪しげなトラックが入ることが出来る出入り口を見付けたよ。周辺の聞き込みによればここ最近は特に多いらしい」
「やはりあそこが闇市の開催場所のようじゃな。問題はどうやって入るかじゃが」
「トラックの出入り口は使えないのか?」
「無理らしい。警備が厳しいし、たとえそれを乗り越えたとしてもいくつセキュリティがあるか分からないぞ。レイハイムだってまさかそこから行ける何て考えてないだろ?」
レイハイムは「まあな」と思案顔。
「でも、ジャック・アールグレイがここにきているのは確からしい。メイちゃんがそれっぽい名前を聞いている。会った事は無いらしいけどな」
俺達がどう潜入するべきか悩んでいると見知った声が真後ろから聞こえてきた。
「私が助けてあげましょうか?」
俺とマリアは悲鳴上げ、レイハイムは警戒心を最大値まで高めながら振り返る。
そこいには派手な赤い髪に露出度の高い服装を着ているデリアがまるでそこにいることが普通の事のように立っていた。
「な、な、なんでここにいるんだよ!?」
「ちょっとね……そっちは研修かしら?闇市の場所を嗅ぎつける何て大したものじゃない?どうした………!?」
デリアは物陰から現れたメイちゃんを見ると衝撃のあまりその場で棒立ちしてしまった。俺はメイちゃんへの危機感を素早く思いデリアへ耳打ちする。
「あっちは幼い女の子だぞ!?やめてくれよ!犯罪行為は!押さえて!」
「そうね………駄目よ…私……!」
自らの獣精神を押さえ、メイちゃんにとびかかろうとする自らの四肢を震わせる。きっと目の前に現れたメイちゃんに一目惚れしたのだろう。
ジュリが抱きしめ、メイちゃんは疑問顔で首を傾げる。
そこで俺はようやくエリーがいなくなっている事に気が付いた。
「エリーは?」
「本部からの連絡が来て、連絡役に一人戻してくれって言われたから戻ったよ。ほんとはメイちゃんと戻るべきだと思ったんだけど、この子は今回の事件のカギかもしれないから。もうちょっと付き合ってもらった方が良いだろうって」
「それで私とジュリ先輩でメイちゃんの着付けをいていたんです」
「だったら連絡でいいような気がするが。まあいいや。それで?デリアさん何を協力してくれるんですか?」
俺が振り返るとやっと興奮する自分を押さえたデリアが息を整え俺の方を向く。最低限で真剣な面持ちをしているが残念ながら心は未だにメイちゃんの方を向いている。
「じつは………ここは私の故郷なのよ」
初めて聞いた真実を前に俺とジュリは………特に驚かなかった。
「あら?どうして驚かないの?」
「いえ………この街の雰囲気とあなたの性格を合わせるとすごく………マッチするなと」
この犯罪性の高さとその逆の真っ当さを併せ持つこの街の歪さと言ってもいいアンバランスはデリアに非常に合うと思う。
「驚いてくれないと面白くないけど……まあいいわ。この街に私の妹が住んでいるんだけど、その妹と連絡が取れなくてね。普段は私が連絡を取れば文句言っても必ず返事をくれる妹が音信不通。それで心配でね。あの子の立場上危険なことに首を突っ込みかねないし」
「立場上?」
俺達が首を傾げているとデリアは衝撃の言葉を口にする。
「私は砂賊のボスの娘なのよ。妹は今のボスよ。父さんが死んであの子が引き継いだの。私はそのことアベルさん達に拾われて士官学校に入学したってわけ。父さんも私達に次いでほしいとは思わなかったんだと思うけどね」
衝撃のあまり口をパクパクさせることしかできないが、メイちゃんだけは衝撃がよく分からないらしく再び首を傾げている。
「なんだかんだ言ってそこまで仲が悪いわけじゃないし、こうして時折連絡は取り合っていたのよ。なのにここ数日全くの音信不通。そんな時に嫌な話を聞いたのよ………ジャック・アールグレイがこの街に帰って来たという話をね。あの男がこの街に帰ってくるなんてタダごとじゃない」
その表情は深刻そのものだ。
俺達からすればジャック・アールグレイという存在は深刻な話になってくるが、彼女とのつながり何て二年前の湖畔の町でのことぐらいしか思いつかない。
彼女とジャック・アールグレイとの間に何があるのだろう。
「そうね………あなた達には話しておいた方が良いわよね。この街がおかしくなっていくきっかけとそこに私の父とジャック・アールグレイ、アベルさん達がどうかかわってくるのかを。簡単に話してあげるわ」
重苦しい空気な素早く場を満たし、俺達はこれから語られる物語を前に黙っている事しかできなかった。
二時間後にお会いしましょう!




