魔導都市 アルカミスタ 6
空サイドの話です!
俺の事を見ているような奇妙な視線がぱったりと途絶え、俺はマリアと一緒にまわりながら街中に出ていった。
下手をすると警察にそのまま連行されそうな光景なので、出来る事なら別行動を心がけたいのだが、機竜から俺の側にいるようにと言われているらしく逃げられない。
とりあえずあの逆さの街からは遠くに移動したい。出来る事なら永遠に近づきたくない。
「で?どこに行くのじゃ?」
幼女と言う姿形をしていながらしゃべり方が老婆のを彷彿させるマリアの一声に俺は悩んでしまう。
どうやら俺は研修としては異例の特にやるべきことが無いらしい。
レクター達と合流してもいいけどな~なんて考えたのが運の尽きだったのかもしれない。後ろから元気のいい、それでいて俺のやる気を素早くそぎ取ってくれるおんな素敵な友人の俺の名を呼ぶ声が聞えてきた。
俺は背中から迫ってくる人物を前に選択肢が二つ存在した。
一つ目は一目散に逃げだす。しかし、この策は現実的ではない。俺より運動神経も足の速さも上のレクターから逃げきれるとは思えない。
ならばと俺は二つ目の策である奇襲で行くとにした。
声が近くなっていき真後ろまで来たというタイミングで俺は振り返りざまに肘を溝に叩き込む。
レクターはめり込んだダメージが予想以上に大きかったようでそのままノックダウンしてしまった。
俺の胸には勝利したという高揚感が残っている。
「お前さん。やり切った男の顔をしておるが、友人をこのような目に合わせてよいのか?」
「いいんだよ。俺とレクターの関係なんてこの程度で済む」
さてと思いつつ俺はレクターがやって来た方向へと視線を向けるとやはりというかなんというか、奥にはジュリとエリーが小走りで駆け寄ってきていた。
エリーが「走らないでよ」と愚痴り、その後ろで少々苦しそうに走っているジュリ。
運動が苦手であるジュリは到着早々息を整えるのに時間が掛かっていて、俺とエリーが左右から背中をさすってやる。
「大丈夫か?走ってこなくても良かったんだぞ?歩いてくればよかったのに」
「二人が……走り出すから」
まあ、そういう奴だよな。
しかし、結局の所でいつものメンバーが揃うんだな。
「?フォーマンセルで動くのが原則じゃなかったけ?」
確か研修中はフォーマンセルで動くことが原則で、言い渡されていたはず。なのにもかかわらずここには三人しかいない。俺の見落としかもしれないと周囲を見回すがやはり誰もいない。
「レイハイムって奴の担当だったんだけど、別班に体調不良が現れてさ、補欠要因に引き抜かれて、空と合流してフォーマンセルを組めって!」
いつの間にか復活していたらしいレクターがそんなことを言って見せた。
レイハイム?と俺は少しだけ思考してみる。そう言えばそんな奴がいたような気がするが、どんな奴だったかと言われると正直記憶があいまいだ。
なんかあまり人とかかわらないような奴だったはず。そう言えば元貴族かどうかすら聞いたことが無い。
士官学校では一部ではあるが元貴族と平民が多少争っている節が在り、あるごとに「お前は元貴族か?」とか「お前は平民か?」とかしつこく聞かれる。
そんな話が必ずと言っていいほど振られるので今では同学年で元貴族性と何てある程度耳にするのだが、レイハイムと言う学生はそんな噂とは無縁だったような気がする。
まあ、そう言う理由なら俺がマリアと一緒にいる理由も無いわけだ。なんて思っていたのだが、残念なことを聞いてしまう。
「マリアさんも一緒に行動してくれって言われました。私ジュリエッタと言います。皆はジュリって呼びます。改めてよろしくお願いします」
「私はエリーです」
「俺レクター」
「うむよろしくじゃ」
馴染んでおられますな。
俺にはこの幼女擬きがどうしても慣れない。
「で?どうすんの?」
俺はレクターが俺の方に意見を求めるので「はぁ?」と声を出しながらレクターの方を見る。
「依頼を受けているんだろ?」
「受けてないよ。空の仕事を手伝えっていうのが無いようだもん」
それを言い出したら俺も依頼何て無いに等しいのだが、しいて言うならジャック・アールグレイを探そうとしていた所である。
「ジャック・アールグレイを探そうとは思っているけどな……でも、手がかりが無いし。そもそもジャック・アールグレイがここで何をしているのかって話だし」
俺の素朴な疑問を前にレクターが「デモ行動じゃないの?」と尋ねるが、それをエリーが馬鹿を見るような目で見る。
「あのね。それで何の利益を出すのかって話よ。そのジャックって男、利益を求めようとするんでしょ?でもデモ行動でどうやって利益を上げるのよ。暴動が起きているのならともかく」
そこなんだ。利益を出そうとするジャック・アールグレイの性格上必ず関わる状況に利益を出さなくてはいけない。
デモはまだ実力行動に出ておらず、しかも今回のデモはあくまでもカルト教団への対応が批判の元になっている。
カルト教団に所属しても勝てる見込みなど無いだろう。
勝てない戦はしない。それがジャック・アールグレイという人間だ。
「でも、この街にいることは確かなんだ。この街に来た時奴の気配を感じた。でも、あれ以降感じないのも事実だ」
あの感覚をあの男も感じているかもしれない。なら、あの男も俺がいると感じて逃げたのか?
あの男がその程度で逃げるのだろうか?
逃げない。俺ならそう予想する。
しかし、策を練るのは事実だ。
「なるべく俺から逃げようとしているのかもな」
俺はまるで皮肉を絞り出すような言葉を選ぶと、まるでレクターは俺の意思をくみ取れていないように「かもね!」と言ってきた。
勿論俺の神経を逆なでする言葉を前に俺は右ストレートを人中に決めた。
もだえ苦しみながら転がるレクターをしり目に俺は方針も定まらないまま視線を泳がせてしまう。
そんな時息を整え終えたジュリから手を離したエリーがこっちにやって来た。
「だったらショッピングしたいんだけど?」
「ええ?ショッピング?それこそ個人旅行の時にでもしとけよ」
「方針も無いんでしょ?ここでしか買えない魔導機もあるって話聞いたことあるし、マリアさんに案内してもらえればいい場所教えてくれそうだし」
「フム。よいぞ。確かに儂は良い店を知っておる!任せておけ」
無駄な自信で無い胸を張るマリアとそれを見下す俺。しかし、否定する材料も無いので仕方なく同意しておく。
まあ、その辺歩いていれば見つかる可能性が全くない言えばさすがに言い切れないし。
しかし、後の俺はこの選択肢を後悔することになった。
中心地から少しだけ離れた大きなビルの中、ショッピングモールの中を歩き回っていた。
幸いなのか、運が無いというべきなのか。今の所ジャック・アールグレイの気配を全く感じない。
ジュリとマリアとエリーは女子だけでショッピングを楽しんでおり、俺とレクターは男子だけで虚しく遠くから眺めるだけの時間が過ぎ去っていた。
魔導機なんて俺とレクターは肉体強化に特化させるだけで特に面白みも無い。
色とりどりのカラーリングと様々な形をした魔結晶を提供しており、それに合わせて色んな魔導機本体も提供している。
中にはオーダーメイドもできるらしく、さっきから女子人の悲鳴がすごい。
「ねぇ空。これってさ……」
俺も全く同じ意見なのだがあえて黙っていた。
「なんか女子として間違っているような気がするんだけど」
「分かってる。言うな」
女子ってああいう者じゃない気がするのは男子中学生の妄想なのだろうか?
俺達が思い描く女子と言うのは服とか化粧品とか小動物を眺めてキャッキャウフフと楽しそうに話をしている光景であって、決して兵器を前にキャッキャウフフ話す光景ではない。
魔導機なんて生活必需品より多少兵器寄りなのだから、そんな兵器を前にして楽しそうに話をしていると本当に虚しい。
俺達がおかしいのかな?
俺は俺で反対側にある武器屋に行きたい。
この世界に来て普通に驚いたのだが、なんと普通のその辺に武器屋があるのだ。しかも、反対側にあるのは武器のチェーン店である『オールド・ウェポン』の本店である。
先ほどから見たことも無い珍しい武器が並んでおり、男子の中二心をくすぐってくれる。
レクターもあっちが気になるらしく、俺同様にオールド・ウェポンをチラチラと視線を向ける。
「時間かかるなら俺達反対側の店に居てもいい?」
女子人からジェスチャーで「どうぞ」と来たと勝手に判断し、俺達はそろってオールド・ウェポンへと逃げていく。
俺達はオールド・ウェポンの古ぼけたような鉄を無造作に組み合わせたようなデザインの門をくぐり中に入っていくと、これまた空気が少し重たく感じるような暗めな色合い、ショーケースの中には様々な武器が飾られている。
安めの量産型の武器から、オーダーメイドの高級武器まで様々な種類と値段が置いており、俺は片刃直剣コーナーをジーっと眺めていると、俺の視界にある剣が映った。
全身的に重量を感じるような太さと簡単に震えるような構造をしており、魔導機との連結機能付きという性能とあえて魔導機を別にすることで耐久性を向上している。
魔導機が搭載されておらず、あえて連結させることで搭載型と同じような性能に耐久力を上乗せしたような性能を誇っている。
魔導機搭載型は壊れやすいという欠点があるのでこれは嬉しい。
名前がきちんと下に書かれており、そこには鉄のネームプレートに『イマジン』と書いてある。
イマジンと言う名前と姿を交互に見ながら最後に値段を見るとそこには中学生には少々高めの値段が記載されていた。
二十万コル。
扱いやすさと耐久力を増しているが、その分バラスン良く仕上がっていてどちらかと言えば学生向けの品となっているのが多少安くなっている理由だろう。
武器の相場は一般兵支給品が安いので十万前後、高いのだと一般兵で三十万である。
学生の相場が大体十万前後なのではやり少し高めだ。
俺は義父さんから金をそれなりに持たされており、買うことは出来る。学校からの支給品では任務の度に借りる必要があり、面倒な手続きが必要なのだが、自分で購入した武器ならその辺の手続きが不要になるメリットがある。
俺はこれを買うべきかどうかと本気で悩んでしまう。
買えば義父さんは何か言うだろうか?
そんな事を考えているとレクターが後ろから話しかけてきた。
「それ買うの!?買わないの!?買いなよ!」
「悩んでるんだよ」
「悩むくらいなら買う!勝手から後悔する!俺ならそうする!」
背中を押されたような気がして、少しだけだが気持ちが楽になる。俺はネームプレートの下に置いてある札を取ってレジへと急ぐ、財布の中から金を取り出し支払いを終えると俺は店員に「そのまま持って帰ります」と受け取る。
両手でも多少感じる重さ、俺の武器と言う感覚が俺の胸に奇妙な高鳴りを与え、俺は高揚感を覚えながら握りしめる。
レクターが武器を触りたくて少々うざかったが、それでもそれ以上の高揚感が存在した。
しかし、俺は気が付かなかったんだ。
この時既にジャック・アールグレイは策を講じている事に俺達はまるで気が付かなかった。
まだ物語は動いているように見えませんがこの時点で既にジャック・アールグレイは動いています。次から二話ほどかけて事件の全容を描きます。しかし、のんびり物語を引き延ばすの癖になっていますね。簡潔に描くつもりがいつの間にか一話丸まるになっているとか当たり前です。まあ、直しませんけどね!書けるものはずっと書いていきたいです!では次回!!




