魔導都市 アルカミスタ 4
今度は空サイドのお話になります。機竜との出会いとなりますので。
飛空艇から真直ぐ伸びる廊下を歩いていき、自分の荷物を背負いながら周囲の人とはぐれないように歩いているといつの間にか義父さんが列から離れていくのが見えた。
どうやら隠れて目的地へと向かうらしく、こそこそと歩いていく姿はどこかカッコ悪く尊敬できない。
なんか嫌だな………あんな父親。
そんな事を考えていると集団は空港の広場へと降り立った。
学生全員ではないにしても多くの士官学生が集まると修学旅行などを思い出しほんの少しだけセンチメンタルな気持ちになる。
しかし、ここから俺だけ別行動を想うとそんな気持ちも吹き飛んでいく。
隣に立つ寝ぐせ爆発の幼女マリアに袖をがっちり掴まれて逃げ出すこともできない。それが意識的にしているのなら俺も全然耐えるのだが、この幼女擬き寝ぼけているのだ。
半目でウトウトしておりいつ意識を完全に切り離すのは分かったものではない。
そんな正直ウンザリする気持ちと共に俺達は街中へと歩いていく。本来なら車にでも乗って移動する所であるが、何やら先方で問題が発生したそうだ。
俺達はその理由をすぐに理解することになる。
その理由は目の前で起きているデモ行動だろう。
参加人数はざっと見ただけで千は超え、多くの人の手にはこの辺周辺国で使われている独特の言語で書かれたプラカード、残念ながら言葉がわかないので何を言っているのか分からない。
しかし、俺とレクターの視線と心は上へと向いていた。その視線の先にはビルとビルの間にビルが真横でくっついている。
「「あれってどうなっているんだろ?」」
同音異義語とはこのことだろう。
全く同じ気持ち、その辺のビルの間にビルが横の状態でくっついており、まるでビルが突き刺さっているような姿をしているだけで問題なのに、その間を車やらが飛び回っている。
「「俺達って未来に来たのか??(来たの??)」」
そんなことをしている場合ではない。いい加減この寝ぼけている幼女擬きを起こし目的地に行かなくてはここに来た役目も果たせない。
そう思い俺はマリアに声を掛けようとした瞬間である。
背筋を指でなぞられたような嫌な感覚が走った。
俺はこの感覚を去年の12月の前後で感じた。そう、ジャック・アールグレイが近くにいるとき、俺の何かが『危険』だと告げている合図だ。
「どうしたのじゃ?痛いぞ。さすがの儂でも目を覚ましてしまう」
目をこすりながら俺の手から離れていき、こちらを上目遣いと睨みつけるような細めを合わせてこちらに向けてくる。
しかし、俺にとっては後ろからした視線の正体の方が重要だ。
「どうしたの?空君」
ジュリが心配そうな表情と声で話しかけてきて、レクターも上のビルから視線を動かさずにこちらに気をかけるという離れ業をやってのけ、エリーも鬱陶しそうにしながらもこちらの方に視線と体を向けてくる。
「いるぞ……ジャック・アールグレイが」
俺は慄きながらもどうしようもなくそちらの方向が気になってしまった。
結果から見ればジャック・アールグレイを見つけることは出来なかった。
俺はその後マリアの導きで列から離れていき、レクター達はガーランド達軍関係者と一緒に任務に就いた。
俺はと言うと逆さの街への唯一の道であるらしい長細いビルへと足を踏み込もうとしていた。足元から見ると正直竦みそうなぐらい怖い。
逆さの街が落ちてこないのか?とか、このビルだけで支えているのかとか気になること満載であるこの光景に俺は声が出ない。
ジャック・アールグレイを見付けたいという気持ちと、会いたく無いという気持ちのせめぎ合い、この逆さの街へと足を踏み入れたくないという感情を前に俺は逃げ出す選択肢が目の前に現れたような気がした。
ここで踵を返し走って逃げれば逃げ切れるのではないかと思う。十五の夏である。
早速踵を返し、逃げ出す準備をしっかり終えあとは走るだけというところで俺はマリアに掴まりながらビルの中へと入っていく。
どこまでも突き抜けるほどの長さの空洞。その中心に盾に伸びるエレベーターの台座が存在し、俺はその台座に恐る恐る入る。正直に言えば乗りたくないし、出来る事なら逃げたい。
マリアが正面の操作パネルを操作している間に逃げるしかない。
そう感じて身をひるがえすが、俺はいつの間にか後ろにいたフードの人物にぶつかってしまう。
「やれやれ。機竜様から指摘していた通り。君は逃げ出そうとするだろうと助言されたのでここで待っていたが」
白いフード付きのコートと綺麗で動きやすそうな長ズボンを着ており、手袋を手にはめ、長めのブーツを履いている。声の高さで女性だと判断できたが、顔はフードで隠れていて見えない。
というより、声をかけられてしまったせいで台座が上へと凄まじい速度で昇っていき、俺は大きなため息と共に諦めが心を支配する。
「?一席序列第二位のイルメリア様?どうしてこちらに?確か実家へと帰っておられたのでは?」
「いえね。機竜様から今回のデモに奇妙な悪意を感じると言われてね。それにこの少年が逃げ出す可能性を指摘されてしまってはね」
マリアが俺の方を睨みつけてくるのを俺は気まずそうにしている事しかできなかった。
というよりいよいよ周りがガラス張りの場所にまで登り続け、高所恐怖症からすればトラウマレベルの光景がそこにはある。しかもこの瞬間にもこの台座は上り続けている。
逆さの街へと近づいており、よく見ると建物のように見える突起物の間に橋が架かっているが、人がいるようには見えない。
到着と同時に大きな音が響き、俺の目の前に大きな大理石製に見えるドアがゆっくりと開いていく。
その奥に存在する橋、手すりがちゃんと両端に存在し、橋の大きさとしては人が横に五人並んでも余裕なぐらいである。
「義父さんも既にこの先に?」
「じゃろうな。部屋は別じゃろうが」
俺はフードの女性事イルメリアさんとマリアの後ろにぴったしついて行く。今更逃げ出すこともできない。正直下を見ると一瞬で後悔しそう。
歩いて三十分、様々な分岐を曲がりくねって辿り着いた場所はこの街のある意味中心であり、ド真ん中でもある。
今まで見たドアで一番大きいのではないかと思っていたが、よく思い出してみると一番大きいのは遠目で見ていた帝城の玄関だと思う。
しかし、そんな帝城の玄関に迫るような大きさのドアがゆっくりと左右に分かれていき、その奥から重苦しいような空気が流れ出る。
奥には十個の席と中心に結晶のシャンデリアのようなものが、多くの画面が壁中についている。
俺はゆっくりと奥へと足を踏みいて、マリアは出入り口で待機している。俺はどうして入ってこないのかどうかと不思議に思っていると、イルメリアさんが『Ⅱ』と書かれた席に座って答えてくれた。
「この部屋に入ることが出来るのは私達一席に認められた人間だけなの。ここは魔導協会の頭脳。機竜様の間。頭脳。君は「逆さの街」と聞いているけれど、それは正確ではないわ。ここは機竜様本体よ」
「え?この街が?一つの竜?」
俺は足元へと視線を下ろしそして周囲を見回す。
俺はまるでありえないものを見るような感覚を錯覚させる。
「良く来ましたね。袴着空。おおよその事は風竜から聞いていますよ。まずは……風竜を救ってくれて本当にありがとうございました。風竜からも感謝を告げていてほしいと言われています」
俺は頭を下げながら「いいえ。俺も救われましたから」と返す。すると、機竜の微笑む声が聞えてきた。
「あなたは風竜から聞いた通りの人物なのですね。さて、あなたが聞きたいことたくさんあるでしょう、まずは……あなたの父君についてですが」
そう言って画面の一つに前見たときより小さい岩が映し出される。透明のケースの中で大人しく鎮座し、レーザーに当てられている義父さんの姿がそこにあった。
「順調に治療が進んでいますよ。何せ私もこれを起動するのは二千年ぶり、解除に手間取ってしまいました」
「治りますか?」
「もちろんです。機竜の名において必ず誓いましょう。そして、あなたをここに呼び出した理由ですが。それはあなたは既に理解しているのではありませんか?」
なんて意外なことを言われてしまい思考する。
と言われても俺にはこの街における脅威何てっと考えると俺はたった一人の人間を思い浮かべた。
「もしかして……この街にジャック・アールグレイが来ている事と関係ありますか?」
「勿論です。かの者はこの地を荒そうと策を巡らせています。恐らくここ数日で仕掛けるつもりでしょう。風竜を救ったその力を頼らせてください。あなたはかの者にとっていわゆる天敵のような存在です。無理だというのなら私は諦めます」
「勿論協力させていただきますが、俺なんかで役に立てるかどうか……」
「役に立てますよ。必ずね。ではお願いしますよ。当分はマリアを側に置いておきます
では」
俺はそのまま追い出されるように逆さの街から去っていく。
どうでしたか?面白かったと言っていただけたら幸いです。もう、なんか空と風竜のダブル主人公でいいのではないかという気持ちになりました。多分、次の長編ではこのダブル主人公にすると思います。風竜ってこの作品の中で一番好きかもしれません。では、次お会いしましょう!デワデワ!




