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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
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魔導都市 アルカミスタ 3

風竜自身が語り部を担当しています。なんだかんだ言って風竜の語り部が一番書いていて楽しいかもです。

 この少年に一年以上付き添っているわけだが、この少年はどうやら異世界から来た人間のようだ。

 そもそも異世界に人間がいること自体驚きなのだが、それ以上に同じ言語、同じ姿形をしている偶然にも驚きがある。

 知的生命体と人間たちが称する存在が他のワールド・ラインに存在すること自体は珍しい事ではない。地球と類似する惑星が存在する限り、知的生命体は確実に存在する事だろう。

 広義に解釈すれば人間とて宇宙人なわけだし、全ての人類は異世界人になるのだから。

 しかし、こうなると『ゲート(人間達が世界観を行き来するわいに使われる門の総称)』はどうやらお互いに結びつきの強い世界が選ばれるようだ。

 私は何も間違っていない。

 この少年は必ずワールド・ラインを超える。そして、聖竜はワールド・ラインを超えた先までは力を発揮できず、探索は出来ないはずだ。

 その先で私は私の目的を達することができる。

 幸いにもこの少年の周りにはうるさい存在が多く、特にレクターと呼ばれる少年は食事の席で必ず問題を起こしてくれる。本来であればそこまで食事を取らなくてもいい(一年に一回ぐらいしかとらない)私が、定期的に食事がとれる。

 しかも、あの事件の後に知ったことでもあったが、人間の食事は我々竜の食事より何倍もうまい。

 さて、姿を消しつつ少年のベットの下で眠っているとベットが動く音がした。

 どうやら少年が起きたらしい。

 私はそっとベットの下から首だけを出そうとすると私の鼻先に少年の足が上から降って来た。

 危うく踏まれる所だった。

 私は少年がベットから離れるのを待っていると、一向に少年の足が動く気配がしない。

 少々イライラする気持ちもするが、五分ほど待つとフラフラした足取りで洗面台へと消えた。

 寝ぼけているのか。足取りがフラフラしている足取りが客間へと戻ってきて、ベットの近くに置いてある担ぐタイプの旅行鞄をベットの上に準備しながら着替え始める。

 もとより一人部屋で大きいのだが、少年一人では余り過ぎるぐらいで、洗面台からベットまでも遠く、各所に荷物を置いていると移動だけで時間が掛かるようだ。

 私はその隙に出入り口近くで待機しておき、いつでも移動できるようにと準備を整えていく。

 朝食を盗み出せる機会はあるだろうかと試行しながら少年の準備を待っている。

 着替えを終え、荷物を確認しつつ最後に自分の支給品である片手片刃直剣を背中に背負い、魔導機を右腕に直接装着して少年は玄関のドアに手を掛ける。

 早く部屋を出るんだという気持ちが通じないのか、少年はドアに手を掛けると再び部屋を見回す。

 やれやれと首を横に振る。

 この少年は少々感傷に浸る癖があるようで、それで時間が掛かる事が多い。というかこの少年、この街の構図を知らないのではないか?

 なんて思っていると少年はようやく部屋を出る決意を固めたようでやっとのことで部屋を出ていった。

 部屋を出るだけの事だけでどれだけ時間が掛かるのだ?

 人間というのは服を着たり、身だしなみを気にしたりと少々見かけにこだわり過ぎると思う。まあ、これも人間の美点だろう。

 我々竜はそういう細かいことを気にしない。

 少年は歩きながら食堂へと廊下を歩いていくと、食堂前へと向かう為左舷デッキに出るとそこに広がる魔導都市『アルカミスタ』を前に大きく息を吐き出す。

 点を貫くほどのビル群とその上に存在する逆さになったような街。ビルとビルの間には線路が引かれており、車が宙を浮いていたりとどこか近代的なのだ。それもそう。この街は魔導という一点だけを言えば技術大国にも負けない力がある。

 しかし、その全ても機竜が与えているものに過ぎない。

 あらゆる知識を溜め込み、その知識はあらゆる応用へと向かう。人間達はその知識を更に高め、それを機竜へと教える。そうやって高め合ってきたこの街は普通の街とはまるで違う。

 ビル群はこの街がひたすら新しいモノを取り入れてきた証なのだ。

 町の規模自体は大したことは無い。

 広さとしては大体三百平方キロメートルしかないのだが、ひたすらその敷地面にビルが引き締め合っている。

 そして、その街の中でひたすら高いビルの上にその逆さの街は存在する。

 大きさはそれほどでもないが、問題は細く見えるような長いビルの上に鳥が止まっているように見える。

 それもそう。あの逆さの街こそが機竜本体なのだから。

 そして、魔導協会本部でもある。

 あの少年は今からあそこに行かなくてはいけない。

 そう思った時、私の視線は街の方へと向いた。

 機竜があの少年を寄越した理由。それはこの街が抱えているカルト教団の反政府デモである。魔導大国の首都として存在してきたこの街はいま、かつてないほどのカルト教団の標的にあっている。

 この世界の住人は基本的に存在しないものは信じない。しかしそれは信じない者が多いというだけで、決していないというわけでは無い。

 特に、呪術を扱う竜を宗教の神代わりにしている者達は多い。

 全く機竜も面倒な時期に学生を寄越したものだな、学生達に今回の事件を解決させようとしているのか。

 そもそも機竜が本気を出せばカルト教団の一つや二つぐらい壊滅させることが出来るはずなのだが、本人はとにかく人間を殺めることを嫌がる。

 その徹底ぶりは他の竜に追随を許さないほど。

 それだけあの少年は殺すという過程を嫌がる。

 その姿は一年前の事件の時にも見えてくる。

 普通の人間なら怖気づいてしまう所をあの少年は殺す事、殺される事への抵抗感が強く、結果として戦いに巻き込まれた。

 いや、巻き込まれに行ったといった表現が正しいと思う。

 あの少年は事件の渦中にいなくとも、事件を知ってしまうとおのずと渦中へと突っ込んでいこうとする。

 最もあの少年なりに一年前の事は反省しているらしく、事あるごとにそのことへの後悔を口にしている。

 まあ、人間一人が岩に変わってしまえば後悔したくなるのも分からなくもない、最もあの少年が介入しなければ全滅していたのだから、あの男としても感謝しかないだろう。

 あの少年は少しぐらい自らの手柄を褒めてもいいようなものだ。

 それがあの少年の美点ともとれる。

 なんて考えていると少年は食堂へとたどり着いたらしい。

 食堂からはおいしそうな食事の匂いで充満しており、本来腹などあまり好かない竜ですらお腹がすいたと錯覚させてしまう。

 大きな衝動では男女のカップルらしい人間達がイチャイチャしている。

 竜には性別という概念が無いから恋愛という概念も存在しない。

 故に人間の恋愛感覚というのはどうにも分かりにくい所がある。

 ああやって手を繋いだり、ご飯を食べさせ合ったり、キスをするなどと言うのは日常の事で、何やら人間はその先の行為を行うのだという。

 私達竜にはどうにも理解しがたい。

 この少年もいずれはそうやって好きな人間を作るのだろうか?まあ、この少年いい加減鈍感なもので、隣のジュリと言う女の子からの好意に全く気が付いていない。

 これはこれですごいものだが。

 これだけ私にも分かりやすい好意をこうも気が付かないとはな………どういう思考をすればこの少女からの好意を見逃すことが出来るのだろう。

 今とてそうだ。目の前にいる少女が対面に座るこの少年を見て頬を赤らめ、いかにも好意的な表情をしているのに、この少年はそれを風邪を引いているのでと誤解している。

 ここの関係を見ているこちらとしてはヤキモキさせられてしまう。

 しかし、飯を食べるところだけを見ているとお腹が空いてくる。

 誰かから盗んでくるか?

 なんて考えていると少年の後ろで食事をしているアベルとかいう男の席にはまだ沢山の食事が残っていて、周囲に人はあまりいない。

 と言うより、どうやらサクトとかいう女とガーランドとかいう巨漢の男以外いないようだ。

 ふむ。これはチャンスかもしれないな。

 私はアベルの席まで移動し、テーブルの上の食事を選ぶ。

 骨付きチキンを甘辛タレで味付けされていて、その隣にはサンドイッチやサラダなどが置かれている。しかし、どういう事だろう。まあ、朝食には少々重めのメニューではあるが、このアベルはあまり食べていない。

 ここは私が食べるべきだろうとチキンに手を伸ばして二つほど盗んで椅子の下へと移動する。

 頬張りながら口の中を鶏肉で一杯にしているとアベルから恨めしそうな睨みを受けた。

「アベル君。食べちゃ駄目よ。治療のためには朝食を抜きなさいと言われているでしょ?」

「ぐぬぬ。サラダだけでは力が出ない。それに………足元でこれ見よがしに食事を取っている『奴』がいる」

 サクトとガーランドとかいう奴が私の方を見てくる。

 気にしない。この二人は真っ先に私の存在に気が付いたほどだ。言わないのでなければこちらも下手なことはしない。

 なんてことをしているといよいよ着陸のアナウンスが食堂中に響き渡った。

 機竜に会うのも久しぶりだろう。


取り敢えず前半です。二時間後に後半を投稿します!

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