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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
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魔導都市 アルカミスタ 1

新しい短編です。一年後が経過しています。

 魔導都市アルカミスタ。

 魔導大国の首都として存在したこの都市は首都の中でも若いうちに入り、建設が始まったのは大体約八百年前と言われており、魔導都市て名前で冠せられているが、実際はビル群の集まり。

 実際見るとファンタジーさの欠片も存在しない。

 しいて言うなら街の上に街がある事ぐらいだろう。逆さの街と言われている場所こそがいわゆる機竜本体と言うのだから恐ろしいものだ。

 俺がこの街に訪れたのはあの事件から一年と少しが経った中等部二年の頃の出来事である。

 俺にとっては湖畔の町以来のあまりすっきりしない事件だったわけだが、ジャックアールグレイとの二度目の戦い、出会ったのは三回目。

 実はこの事件の前、湖畔の町の事件から半年後の事であった。

 ある理由から喫茶店でお茶を飲もうと一人入っていった先で俺はアールグレイと出会ったしまった。

 下手に刺激もできない。

 しかし、逆を言えば同席を誘われたら断る理由も無かった。そんな同席したなかで語った話は俺の中である意味繋がっていくことになった。

「君は小説などに登場する勇者と魔王の違いが分かるかな?」

 真剣そうに、どこか冗談を交えたような語り口でアールグレイは俺に語り掛けてきた。

 そんな質問に俺は真剣に考えるようなことはしない。しかし、多少なり考えてみる。しかし、魔王と勇者の違い何てそれこそ多くあると思う。

「色々あるだろ?全然違うじゃないか」

「そうだな。なら、同じ所はどこか分かるか?」

 それこそかなり難しい問いのように思えるが、「分かるか」という言い方がこの問題には明確な答えがあるという事だと思った。

 すると、勇者と魔王のどうしようもない共通点が分かってしまった。

 強力な力を持つ魔王とそれを倒すことが出来る力を持つ勇者。

 その共通点。

「強大な力を持つ点」

「その通り。嫌な言い方をすれば彼らは生きる兵器という事だ。だから勇者のお話は続きが無い。あっても全く違う舞台、全く違う世代、全く違う世界の物語になる」

 言いたいことは分かる。

 強大な力を持つゆえに周囲の民衆とはどうしても相容れにくい。それでなくても一人か限られた仲間達と孤独に戦う人間ゆえに、民衆とはどうしても一線が引かれてしまう。

「勇者と魔王は一枚のコインの裏表。しかし、それは勇者には魔王にもなれるという言い方もできるんだよ。強大な力を持ち単独で軍に匹敵するほどの人間はもはや人間の枠には入れてもらえないのさ」

 孤独で戦い、孤独で違う地でまた戦う。そんな孤独の戦いをする勇者は下手をすると次の魔王になる可能性もある。現実に勇者なんていればその後の選択肢は別の地で勇者として戦うか、人の地を離れ穏やかな生活をするか、最悪魔王に落ちるか、人の手で殺されるかだ。

「正義の味方もまた同じ。孤独に戦う者は孤独に殺されるのさ。しかし、英雄は違う。英雄は民衆や国の為に多くの人の先頭に立って戦う。それが英雄だ。民衆の心を救うことが出来る人間が英雄と言われ、それを民衆が語り継ぐ物語を英雄譚と言われている」

 英雄譚。英雄の活躍を描く物語。サーガともいう。

 英雄は国や人々と共に立ち上がる物語。そして、その立ち上がり戦う人達の中で目立つような人々を英雄と人々は呼んできた。

 西暦世界では『ジャンヌ・ダルク』や『アーサー王』などがそんな人間たちにあたり、いわゆる民衆と共に戦ったり、民衆の為に戦った物達なのだ。

 中には残酷な終わりを迎えた者や、民衆から認められ王などの政治のトップに就くものだっている。

「この世界だって同じだ。そして、君は英雄候補なんだよ。君の力の才能は英雄向きだと思わないか?」

「思わない」

「それは君が君の才能を知らず、向き合っていないからだ」

 この男が何を知り、何を言いたいのか俺には分からない。

「いずれ知る」

 これは俺が自分が英雄候補だという事を知るお話なのだろう。

 魔導都市で俺はジャック・アールグレイと戦い、そして機竜と多くの人の為に戦う。

 そういう意味ではこの男はもしかしたらこの状況すら見越していたのかもしれない。

 そう考えると末恐ろしい。

 英雄譚にもなれない。まだ英雄候補が戦う物語を一体なんていうのだろう。

 英雄譚というと少々大げさのように思えるから、かっこよく英雄サーガとでもいおうか。いや、世界を渡って人々を救う物語。

 異世界英雄サーガ。

 これがその物語なのかもしれない。

 さて、そろそろ語るとしよう。


 湖畔の街での事件から一年と少しが経過し、いよいよ暖かくなってくる頃、帝国立士官学校は海外で研修を行う為魔導都市へと飛空艇で急いでいた。

 俺は甲板でどこまでも広がる地平線をジュリと共に眺めていると、その後ろでは病院着を着ながら不貞腐れている義父さんの姿が有る。

 今でこそ大分元の姿に戻ってきたが、一年前はブヨブヨのデブ姿だった。

 今でもあの服を脱げば多少突き出た腹が姿を現す。

 ちなみに義父さんの右側にはサクトさんが、左にはガーランドが立っている。

「アベルさん機嫌悪いね」

「検査のためとはいえ検査着のような病院着を着て行動しなくちゃいけないのはストレスだろう」

 なんて事を言っている間に俺の視線は遠くのテーブルでハンバーガーを食べているレクターの方へと向ける。

 すると、義父さん達の視線が俺の足元へと向いている。

 ここ最近義父さん達は俺の足元などに視線を向けることが多い。しかし、何度見てもそこには何もない。

 俺は最近気にしないことにしている。

 するといよいよ周囲の景色を見る事にも飽きてしまったので俺としては下のショッピングフロアにでも移動したいところである。

何せ、こんな規模の飛行系の乗り物でショッピングロアやカジノ、マッサージ、プールなどが存在しているのは俺としては初めての事だ。

 ちょっとした豪華客船クラスの飛行艇を軍と士官学校の学生が貸し切っている。

 俺達は義父さんに「下に行く」とだけ言って俺達は船内へと入っていく。エレベーターでショッピングフロアへと降りていく。

 人でごった返しているそのフロアでエレベーターから降りると、一本の道の左右に色々な店が顔を出している。

 服、食べ物、アクセサリー等々の店が建ち並んでいて、俺達は一つずつ見て回っていると正面に最近できた友人エリーがポニーテールを振りながらこちらに気が付いた。

「あんた達。降りてきたの?」

「エリーちゃん。うん。明日の午後までだからね。今のうちに堪能しようって話になって」

 なんて話をしていると俺は奥の方から歩いてくる一人の幼女を見つけてしまった。

 周囲をウロウロしながら、そして物珍しさに惹かれているような視線をしているが、俺にはある違和感がどうしても拭いきれない。

 すると彼女は男女のカップルを回避する為にこちらの方へと回避して歩いていく。ジュリとエリーに当たりそうになったことを感じ取り、同時に俺の方へと突然進路を変える。

 俺はそれを素早く半歩右足を下げ衝突を回避しながら俺は左足で幼女の足を引っ掛ける。幼女らしい転び方をしてしまい、顔面から柔らかいカーペットに突っ込んでいく。

 同時に後ろからレクターの声が聞えてきた。

 俺は内心馬鹿が来たかと思ったがそんな言葉を喉の奥に飲み込む。しかし、その言葉をストレートに口に出す奴がいた。そんな女子は俺の目の前でポニーテールを振っている赤い髪の少女ことエリーである。

「バカが現れたわね」

「バカってエリーの事?」

「あんたの事よ!この馬鹿!」

 相も変わらずの仲の悪さを発揮する二人を無視してジュリが幼女へと手を伸ばす。俺はそれを横目にジーっと観察する。

 フリルの付いたスカートと上着、靴も幼い音の鳴る靴を履いているが……それでも俺は違和感がどうしても消えない。

 傍から見るとどこにでもいるような幼稚園児のように見える。

「ごめんね。どこにも怪我が無い?」

「大丈夫……です」

 俺はジュリと幼女の間に立ちふさがり冷たい目を彼女に送る。

 すると俺の態度に文句を言いたい表情になるエリーの後ろから幼女を見ながら呟いた。

「その女性誰?誰かのお姉さん?」

 エリーとジュリの表情がコロッと変わっていく姿はどこかおかしく、二人の視線が真直ぐ幼女擬きの方へと向く。

「「年上!?」」

「間違いないだろ?この子さっきから周囲を観察しながら歩いていたし、それにぶつかる人間に意図的に近づいていたしな。俺には彼女の動き方が意図的な感じがした」

 勿論気のせいだという可能性も無いわけじゃない。しかし、その割には彼女には年齢にはそぐわない落ち着きもある。

 何より女性関係に敏感なレクターがいうのだから間違いないだろう。

「ばれてしまっては仕方ない。私の名前はマリア・イリューじゃ。こう見えても21じゃからな」

「魔導大国は若返りの研究もしているの?」

 レクターの余計な一言を前に怒りを増すマリアさんは握り拳を作ってアッパーをレクターの顎目掛けて振り上げる。しかし、悲しいことに背丈が足りない。

 空振りに終わるアッパー。

 微妙な空気が周囲を凍らせる。

 マリアは怒りで身を震わしながら足を思いっきりレクターの股間目掛けて振り上げる。しかし、この蹴りもギリギリ届かないが、彼女の靴が脱げてレクターの顎目掛けて思いっきりぶつかる。

 レクターが後方に吹っ飛んでいく姿を眺めていると遠くから聞いたことの鳴る声が聞えてきた。

「待ってくださいマリアちゃん?」

 イースさんの穏やかな声とは裏腹に久しぶりに見る彼女は……大胆な衣装に髪をショートカットにしていた。

「!?………みなさん?いらっしゃったのですか?」

 ジュリが「イースさん」と言いながら憧れの仕事についている先輩の大胆な変わりように驚きを隠せずにおり、レクターは彼女の大胆なスカートを下から眺め、俺は驚きで一旦動きがストップする。

「何?あんた達この人と知り合いなの?この……破廉恥な人と」

 その言葉を皮切りに彼女は顔を真っ赤に変えていきそのまま走っていこうとする。

「今すぐ着替えてします!!ふぐぅ!?」

 そして、こける。

 俺はどう声を掛けたらいいのか分からず足元で倒れているイースさんの名を呟く。

「似合っていますよ」

「お世辞ありがとうございます」

 お世辞だというのは気が付いたらしい。


どうだったでしょうか?新しい登場人物が出てきたと思いますが、この短編のヒロインになります。では次回!

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