表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
48/156

湖畔の街 デーリー 7

遅くなりましたが更新しました!

湖畔の街の戦いが始まります。ガイノスエンパイア編より戦いは短めですので。

 おかしい。声が聞えなくなってしまった。つい先ほどまで聞こえていたはずの声がピタリと途絶えてしまった。

「すごい霧だね。前も後ろも右も左も霧!アハハ」

 何がおかしいのか分からないので俺は腕を組みながら考え込んでいる間、レクターは霧の中を散策している。危なっかしいことこの上ないが、ジュリがうまくコントロールしているので俺はもう一度意識を集中してみることにした。しかし、何度集中しても聞こえることは無い。

 するといい加減耐えられなかったイースさんが大きな声を周囲に発する。

「だから行ったんですよ!こんな所まで来なくても良かったって!なのに!どうしてきたんですか?」

「だって助けてって声が聞えたし……」

「幻聴ですよ!幻です」

「でも誰かが発した救援かもしれないでしょ?それに……俺達は「助けて」て声を無視できない」

 俺は周囲を見回して同じような霧を前ににらめっこを続けている。イースさんは唖然とした表情をしているが黙ってしまったので俺は無視をすることにした。

 すると、俺は大きな空気が破裂するような音が確かに聞こえ、同時にレクターも同じ方向を見る。

「戦闘の音です。引き返しましょう!」

「どこに?」

 レクターの本気の疑問を前に黙るイースさん。これは俺もジュリも同じことを考えていた。

 ここから来た道を戻る事の方が現実的ではない。

 なら音の下方向に進むべきだ。

 迷いなく進む俺達を前にイースさんは臆病ながらも同じように進みだす。

 歩いてそんなに時間が経たないうちに音はどんどん大きくなっていき、俺達の視界に晴れた霧と大きな緑色の竜が義父さん達相手に大暴れしている姿があった。

 その緑色の竜は鉄のような首輪と鎖が奴隷のように見せた。

 俺以外の三人が息を呑むのが見て取れ、俺は疑問顔を作りながら周囲を見回す。すると、イースさんがありえない様な気持ちを吐き出す声を漏らす。

「そんな………風竜様を呪言の鎖で操るなんて」

 細い体を傷つけないように義父さんとデリアの二人で戦っているが、義父さん達が後ろにいる傷ついた人を守る為に疲れているなら分かるが、どうして風竜の方があんなにも疲れているのだろうか?

 疲れ果て、身体はやせ細っているようにも見える。

「元々やせ細っているけど、あれは本来以上に細いと思う。多分元々食べ物を求めてこの地に来て直ぐに捕まったんだと思う」

 ジュリは悲しみを宿し、レクターは闘志を燃やしている。

「イースさん。あの竜を鎮める手段は無いんですか?」

「む、無理ですよ!相手は竜なんですよ?それに風竜は人間嫌いで有名なんです。そんなに………」

「あるんですか?ないんですか?」

「………杭を引き抜けば多分落ち着くと思います」

 よく見ると額に杭が叩き込まれるように刺さっている。見るだけでも痛そうに見える。

「レクター隙を作れそうか?」

 俺の言葉に息を呑むイースさんは小さな声で「ありえません」と呟く、するとレクターは俺の期待に武装を見せることで証明する。両腕に魔導機一体型のナックルを見せつける。

「侮るなかれ!俺はいつ時でも武装は用意している!!」

「お金は?」

「用意していない!」

「ならさっきの市場の代金払えよ?」

「了解!!任せておけ!」

「ジュリは魔導機を使って援護してくれるか?視界を塞いでくれるだけでいいから」

「うん。それは出来るけど。動きまでは止められないよ」

「一回で出来なかったら諦めるよ」

 俺は武器を持ってきていない。戦う事は出来ない。でも引き抜くぐらいはできるはずだ。

 俺達が構えていると俺の服の裾を確かに掴む力に気が付いて俺は振り返る。

 そこにはイースさんが心配そうな表情を作りながらも駄目だと目で否定している。

「無謀ですよ!それに竜は私達とは違って上位の存在なんですよ?大丈夫です。きっとあれは芝居……ですよ」

 きっとそのですよは「だったらいいな」ぐらいの気持ちだろう。

 俺はその言葉を鵜呑みには出来ない。したくない。

「かもしれない。でも………だからと言って止めないなんて俺には出来ない」

「どうしてですか!?怖くないんですか!?おかしいじゃないですか!!どうしてあんな存在に立ち向かえるんですか?」

「どうしてって……」

 彼女の瞳は上位の存在への畏怖と敬意が見えてくる。しかし、俺にはあの風竜がそれだけの存在だとは思えない。

 だって息を吸い、食べ物を食べ、飲み物を飲み、思考して、行動する存在を人間は生き物と言うはずだ。

 そんな生き物が苦しみながら命令通り戦っている。もし、それが本人の真意に沿わない状況だとしたら俺は助けたいと思うのは俺がおかしいからだろうか?

 たとえそうだとしても俺はおかしくていい。

 誰かを助けるのに躊躇するぐらいなら、俺は誰かを助けることに躊躇しないおかしい人間になりたい。

「俺は確かに聞いたんだ。「助けてくれ」って声が。もしその声があの竜なら俺は助けたい」

「竜がそんなことをいうわけありませんよ」

「分からないじゃないですか。それも「助けて」と言っているのに、助けないでいる方がおかしいと俺は思う。誰だって苦しい時に助けてっていうのは普通じゃないの?俺は普通だと思う。だから………俺は助ける」

 そう言って俺はイースさんを置き去りにして次の隠れる場所へと向かって三人で走っていった。


 イースは幼い頃より優れた知能を持っていた。その才能は蓄えることでさらに成長していく。それ故に彼女は環境保全の道を選んだのも自分の才能を生かせる道を選んだに過ぎない。そういう意味ではデリア以上にある意味浅はかな動機だと自らを律したぐらいである。

 デリアが環境保全を目指した理由。

 それは幼い頃に山火事に遭遇し、その中で動物たちが苦しみながら逃げ延び、その原因を人間の浅はかな行動が原因だった。動物たちを狩る者、その所為で環境がおかしくなっていくのが見て分かったデリアは目指した。環境保安官という激務につく。

 そんな傍ら、その村や土地にいる女性にかったぱしからナンパし、ある意味処女をもらっている彼女の姿をいつだって頭を悩ませているのもイースだった。

 イースも又デリアの被害者であるのだが、同時に彼女を制止できる存在でもある。

 しかし、彼女と共にある中でそれでも不純でも、デリアにはそれ以上にこの仕事についた理由がある。

 イースにはそれがない。

 自分の才能を生かせる仕事なら何でもよかった。

 逆を言えば、この仕事でなくてもよかった。

 そう思うたびに彼女は自分がどうしてこの仕事をしているのかどうかと悩んでしまう。

 才能という長所。しかし、彼女は同時に臆病な自分の性格が嫌いだった。それは彼女からすれば短所にしかならなかった。

 竜が目の前にいるという時点で恐怖だったし、同時に逃げ出したいという感情が彼女の素直な気持ちでもある。

 臆病な自分、才能を生かしたいと考えている自分。

 それを比較するたびに自分を卑屈に見せてしまう。

 自分は動けないのに目の前にいる子供達は竜を助ける為に勇気ある一歩を前に踏み出した。

 それを見た瞬間、彼女は再び自分の弱さと短所を見せつけられるような気持になってしまう。


どうでしたか?二時間後に後編をアップします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ