湖畔の街 デーリー 3
少しづつ進んでいるんです。本当です。
湖畔の町の中央駅のホームに降り、そのまま歩いて階段を昇りながら俺は片手に旅行鞄を持ちながら窓からちらっと見えている景色に興味をそそられていた。
楽しさからか俺は多少浮かれた気持ちになりながら駅の出入り口目指して歩き出す。
この街はどうやら石造りとカラフルな屋根をしているようで、俺は視界にチラチラと見えてくる。
俺が階段を下りて後は真直ぐ外への道を進んでいると人が多くぶつかりそうになる。すると店が建ち並ぶ細道の方から一人の精悍な男性が出てきて俺とぶつかりそうになる。
俺はすんでの所で回避するが、荷物をぶつけないように後ろに振り回すとそのまま遠心力で俺は後ろに引っ張られてしまった。
尻餅をつき鞄を少しだけ投げてしまう。
「すみません。こちらの確認不足です」
そんな綺麗な声が耳に届くと同時に俺はカバンを持ちながら視線を上へと向ける。
そこには精悍な男性が立ち尽くしており、見るからに誠実そうな男性。髪はオールバックの金髪。中肉中背でスーツ姿がよく似合うどこにでもいるような気の良い男性と言った感じだった。
「いえ。こちらも……」
なんて言っている間にアベルさんが歩いて駅から出ていく瞬間だった。俺も追いかけなければっと思いながらも駆け出していく。
「すいません。遅れてしまうんで」
「いいえ。こちらこそ………」
その言葉を言い終える前に俺は駅から出ていった。
何故か分からないが、俺はあの男が………怖かった。
駅を出ると目の前に広がる街並みを前に俺は感想を言う前にため息しか吐けなかった。
石造りの街とは聞いていたが、統一性のある壁や地面と違い屋根は色鮮やかな色彩で分けられており、駅を中心に円状に道が広がっている。その姿はヨーロッパの街並みを彷彿とさせ、同時に田舎町のような安心感を与えてくれる。
帝都を進化と伝統の複合だとするなら、こちらは伝統を愚直に守り続けてきた街並みなように思える。
田舎町とは聞いたいたのだが………この街のどこが田舎街なのだろう。
そりゃ帝国にとっては辺境に位置する場所なのだろうが、辺境でこの規模で田舎街なのだとしたら日本の街の殆どが田舎町になると思う。
人工だってざっと百万超えるだろう。そこに観光客を含めればさらに増えることになるだろう。
俺はカバンを持つ手を強く握りしめ後ろに立つ。
「古城が見たい!聖女の噴水が見たい!観光が見たい!」
「観光はしたいだろう?表現おかしくないか?」
「観光見たい!!」
訂正してくれないレクター。苦笑いを続けるジュリ。地図とにらめっこと続けるアベルさんという複雑な構図が完成していた。
俺は周囲を見回しながらアベルさんが別荘までの道のりを確認している間に何かおいしそうな食べ物が無いかどうかでふと悩んでしまっていた。
レクターはさっきからアベルさんの地図を一緒に覗き込みながら「ここ行きたい」の連発、ジュリがこちらをチラチラと見ながら頬を赤らめている。
俺はとりあえず目の合ったピンク色の肉まんににた『何か』に手を伸ばす。
「これ一つ」
「ジェラル一つでいいんだね?」
ジェラルなる食べ物を選び取り、中華まんに入れるような袋に包まれた食べ物を前に100コルを支払う。
ピンク色の生地を半分に割ると中から生地と同じピンク色のクリームが溢れ出てくる。
甘そうだな。
予想以上の甘みを感じる。
まだ口に付けていなくても甘いクリームとピーチを混ぜたような匂いが漂ってくる。俺はあえて口に付けないまま半分をジュリに手渡す。
「あげる。甘そうだし」
「え?でも……空君が買ってきた物を勝手にもらうのは……」
「俺がもらって欲しいから差し出しているんだけど」
そんなに嫌なら別にと思って俺はジェラルを手元に戻すと一瞬だけだがジュリが寂しそうな表情をする。
なんだ。いるんじゃないか。
「はい。どうぞ」
「あ、ありがとう」
そう言いながらジュリはジェラルを受け取ると一緒に口に含める。
口の中に広がるピーチとクリームの味が肉まんのような食感が襲ってくる。
なんてことをしている間にレクターとアベルさんがどの道を進むのかを悩み始め、やめればいいのにジュリが爆弾を投下した。
「ねえ。この真ん中の道をまっすぐ進めば古城が見える広場に出るんじゃなかったけ?そこから右に分かれれば聖女の噴水も見えるし、そのまま別荘まで行けるんじゃない」
「「……………」」
「あれ?私何かおかしいことを言った?」
「もっと早くに行ってあげればこんな空気にならなかったんじゃないか?」
人間関係がこじれそうです。
古城の見える港前広場に辿り着くと目の前に湖と反対側にそびえたつ古城が水面に写っているようにも見える。
空は快晴。雲一つない景色を前に俺は二度目の圧倒を受けてしまう。
なんというかそれこそ海外に来たような気持にさせられてしまった。
古ぼけたような石の壁で作られた城壁には年代を彷彿とさせるコケがあちらこちらに生えている。
港の桟橋には多くのクルーザーやフェリーなどの客船などに分類されるような船から、漁船などが揃っている。
「この街は果実と観光客で収入を得ているんだけど、この湖は海と繋がっているせいか海水で、住んでいる魚も海で過ごしているような魚が取れる貴重な場所なの。実際環境保全関係の人が多くこの場所に来ることが多いの」
「へぇ~という事は環境保全関係の道を目指しているジュリとしてはここは興味のある場所なのか?」
俺からの問いに対しジュリは指先をもじもじさせながら照れながら答える。
「そうだけど………この辺の環境は私には難しいから」
そうなのか。そういうものか。
難しさなんて今までさほど考えたことは無かったし、何をしても楽しいなんてあまり思えない毎日だったからな。
剣道をしていても何のために剣を振るっているのか、試合をしていても、テストを受けていても何も楽しくない。
勿論母さんや奈美は大事だし、後輩の海とは良きライバルのような関係だった。万理とも剣道仲間で良き幼馴染でもあったにも関わらず俺は何一つ満たされない毎日。
やりたいことがあるだけマシだと思う。俺なんてやりたいことが見えてこない。
レクターが目の前で興奮気味に広場中を走り回り、アベルさんは周囲の人に別荘までの道のりを聞いて回っている。
おかしいな。先ほどこの道を曲がればいいとジュリが言っていたはずだが?
あの人は馬鹿なのだろうか?
「そんなこと言っちゃ駄目よ。あの人だってあなたのお父さんになろうと努力しているだけだと思う。きっと空回りしているのよ。あの人………家族いないもの」
その言葉を何度周囲から聞かされたか。
サクトとかいう人がアベルさんの家に行く前にも言われた。その後にあった地獄を前にしたら全て吹っ飛んだけど。
天涯孤独。愛していた人も、生まれるはずだった子供も、両親も全部失った。
それについて俺に何かが出来るとは思えない。
「………義父さんか」
俺を養うと言ってくれた人が、不器用なりに俺と向き合おうとしている。それを断る事なんて俺にはできない。
そう思うと俺は義父さんの隣に立ちながら真直ぐ指を指す。
「こっちじゃない。ジュリも言ってただろ?」
「……フム。こっちなのか」
俺は義父さんから地図を奪い取るとそのまま行くべき道へと歩いていく。
「ほら行くよ…………義父さん」
ジュリと話をしながら進むと義父さんは少しだけ笑いながら付いてきてくれた。
この時、レクターを置いていった事に気が付いたのは歩き出して三十分ほどが経過した時だった。
どうでしたか?次の章までの流れはおおよそ決めています。私はこの作品を異世界モノにするべきかどうかで悩みました。その原因がこの次の章、『ドラゴンズ・ブリゲード』の次が実は日本を舞台にしてるからです。しかし、その辺は難しいので気にしないことにしました!では次!




