湖畔の街 デーリー 2
今回の短編は風竜をテーマにしていて、次はとりあえず機竜で最後に土竜の流れになると思っていてください。多分この流れで大体三つほど短編を描きます。
技術都市と言うだけあって見渡す限りビルだらけ。帝都や東京の中心だってビルばかりのようなイメージがあるが、その比ではないぐらいビルしかないようなイメージ。
比喩するなら鉄の街。
自然の物を見つけ出さないほうが難しいような外見をしており、列車から見ていても息苦しくなるような外観をしている。
田舎暮らしが続いている身としては帝都だけでも情報量の多さに目を回したものだが、この街は一周回って暮らしたくない。
降りる気も起きないが、目算で大体ビルの十階ほどに作られた駅のホームでは多くの人が列車の中に入ってくるのが見て取れ、どんどん席が埋まっていくのがレクターにとっては不快であるらしく、特に賑やかに入ってきたギャル風集団には睨みすら向けるような状態になっている。
今時いるんだなあんな風にギャルを気取る痛い人。
俺は無視しながら出発する列車の窓を眺める。
ようやくこの息苦しいような街並みから解放されると思うと正直すっきりする。距離が開いているギャル風の若者さえいなければだが。
俺とレクターが席を立ったのはその数分後の事だった。
「俺ああいう人嫌い」
こいつがここまで言うなんて珍しいと言えるだろう。
好き嫌いはあれどそれをはっきり明言するなんて中々ある事ではない。実際、レクターはモテないだけで、嫌う人間なんていないらしい。
実際異世界人である俺が他人と距離を置いていた際、士官学校で編入生という立場故に浮きかけていた俺に対等な立場で接してくれたのはこいつとジュリぐらいだ。
『だって人間でしょ?』
そんな当たり前の言葉に俺は簡単に救われてしまった。
そんなレクターがはっきりと他人に向かって嫌いというなんて珍しい。
俺は自販機のある車両までやってくると自販機の中に帝国硬貨『コル』を入れてボタンを押す手を空で迷わせる。
このエルピーマインなる飲み物はなんだろう?色が紫なのは悪意を感じるのだが?
かといって無難そうな紅茶辺りを選んでしまおうか、それともチャレンジ精神を発揮するべきかと悩んでしまう。
「ギャルなんてあんな感じだろ?一々文句を言っていたらきりがないぞ」
「そうかもしれないけどさ………」
まあ怒るのも無理はない。
実際酷い者だった。二人で乗って来たくせに二人で四人乗りの座席を占領、お婆さんが隣に座ろうとすれば足をのせて妨害、挙句の果てに「臭いんだよこのババア!」とののしる始末。しかも、それ以降も大きな声で話をしていて煩く、注意する乗客にジュースなどをぶちまける始末。
こう見るとギャルと言うより不良の一種だろう。
俺は結局の所でチャレンジ精神に負けてしまった。
俺の手元にエルピーマインと呼ばれている飲み物が握られている。
さてどんな味がするのだろう。そうおもい缶を開けて一口飲み込む為に口の中に紫の液体を流し込む。口の中に広がるイチゴとピーチを足したような味に以外に粘り気のような感覚を感じ、飲み込むと同時に体の奥から温かくなっていくのが分かる。
生姜でも入れてあるのだろうか?旨いか不味いかでいえば旨いのだが、なんというか……この色の問題なのだろうが違法の飲み物を飲んでいるような背徳感に襲われる。
「仕返ししたい!」
「止めとけって。こっちから仕掛けたらある意味負けだぞ」
ああいうのはほっとくのが正解なのだ。無意味に顔を突っ込むと余計な問題を引きずる結果になるだろう。
「あっちから手を挙げたら、こっちも返してやればいいのさ。それまで何もしないのが正解だ」
「むう………そう言うのなら」
「まあ、そもそもアベルさんが何か手を出しそうな気はするけど」
あの人ずっと向こうの方を気に掛けていたし。
そして、その予想は当たることになる。二人でジュースを買って帰ると俺達の座席の近くでギャル風の女子二人が廊下に正座させられ、その反対でアベルさんが直立で上から睨みつけながら説教している。
「大体君達ぐらいの人間なら迷惑の一つや二つ分からないのか?ジュースを相手にぶちまける。お婆さんを怒鳴りつけ、周囲の人に遠慮を全くしない……」
何があったらああいう事態になったのだろう。
ギャル風の女子二名は涙目になりながら己の行いを悔いているようだ。
まあ、正規軍の中将クラスに怒られたらああなるだろう。
それどころかそれに便乗して周囲の乗客も説教する状況。なんなんだ?この状況。
「俺……すっきりしたよ」
「そうか……それはよかった」
エルピーマインをもう一口飲み込み病みつきになりそうな味を楽しみながらレクターの冷静になった声を聴いた俺の渾身の答えだった。
二人のギャル風の女子高生は列車から降りる中涙目で表情を曇らせる。というより怒りで表情を歪ませていると言ったほうが正しいのだろう。
「何なのよ!あのおっさん」
自業自得なのだがこういう若者は自らの行動を棚上げするものだ。実際彼女達は棚上げし、怒って来たアベル対し怒りをぶちまけていた。
そんな彼女の後ろからついて回る存在に彼女たち自身は歩いて五分で気が付いてしまった。
「あの物陰のジジイ……」
「うん。さっきからついてきてねぇ?」
二人はアイコンタクトですぐさま行動に移した。物陰に一人が移動しもう一人はあえて離れていく。ついて回っていた古ぼけたような容姿のお爺さんは物陰に入っていった方について行く。
物陰に入った瞬間にその女子高生が挟み撃ちの態勢で迎え撃つ。
「何なわけジジイ。あたしら正直今機嫌悪いんだけど」
「てかマジ気持ち悪」
そう言いながら二人はどうしてやるかで悩むようなそぶりを見せるが、お爺さんは内側のポケットから小さな小瓶を取り出した。
小瓶の蓋を開けると周囲をピンク色の気持ち悪いスモッグが満ち溢れる。
「な、何……!?これ」
「何なの!?気持ち悪……?」
瞳がトロンっとまるで溶けたように二人の女子高生の意識が別の『何か』によって奪われていった。
「こんな形でいい被検体が手に入ると思わなかったな。いい呪術の実験が出来そうだ。せっかく竜のDNAが手に入ったことだし、この二人で実験をしてみよう」
お爺さんは古ぼけたような衣装を脱ぎ去り、同時にどこにでもいるような清楚な男性が茶色のスーツを着た普通の男性が現れた。
意識が無くなりその場に倒れてしまった二人の女子高生を見下しながらも、清楚な男性は高笑いを押さえられなかった。
どうでしたか?面白かったと言っていただけたら幸いです。多少ネタバレになるかもしれませんが、最後に登場した男は重要なキャラクターです。




