湖畔の街 デーリー 1
新章突入です。時期はガイノスエンパイア編の前、三年間の物語を短編で描きます。
俺が竜と初めて出会ったのは聖竜………が初めてではなく、実際に初めて出会ったのは風竜『エアロ―ド』だった……はずだ。はずというのも俺の世界には竜なんていう存在は空想上の存在で、もしあの世界にいるのだとしたら学会で金賞なりなんなりが受賞してしまえるだろう。まあ、いたら………だが。
まあいてもらったら俺は困るけどね。
今更向こうで「ドラゴン出たよ」なんて言われたらおれは「ふーん……で?」と答えることが出来る自信がある。
脱線してしまったが向こうにもドラゴンとは言わないまでもそう比喩される存在が居る。そう思うと俺はあれがドラゴンを初めて見たと言ってもいいものかどうかとふと悩んでしまうためだ。
風竜『エアロード』との出会い自体が大概だったが、聖竜以外の他二名のドラゴン(竜に『名』という数え方というのもいかがなものか)との出会いが強烈でもあった。
今回は風竜との出会いを語ろうと思う。
これは俺があの悲劇と呼んでもいいクーデターへ向かう向かうまでの物語だという事を最初に語り、その上でダラダラと言い訳を語ろうと思う。
そもそも他二名の竜はともかくとして、風竜との出会いなんてそれこと偶然だったことはハッキリ言える。
デーリー郊外の樹海で俺が散歩途中で鎖で捕まった居る所を発見してしまった。
いや、あの場所にあんな超常的な存在が居ると知ったら俺は近づくこともしなかっただろう。
見るだけで面倒ごとだとはっきり分かるのだから、それ以上にもう………トラブルと苦労をミルフィーユのように重ねて出されている料理のように見えた。
他の二名についてはある程度苦労は生じたが、それでも出会い自体はある程度普通だったと言えるだろう。
聖竜にした所で単純に挨拶した後、『竜の欠片』(当時は『竜の焔』をだと勘違いしていたが)を継承したぐらいだった。
そう思うとある程度トラブルに慣れてしまったのはエアロードの所為だと言える。
まあ、あの後エリーに「どうやれば風竜と仲良くなれるのよ」と不満げに語れらてしまったものだ。
本当にあの後で知ったことだが、風竜は人間嫌いで有名で、人間を含めて基本生き物と仲良くなることは無い。その嫌いぶりは徹底されており、人里に降りてくるどころか、生き物が寄り付かないような場所ばかりを好むらしく、代々の風竜はそうやって生きてきた。
いくら竜と言えど生き物である。息をしなければ生きていけないし、水や食べ物だって必要にはなる。その都度森や生き物の多い場所に現れることはあるらしい。
最もその習性のようなものを利用された。
まずは俺がデーリーに向かう列車の中から語るべきだろう。
この世界では飛行機なる存在は無い。しかし、飛空艇と呼ばれる乗り物が存在し、ジュリやアベルさんから会話を聞く限りでは飛行機とは大差ないと思っていたが、詳しく調べた限りでは飛行機より早いらしい。
これから向かうデーリーは帝都の西南の端に存在するらしく、周囲が樹海が広がっており、その樹海も魔導協会とかいう組織によって禁止区画が多く、開発がままならない状態らしい。
飛空艇を停泊するには大きなスペースが必要だ。しかし、それが周囲は開発禁止の樹海である。唯一作ることが出来たのは列車の線路ぐらいだった。
それだけなら辺境都市ぐらいのイメージなのだが、この街は湖畔に面しているだけでなく、その湖畔に皇族一族が代々別荘として使っている城が存在する。
石でできたような造りのデザインとカラフルな屋根が特徴の街と、似たようなデザインの城とのコントラクトが見事らしい。
そう言った意味でデーリーは観光客が多く、年間の観光客は億を超えるらしい。
それだけでなくデーリーは別荘地としても有名で、今回の俺達の旅の理由は俺の父親代わりになったアベルさんが出来たばかりの友人を招いて五月下旬の長期休暇(向こうでいうところのゴールデンウイークみたいなもの)で別荘に行こうという話になったからだ。
この世界に来てまだ一か月も経過しない状態、正直に言えばまだ精神的にも落ち着かない状態が続いているが、根詰めすぎるのもあまりよくないだろうという事だった。
窓から見える風景も俺が見た事の無い景色ばかり、先ほどまで続く荒野のような枯れ果てた風景が続いているが、本当にこの後に樹海が広がるのだろうか?
もっとも列車で行かなくても一個前の技術都市までなら飛空艇で行けるはずなのに、わざわざ列車で帝都から旅行に行く俺達はきっと物好きなのだろう。
まあ理由を聞こうとも思わなかったが、なんでも技術都市まえの景色は絶景らしく、色とりどりの木々が広がる山々は技術都市から降りたのでは見えないらしい。
そんな景色を楽しみにしていないのか?と問われれば違うと答えるしかない。
そもそもそんな風景が見たいと言い出した張本人は俺の真正面でお菓子を頬張っている。
「おい。お前見る気あるのか?レクター」
俺からの問いにレクターはお菓子を頬張りながら黙って頷く。
能天気とイケメンを足して二で割ったような顔立ちを呆けさせており、口一杯に
ため込んだお菓子がより不細工に見せている。
俺が疑いの視線を向けているにもかかわらず、それでもお菓子を頬張るこいつは大物なのかそれとも単純に馬鹿なのか。
俺の読みでは馬鹿だと読んでいる。
「ジュリからも何か言ってやれよ」
俺の左隣に座るジュリに話しかけた。ジュリは薄茶色の髪を後ろにまとめており、白い頬がかすかにだが赤く染められている。
何故だろう?
手を膝の上に置きもじもじさせている。そのうえでジュリは俺と視線が合いそうになり、視線がそれてしまう。
嫌われてる?
「わ、私は賑やかなのもいいと思うけど」
ジュリがそう言って納得してしまうと俺としてはこれ以上の反論の余地など中々思いつかない。と思っていたが、反対側の座席に座るアベルさんが眠そうな視線をこちらに向けてくる。
「お前達。少しぐらい静かにしたらどうだ?もう一時間すれば乗客も増えるぞ。隣の車両はまで響いたらどうするんだ?」
真っ当な説教にさすがのレクターも反論するつもりは失せてしまったらしく、静かにお菓子を食べるだけだ。
しかし、先ほどからちょくちょくジュリからの視線を感じるのだが、やはり異世界人と言うのは好奇な者なのだろう?
しかし、ジュリの気合の入りぶりは中々だと思う。
白と薄っすらと刺繍が入っている花のワンピースの上に薄ピンクのガーディガンの組み合わせに靴は城のハンプス。化粧こそそこまでしていないが、それでも顔立ちが整っているだけに正直見る場所が困るような状態だ。
対照的にレクターはなんというかザ・シンプルを貫くぐらい単純な組み合わせ。
柄の入ったTシャツに上に狩猟で使われる薄緑色のサファリジャケットを羽織り、下はカーキー色のチノ・パンツに似た何か。まあ、どうでもいいけど適当に来てるな。
という俺も簡単なグレーのパーカーの上にジーンズの組み合わせである。
ちなみにアベルさんは俺とほとんど同じ服装をしており、違うのは色合いだけである。
そんな話をしていると窓の奥に色鮮やかな景色が映されていた。
木々の葉が赤だけでなく、青や黄色などの色々な色合いをしており、それが真ん中に流れる渓流と合わさって絶景を作り出していた。
さすがの俺でもその景色を見るとここに来てからの辛いことが吹っ飛んでいくように思える。
しかし、先ほどまで荒れ果てた荒野が広がっていたとは思えないほどの絶景が広がっている。
そんな景色が一時間ほど経過するといよいよこの電車は技術都市へと到着しようとしていた。
短編という事で途中から勢いが一気に上がりますがよろしくお願いします。




