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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
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ありがとう 2

ガイノスエンパイア編最終話です!

 これでよかったのかそう悩む日が無いのか?と言われてしまうと無い日を見つける方が難しいと答えるしかない。

 しかし、それでも一度歩くと決めた以上今更立ち止まることはしない。

 立ち止まれない。

 誓った未来がある。

 ジュリの方を見るとジュリは優しい微笑みを木の方へと向ける横顔を見ながら俺は空を見上げる。

 するとジュリが握る力を微かに増し、俺はゆっくりとジュリの方を見るとジュリは顔を真っ赤にしながら言いにくそうに口をモゴモゴと動かしている。

 もう一度顔を覗き込むとジュリは小声でつぶやく。

「今日ね………両親帰ってこないの……それで今日は泊ってもいいかなって」

「うん。いいよ」

 俺はジュリを抱きしめながら夜道を帰っていった。


 瞼をゆっくり上へと上げると視界が多少ぼやけているように見えるが、第二中学の廊下である事だけはよく分かる。

 どこか古ぼけた廊下に俺は士官学校の制服を着ているのだからアンバランスとしか言えない。

 懐かしい者達が廊下をこちら側へと歩いているのが見えてきた。

 第二中学の制服を着た俺がどこか面白くなさそうにしながら堆虎や隆介と一緒に教科書などを持ちながら歩いてくる。

 堆虎や隆介から話しかけられてもどこか上の空のような態度で返すだけで、俺はなんな面白くなさそうな表情をしていたのか?

 三人で教室に入っていく姿を追いかけながら俺も教室へと入っていこうとするが直前でふと視線を上へと向ける。

『二年一組』

 ありえなかった未来。

 これは俺の罪悪感が見せている幻なのだろう。

 その証拠に後ろからポニーテールをピコピコ振りながら教室に入ってくる妹の『袴着奈美』が同級生で同じ剣道道場に通う幼馴染である『敷波海』を引き連れて現れてる。

 海は短く切り揃えられた黒髪とクールさが目立つ整った顔立ちで俺の方をどこか複雑そうにしてみているだけだ。恐らく無理矢理妹に連れてこられたのだろう。

 その後ろから長い髪を端の方で束ね、まるで花束を連想させるような結び方をしている綺麗な女性が部屋に入っていく。俺の同級生で幼馴染、同じ剣道道場に通っていたはずの『飯島万里』本人である。

 俺を中心にしてどこか楽しそうにしている周囲のメンバーに対し、俺はそれでもどこか面白くなさそうに視線はグラウンドの方を見ながら黙っている。

 恵まれているだろうに。それを幸せだと当時はまるで思えず、あのまま生きても俺はきっと父さんの足跡を探し、どのみち皇光歴の世界へと足を踏み込んだはずだ。

 それでなくても事件現場には足を踏み込んだ可能性が高い。

 あの頃の俺はこの日常に違和感しか感じなかった。ズレたような感覚と、何かが足りないような物足りなさに悩んでいた。

 しかし、それは俺が皇光歴の世界にやってきて変わった。

 皆と出会い、絆を深めていく中で俺は物足りなさを埋め合わさ、ズレたような感覚はなりを潜めていった。

 結局の所で俺はどうしてそんな感覚があったのかすらよく分からない。

 俺は皇光歴の世界を選んで正しかったのか未だによく分からないというのが本心だ。

 でも、俺は選んだんだ。

 袴着空はここでお別れなのだろう。

 教室に入らずに振り返るとレクターとジュリが走り去っていく瞬間を目撃してしまった。ジュリとレクターが俺の方へと手を伸ばし、俺はその手をがっちりとつかむ。

 一瞬だけ後ろを振り返るとそこに俺はいる。

 後悔と言う俺がそこにいる。

 それは過去に置いていこう。

 そう思い俺は夢から覚めていった。


 翌日。

 翌朝に俺はレクターが寝ている俺にイタズラをしようとしている雰囲気を感じ取り、覚醒した俺の視界にそれは現れた。

 黙っていればイケメンに見なくもない残念系イケメンのレクター、ニヤニヤしながら目を開き、両手いっぱいに様々な色の油性ペンを抱える姿。

 俺は怒りのまま両足を使ってレクターを天井目掛けて蹴り上げる。

 カエルの鳴き声のような声で転がり込むレクターに怒りの表情を浮かべる。

「貴様!家に入るのはジュリが居るから仕方ないとはいえ、俺の部屋のカギをどうやって開けた!?」

「キッピングで!」

 親指を立てながらいい笑顔で返すレクター。

 こいつを惨殺するべきではないのかという考えが脳裏をよぎり、それを直感で感じ取ったのは脱兎のごく逃げ出していく。

「待て!絶対に逃がさない!!」

 緑星剣を右手に握りしめて廊下に飛び出て、直ぐに左に曲がる。すぐに二階のロビーに辿り着き、レクターは手すりに足を掛け飛び出す。

 俺も同じように続きながら飛び出し、俺は食堂に入ろうとするレクターの腰辺りを強めに掴む。しかし、そこでお互いの足がもつれあってしまい転がり込むように食堂のドアを開く。

 俺達の視界にエプロン姿のジュリがお玉を握りしめながら驚きの表情と視線をこちらに送る。

 制服の上から白いエプロンを着込んでおり、士官学校指定のスカートを指定通りに着込む真面目さが垣間見れるが、同時にこう………何というのだろうか。そう口に言いにくさをはらんでいると、レクターが躊躇なくその言葉を口に出そうとする。

「まるで人づ……!?」

 俺はレクターの頭を強めに掴みながら床にたたきつける。

 ほぼ同時に父さんが寝ぼけながら部屋に入ってきた。


 北の近郊都市『イールン』と呼ばれるらしく、俺は今日父さんから初めて連れられたその場所の入り口の看板跡を見ながら知ることになった。

 俺はバイクに乗りながらジュリを載せ、父さんはレクターをレンタカーに乗せながら集団墓地へと入っていった。

 墓地入り口には既に多くの車が止められており、ガーランド家の車を見ると180度回転して帰りたくなる衝動をグッと抑え、バイクをなるべく遠くに、そして集団墓地に近くなるように止める。

 俺達が墓地の入り口から入っていくと一番上に多くの人が集まっている。俺達学生組は全員制服姿だが、それ以外の大人達はみんな真っ黒の喪服姿である。それもそうだ。今日は三十九人の葬儀の日である。

 全くの無関係であるはずの多くの人が集まって来たのは、少なくとも多くの人達が彼らの犠牲を申し訳なく思っている証拠なのだろう。同時に、その真実をある程度伏せる事への謝罪の気持ちが込められているのだろう。

 特にひっそりとやるなんて話を聞かなかったので、まあ集まるだろうとは思ったが、車の数以上に人が多いことに驚きがある。

 俺達が現場に集まった時はほとんどの人が来ていたようで、父さんはガーランドとサクトさんの所に移動して行く姿を視線だけで見送ると、そのままレイとエリーを発見して近づいていく。

 雑談でもしながら俺は堆虎の墓前に辿り着き、ジッと墓を見下ろす。

 俺が持っていた三十九人分の名前が書いてあったのは生徒手帳ぐらいであった。しかし、それでも彼らの名前は全てわかったのだから良しとするべきだ。

 そして、奥から魔導大国『ガランジュール』出身の特使が代表で葬儀の進行役を行いながらゆっくりと進んで行く。三時間ほどかかってようやく一通りの内容を消化した。

 大人たちはガイノス帝国伝統の葬儀の際に飲み食いする食事の席に移動しており、同じように出席していた皇帝陛下と最高議長は仕事が忙しいのかその場を去っていった。

 最後に二人は三十九人の墓の前で祈りを捧げてから帰っていった。

 それとすれ違うタイミングを計って俺は一人で墓の前に立った。

「こんな事しかしてやれなくてごめんな。絶対向こうの世界に帰す。約束するよ」

 こんな事しかできない。

 持ってきた鞄の中から手作りのおにぎりを紙皿の上に置き供える。俺が用意できる日本らしさである。

 瞼を閉じ、祈るように黙っていると後ろから歩いてくる人影を感じ取り振り返るとジュリがいつもの優しそうに微笑みながら近づいてくる。

「何もしてやれない自分が歯がゆい」

「ソラ君の所為じゃないよ。私達みんなが気づけなかった」

「そうなのかもしれない。でも、俺は………自分が許せない時がある」

 責めたくなる時がどうしてもある。俺がズレと物足りなさを解消することと同時に手に入れてしまった感情。それは一生かけて背負っていくものなのだろう。

「でも………今はそれでいいと思っているんだ。なんていうのかな……」

 なんといえばいいのだろう。

「それも……良いかなって思うんだ。なんていうか……彼らを忘れないでいられるだろ?なら……背負ってみるのも悪くないかなって」

「ソラ君がそれでいいなら」

 それでいい。

 そう思い俺はジュリの方に左手を伸ばす。

 ジュリはそんな俺の左手を握りしめ、一緒に歩き出す。少しだけ後ろを振り返ると墓の前に三十九人ともう一人の俺『袴着空』が立っていたように見えた。

 しかし、幻だったようで風が吹き、瞼を一瞬だけ閉じるとその姿は消えた。

 皆が俺に向かって微笑んでいたように思え、俺は伝えられなかった言葉を贈る。

「ありがとう。もう……大丈夫だ」

 これからは前を向いて歩けそうだ。

 風が草木の葉を運び、視界に広がる帝都の街並みが良く見えた。

 ここが俺の故郷になった場所だ。

 ガイノス帝国。

 今日も涼しい風が吹き込んできていた。


どうでしたか?長かったガイノスエンパイア編も終わり次は短編集である『ドラゴンズ・ブリゲード』が始まります。とりあえず最新話まではこのペースで(といっても小説家になろう番では多分四話程度しかありませんが)続けますのでもう少しよろしくお願いします!その内大賞用も考えなければ………

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