あれから 2
あれから二話目になります。後日談エピソードはもう少し続きます。
次の日のお昼頃、いつものメンバーで士官学校の中庭に存在感を放つ木の下で食事を取っている。
重箱のようなお弁当は俺とジュリで用意し、それ以外にもサンドイッチやポテトが入った木でできた袋に入っているのはエリーが、レイハイムは売店から買ってきた菓子類を鍋ている。唯一金の無いレクターは俺達が用意した食事に手を伸ばしているだけだった。
俺がジュリが作ったお手製のミートボールをケチャップに付けて口に放り投げる。すると、俺が作ったおにぎりを見ながら食べることを渋っているエリーが疑問声を発する。
「な、何よ……これ」
「おにぎりですが?何か?」
君達はおにぎりも知らないのかね?なんて言っても、帝国にはおにぎりなんて食文化どころか、米そのものが存在しないので仕方のない事ではある。
俺が率先して食べるべきだろうと手を伸ばすと先にレクターが一つスリのような見事な手つきで持っていく。
「おいしい!」
少しだけ待って見るが、どうやら感想はそれしかないようだ。
躊躇するエリーに対しジュリは手を伸ばして口を付ける姿を見せる。するとおずおずと手を伸ばし口を付けると「おいしい」とだけ呟く。
ちなみに中身は昆布とチーズの佃煮擬きと梅の代わりにレリーと言われる酸っぱい果物を漬けた梅干し擬きの二種類。
どうやらレクターはチーズと昆布の佃煮擬きで、エリーは梅干し擬きらしく、反応の違う二人の反応を楽しんでいると俺はもう一つミートボールを今度はマヨネーズに付けて食べる。
「で?結局あのあとどうなったんだ?」
レイハイムがどこか不貞腐れたような態度に疑問を抱きながら首を傾げる他四名。
「ああ。そういえばレイは途中から離脱して知らなかったんだっけ?」
俺が同意を得るように周囲に確認を取ると他三名も「そういえばそうだったかも……」ぐらいの反応である。まあ、分からなくもないけどな。
あまりにも忙しく、せわしくなく進んだ戦いだった為にレイハイムが途中からいなかった事に違和感を持たなかった。
「と言ってもな………、特に話すことも無いぞ。この前言った通りクーデター事態は革新派のリーダーの消滅でほぼ誤解したし、主戦派は後に十六年前の事件の罪状で逮捕。保守派は罪状こそ掛けられなかったけど、今回のクーデター鎮圧を利用した中立派を落とすという計画は失敗。とりあえず帝都からは逃げることにしたらしいけど」
俺が口をモグモグさせながら答える。
「三十九人はとりあえず日本政府との交渉次第らしいけどね」
ジュリの言葉に全員が俯く。
「それより………よかったの?あんた……『袴着空』は三十九人と一緒に死んだことにするって」
エリーがジト目をこちらに向けてくるので俺は視線を合わせないように空を見上げる。
「いいだよ。『袴着空』の役目は終わったんだろうし、今の俺は『ソラ・ウルベクト』だ。それに、いつまでも『もう一人の俺』なんて名前は不自然だろ?だったらあげるよ……彼こそが『袴着空』なんだ」
堆虎と共に旅立っていったもう一人の俺。
彼にも名前が必要だろう。なら………使って欲しい。俺が名乗って来た名前だけれど……君が『袴着空』だ。
「まあ、俺は袴着なんて名前変だなって思ってたけどね」
レクターの言葉に俺が反応する番である。
「どういう意味かね?返答次第ではこの爪楊枝が本来の用途を脱してお前を血祭にあげることがあるぞ」
「ははは!どうやってするんだよ」
俺は爪楊枝をレクターの右目目掛けて投げつける。すんでの所で回避するレクターと舌打ちをする俺。
「危な!?何するんだ?」
「まず目つぶしだ。その後にマウントを奪って体中の穴と言う穴に爪楊枝を突き刺す!」
「恐怖!爪楊枝が本来の用途脱する所か、誰も想像もしないような惨酷な使用方法を!?」
俺は大量の爪楊枝に本物の待針を混ぜ込む。
「ちょっと待って!持っている爪楊枝の中に針が混じってる!!」
「安心しろ。苦しめてから殺してやる」
「そっか、それなら安心………じゃない!?苦しめた上に殺されるの!?」
「お前は俺の地雷の一つを踏んだ。俺自身小学校時代に虐めの理由になった名前を侮辱したな!」
ジュリとエリーが引きながら「虐めの対象になっていたのね」と告げる。
「虐めた奴は次の日に花瓶が机の上に置かれる羽目になったがな」
「それって実際にそういう目にあったわけじゃないよね!?」
「ふふふ」
「なんだよ!?その怪しい微笑みは!ソラさん!?」
「安心しろ………お前はその程度は許さん!!!」
俺がレクターを追い回していると俺達を無視して会話は続く。
「そういえば……レイ。あんたもこの後ついてくる?」
「?何の話だ?」
「前に話さなかった?言ったでしょシューターとかいう子と空が助けた妹を引き合わせるのよ。私達にやらせて欲しいってアベルさん達にお願いしたら手助けしてくれてね。まあ、今後どうなるか分からないけどさ。早い方が良いって事で準備してくれたのよ」
レイハイムは複雑そうな表情を作るのはまあ、分からないでもない。
しかし、俺がレクターのマウント奪う間にレイハイムは「いい」っと断っていた。
まあいい。俺はレクターを惨殺するという唯一の目的だ。
「複雑だしな。俺を怪我させた相手の幸せを祈るなんて出来るほど人間が出来てない」
そっぽを向きながら遠くを見るような目でサンドイッチを口に運ぶ。
俺は一本目の針を目をに向けるがレクターは抵抗しようと胸ポケットから奇妙な缶詰のような道具を取り出す。
俺にはそれが軍が使用するスタングレネードに見えた。
「お、お前!それどうやって入手したよ!?」
「フフフ!俺はこんなこともあろうかとこの前アベルさんが士官学校での手続きの際に隠していたこの道具を盗んだんだ!」
「な、なんだと!?」
こいつ………本当の盗人じゃねぇか!
しかも俺と父さんが士官学校内の俺の名前を書類上変更する為の手続きの最中、父さんが書類を書いている途中で盗みやがった。しかも………!なんで持ち歩いているんだよ!!父さん!!
レクターはスタングレネードのピンを抜き、「へへへ」と嫌な微笑みと共に笑っている。
刹那の思考が巡る中、俺はこれが偽物なのではないかという結論に至った。しかし、レクターは強く目を瞑り、スタングレネードを上空に向けて放つ。
本物なのか!?偽物なのか!?
俺はとっさにジュリの元へと飛び抱きしめながらジュリを光と音から守るべく行動した。ほぼ全員が身を守るためのアクションを取り、俺は同時に身を守る為に鎧を出現させる。
強い閃光。鼓膜を突き破るような音が周囲を襲い、窓ガラスを破るのではないかと思われるほど一瞬の時間が過ぎた。
心の奥にある怒りが一気にメーターを突き破った。
「お前は!!本物じゃねぇか!!!」
「脱兎!」
最大速で逃げていくレクターを視界の端でとらえる。俺はもう一度苦しんでいるジュリを見つめ怒りがメーターを通り過ぎ、もはや冷静になっていた。
そうだよな。殺すなんて勿体無いよな。
殺してくださいと懇願してくるまで拷問してやるよ。
「ラウンズ!あいつを死ぬか死なないかの瀬戸際まで追い詰め………俺の足元まで連れて来い!!」
五騎のラウンズを校内に派遣し俺も鎧を着た自らの身を起き上がらせジュリに笑顔で告げる。
「言ってくるよ」
「ソラ君?」
「大丈夫だ。一時間後にはこの場にレクターの死体を持ってくるからな?」
ジュリは俺がマスク越しに笑顔を向けていることに気が付き、慌てふためきながらツッコんでくる。
「待って!私大丈夫だから………」
「俺が大丈夫じゃない。俺の気持ちが済まないんだ。ジュリが苦しんだ十倍はあいつを苦しめないと俺は気が済まない」
「本当に大丈夫なの。ここで暴れたら夕方の再開に支障が出来るとおもうの」
最もな言葉だ。
俺はふと考え……結論を出す。
「じゃあ三十分で見つけ出す。大丈夫俺ならできる。この学園で培った繋がりを駆使してでも探し出す」
そう言うと俺はポケットの中からスマフォを取り出し、スリープから起動すると俺は設定していた待ち受け画面を見て固まってしまった。
そこには林間学校の時に隆介と堆虎と一緒に取った写真。
それをスキャナーでデータ化し、入れた写真。
今……幸せだ。
その言葉をだけを胸にしまい込んで俺は………メールを一斉に飛ばす。
夕方。
レクターは教師に掴まって夜まで説教&強制補習コースを受ける事になり、エリーとレイハイムは先月のクーデターの一件で家族から当分は学校が終われば即帰宅を命じられていた。
俺はジュリと共に南区新市街地にある孤児院前に来ていた。
六階の建築物。半円状で横幅も大きな建物、個人の中でも亜人と差別される子供達も暮らすことが出来る数少ない個人である。
メイちゃんはここにおり、俺はこの孤児院に一か月に一度のペースでジュリと共にきており、レクターはここのお婆さんから出入り禁止令を出されているので、今日の再開は唯一の許された日だった。
まあ、今日の騒ぎでそれも不意になってしまった。
俺からすれば………ざまぁ!という気持ちになってしまう。
なんて俺は考え込んでしまうと孤児院の奥からメイちゃんが黒い髪を二つ結びにして駆け出してくる膝までの藍色のフリルのついたスカートと白と水色のTシャツを着た獣人族特有の獣耳をはねながらかけてくる。
「ソラお兄ちゃん!ジュリエッタお姉ちゃん!」
メイちゃんが俺達を「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼んで約一年。時折会いに来る俺達になついてしまい正直戸惑っている。
ジュリが優しく抱きしめ、俺が隣でメイちゃんの頭を優しく撫でると本人は嬉しそうに笑顔を作る。
俺にとってこの笑顔が幼い頃の妹に似ていて困る。
「今日はメイちゃんに会って欲しい人が居るの」
ジュリは抱きしめるメイちゃんの体を下ろし、一台の車の方に体を向ける。
軍用車を前に怯えたような表情を作るメイちゃんの表情が降りてきた一人の女性を前に変えていく。
「お……おねぇちゃん?」
「メイ……」
降りてきたのは女性らしい服装に着替えている軍の監視の元で行動する事になっているシューターだ。
黒と白を基本色とする綺麗なドレス。本人はどこか恥ずかしそうにしているシューターは妹をその目で確認すると嬉しそうな表情を変える。
二人は駆け出し強く抱きしめる。
涙を流し、嬉しそうな表情のシューターと今までの悲しみや嬉しさが混じったような複雑な表情のメイちゃん。
俺はそれとジュリと共に微笑みながら見つめる。
これでいいのだろう。
俺はジュリの手をゆっくり握る。
するとメイちゃんが嬉しそうな表情をこちらに送り、強く手を振るメイちゃんに同じように手を振る。
よかった。
俺の三年間は決して間違っていなかったんだ。
誰かを救い続けてきたはずの毎日。その一つが今救われた。
メイちゃん。おめでとう。
どうでしたか?足りない所もありますが楽しんでもらえればいいと思います。




