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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
35/156

受け継いだモノ 2

本日三話目です。受け継いだモノ後半です。

 そっと目を開けるとそこに安らかな表情で倒れている堆虎、そして俺の手を握りしめるジュリ、心配そうに見下ろすサクトさんと皇女さんの姿があった。

「空君?大丈夫かしら?」

 サクトさんが本当に心配そうな表情で見下ろしている姿を見ると、俺はそんな表情をさせている事への申し訳なさしか存在しない。

「大丈夫です。ちゃんと貰いましたから………ここにある」

 俺は自分の右胸の辺りをそっと触れる。

 サクトさんは何かを悟ったらしく、「ならいいわ」と呟いてそっと堆虎のおでこに触れる。まるで自分の娘のおでこを触れるように優しく撫でる。

「私の娘の同じぐらいの年なのよね。これからでしょうに………こんな子供の命を……奪ってまでしたい事がこんなクーデターなのだとしたら」

 サクトさんは怒りで身を震わせながら俯く。

 皇女さんは涙を流しながらしゃがみ込み両手で顔を隠す。隠す掌の端からは涙が漏れており、その涙の雫が地面に落ちる。

「優しいんですね」

「そんなことありません。人が死んで………涙を流さない。悲しまないような人は………ヒトデナシです」

 ヒトデナシ………要するに化け物である。

「約束するよ。必ずみんなを救ってみせる。だから、今だけは待っていてくれ。すぐに終わらせるよ」

 俺は立ち上がり、ジュリの方をちゃんと見る。握る掌の温かさが俺の心をとどめてくれる。

 下の階からこそ邪悪な気配をはっきり感じる事が出来るようになった。

 竜の欠片が着実に進化している結果なのだろうが、これも俺には貰い物のように感じてしまうが、これも罪悪感からくる自己評価の一種なのだろう。

 だが、堆虎に瞬間移動が出来るのなら俺にも出来るという計算だ。しかし、やり方が分からない。

「ジュリ瞬間移動のやり方………分かるか?」

 ジュリでもさすがに首を傾げるだけだが、それに対して意外な答えを告げたのは皇女さんだった。

「場所の明確なイメージを想像することが大事です。その場所に自分が居るというイメージが大事なのです。触れている対象ぐらいなら瞬間移動の対象に出来るはずです」

 俺にはこの場所のイメージが持てない。しかし、気配が増大していくのが分かる。今すぐにでも行かなくては間に合わない。

「空君!気配がするんだよね?そこはどの辺?」

 ジュリが一歩前に出ながら気迫のある表情で詰め寄る。俺は丁度真下を指さす。

「丁度真下。五階だな」

「私ならその辺のイメージが出来る!」

 俺は皇女さんを見ると少しだけ悩むそぶりを見せた。多分前例が無い事を言っているのだろう。

 しかし、今はそれに任せるしかない。

「ジュリ………頭の中にイメージしてくれ、俺と君が居るイメージ」

 ジュリは黙って頷き、目を瞑って俯きながら三十秒後に頷く。すると、俺は瞬間移動のイメージを持つ。すると、足元が消えたような感覚が襲い掛かり、俺は成功することを祈りながら手を握る力を強くしてしまう。

 落下していく感覚と共にジュリの温かさだけを感じ取っていた。


 正面に闇の波動ともいうべき黒い壁がやってくるのが途端に見えると焦ってラウンズを呼び出して見せる。

 ラウンズはシールドを装備して黒い壁を守って見せた。

 俺の後ろでは父さんがまるで死を覚悟したかのように目を瞑って俯いている。

 どうやら間一髪だったらしい。

 ジュリが素早く治療に入るのを見届けると、壁の向こう側で存在感を放つ『化け物』に向き合う。

 まさしく化け物だ。

 体はライオンの三倍はありそうで、四つん這いの四つ足の先には日本刀がそのまま爪になっているのではと思わせるほどの鋭利な爪、鋼鉄の鎧を身に纏っているのではと思わせる体、顔は言い表しようのない醜く獰猛さだけが表面に現れているような顔立ちをしている。

「化け物…………」

 鎧を通じても感じる醜さと悪意。むしろ鎧がその悪意のような感情を教えてくれているのかもしれない。

「アギャギャギャ!!!ヒャヒャヒャ!!!!ビャアアア!!!!」

 人としての言語能力すら失いひたすら叫ぶだけの化け物に成り下がった相手、その化け物を見ていると怒りが腹の底から湧き出てくる。

 なんでこんな奴為に堆虎達が死ななくちゃいけなかったんだ!?

 剣を握るその手が強くなり、殺意を抱いて一歩前に出るがそれを妨害する様に背中を引っ張る力を感じる。

「駄目………憎しみで戦っちゃ……駄目だよ。それじゃ……あの人達が死んだ意味が無いよ。冷静になって戦わないと勝てないよ」

 ジュリの小動物を思わせるような小声が俺の心に響き、頭を冷静にしていく。

 憎しみや怒りで戦えばそれは目の前の化け物と同じになりそうな気がする。

 怒りや憎しみは考え方を狭め、次の怒りや憎しみを振りまくことになる。それを止めるたった一つの方法は怒りや憎しみを振りまかないこと、冷静に落ち着いて行動することだ。

 それが一番難しい。

 しかし、俺の心を引き留め目の前に存在する化け物に向き合わせる。

「アンタを許せない気持ちの方が大きい。でも、アンタを殺しても誰も還ってこない。でも!アンタが俺の大切な人達を殺そうと、奪おうとするのなら俺はあんたを殺してでも救って見せる!」

 俺は剣先を化け物の方に向けると同時に議会場のドアを勢いよく開ける音が響き渡り、俺以外の視界がドアの方を向く。

 俺にはその音の主がよく分かる。

「空!手伝う事は!?」

「この化け物を殺す!まずは外に追い出すから援護頼む!」

 俺は握りしめる剣に力を込め、勢いよく空気を刺すようなイメージで突き出す。

「刺殺の束!!!」

 剣先から増殖していく剣の束はあっという間に化け物を飲み込んでいき壁と壁を破壊していき、俺達の視界を埋め尽くしていった。


 聖竜レイストナートは薄暗い地下室の中で閉じていた瞼をゆっくりと開いていき、見えない遠い空の向こう側を見るような目をする。

 三年前の五月中旬。

 空達は湖畔の街で風竜救出作戦を実行に移した後、風竜からテレパシーで話かけてきたのは驚きしかなかった。

 風竜は人間嫌いでも有名で、基本は人間側に与する聖竜の事も信用していない。だからこそ風竜がテレパシーだとしても話しかけてきたことが驚きしかなかった。

『あの少年。竜の欠片の真の継承者だろう?私が一時的に貸し与えた力を完全に使いこなしていたしな』

『何が言いたい?』

『あの少年。剣の才能は確かに強いな。しかし、罪悪感が他の人間以上に強いイメージだ』

『フン。貴様が人間を語るか?』

『私とて人間と全く接点を持たないわけじゃない。遠くから見ることはあるさ。人間から憎しみを抱かれても困るしな。今回のような事態に陥った際に人間の力は有効活用できる』

 人間より優れた存在である竜の殆どは人間を見下している。聖竜とて見下していないのかっと言われたらそれは無いと言えるだろう。しかし、風竜だけは別なのだ。

 風竜が人間を嫌っているのは人間を対等な存在として見ているためだ。

『あの少年に私の力をほんの少しだが残してやった。お前が竜の欠片を与えれば何らかの力で具現化する可能性がある。まあ、私の老婆心と言った所か。あの少年。幸せになりたいという想いと幸せになってもいいのだろうか?自分は不幸であるべきではと言う感情の行ったり来たりを繰り返している』

『あの少年は異世界人だ。恐らく他の仲間達が苦しんでいるのかもしれないという気持ちがあの少年に罪悪感を抱かせているのだろう』

『なら………教えてやれ。罪悪感は自らの心が生み出す牢獄なのだという事をな。心は開放的であるべきだ。それに他人の意見を勝手に解釈する事こそが悪だ』

 その言葉に驚きを隠せなかったのは聖竜だった。

『その仲間たちがどういう想いを持っていたのかはちゃんと告げてやれ』

 そう言って一方的にテレパシーを切った風竜の事を思い出し、一瞬だけだが、俯きそうになる。

「結局私は彼を追い詰める事しかできなかったよ。風竜」

『なら私が手伝おう!』

 急に割り込んでくる声に驚き意識を外へと向けると風竜が接近していいることに気が付き再び目を瞑る。

(たまには誰かに託してみるとしよう。この戦いの行方を………黙って見させてもらう)

 もう一度瞼を下ろし、沈黙を守る。

(答えを聞かせてくれよ………英雄『空』)


どうでしたか?次回いよいよ最終決戦です!お楽しみに!

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