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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
33/156

140億分の1の奇跡

今回はあえて半分にせずに全部掲載しています。この話だけは省きたくないんです。

「袴着空!何をしていたんだ?」

 俺の名前を呼ぶその声の方を見るとそこには中学時代の教師の一人が睨みつけるような視線を送ってくる。よく見たら皇光歴世界に来る前に最後の訪れた林間学校の宿舎のようにも見える。

「?何の話ですか?」

「貴様の足元に転がっている死体を言っているんだ!」

 え?何の話を?

 そう思い言われた通り下を見るとそこには同級生である三十九人の遺体が転がっていて、俺の右手には凶器と思われる剣があった。

「貴様が殺したのか!?」

 そうだ……俺が…俺が殺したんだ。この手で、この剣で突き刺して殺したんだ。

 よろけながら俺は剣を落としてしまう。気が付くと目の前にいる教師も血塗れで倒れており、俺が来ている緑色の鎧は血塗れになっており、俺はショックでその場に尻餅をついてしまう。

「なんで殺したんだ?なんで見捨てたんだ?」

「違うんだ……!見捨てたかったわけじゃ…ない」

 俺の右足に腕がしがみ付いてきて、俺はそれから逃げようと後ろに一歩移動するが、すると、身体を支えている左腕にもしがみ付く力を感じて振り返る。血で表情が良く見えないが三十九人の同級生のようにも見える。

「空だけ………幸せになるのか?俺達の事を犠牲にして」

「そうじゃない……探したんだ!でも……」

「見捨てた?」

 今度は右腕と左足にしがみつく力を振り切るだけに度胸も勇気もわいてこない。

 そうじゃないか。ここで彼らに殺されてもそれは仕方のない事なんだ。俺は彼らを見捨てて、見殺しにして、俺の手で殺したんだ。

 当然の報いだ。

 諦めた。もうどうでもよく思えてくる。

「本当にそれでいいの?それが空君の答え?」

「堆虎?どうして君は笑っているんだ」

 堆虎は空の目の前に立っている。生前の最後に見た中学時代の制服を着て。俺が刺した傷口も無い。

「なんで笑うんだ?俺が君を殺したんだぞ!?俺が君を指したんだ。君達を探そうとしないで。君達を見殺しにした………そんな俺をどうしてそんな風に笑って……微笑んでくれるんだ?」

「もし、周囲にいる三十九人が空君を責めているんならそれは空君自身が自分を責めているからだよ」

「じゃあどうして君は俺を責めない?」

「ここにいる私は私の残留思念みたいなものだから。それが理由かな。あと少しで消えちゃうような最後の意思みたいなものだよ」

 堆虎が手を指し伸ばすが俺はその手をどうしても握ることが出来ない。

 だって俺は君を殺したんだ。

「私がそう望んだからだよ。その事について空君が責められる必要は無いよ。だって……」

 彼女は当たり前のように言ってのけた。

「私は三十八人と多くの研究者達を殺したんだから」

 唖然としてしまった。

 その言葉の威力を前にして俺は……何も考えられ無かった。

 その隙を伺うように堆虎は強引に俺の手をつかんで立ち上がらせてしまう。

「それって………」

「ううん。いいの。やっぱりこれは罰だよ」

 そう言いながら堆虎は背中を向けてしまう。

「私はやっちゃいけないことをした。その罰。それにこれは仕方ない事なんだよ……やっぱりね。誰かが選ばれることだから。それが偶然私達三十九人だっただけ。誰かが選ばれていたんだよ」

「それでも………それでも俺は「しょうがない」なんて思いたくない!だって………命がそんな他人の思惑で……死ななくていい命が死んでしまうなんて」

「世界は不条理で理不尽だよ。だって順序を守らないのが人間だし、命を軽んじるのは知識があるからだもん。それが世界だよ。だから私達の命で他の百四十億の命が救われるならそれは尊い事だと思うもん」

 振り返るその表情はどこか儚げながら微笑んでいる。

 どうして微笑んでいるんだ?

「どうして……なんでそんなに物分かりがいいんだ!?どうして……?」

 一瞬だけ俯きながらそれでも気丈に微笑む堆虎。

「私達は納得しているもん。そりゃあ……私だって悲しいよ」

「だったら………」

 堆虎は首を傾げるがその行動が俺の何かが切れた。

「だったら「生きたい」って言ってくれよ!!もっと生きたいって!あんなことやこんな事をしたかったって言ってくれよ……そんな悲しいことを言わないでくれ」

「………ごめんね」

 気まずい空気だけがその場を満たす。

 そう言って欲しいんだ。俺のわがままだという事ぐらいわかている。

「言っても仕方がない事だと思うし、それに言われてもみんなに申し訳ないし」

「俺は………一人じゃないか」

 独りぼっち。この世界で俺は……。

「本当にそう?だったら空君はもっと周りをよく見てみるべきだと思うな。よく見てみて………」

 周囲を見るように促されると俺は渋々ながら見回してみる。

 何もない空間の中に誰かの手の温もりを感じる。ふとそちらの方を見るとジュリが微笑みながら手を握っている。

「思い出してみて」

「思い出して」

「「空君を大事にしている人達を。世界は繋がっているんだよ」」

 レクターが、義父さんが、エリーが、レイハイムが、ガーランドやサクトが、聖竜に皇帝陛下。それだけじゃない。母さんに妹も。それ以外の俺が生きてきた約十六年間に関わって来た多くの人が俺の名を呼ぶ。

「空」

 この空は……世界は繋がっている。

 ワールド・ラインは繋がり合う。人も同じだ。繋がりを完全に断つことはきっとできない。それをしてしまうと人ではいられなくなる。

 誰かから思われることも、誰かを心配することも、誰かと共に歩くことを辞めてしまったら、それは命を捨てる事と同義だろう。

「「そうだよ。それに空君が選ばれた。空君は二つの世界にたった一人しか存在しない竜の欠片の真の継承者」」

「たった一人?」

「そうだよ。この世界の空君は既に亡くなっている。生まれる前に殺されてしまった命、その命の偶然と不条理が空君がこの世界に来る条件だったから」

「空君。落ち着いて聞いてね。アベルさん………あの人は空君のもう一人のお父さんなの。空君は無意識か意識的にか、お父さんを求めていたんじゃない?その思いが空君とアベルさんを結び付け二つの世界を救う絆になった。それは百四十億分の一の奇跡なんだよ」

 二つの世界を合わせて約百四十億人。そのうちのたった一人の奇跡のような確率。

 それが俺であり俺の義父さん………いや、父さんなのか?

「そんな事が在りえるのか?」

「本来なら在りえない。でも、それこそが今回の犯人がしてしまったどうしようもないミスなの。十六年前に北の近郊都市を襲いさえしなければ多分計画はこんな形まで追い詰められなかったと思う」

 十六年前。父さんの故郷北の近郊都市が何者かの襲撃を受けた。それ自体は帝国政府や軍関係者が関わっているのか。当時は戦争状態。父さんが中立派だという事を鑑みると答えは………。

「北の近郊都市は中立派の拠点だった?」

「「正解」」

 ジュリと堆虎は同時に頷く。

 それが答え。

「北の近郊都市は中立派の拠点で皇帝陛下なんかがこっそり集まって中立派を作っていたんだろうね。目的は………多分だけど戦争の回避と帝国の派閥争いを終わらせるため」

「でも、それは革新派や主戦派には面倒な事態だった。だから潰したくて起こした事態。でも本人達も最初はこんなに大事になるとは思わなかったんだと思う」

「でも、大ごとになってしまった。呪術の暴走。『呪詛の鐘』が行方不明になったという情報を一致させるとその時にもう一つの世界と繋がったんだろうね」

「そして………空君のお父さんもその一、二年後に亡くなった。時期を鑑みても呪詛の鐘が関わっている可能性が高いよ」

 そうか。だから父さんやガーランドが中立派の話をしてくれないわけだ。

「だったら。父さんやガーランドが俺達に中立派の話をしてくれなかったのは下手に情報を漏らせなかった?」

「それもあるとは思うよ。でももっと大きな理由」

 俺からすればジュリが喋っているのか堆虎が喋っているのか分からなくなってきた。今喋っているのは……ジュリか?

「現在の最高議長は中立派だと思うよ。今回のパレードを護衛担当だったのはアベルさん達だった。最高議長と一緒に考えたんだから自然と最高議長も中立派という事になる」

「だったら今回のクーデターに父さん達がギリギリまで気が付かなかったのは………中立派が急速に勢力を拡大させた結果というわけだ。綻びが出てしまったのか」

「うん。その結果が今回のクーデター」

「でも、分からない事がある。革新派の行動理由は分かった。でも、帝国にはもう二つ存在するよな?今回のクーデターに無関心とは思えない」

 ジュリと堆虎が同時に俯く。俺は何か変な事を言ったのだろうか?

「空君本当に分からない?」

「騎士人形である『ウルズ・ナイト』の急な登場」

 思考する。考え、思い出す。ウルズ・ナイトは今回のクーデターで初めて実戦投入された。辺境の地で開発を受けたという真実。十六年前に革新派と主戦派が起こした事件。

 その全てを考えると………。

「革新派は主戦派に罪を押し付けようとした?そして結果から見れば戦争状態を利用して遠ざけることに成功したんだ。保守派は巻き込まれた?」

 ジュリと堆虎が同時に頷く。

「多分空君のお父さん達はその状況を利用して返り咲いたんだと思うんだ」

「そして、アベルさん達は戦争状態を利用しつつ政府中核にまで十六年かけて上り詰めた。しかし、それで生じた歪みに付け入る形で革新派はクーデターを目論み、保守派と主戦派は戦争終結後に起こす可能性が高かった革新派のクーデターを理由付けして帝都内部で事を起こす計画に出た」

 要するに今回のクーデターは中立派以外にはある程度分かっていたという事か………、分かっていながらどうして阻止しなかった!?どうして無視をいていた!?分かっていたのなら………どうして止めなかったんだ。

 都合がよかったからか?その方が……自分達の派閥が上に返り咲くためにはよかったからか?

 そうだろうな。中立派を無能として知らしめ、同時に自分達が有能だと証明するには今回のクーデターと兵器の発表には丁度いい舞台だったはずだ。

 その結果に三十九人は犠牲になったというのか?

「恨まないでね?派閥が争うなんて日本でもあった事でしょ?それに空のお父さんは中立派なんでしょ?きっと勝てばまだましな結果になると思うよ。中立派が居てくれれば、権力を維持できればきっと日本と融和を望むはずだから………」

 堆虎の表情が歪んだ様に見えた。勝たないと意味が無いんだ。

「俺は………自分を許せない」

 許すことが出来そうにない。

 許せば………俺は冷酷な人間になってしまいそうだ。人を辞めそうだ。

 それだけは出来ない。

「空君がそう思うならそれで良いと思うよ。でも、忘れないでね?私達の事もみんなの事も。多くの人が居る事を忘れないで」

 俺は鎧を触る。

 これは贈り物なんだ。

 でも………寂しい。このままお別れなんて。

「空君が忘れないならきっと思い出としてここにいるよ」

 俺の心臓を指す。

 思い出………か。古臭いように聞こえるけど……証拠はあるんだよな。この鎧こそが彼等からの贈り物で、思い出の品なんだ。

「君達が俺を守る鎧になるのなら、俺は世界を守る剣になる!」

 剣を抱く。忘れないように突き進む。この鎧が三十九人の生きた証だ。

「もう………行くね」

 一歩。一歩と下がっていく。

 すると、どことなく一人の青年が歩いて来た。俺は自分が鏡を見ているような気分になる。

 それも無理はない事だ。

 そこにはもう一人の俺が居たから。

「この世界の君だよ。もっとも姿は君のモノを借りてしまったけどね。僕は死んでしまったから。でも………聖竜の中からずっと見てた。君の戦いも」

「………ごめん。俺は君の立場を奪った」

「奪ってないよ。君はお父さんを守ってくれた。救ってくれたじゃない。これからもお願い。勝手なお願いかもしれないけどね。その代り君のお父さんはもらうから」

 朗らかに笑って見せる少年の後ろに父が居た。

「空……大きくなったね」

 お父さん―――――アベルと瓜二つの姿をした警察官。

「聖竜を通じて見ていたよ。頑張っているね。これからも母さんと奈美を頼んだよ。この世界の僕と一緒に幸せになってくれると嬉しい。君を守れてよかった」

「俺も………会えてよかった」

 隣には母さんにそっくりの女性が微笑んでいる。もう一人の母さん………なんだな。

「大きくなったらこんなに育つのね。それが見れただけでも十分よ。あの人をよろしくね。寂しがり屋で不器用な人だけど良い人なのよ」

「知ってるよ。掃除はしてくれないけどね」

「ふふ。きっとこの人も同じよ」

 父さんは罰が悪そうにしている。そこは同じなんだな。

 気が付けば多くの人が集まっている。

 皆聖竜によって魂を匿っていた人達だろう。なら、この場で出てきたのは皆で旅立つ為、そして………ラウンズに必要な何かを託すため。

 堆虎が微笑みながら更に一歩下がり他の人達と共に並び立つ。

「空君。ラウンズの力は『死者の想い』。私達の想いを空君に託す。だから、終わらせて。ここにいる人達の想いまで救ってね。私達の英雄」

 黙って頷き去っていく彼らを見守る。

「じゃあ………行こう!」

「うん!」

 堆虎はもう一人の俺と手を繋ぎ合い歩き出す。光指す方へと歩き出す。

 俺は一歩前に出そうになる気持ちを堆虎が俺の左手を握りしめることで引きとどめる。

「忘れない!!絶対に………」

 一瞬だけ堆虎ともう一人の俺が振り返り手を振ってくれる。それ以外にも三十九人や父さんともう一人の母さん、多くの人達が手を振ってくれる。

「俺が………君達の生きた証だ!!」

 意識が戻っていく。

 ありがとう………忘れない。

 もう……諦めない。挫けない。

 この思い出がある限り戦える。

 安心してくれ。俺は………世界を救って見せる。



 光指す方へと歩くと少しだけ安心する気持ちになれる。きっとこの先だって良い思い出を作れるはずだ。

 よく見ると何人かが涙を流しているのが見て取れる。

 別れる寂しさがそさせるのだろう。

「大丈夫だよ。きっとあの人達なら二つの世界を守ってくれるよ」

 私の不安を感じ取ったのか、もう一人の空君は微笑みながらそう告げてくれた。

「そうだね。きっと………その先も歩いてくれるはず。だからこそ私達はまだ見ぬ未来へと歩けるんだもんね。一緒に」

 歩き出そう。

 軌跡を作り出そう。

 この世界は理不尽で不条理だけど………愛する価値のある世界のはずだ。それを空君達が証明してくれるはず。

 私達も別の世界で証明しよう。

 愛する価値のある世界なんだと。

 何も心配など無い。

 不安など感じない。

 私達は新しいワールド・ラインへと向かって歩き続ける。


どうでしたか?ある意味どうして書きたかった話ですが、辛くも前に進む為に重要な話になりました。半分に分けず、全部をいっぺんに乗せました。ここから怒涛の勢いで行きます。

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