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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
32/156

三十九人の覚悟 2

めちゃくちゃ辛い話になります。

 殺すほどの憎しみを抱いたことはきっとあの瞬間以外には無かったと言えるだろう。

 ブラック・ナイト―――――堆虎は袴着空と剣を結びながらふと思い出す。

 三年前この地にやって来た時、見知らぬ土地と見知らぬ廃墟。

 確かに自分がバスに乗っていて移動していたことは覚えているし、こんな場所を移動していなかったことは分かる。

 何人かの男子が立ち上がって周囲を索敵しようと動き始めるのに五分ほどかかってしまった。しかし、それを遮る様に南の方から銃を持った兵士らしき男性が現れた。

「こちら対象を発見研究施設まで移送し…ま……!?おい!四十人じゃなかったのか?三十九人しかいないぞ!?」

 そこまで言われえて堆虎達は周囲を見回した。

 雑草が生え渡り、廃墟が広がるこの寂しい場所、奥には墓所が見え、よく見ると大きな壁とその奥から覗き込む都市部がちらっとだけ見える。

 そして、よく見るとこの場所に袴着空が居ないことに気が付いた。

「どうする!?」

「どうもしない。本部の総帥から通達だ。イレギュラーが起きているが三十九人だけでも連れて来いとのことだ。抵抗するようなら多少痛めつけても買わないそうだ。この場所なら人はこないし……な」

 睨みつけるような視線に怯む女子生徒とは裏腹に男子生徒のいくつかは反抗的な目で見ていた。

 五、六人の男子が二人の兵士に向かって突っ込んでいくが、兵士はそれを地面から飛び出た石飛礫が妨害する。

 全身に青あざを作り、恐怖が叩き込まれる生徒たちはおとなしく従うしかできなかった。

 大きなトラックに乗せられて移動して行く中で運転席の方から「どうだった」なんて言葉を聞いてしまう。

「それが中立派のアベルが見つけてしまったらしい」

「おいおい!?どうするんだ?四十人目を確保できるのか?」

「一度施設に預けてから回収する手筈らしい。幸い皇族に告げなければ多分見つからずに回収できるだろう」

 空の話をしていたのだろうことは話の内容を聞くだけでよく分かる。

 堆虎の隣に座っていた隆介がトントンと肩を叩き、堆虎は運転席の兵士にばれないように小声で「何?」って告げる。

「さっきの話って空かな?」

「多分ね。でも、あっちの状況もあまりよくないみたいだね」

 二人で落ち込みながら施設の中に連れていかれる中、兵士達の話から耳を離さないようにしていると、大きな真っ白の部屋に三十九人が連れていかれる中で空の状況がおおよそで分かった。

 どうやら空は安全な人の元に預けられたらしい。

 なら助けに来てくれるかもしれない。そんな思いを訪れた総帥ファンドの細めを見ながら三十九人は絶望することになる。

「情報操作は完璧だ。君たちが見つかる可能性は万が一も無い。そもそも、軍や警察は異世界人を信じていないというのが真実なのでね。大人しくしていればいずれ解放してあげるよ」

 嘘だ。

 それだけは分かった。この人には開放するつもりがない。

 そのまま初めての夜を過ごす中、布団も無い寂しい部屋ではまともに寝ることもできず座っていると、低い獣のような人の声が聞えてきた。

 白い鱗を生やした竜の首だけが現れたら誰でも悲鳴を上げるだろう。実際三十九人全員が悲鳴を上げた。

「フム。どれだけの事を君達に話したらいいモノかどうか?」

 聖竜は最初の方こそ悩んでいたが、少しずつ確実に確信をもって話すまるで物語のような言葉を堆虎達は受け入れられないまま聞いていた。

 ここが異世界だという時点で既にどこかの小説の話のように思えたし、この世界の成り立ちから現状まで全てが受け入れられなかった。

 中には叫ぶ者達が現れるのに外から人が来ないのはどういうことだと考えた何人かの生徒がふと聞いた。

「ここに兵士が来ないのは?」

「私が遮断している。正確には声や認識をずらしているだけだが……ようするにここでいくら騒ごうと私が居る限りは構わんぞ」

 まるで他人事のように喋る異形の存在を前に三十九人は依然と黙っていく。そして、最後に聖竜は「力を授けてやる。見てみると言い君自身の手で未来を見つけて見せろ」とだけ言って去っていく。

 最初こそ誰も信用しようとしなかったが、一日一回薬剤による実験以外に何もすることの無い日常の中、隆介と堆虎が使ったことが彼らに絶望を見せた。

 火に包まれる東京をはじめとする西暦の世界と、帝国の衰退による第二の帝国を目指す国々による大戦が人類に衰退を見せた。

 その原点が約三年後に起きるクーデターであるという事、何度見てもいくつの未来を見ても小さな変化こそあったが、基本は同じ未来。

 一人、また一人参加するといつの間にか三十九人全員で未来を探すようになった。

 見つけた。数少ない奇跡のような可能性。

 そこに立っている英雄『袴着空』とこの世界の仲間達。そして………自分達の犠牲をもってこの世界が救われるという事も知った。

 知ってしまった

 泣き叫びながら。目を背けようとしながらも真実は変わらなかった。

 何度見直しても、何度も何度も確認しても変わらない結末を前に絶望した。

 一部の生徒はある意味空に嫉妬しそうになり、ある生徒は諦めそうになる。

「ねえ。諦めるなら………この世界を守ってみない?空君を信じてみようよ」

 小さな言葉だが力強い重みを含む言葉に誰もが俯きすんなりうなずけない。しかし―――――、

「どうせさ。真っ当な結末なんて目指せないんだ。だったらさこの二つの世界にとってのハッピーエンドを目指そうよ」

 この世界。

 二つの世界を守ることで自分達の人生を全うしようと決めるのに二年半が掛かってしまった。


 空の緑星剣が自らの持つ禍々しい剣が火花を散らしながら目と目が合いそうになる。

 堆虎は内心「辛い……辛いよ………」っと辛さを漏らしそうになるが、それをグッと飲み込む。

 空の剣を持つ手が堆虎の剣を下から上へと弾き上げる。

 そのまま剣を振り下ろし斬りつけようとするが、それを騎士人形で回避する堆虎の手は再び空へと斬りつけようとする。

(ごめんね)

 斬りつける力を増やすが、空は剣を竜の形に変えながら堆虎ごと騎士人形を喰らいつくす。

 騎士人形を犠牲にする形で堆虎が逃げ出すが、それに追い打ちをかけようと空は呼び出した『ラウンズ』で刺殺の束で攻撃を仕掛ける。

(すごい速度で学習していく。ああ、本当だったんだね。空君は140億人の一人の奇跡の人間なんだね)

 堆虎も刺殺の束で対抗しようとするが、ラウンズが取り込まれるたびに全身から抜けていく。

 分かっていた。ラウンズが力になる竜の欠片を模しているいわば『偽物の欠片』とでもいうべき力は殺した者の数がそのまま力になる。それは逆に言うとそれを奪われれば弱くなっていくという事でもある。

(これでいいんだよ。私達の命と力は空君の中に注ぎ込まれていく。そして………空君は英雄になるんだよ)

 空は堆虎の動きを完全に封じると止めとばかりに跳躍し一気に距離をとる。

(ごめんね。辛い役目を押し付けて、もう私の体はまともではいられないの)

 もう彼女の体はすでに『人』というべき枠組みを超えており、人間が感じる五感のほとんどは失われている。

 人を超える力を手に入れた代償だ。

 そして、自らを変えた研究者たちを皆殺しにした代償だと思っている。

 怒りに身をまかせ、人の形も残らない状態にしてでも殺して見せた。

 堆虎の手に残っているのは三十八人を殺した時の感触だけ。

(隆介君を殺したのは私だから………空君は空君の『トゥルーエンド』を目指してね。ハッピーエンドと言う名前のトゥルーエンドがこの先にあるから)

 堆虎は最後の抵抗とばかりに剣をカウンター気味に振り下ろすが、空はそれを左手で弾きそのまま剣先を伸ばす。

(泣かないでね?辛い事が起きるけど………私はここにいるからね?)

 剣が突き刺さる感触と激しい激痛が堆虎を襲う。しかし、堆虎の心はまるで解き放たれたような気持と共に微笑む。

 仮面が割れていく音共に何かが砕け同時に空の驚く表情が見て取れる。

「堆虎?………堆虎!?」

 急いで手を伸ばす空の手をつかむことも無く、堆虎の力が抜けていく。堆虎には空が悲痛の面持ちで見下ろしているのがよく分かった。


どうでしたか?空が立ち上がってくれることを祈って………次へ。

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