真実 2
惨酷な真実が語られる話になります。
知らなくていい真実がこの世にはあると思う。この真実を果たして明かしていい物かどうかと今更ながら悩み、後悔する。
目の前に存在していたのは三十八人の遺体だった。
そう三十八人。一人足りない。
しかし、そんな数が些細なものに思えるほど残忍で、目を覆いたくなるほどの光景だった。
四十人が入っても余裕のある白い部屋に血と遺体で一杯になっており、折り重なる様に積み上げられた遺体や手には凶器と思われる道具も見える。
しかし、それ以上に目の前に血で書かれている文字に目が逝ってしまう。
『少年よ希望を抱け。そして………諦めるな』
その言葉だけで涙を流しそうになり。辛くなってくる。
空を憎まなかった言えば嘘になるのだろうが、それでも三十九人は最後には希望を見付けたのかもしれない。
もしかしたら、他に選択肢が無かったのかもしれないが、この『少年』という言葉が何を指すのかぐらいは誰にでも分かる。
空。
この言葉に………思いに胸を詰まらせて、涙を流すジュリ。
三十九人目が誰なのかジュリには……ジュリだけには分かった。
立ち上がり立ち去ろうとする。
ここにはいない。ジュリに似ているはずの少女―――――堆虎。
堆虎こそがブラック・ナイトの正体だった。
シューターは息を吐き出し、呼吸を整えながら全身の神経と血肉に神経を研ぎ澄まし、これから現れる人物への戦いに集中しようとしていた。
幼い頃。シューターの国は呪術の前に屈服した。両親は凶変しシューター姉妹を殺そうとまでした所でシューターは妹を守る為両親を手に掛けた。
そのこと自体は後悔していない。
しかし、妹は国の中で起きたクーデターと崩壊を前に行方不明になってしまった。
どうしてあの手を離してしまったのか?
どうしてあの子を探さなかったのか?
闇に落ちていくのは簡単だった。
必死で探した。そんな中、最悪の一方が流れた。
妹が闇市で目撃され、その闇市が解体されたという噂と同時期に行われていたある国でのデモの最中に多くの人が無くなったという噂。全身の血の気が失せていく感覚、震える体を必死に鞭を打ってその場に駆け付けたときは既に終わっており、妹を見付けることは出来なかった。
正直諦めたし、もう無理なんだと思って今回のクーデターに参加した。
総帥の目的が帝都を消す事なのはわかっていたし、もしかすると死ねば妹に会えるかも?っとか考えた。
しかし、それはブラック・ナイトの一言で変わった。
「君の妹はこの街で生きている。あの鎧の少年は全てを知っている。君が我々の計画に参加してくれるなら君は妹と再会でき、幸せな未来を歩ける」
その言葉嘘の可能性はあった。しかし、小さな可能性でも嘘でもいいからしがみ付きたい。
やっと生まれた小さな希望の種。
あの子に会えるならどんな道でも歩く。
「どうすればいい?」
「ある段階になれば総帥は役所の五階の議会場で『原初の種』を飲み込む。その時にある人物達が居たら困る。力の余波に耐えられるのは鎧の少年を覗けば中将クラスの三人だけ。そして、あの少年の友人がその場で死ねばその時こそ、あの少年の心は再起不能の痛手を受ける。それは避けたい。ジュリと呼ばれている少女は間に合わない。サクトと共に遅れてあられる。しかし、問題はレクターという少年とエリーと言う名前の少女。この二人の足止めをしてほしい。ある時刻まで………」
三十分でいいらしい。
発見される時刻は決まっているらしく、あと五分で彼らはこの部屋に訪れる。
三十分ここで粘る。
方法は任せると言っていたし、本人が言うにはいってもその通りにならないどころか下手をすればさらに遅らせるだけだと言っていた。
どうやらブラック・ナイトには未来が見えているようだ。
よく思い出せば、最初の襲撃もブラック・ナイトは特に驚いた様子は存在しなかった。
それも全てはある程度の未来を読んでいたからだと思えば腑に落ちる。しかし、同時に思うならどうしてあんな総帥の計画に参加しているのだろうか?
「いいや………どうでもいい事。考えなくてもいい事だ。妹と会うためにはこの街を救う必要がある。その為にはここでの時間稼ぎが重要らしいし」
不安で手先が震える。手先から足のつま先まで冷え切っていくのが感覚で分かる。
五分経過。
地下通路のドアが開き、奥から多くの兵士が現れる。
「最初の襲撃の際に私と戦ったあの天然そうな男と一緒に行動しているはずの女」
兵士のいくつかが役所内に広がっていき、シューターは二階の柵から見下ろしていた。
鏡のような床が光を反射していて、全身の神経が余計な情報を頭の中に入れてくる。
最後にあの厄介な化け物みたいな女がハルバードを肩に抱きながら現れると、少しだけ距離を置いて目標の二人を発見した。
あの二人とハルバードの女性の間の爆弾を起爆させ、二人が孤立したところでシューターは一階に降りた。
「あ。あの時の………」
「これってあんたの所為?」
シューターは黙って頷く。
「三十分ほどあんた達を借りるよ。これが世界を救うのに必要なんだってさ」
エリーは信じようとしない。それをシューターは最もだと思うが、レクターだけは違った。まるでそれを信じたかのように「へぇ~そうなんだ」なんて呟いて見せた。
驚いたのはシューターの方だった。
「あんたは疑ったりしないの!?世界なんだよ?」
「信じるよ。だって目を見れば分かるもん。嘘いう時の目はそんなに真剣なまなざししないでしょ?真剣に嘘を言うような感じには見えないし………それより、時間を稼いだ後はどうすんの?」
エリーはやれやれと言わんばかりに首を左右に振り、諦めたように瓦礫に腰を落とす。
「勝手にすれば」
「勝手にする」
一歩前にでるレクターに怖気づきそうになるが、そんな感情を押し込め自らも足を一歩前に進める。
「聞きたいことがあるけど………言葉より拳の方がいいよね?」
「ええ。これがわかりやすいし……」
二人は右拳を前に、左拳を腰に構える。
一緒に息を吐き出したとき、戦いは他の誰よりも早く動き出した。
総帥が五階にある議会への両開きのドアにてを掛ける。
もしかしたらなんて気持ちを裏付けるような光景がそこにはあった。
「待っていましたよ………元帥」
アベルとガーランドが己の武器を携えながらちょうど反対側のドアの前に佇み、元帥は『原初の種』を胸ポケットの中へとしまいながら刀を腰に差しこむ。
「やれやれ。千客万来だな。望んでもいないのだが」
ガーランドが語ろうと口を開くが、それを制止したのは総帥ファンドだった。
「語らずともよい。口で語ることに意味を見いだせない。私と君達とでは意見が一致することは無いだろう。それはこの十数年以上に及んだ中で分かっていたはずだ」
「そうかもしれませんね。しかし元帥。私もアベルもあなたに聞きたいことがあるのですよ」
「それも全てはこの戦いで知って見せよ。言っておくが安くは無いぞ」
ガーランドが語ることを諦め大剣を構えた時、アベルも同時に構えた。
もとより説得できるなんて考えてすらいなかった。
知りたいこと、言いたいことは剣を持って語るべし。
魔導機からあふれる粒子がまるでオーラのように見せる。達人クラスまで行けば何もしなくてもこのくらいが出来てしまう。
この時、空とブラック・ナイトの戦いは終局を迎えようとしていた。
どうでしたか?これを書いているときは実際結構辛い気持ちになってしまいました。考えたの自分ですが。




