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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
29/156

真実 1

今回の事件の真実が明かされる最新話となります。

 知らずに済むのならその方がいいそう思っていたのはジュリだった。

 彼女が「おや?」っと感を働かせてしまったのには理由がある。


『刺殺の束』


 そう呼ばれた力を目撃した時、皇帝が慌てている姿を見てジュリはこう思った。


「もしかして、あれは竜の欠片の力なんじゃ?」


 もちろん皇帝が竜の欠片を知っているという保証はない。しかし、聖竜に一番近い皇族ならもしかしたら全部知っているのでは?っと思い至ったが、同時にふと不思議に思う。

 なら何故動揺し慌てるのだろう?

 その答えを突き詰めていくと嫌な予感に至るのは速かった。


 皇帝が慌てたのが竜の欠片しか使えないはずの力を使ったからではないか?では、何故使えたのかと考えた時、必然と嫌な予感にかられた。


 考えうる限り最悪の予想だったからだ。

 しかし、あくまでも予想。そう言い聞かせてきた。


 それは戦いを追ううちにどんどん確信に近づいていき、確信したのは空が『ラウンズ』を使いこなしたからだ。


「間違いない」


 そんな思いがジュリの脳裏によぎり、嫌な予感を払拭するため、それが嘘であってほしいという気持ちから彼女はイリーナとサクト中将、他部下二名と共にある場所へと走らせていた。

 車を運転している部下に背を向ける形で座っているサクトが、対面のジュリに地図を見せる。


「あなたの予想通りかは分からないけれど、言う通り不審な建物が見つかったわ。セイ」


 セイと呼ばれた青年士官は軍服のポケットの中から荒っぽい地図を取り出すと、指である一点を指した。


「この工場密集地域の一つに軍の革新派が購入した建物が見つかりました。しかも、購入してからも特別良い建物とは言えないのです。築二十年。古いと言ってもいいでしょう。中も今はほとんど見かけなくなった古い機械製造で、壊して建て直す以外にないような建物です。しかし、外装を確認する限り建て直したという話は聞きません。勿論偽情報という可能性がありますが、低い可能性でしょう。特に隠れるような建物ではありませんからね。それに、もう一つ不審な話が。買い取られてから約四年ですが、頻繁に来ていたトラックがここ数日全く現れていないようです」


 セイと呼ばれた士官が写真を取り出す。そこにはトラックが工場へと入っていく姿が映されており、もう一枚には工場の全体図が正面から移されている。


「来ていない理由と、トラックが運んでいる物は?」

「分かりません。しかし、三年前に北の方からやって来た大型トラックが入っていくのが見たという目撃証言があるんです」

「北というのが気になるわね。北区?それとももっと北の方になるのかしら?」

「詳しく言えば旧北の近郊都市からです」


 その言葉を聞いた際のサクトは表情を曇らせる。ジュリですら分からないでもない。そこはアベルの親族が皆殺しにされた場所なのだから。


「でも、変ですよね?北の方は近郊都市以外には山しかないはずですが?」


 そうなのだ。北から行ける場所は旧近郊都市しか無い。行く理由も無いし、物を持ってくる理由も無いのだ。


「物じゃなくて………人……なんじゃ?」

「どういう事?人って人間を持って来たってこと?でもなんの……イリーナ様?」


 イリーナの表情が青ざめていくのが見て取れた。サクトは不安に思う中、イリーナはオドオドとした口でしゃべり始める。


「もしかして……三十九人?異世界からいらっしゃった三十九人をお連れしたんじゃ?」

「………あ」


 サクトは思い至る理由がある。十六年前。北の近郊都市で呪詛の鐘と呼ばれる呪具が行方不明になっている。


「それと関係しているという事?でも………誰が何の為に?」


 混乱するサクトにジュリが震える手を握りしめながら答える。


「分かりません。でも、もし………十六年前の事件に呪詛の鐘が使われていたのなら、ゲートが開いてしまったのなら………?」

「はい。三十九人はそこにやって来た可能性が出てきます」


 ジュリとイリーナの答えにサクトは下唇を噛み締めながら苛立ちを抱えた。

 空が見つかった時に自分が気づくべきだったと。

 それなら自分が気づくべきじゃないかっと、責めようとする。それが今更だと知りながら。


「ジュリちゃん………あなた何に気が付いたの?」

「イリーナ様。言いましたよね?ラウンズは死んだ者の想いを受け取ることで人形を増やすっと。しかし、実際に受け取ると言っても物理的な手段では不可能だし、それはきっと精神論に近い現象なんでしょう。実際はもっと複雑な手段があるんだと思います。例えば………『竜の顎』で取り込むとか……そう考えたとき、この力を呪術で再現できないかって思い行ったんです。じゃ……その方法は?」


 全員が考え込み、イリーナがいの一番に気が付いてしまい、体中がその結論の恐怖に打ち震え、涙を流す。


「そうなんですか?その為に三十九人は呼ばれてしまったのですか?私達帝国の所為で彼らは犠牲になるのですか?」

「イリーナ様?どうされたのですか?ジュリちゃん?どういう事?」

「殺すこと」

「え?」

「殺すことで……対象を物理的に殺すことでラウンズの騎士人形とそっくりな存在を創造する。なら……彼らが呼ばれた理由は」

「殺し合うため?」


 車が急停止したのにも関わらず出るのが怖くなってしまった三人の目の前にこの工場は沈黙していた。



 空と離れて十五分。距離的に考えてもまだ空は役所には到着していないはずだ。その前に真実に触れる必要がある。


 三十九人の真実。


 彼らがどんな思いを過ごしたのか。


 自分達の予想が当たっているのか?もし当たっているのなら彼らはどういう想いでこの三年間を過ごしたのか?


 嫌な予感が心の奥底から溢れでて、それが表情をさらに曇らせる。

 分かっている。


 逃げようと心が叫び、足が震える。


 サクトですら足を一歩踏み出すのが怖い。

 工場の前に立つ。


 静かに佇み、存在感を感じさせないほどに寂れた外観、いっそ廃墟だと信じて立ち去りたい気持ちを奥底に追いやりサクトとセイは両開きの鉄扉に手を掛け内側に開く。


 重苦しい空気が流れ出て、視界に嫌なほど白い壁と…………真っ赤な血が見えてきた。

 研究所に居るような白衣の男女が倒れて血を流し死んでいる。

 壁に、天井に、床に、あらゆる場所に血が飛んでいる。

 殺し方も惨酷さが見えてくる。


 中には細切れのように細かく切られた者や、叩き潰されたようにミンチにされた遺体まで存在している。

 サクトはとっさにイリーナとジュリに見せないように立ちふさがるが、それにどれだけの意味があるのか分からない。

 前に歩けば嫌でも見えてくる。

 この状況でこれなのだ。この先なんて見るに堪えない光景が続くに決まっている。


「イリーナ様。ジュリちゃん。ここに居なさい」


 イリーナとジュリは首を横に振るだけ、ここで逃げたら一生逃げてしまいそうだった。イリーナは皇族として義務感が、ジュリは空の友人として彼に変わって真実を見届けたいと感じていた。

 引くつもりのない二人の目を見れば分かる。

 なるべく残酷な遺体は見せないように配慮しながら室内に入っていく。

 歩くこと五分。

 室内は予想していた以上にひどく、研究内容などほとんど残っていなかった。


「断片的な情報しか得られないわね。でも、やはりここで竜の欠片を模した実験を行っていた可能性が高いという事かしら」


 断片的な情報を組み立てれば、間違いなくこの場所で呪術の実験を行っていたのは事実のようで、それが竜の欠片を模した実験なのかは確信には至れないのが現状だった。


「サクト中将!これを」


 搬入記録と書かれた書類はここ四年間のこの建物に運び込まれた記録が書かれていた。


「最初は内装用の物資ね。最近は呪術用の………薬品関連かしら?」


 読み進めているとジュリとイリーナが目を覆いたくなるような項目が書かれていた。


「………実験動物三十九人。やっぱりここに運び込まれていたのね。しかも、実験の為に!!」


 怒りで重要な書類を破きそうになるが理性がそれを食い止める。

 イリーナはジュリに抱き着き、ジュリの両手も震えている。


「サクト中将。どうやら地下に収容スペースがあるようですね。三十九人もそこかと」


 セイの声が震えているのはこの状況に怒りを滲ませているからなのか、それとも悲しみを覚えているからなのか。


「そうね………行きましょう」


 知る必要がある。

 真実を前にして逃げる何て選択肢は無い。



どうでしたか?面白かったと言っていただけたら幸いです。もう少しで最終決戦。その後にエピローグが控えていますのでよろしくお願いします。

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