南区攻防戦 5
いよいよ最終決戦が近づいています!この調子でよろしくお願いします。
緑星剣から溢れ出るドラゴンの頭はブラック・ナイトを噛み砕こうと伸ばす。刺殺の束を飲み込んで突き進みひたすら取り込んでいく。
ブラック・ナイトの目は冷静さを失っておらず、冷たく凍えるような視線をドラゴンに向ける。ドラゴンの大きな顎が目の前にいるブラック・ナイトを捉え、砕こうと口を閉ざすがブラック・ナイトは騎士人形を身代わりにする形で回避する。
ドラゴンは騎士人形を飲み込み、暴れ回る様に他の騎士人形も同様に飲み込んでいく。
「抑えが聞かない……!どうすれば」
焦りが汗を滲ませ、緑色の鎧の中で空は汗の不快感を覚え始める。
力が溢れ出る一方で力が逃げていく感覚に襲われ、力が抜けていく。
「空君!落ち着いて」
「落ち着いてる。俺の意思とは無関係なんだ。異端の力を最後のすべてまで飲み込もうとしている………ダメだ」
異端の力。
本来人が持つべきではない力。
魔法や呪いなどの不可思議で超常的な力を飲み込み、取り込める者は取り込み、砕くものは砕く。
「それが竜の顎。ドラゴン・アギトなんだ。これが………竜の欠片の真価なんだ」
ドラゴンの矛先は魔導機にまで伸びようとしていた。空はとっさに自分の魔導機をガーランドたちとは別方向の壁にぶつける。ドラゴンは空の魔導機を喰らってしまう。
「抑え込め……抑え込め………頼むよ」
力が無くなっていく。
するとアベルとジュリ以外に空の両手に触れようとする感覚を確かに感じ、空の視線がふと自分の両手に移動する。光るような、亡霊のような手が複数個空に触れる。
「「「ドラゴンは空の力だ。空はドラゴンで、ドラゴンは空だ。自分の意識と力を別にしちゃ駄目だ。一緒なんだって気持ちが力をコントロールする事に繋がる」」」
一体何人の声だっただろう。
しかし、空にはそれを考える暇もなく自分の意識とドラゴンの意識を繋ぎとめるとドラゴンは大きな咆哮を上げながら緑星剣へと戻っていく。
空は安心したのか、それとも消耗しすぎたのかその場で倒れて意識を手放してしまった。
「「「世界を救って。(私達)(僕達)俺達の英雄」」」
シューターは勝てないと判断でき、逃げることを素早く考えた瞬間である。
デリアからの攻撃を回避するだけで精一杯で、勝てる見込みがないという事は理解できた。すると壁を通じて妙な力の波長のようなモノが見えた。
「今のは?」
デリアの攻撃の手が止まり、シューターが一気に距離をとって駆け出していく。その姿を見ていたのはレクターだけだった。
しかし、レクターの脳裏にあったのはシューターの正体だけだった。
「もしかして………獣人?そういえば、一年前に空が獣人族の子供を助けたことがあったような」
記憶の片隅にある断片的な記憶。
レクターもその場にいたはずなのだが、全くと言っていいほどに記憶にない。それもそうだろう。レクターがホテルにいる間に終った戦いだ。参加すらしなかったのなら記憶にないだろう。
しかし、レクターの終わった後に紹介された女の子の事を忘れていない。
それこそが獣人の女の子だったからだ。
その獣人の女の子が確かに言っていた言葉、「お姉ちゃんを探しています」と告げていたのが何故か気になった。
一年前。帝国にとって共和国と隣国に位置する小さな小国で起きた小さな争い。
乾いた大地と水の少ない土地は昔から帝国が周辺国を経由して物資を集めるのに使われてきた。
オーラルの都市サールナート。
この国では小さな土地ながら商業関連に強みがあり、皇帝一家とも強いつながりがある。そんなオーラルは共和国との戦いの余波をダイレクトに受けることになり、結果から見ればオーラル全体が戦争でおかしな経済状態へと移行していった。
共和国からの圧力が年々強くなり、オーラルの政界では共和国派と帝国派とで争いが続いていた。
そんな中、空達は毎年七月に行われる士官学校恒例の特務研修の日程がオーラルで組まれることになり、研修日程の最終日の二日首都で大規模でもが行われた。
オーラルでは共和国派が『亜人管理法』を強制可決させようと企んでおり、帝国派がそれに対して反発し、国会前では多くの人達が争いを見せようとしており、空達はその中で暗躍する亜人の販売をする闇市の管理人を追いかけており、それこそが士官学校が空達に出したお題であった。
帝国としてもこれ以上人種問題を引きずりたくない。という目論見もあったが同時に戦争で戦力を消耗している現状では戦力を振り分けられない。
そこで士官学校の特務研修であった。
毎年七月に一週間かけて行われる研修は、必ず海外で行われいくつかの班に分けられ各地に分断される。
オーラルに振り分けられた班に出されたお題は『オーラル内で暗躍する闇市の内情を暴け』という内容だった。
空達の班が結果から見れば管理人を東の市場で確保するに至ったが、その際に見つけたのが獣人の女の子だった。
メイという名前の獣人の女の子。
空は目を覚ます。夢を見ていたような気がしたが、頭の奥脳が痛むような感覚を覚え、その度に瞼を瞑って又開くを繰り返す。そんな中、自分の後頭部に柔らかい感覚が自分の頭の奥から何かが伝わってくる。
この感覚は何だろう?という気持ちが思考を少しずつ上の方へと向けさせ、空の視界とジュリの視界がぶつかった瞬間、空の思考がある結論へとたどり着いた。
(そうかそうか。俺はジュリに膝枕をされているからジュリと目が合うんだな………膝枕!?何故そんなことに?)
興奮に動揺が混ざったような感情が空に急激な行動を呼びかける。
しかし、起き上がろうとした所で空自身はまるで揺れる床に立っているような感覚が襲い掛かる。
そして再びジュリの膝へと帰っていく。
「俺……寝てた?」
「うん。一時間ほど。今夕方」
そう言われても窓の無いこの廊下では夕方なのかどうかが分からない。
全身に力が入らず、首だけを右に動かすと会場の広場が見えてきて、ガーランドやアベルが地下への道に部隊を送り込んでいる姿と空のすぐそばに緑色の鎧が鎮座しているのが見えた。
「爆弾の設置は?」
「止めたって。敵が同じことを考えているのならやっても意味はないだろうって。今は地下から人質のいる場所までたどり着けないかどうか探っているところ」
「そうか………レクター達は?」
「協力してるよ。ここにいるのは私と空君だけ」
体が動かない。
辛く、どこか息苦しさを覚えるのは自分が予想以上に疲弊しているからだ。
「さっきのドラゴンが現れたとき、俺の手に誰かが触れなかったか?」
「?ううん。私とアベルさん以外に触れていなかったよ」
あの時感じた感覚は単純な勘違いなのか、それとも空自身が作り出した妄想だったのか。しかし、あの声には自分は聞き覚えがあるような気がすると思った所でふと分かる。
あれは三十九人の一部だったのではないか?っと。
(それなら……もう)
空の中で嫌な予感が鋭い稲妻のような感覚が走り、諦めそうになる。
(まだ決まったわけじゃない。まだ………諦める時じゃない)
空が再び目を瞑った時、南区の戦いは静かに東区へと移ろうとしていた。
どうでしたか?次は18時にお会いしましょう。




