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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
26/156

南区攻防戦 4

南区攻防戦四話目になります。

 旧市街地の中に存在するそのドーム状の建物は、帝国式の白煉瓦で外壁が作られており、中は白煉瓦で作られているとは思えないほど近代的な内装をしている。

 名称『南区特別会場』であり、中は三階建ての建物になっており、その上にドームの屋根が見える。

 会場の中心は野球場ぐらいの大きさをほこり、それ以外の部分でも食堂から休憩室などが完備されている。

 内装は五年前にリフォームされたらしく、近隣住民から「避難所としては心もとない」という意見が出たためだった。


 そんな会場の四つの出入り口の内西側の出入り口前まで問題なく近づくことが出来た五人。北側からは戦闘の音が聞こえてくる。


 警戒する空とは違いデリアは全くの無警戒でドアを無造作に開ける。

 ドアの開く音だけが周囲に響き、嫌な静けさが背筋を凍らせる。

 五人の歩く音が近くの地図の方へと近づいていき、ジュリとデリアの視線が地図の方に向く間、空とレクターとエリーが周囲へと警戒心を高める。


「中央にある広場の中にあるわね。問題はそこに入ってからだけど……」

「仕方ありません。入ってから考えましょう」


 五人が中央広場まで一緒に行動している最中に広場の方から複数人の声が聞えてきた。

 デリアが珍しく真面目な表情を空とレクターの方に向け、空はエリーとジュリの方へとジェスチャーで「下がっていろ」っと告げた。

 中央広場の中では地下への入り口を十人ほどの男達が開けようとしており、その男たちの来ている服が軍服だという事もなんとなく理解できた。


「どっちだと思う?」


 レクターの問いにデリアもすぐには答えられずにいると空の視線には一人の()()()姿()が映った。

「ブラック・ナイト!?もがっ!?」

「大きな声を出さない」


 エリーが後ろから手を当てて空の大声を遮る。


「声大きいわよ」

「ほふひてあいふふぁほほに!?(どうしてあいつがここに!?)」

「生きてるって予想してたのは空君じゃなかった?」

「あれが分かるのか?」


 空の言葉が分かるジュリにレクターは思わず突っ込む。


「お前達声が大きいぞ。忍び込んでいる自覚があるのか?」

「あるふぁ!(あるわ!)」


 空が口をふさがれながら後ろを向くとアベルとガーランドを含めた十五人余りが武装を背負いながら現れた。

 デリア以外のメンバーが驚きの声を上げそうになるが、ジュリが後ろにいる兵士たちの中にスーツケース型の爆弾を持っている者達がいることに気が付き、咄嗟に広場の者達を見る。


「もしかしてあの人たちは爆弾を使って地下水道を破壊しようとしているんじゃ?」

「ならあの連中は革新派という事になるわね」


 デリアの一声に反応したようにアベルとガーランドの視線は中央人場まで見えるドアの浮間へと向き、隙間から奥をのぞき込む。


「考えることは一緒か」


 ガーランドは大剣を構えている。そんな状況をジュリは驚きと共に制止に入る。


「ちょ、ちょっと!待ってください。爆弾を持っているんですよ?この場で争うつもりですか?そんなことをすれば最悪建物を崩壊させかねませんよ?」


 ジュリの言う事も最もな意見だった。

 いくら内装がしっかりしていると言っても、爆弾を複数個を建物内で爆発させれば屋根ぐらいなら崩れかねない。


「最悪はそれでもかまわん。敵にこの場所を使われるわけにはいかない。我々第四勢力『中立派』としてはな」


 中立派という聞きなれない言葉に耳を傾けるガーランドはそれ以上は語るつもりも無いようで、ドアに手を掛ける。

 勢いよく開かれたドア。中央広場で戦闘音が響く中、空は見た。


「ブラック・ナイトが居ない!」


 そう言って右回りに走り出す空、ついて行くジュリに対し他の三人は逆方向へと走り出していく。

 空とジュリはちょうど中間地点でブラック・ナイトと接触することになった。


「考えたんだ。俺があんたの立場なら、俺達が覗いていると気が付いたらどうするかて。俺なら黙って出ていき回り込む」

「なるほど……しかし、あれだけの戦力を前に生き残りまだ戦えるとはな」


 ブラック・ナイトは剣を腰の位置に、剣先を空方へと向ける。空にはブラック・ナイトが何をしようとしているのかなんとなくわかった。

 試そうとしたことが今の所無いだけでできないと決めたわけじゃない。

 刺殺の束は地面に刺さなくても使うことが出来るのではないか?っと。

 お互いに沈黙が続き、空の後ろにいるジュリもごくりと生唾を飲み込む。

 嫌な汗が空の額から流れでて、一滴の汗が固い床にあたるとその瞬間にまるで空気をさすように剣を突き刺す。


「「刺殺の束!!」」


 剣先から大量の刃が出現すると二人の中心で衝突する。


 衝突した刃は砕け散り、お互いを飲み込もうと増え続けていくが、どんどん増えていく過程で廊下の容量では抱えきれなくなっていく。


 廊下の壁や床、天井ではヒビが広がっていき、空の握る剣も震えていく。

 中央広場への壁が破壊され、光が廊下を明るく照らしていく。



 皇帝陛下は聖竜までを繋ぐ唯一のエレベーターを降りていく。

 その表情は怒りを滲ませ、文句を言うべき相手へとぶつけようとしていた。

 チンという音と共にドアが開き薄暗い道をひたすら突き進む。大きなドアを自分の力で開くとその奥には聖竜がいつもの調子で眠っていた。


 しかし、皇帝には聖竜が狸寝入りしていることは分かり切っており、腰につけておいた短剣を握りしめ、それを聖竜の右腕に突き刺そうと振り下ろす。


「待て!」


 聖竜の目が力強く開き、左腕で制止する。


「どういうことか説明しろ!」

「何の話だ?」

「あの黒い騎士の事だ!貴様が関わっているのだろう?あれは刺殺の束を使ったぞ!あれは貴様と私を含めなければ皇族の一部の者しか知らないのだぞ!!」

「遺伝子の記憶をのぞき込めば把握は可能だ」

「遺伝子の記憶?なんなんだそれは?」


 皇帝の疑問に対し聖竜は大きく息を吐き出し起き上がる。どっしり立ち上がるその姿を見上げる皇帝。


「人の遺伝子の中には今までの命の記憶を断片的に重ねている。最もその辺に居る普通の人間の遺伝子を覗くことはできないだろう。しかし………例外がある」

「……魔導の力を祖先が使っていた場合は別?」

「その通り」


 そう言って聖竜は右手で一本の流れを作り出す。


「魔導の遺伝子は微かにだが代を重ねても残っていく。使えないが、除くことぐらいならできよう。最も呪術や魔導のような特別な力を持たなければ意味など無いが」


 一本の流れの中に色の違う流れが生まれ、聖竜が指に触れるとまるでそこから断片的な画像のようなモノが現れる。


「空はノーム家の記憶の中に入ることが出来た。最もこれは今までの竜の欠片の継承者の中でもあまり存在しなかったがな。特にあの少年は異様と言ってもいいだろう。記憶を覗くことが出来た者はいたが、入り込むことが出来たのはあの少年が初めてではないか?もちろんできないわけでは無いし、そう()()()()()()()()がな」

「書物に記述した?」


 皇帝は内心「なんだその言い方は?」っという気持ちを抱き、ゆっくりと口を開く。


「お前は何を知っているんだ?何をしているんだ?」

「………全てを知っている。これから起こることも、あの者達の同意の上で行動している。しかし、偶然だったとはいえようやく見つけたな」

「何を?」

「竜の欠片の真の継承者。袴着空は竜の欠片の力を百パーセント引き出すことが出来る人間だ」


(あの少年が?そう言われれば確かにあの少年は見様見真似で刺殺の束を使うことが出来た。しかし、聖竜の言葉……あの少年に何をさせようとしているんだ?)


 皇帝は一度俯きもう一度見上げると聖竜のまなこを見つめる。


「お前は何をさせるんだ。あんな少年に!」

「世界を救ってもらう。二つの世界を………あの少年は英雄になることが出来る」


 皇帝は聖竜のまっすぐな言葉に怒りをかすかに混ぜたような震えを見せる。


「お前は………お前はあの少年を何だと思っているんだ!?まだ十六歳になっていないような少年だぞ!」


 聖竜にぶつけられる言葉に聖竜は耐えていたが、歯ぎしりするような音共に聖竜もまるで耐え切れない気持ちを吐き出す。


「分かっている!!しかし、これしか方法が無いのだ!二つの世界が終わる瀬戸際まで来ているんだ!どちらの世界を犠牲にしても、もう一方の世界は衰退する!二つの世界を同時に救うしか道がない!その為にはあの少年が英雄になるしかないんだ!」


「だが!それを事前に阻止するためのお前では無かったのか!?」


「私がのぞいた時にはもう手遅れだったんだ!遅かったんだ……」


 聖竜がションボリする姿を見て皇帝も怒りを鎮めていく。


「これしかないのだ。三十九人も同意のうえでの行動だ……あの少年が英雄になった時、世界は救われる」



 ガーランドが大剣を振り下ろし、アベルが二人を薙ぎ払って切り殺す。周囲はクーデター派の死体の山が出来ている。


「ふん。これで終わりか?だらしない」


 ガーランドが不満げにしていると建物全体が大きく揺れているのが分かった。北側と南側から戦闘音が聞こえてくるのが見て取れ、特南側の揺れは尋常ではない。

 衝突音と大きく揺れる音、そして唐突に破られる南側の壁とそこから姿を現す空とブラック・ナイト、空の後方にはジュリが空を支えている。

 見るからに空が押されており、今にも空側が飲み込まれそうになっている。アベルとガーランドの部下の一人が銃口をブラック・ナイトの方へと向けるが、ブラック・ナイトは小声で「ラウンズ」と呟き、騎士人形を二十騎ほど呼び出す。


「邪魔させないつもりか」


 ガーランドが五騎ほど相手をしているとアベルが大きな声を上げる。


「ガーランド任せてもいいか?」

「………好きにしろ!」


 薙ぎ払い、蹴り飛ばし、大量の騎士人形を相手にしていると、アベルは敵の目がガーランドに向いている間に空の方へと近づいていく。

 空の手にそっと触れるアベル、ジュリも同じように空の手に触れる。


「一度頭を空にしろ。前に言ったはずだ。イメージが力なんだと。それはその力《竜の欠片》とて変わらん」


 目の前に周囲の瓦礫で作った壁が現れ、押される剣の力がアベルの力で受け止められる。


「私達が時間を稼ぐから空君はイメージを」


 焦る心を空にして、頭の中でイメージを再構築し始める。二人の温もりが力に変わる様に全てを飲み込もうとする。


(力を貸してくれ!)


 空の心の叫びをまるで聞き届けたかのように頭の中で聞いたことがるような、無いような声が聞えた。


『我は汝。汝は我。ようやく出会えたな真なる継承者よ。イメージせよ。獰猛なる竜を。全てを喰らう強固な顎を。叫べ!』


 空は叫ぶ。


竜の顎(ドラゴン・アギト)!!」


 空の鎧のマスク越しにもよく分かるほど大きな竜が剣の根元から現れる。ブラック・ナイトの刺殺の束を飲み込んで行く。



どうでしたか?次は十二時にお会いしましょう。

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