手掛かり 2
本日二話目です。最後にヒロインがまた一人登場です。
戦いが始まって以降、下手に戦いに参加しなかったエリーがここで動く。
魔導弓と呼ばれる弓の弦を大きく引き、光の矢を出現させると同時に最大まで引き絞ると狙いを定める。ブラック・ナイトの右足の膝目掛けて矢を放つ。
細く狙い定まった攻撃は勢いよくブラック・ナイトの方へと向かって突き進む。しかし、同時にブラック・ナイトも攻撃に気が付いて一歩引こうとするがそれこそがエリーの狙いであることにも気が付いてしまう。
空もエリーが沈黙を破った狙いが分かった。
エリーはブラック・ナイトを倒すには自分の力では不足していると自覚した。しかし、かといって突っ込んだり何度も攻撃を加えればブラック・ナイトが自分に標的を変えることは必然だった。しかし、この状況でこちらの戦力を下手に減らせないエリーは伺いながら、ブラック・ナイトの集中が完全に空に向くタイミングを待っていた。
今ブラック・ナイトの集中は空へと向き、空もブラック・ナイトの隙を伺っている。この段階でうまく攻撃への隙を作れば活路が見いだせると判断したゆえである。
空は大きく跳躍し、敵の懐まで入っていく。
敵が何者であれ空にとって三十九人に繋がるのなら躊躇する理由は無かった。
縦攻撃を中心に構成された中伝以降に習得可能の技(中伝以降からは技名が付く)を繰り出した。斬撃技は風竜から、突き技は水竜から、打撃技は土竜からなどそれぞれの竜から名がつけられている。
縦三連斬撃技『エアロブレイク・スラッシュ』をブラック・ナイトへと向ける。
二撃までは剣の側面で受け止めたが、三撃目で剣が折れてしまい、攻撃する手段を失ってしまう。
しかし、ブラック・ナイトはいたって冷静に立ち振る舞い、折れた剣を持ちながら二歩後方に下がる。すると、その行動を引き金にしたかのように周囲へとスモッグ弾が放り投げられる。
結果から見ればブラック・ナイトの行動を引き金にしたわけでは無かった。アベルとガーランドが皇帝までたどり着いてしまったことが原因だった。
敵は冷静に対処し、撤退を決めた。
視界を完全にふさぐほどのスモッグに空は素早くエリーの元へと急ぐ、急いで追いたいという気持ちを抑え、レクターはレイハイムの元へと駆け寄り防御状態を維持すると、敵の車が新たに現れた軍用車と共に現場を離れていく姿を一瞬映し再び消えてなくなった。
周囲から武器を持ったシルエットが完全に消え、同時に増援が合われたタイミングでガーランドがガトリングを装備した軍用車の荷台の乗り込み、アベルは空のバイクにまたがると追撃に入った。
視界が晴れていき少しづつ状況が見えてくる中、空とレクターの視界は駅の中へと入っていく怪しげな二人組へと向いた。
白いロングコートを羽織って逃げていくその影を空とレクターが追いかけ始める。
「ああ!?もう!ジュリ。レイをお願い。私は二人を追いかけるわ」
「気を付けてね!危ないことは絶対にしないで!」
「確約はできないけどね」
鎧を着た男と両手両足に魔導機を付けた男が走ってくれば民衆を道を開けるしかないだろう。その間を縫う形で一緒について行きたくなかったが、二人が何を見たのか、それにこの争いを放っておけないというのがエリーの真意でもあった。
「一士官学生としても放っておけないしね。『士官学生として世の為になれ』がモットーだし」
士官学生として世の為になれ。
世の中に役立つ人物を育成することが目的の士官学校は様々な進路が用意されている。卒業していった人達の中には海外で活躍する人物も多い。
そんなモットーを胸に来ており、エリーやレクターや空も嫌というほど聞かされてきた。
駅の中を駆けまわっていき、区画毎への移動に使われる区画列車のある上方へと移動していく。
階段を昇りながらエリーはある事を思い出す。
「そういえば空の尊敬する人って空の目指す環境保安官何だっけ?」
そう思う中エリーは逃げ出す乗客にまぎれて停車してある列車の二号車に乗り込む空とレクターを追うように列車のドアが閉まる前に駆け込む。
息を整える間に空とレクターは一号車の方から歩いてくるシューターとブラック・ナイトの方を睨みつける。
「あんた達は列車を動かしたの?」
エリーの疑問にシューターが楽しくうなずく。
「まあね。これ以上増援が来られても困るし……っていうかこんなにのんびりしていて良いの?さっきの奴らに心当たりがないわけ?」
言っている意味を図りかねていた空達であるが、ブラック・ナイトはどこか馬鹿にしたような態度で言ってのけた。
「軍人を押さえることが出来るのは同じ軍ぐらいだと思わないのか?ある程度は分かっていたのではないか?今回の行動が軍のクーデターだという事に」
だからどうしたという疑問が空達三人の脳裏によぎるが、空とエリーだけが自分達の身に置かれた状況に恐怖した。まるでそれを物語るように東区画の方から火の手が上がってくる。
「しまった!東区画は軍の本部の一部が置かれている。クーデターの本拠地なのか!?」
「このままいけば敵の本拠地に突っ込んでいくのと一緒よ!」
飛び降りるべきかどうかで悩んでいると、空は正面の運転席の窓の奥に人が見えた気がし、それを細めで見ていると空は驚愕と恐怖の感情を抱く。
全員が全く同じ方向を見た瞬間、空が大きな声でレクターとエリーに怒号を飛ばす。
「飛び出せ!!脱線するぞ!!」
空はエリーの腰を山賊持ちで抱えながら、緑星剣で窓ガラスを破壊し飛び出す。それより早くレクターが列車のドアを破壊して逃げ出す。その五秒後に列車は衝突音と爆発音が同時に鳴り響き、脱線した列車が東区の方へと落ちていく。
大騒ぎになってく中、空は大きなため息を吐き出しながら脱線させた張本人の方へと視線を向ける。
どこかのグラビアモデルでもしているのでは?っと思わせるほどのスタイルの良さが服の上からでもわかるほど美貌。長い赤髪を強引にまとめ上げ、整った顔立ちとそれ以上に凶暴な視線が空の視線と完全に合う。
(このやり方さえなかったら本気で尊敬できるんだけどな)
この人こそ空がある意味環境保安官として尊敬しつつも畏怖している存在である。
「来てたんですか?デリアさん」
「久しぶりね空君」
残忍な表情を浮かべながら近づいてくる『デリア・フォン・ヒュウチャン』はグレネードランチャー一体型ハルバートを抱えてやってくる。
後ろからエリーが誰に文句を言えばいいのかという表情で空達をにらみ、レクターはこの状況を面白く思ったのか爆笑中である。
しかし、落ち着いてもいられない士官学生なら一度は聞いたことのあるプロペラ音が聞えてきた。
デリアの凶暴な視線は音の主へと向く。
「軍が二週間前に完成させたばかりの試作品をこんなクーデターに投入するとはね。確か名前は………『デスブリンガー』だっけ?」
軍用ヘリコプターにしては少々大型になっており、両左右に付いた機関銃にミサイルやそれ以外にもおかしな装備が見えている。
「あんた達戦う準備はできてる?まあ、できていなくても戦わなくちゃいけないけど。逃げるならそこから飛び降りなさい」
「こんな高さから飛び降りて無事なのはあなたみたいな化け物だけですよデリアさん」
全員が武器を構える中二か所で戦いが始まろうとしていた。
息を潜めながらマントに身を隠し、物置のような場所で隠れている一人の女性は恐怖心と戦っていた。
身に付け対象はどこか高貴さを醸し出し、綺麗な黒髪と幼い顔立ちは背丈と相まってどこか可愛らしく見える。しかし、彼女の表情は曇り、恐怖を隠すように物陰に隠れるだけ。
彼女の名前は皇族第三皇女『レイナ・イグバード』であり、帝城から逃げ出して東区を楽しんで回っていた際の出来事であった。
帝国が管理する最重要危険管理区画へと忍び込んだのは偶然だった。しかし、その際に謎の武装集団が施設に入っていくのを見てしまい。ついて行ってしまったのが間違いだったと内心思う。
「しかし。本当にこんな所に管理されているのか?」
「間違いない。ここにある。帝国が一番恐れている呪術兵器がな」
二人の兵士らしき人物が話をしながら部屋を見て回る中、彼女は恐怖でおかしくなりそうだった。
「助けて………誰か…」
彼女は祈ることしかできない。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。後半戦に入っていきましたね。ここからものすごいスピードで結末へと進んで行きます。




