手掛かり 1
本日一話目になります!
目の前にいる存在に疑問を抱き、緑星剣を掌に嫌な汗をかき始める。しかし、そんなことは敵にはまるで関係ない。
ブラック・ナイトは右足に力を籠め跳躍し一気に距離を縮める。
対して空はカウンターの構えをとり、横なぎに振るわれる剣を紙一重で回避、そのまま反撃の一撃をしたからお見舞いした。
しかし、それをブラック・ナイトは左腕だけで攻撃方向を強引に曲げて見せた。
緑星剣が空を切り、お互いに再び距離をとる。
再び剣を握り直し跳躍するまでの間の時間が約五秒、空の剣とブラック・ナイトの剣刈火花を散らして至近距離で目と目が合うような時間が流れ、ブラック・ナイトの剣が淡い光を放ち、コンクリートで固められているはずの舗装道路に剣を突き刺すブラックナイト。突き刺さった部分から空の足元付近まで光がフィールドのように広がり、その部分から空の方へと剣の束が突き出してきた。
驚きと共に空の体が膠着し、その零コンマ五秒で空の体に恐ろしいまでの衝撃を襲い受ける。
「がぁ!?」
しかし、驚いたのは他の大勢もであるが、それ以上に衝撃を受けたのは皇帝陛下自身だった。
目を大きく見開き、目の前で起きたその衝撃的な光景をまじまじと記憶する。
「あれは………『刺殺の束』!?どうして君がそれを扱えるんだ!?それを使う事が出来るのは竜の欠片の保持者だけだ!」
皇帝の悲鳴のような声がブラック・ナイトの耳にも届いたのか顔だけを皇帝の方へと向ける。しかし、向けるだけ。
皇帝に近づいていくアベルとガーランドは同時にブラック・ナイトの方を見るが、やはりさほど気にした様子もない。
しかし、空自身も驚きながら、ダメージを受けながらもゆっくりと立ち上がり、よろめきながら立ち上がる。
体に思ったほどダメージが無かったのは鎧が守ってくれたからだと判断できた。
同時に皇帝の言葉をちゃんと聞いていた空は、自分にできるのかもしれないという思考が脳裏をよぎり、どうすればできるのかを考え意識を剣の方へと集中させる。
すると緑星剣も同じ淡い光を放ち始め、空はそのまま地面に突き刺す。
「刺殺の束!!」
今度はブラック・ナイトが襲われる番であった。
夥しいまでの剣の束はブラック・ナイトの体を数メートル吹き飛ばして見せ、剣を引き抜くと空は走り出す。しかし、その足を止めてしまう光景がそこにはあった。
お守りと書かれた小袋が空の視界に入ったからだ。
心臓の高鳴り、動揺が目を泳がせ、身体がまるでセメントで固められたかのような錯覚を与える。
この世界に宗教と呼ばれるようなモノは存在しない。お守りも同じである。少なくともガイノス帝国では聞いたことは無い。
しかし、空の動揺は其処では無かった。
「その………お守りは」
手作り感溢れる小袋。手縫いで作られており『お守り』と書かれている札もどこか手書きにも見える。
何よりそれを見たときの風景が今でもはっきりと思い出せる。
空が三年前、西暦世界でのことである。
林間学校最初の夜。空は宿を抜け出し近くの丘の上まで来ており、一人で夜空を眺める為横になり、溢れんばかりの星空を眺めながらほんの数か月前の事を考えていた。
中学に入学する前、空はある理由から学校の近くにあった剣道道場を辞めてしまった事を多少なりは後悔していたし、しかしそれ以外に方法があったとは思っていない。
一個下の後輩で在り空にとっては幼馴染と言ってもいい少年に試合を申し込まれた。
空は………逃げた。
負けるのが怖かった。我流を貫き通す空の戦い方では反則負けしかできない気がしたから。そして、それはその少年の願いに反する戦いになる。唆され戦うことになった少年のプライドを尊重し、何より恐怖に打ち勝てなかった己の未熟さを呪いたくなった。
この夜空を見ている間だけは忘れていられる気がする。
すると草木を踏む音が聞こえてくると空は体を起こし視線を正面に向ける。一本道の奥から一人の女性が歩いてくる姿だけが見えるが、その姿シルエットで良くは見えず。辛うじて女性としか判断がつかない。
最悪はこの場から素早く離脱しベットまで走るしかないと両足に力を籠め、草木に隠れるように身をかがみ、クラウチングスタイルで待機すると、どこか呑気そうな声が聞えてきた。
声というか歌声のような鼻声が聞こえてくる。
「♪~~♪」
薄目になりながらその姿を見るとそれは少しづつ近づいてくるそのシルエットが自分の同級生である堆虎だと判断できると、空は警戒心を落としながら立ち上がる。
堆虎は鼻歌を急遽止め驚きと共に空の方へと振り返ってそのまま座り込んでしまう。
どうやら腰を抜かしてしまったらしく、その場から動こうとしない。空は堆虎の隣に座り同じように夜空を眺める。
堆虎は頬を膨らませどこか不満げにしながら空の方を眺める。
「先に居たのなら言っておいてほしかった」
「教師が来たのかと思って警戒したんだよ。就寝時間にこんなところでフラフラしていることがばれたら大変だし」
そんなことを言いながら再び寝っ転がり夜空を眺め、堆虎も同じような体勢で倒れる。
視界いっぱいに広がる星空に耽美の声を漏らし、うっとり見つめる堆虎。堆虎の方をちらりと見ると右腕の所で何かが巻かれていることに気が付いた。空はそれに手を伸ばす。
「?ああこれ?お守り。お母さんが小さい頃に作ってくれて、無事に帰ってきてくれますようにって」
空は微笑む。
「優しいお母さんなんだな」
「うん」
二人はその場で微笑み合い再び夜空へと視線を向ける。
一つの流れ星が流れていく中堆虎が願いごとを口にする。
「またこの夜空を一緒に見れますように」
空も同じことを心の中で願った。
その時に見た手作りのお守り、多少汚れが見えるが見間違うはずもなく空は跳躍しながらそのお守りを手に入れようと手を伸ばす。しかし、ブラック・ナイトの動きの方が速く後ろに跳躍しながら距離をとり、剣を抜く。
刺殺の束は攻撃範囲の大きさに見合うだけの攻撃までの時間が難点、至近距離に近づかれてはさすがに迂闊に行動できない。
体五個分ほどの距離が開き、どうするか次の一手を考えているとレクターとシューター戦が予想もつかない方向へと向かおうとしていた。
最初に有利に戦いを運んだのは数で勝っているレクターとレイハイムであった。しかし、開始三十秒で状況が素早く変化する。
レクターがシューターにかく乱を行い、その間にレイハイムが適度に攻撃を加えていく。しかし、三十秒も経過すれば敵も状況になれてしまい、レイハイムの動きを読むようになった。だからだろう。うまくレイハイムを噴水前まで誘導し、噴水を回し蹴りで破壊した。
その行動に驚きを隠せず、目を開くような驚きがあったが、敵の狙いは其処では無く、破壊した破片が飛んでいく先であった。小さな子供が泣きながらその場から動こうとしない。
正確には動けずにおり。
レイハイムは子供を抱きしめ破片から身を守るが、同時に頭から血を流し戦線から離脱せざる終えなくなる。
シューターからすれば一対一に持ち込めた時点で勝てると判断したが、レクターの実力は一対一でこそ発揮される。
その上レクターは魔導機の使い方が少々おかしい。
魔導機は本来一人につき一つ、しかしナックルのように左右で一つのような魔導機は例外とされており、二つの魔導機を同時に扱う為いつも以上に頭を使うことになる。左右異なる魔導機を頭でコントロールしなければならない難しさは例えようがないらしい。最もなれたらそうでもないらしく、むしろ扱いやすくなるらしいが、空自身はあまり味わったことは無い。
ゆえに慣れるまでが難しいナックルを使っているだけでも難易度は高いのに、レクターは靴にも魔導機を仕込んでいる。
四つの魔導機を同時に扱うレクターの戦闘能力は並外れた才能がある。
レクターは同学年での戦闘能力だけを図れば間違いなく一位であり、夏に行われる大会でも去年の決勝戦リタイヤ(直前でアイスを食べ過ぎて腹を壊したのが原因)を覗けば中等部は二連覇を果たしており、頭が悪いだけで戦闘能力でいえば空以上である。
それがシューターにとっての予想外であり、コンビネーションやチームワームが苦手とするレクターにとってむしろ一人になればなるほど強くなる戦い方はシューターを再び追い詰められていった。
両手両足を扱うレクターの連撃を捌くだけで精一杯で、反撃何てもってのほかである。
レクターの右腕のストレートを掻い潜り懐に入り込んで鳩尾へと拳を叩き込もうとするが、レクターはそれを読み右足で攻撃を弾く。そのまま右足でシューターの左側頭部目掛けて回し蹴りをお見舞いする。
「ぐぅ……!」
辛うじて左腕で受け止めるが、左腕が痺れてきて息を大きく漏らしてしまう。
そんなときだった空とブラック・ナイトの戦いで変化が起き、二度にわたる攻撃によって周囲が緊迫した状況であった。そんなときである沈黙を守っていたエリーが動き始めた。
どうでしたか?面白かったと言っていただけたら幸いです。少しづつ良くなっていければいいなと思いながら新作を書いています!では次回!




