戦争終結
LINEノベルの方でも書いていた本作をこちらにも掲載することにしました。とりあえず三話ほど連続で掲載します。
西暦2015年の5月に行われた林間学校でのオリエンテーション。その帰り道で起きた一クラス40人が失踪した事件は後に『神隠し事件』と名付けられることになる。
事件の被害者の一人である少年は皇光歴と呼ばれる世界に訪れる。
魔導機。皇光歴1200年頃にガイノス帝国が開発した超常兵器。竜の亡骸からとれる『竜結晶』と呼ばれる結晶を鉱山などの奥地に埋めると、周囲の土や鉱石、岩を『魔石』と呼ばれる力を発する鉱石に変える。
これを開発した裏には、共和国樹立とその裏に存在した呪術と呼ばれる別の兵器を開発したからだ。
後に禁忌とされる兵器。
犠牲を代償とする最大の兵器。
精神を、肉体を、周囲の命を犠牲にする兵器を人類は作り出し、それに対抗する為に魔導兵器を作り出した。
魔導機の特徴は大きく分けて二つ。
一つ、魔石が発する微弱な粒子が周囲の物質などに付着し、形状を変化させる。土や水や風を操る力を得る。
二つ、魔石の力を肉体に宿し、一時的に強化する術。壁を駆け上り、地面を高速で移動し、本来なら出来ない事を可能にする。
しかし、両方を同時に行う事は人間にはできない。
完成された兵器はすぐさまに実戦配備され、共和国などの戦いに配備された。
それから800年。
共和国との戦争は共和国首都攻防戦へと移り変わろうとしていた。
先ほどから見たことがあるような光景が続く中、袴着空はうんざりするような気持ちを抱きながら階段を昇る。昇り切った先、清潔さを売りにしているかのような真っ白な壁に、戦いで痛々しくも刻まれた傷痕、血が白い壁に染み付き、炎が煙とかす。
ここはガイノス帝国が攻め込んでいた共和国首都である。
正確には『元首都』という言葉が正しく、現在はガイノス帝国の支配下に置かれており、壁についている血もほとんどは黒く変色してしまっている。
そういう意味では、空はまだましな状況でこの場所に降り立ったと言ってもいいだろう。
最も、空の目的は戦う事ではなく、自分と同じようにこの世界にやってきているはずの元同級生、三十九人を探すために元戦地にやってきていた。
『こちらチームオルディス!エリア三十二地区にて残存勢力の抵抗にあっている。応援を要求する』
空にとってこの世界では父親代わりになっているアベル、そんなアベルから非常時に戦局が最低限でも分かる様にと渡された通信機。耳にフィットしつつ、存在感を感じさせないデザイン。それゆえに唐突に聞こえてくる声には驚きしかない。
驚きながら四層と共和国後で書かれた看板前、左右に目を配り、三層とほとんど同じデザインだけにまるで………
「気味が悪い。デザインや色彩すら同じなんだもん。昇ってきた感覚が無いんだよな」
空の素直な反応にはきっと誰もが同意する。
清潔さを追い求めてしまったあまりに、不気味さまでもが演出されているような気がする。
「ここにもいなかったら………手がかり何てもう」
どこにも存在しない。
ここが最後の手がかりだった。
空はガイノス帝国立士官学校高等部の濃い藍色のブレザー、チェック柄のズボンをはきながら、靴は動きやすいように運動靴を履いている。
空の後ろから護衛用の兵士が息を切らせながら階段を昇り切った。
「ハァ………ハァ……そんなに…急がなくても」
「俺そんなに急いで無いんですけど。あなた……士官学校を卒業したんですよね」
兵士は息を整えながらゆっくりとしゃべりだす。
「帝国兵と言っても大きく分けて二つある。一つが士官学校卒業生。もう一つが志願兵さ」
「じゃあ、あなたは志願兵?」
「そう、なりたくてなったわけじゃない。父さんから「帝国男児なら志願しろっていうから」
そこまで口にした所で、複数の軍靴がコンクリートを擦る振動が空の右腕に取り付けられた魔導機が反応した。
「そこからどけ!」
少なくとも目の前の兵士には理解できなかった。
無理もない。魔導機をまともに与えられてもいない一般兵には、その言葉を誓いすることもできない。
空は物陰に身を低くしながら右の掌に意識を集中する。
魔導機は脳でイメージし、それを周囲に存在する物質で再現する。逆に言えば周囲に再現する物質が存在しない場合は……魔導機はただのアクセサリーに成り下がる。
空が脳裏にイメージしたのは球体の風。それを素早く、衝撃は少なく飛ばす。
「うわぁ!?」
風は兵士を吹き飛ばすが、同時に鮮血が飛び散る。
空は物陰越しに相手の場所、人数を確認する。
「地面の振動越しに……一人だけ。残党兵ってところか」
壁の向こう側に見えない風の槍を形成する。形は矢のように細く、弾丸のように貫通する槍。
それを残党兵に向けて容赦なく放つ。
「うがぁ!」
残党兵の真っ白な兵士服が、体中が真っ赤な血で染め上げられる。
「………俺は……何を」
人の死に全く態勢の無い空にとって咄嗟に取った行動、誰かの身を守る為に誰かを殺す。そんな矛盾した考え方についていけるはずがない。
空は異世界にやって来ただけのただの高校生である。
本来であればこの世界に居るべき人間ではない。戦いの知らない平和な国で、戦いの知らない世界で生きてきた。
空はとっさに脳裏によぎった思考を端において置き、倒れた帝国兵へと駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
帝国兵は黙って何度もうなずいて見せる。空は魔導機で帝国兵の細胞を再生しながら最低限の治療に入っていく。
(これ以上は無理だ)
空にはこれ以上の戦場の空気が耐えられなかった。
「また………俺は逃げるのか?」
自問自答。
三十九人を探すと言いながら、自分は心地よい場所をへと逃げているのではないか?という疑問。
魔導機が不気味な光を放っている事に誰も気が付かず、空の事を黒い騎士がたった一人で見つめていた。
皇光歴2034年4月10日の出来事である。
神隠し事件と後に呼ばれる事件をきっかけに二つの世界を超えた問題が起ころうとしていた。
空はまだ知らない。
自分がこの事件の中心人物であるとは、誰も知らない。
どう出だったでしぃうか?見やすいように一話を多少短めに区切ることにしました。基本はLINEノベルに掲載しているままです。このままお楽しみにしていてください!