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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
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心の難しさ 2

本日二話目。ちょっと長めの話ですが、基本は空とジュリののろけ話だと思っていただけたら……

 バイクに乗って移動していると、やってくる風をバイクがある程度受け流してくれるとはいえ寒い。

 後ろで空の体に手を回し、バイクから振り下ろされないように人一倍力を籠めるジュリは寒さには多少無縁のように見える。

 空もジュリの体の温もりを感じ、少しではあるが恥ずかしさが込み上げてくるのは確かで、少しでも油断すると転倒しそうになる。


 最もこのバイクの性能で転倒する方が難しいのだが。


 空達は本来なら警察や軍の事情聴取を受けるべきなのだろうが、アベルが「うまくいっておくからお前たちは素早くこの場を立ち去れ」というありがたい言葉を受け、逃げることにした。

 まあ、事情聴取だけで休日がつぶれてしまう可能性を考えていた空やジュリからすればちょうどいい状況だったのは確かで、しかしそれをしてもいいのかどうかで若干罪悪感が襲い掛かる。

 しかし、アベルにしつこく言われれば断ることもできず、多少の罪悪感に襲われながらも図書館への道を爆進する。実際は法的速度を守りながらの運転を心がける空と、それを眺めながら安心して体を預けるジュリの姿が有った。


 しかし、空の脳内にはなぜジュリは休日にも制服を着ているのだろうかっという事だけだった。


 事件現場からバイクでメインストリートを横断する形で西区方面に走らせ、南区大型図書館の前へと十分かけて進む。

 『ヴェリル通り』と書かれた看板の正面に大きな玄関ロビーを構えた図書館。三階建ての古い建物のように見え、中はリフォームしているのかかなり綺麗に見える。

 古さと新しさが混ざった外見に空は目を細め太陽の輝きと、明るく照らすシャンデリアの明かりを体一杯に受けながら一階右端の席に座る。

 木とクッションでできた椅子に座り、木でできたテーブルに勉強道具を一式を並べ、歴史の参考書に書かれている『竜人戦争りゅうじんせんそう』という項目から始まり、帝国史において重要な案件だけを追いかけるような速度で片づけ、『貴族内紛』の項目で一旦ストップする。


「帝国辺境の地で起きた革命とか、レノール砂漠で実際に起きた地竜の暴走とかなんでその辺の世界史以上にめんどくさいんだよ。下手をすると向こうの世界史よりめんどくさい」


 土地が大きい帝国では周辺諸国からの侵攻の項目だけを抜粋しても日本史クラスの内容を誇り、それ以外の項目を入れると世界史レベルに達する。

 空は内心「めんどくさい」っと思いながらも急いで重要な項目だけを頭の中に叩き込む。

 帝国史の重厚さに目を回しながらもそれをきっちり記憶しているジュリの脳みそに戦慄を覚える空、それを参考書を見ずともいえることに普通にとらえているジュリという変わった構図を周囲の人間がどう見ているのだろうかっと空が不安に思うが、周囲は別段何とも思っていないようで、無視しながら本を読んだり勉強に精を出している者までいる。


 不意にノートに書いた『貴族内紛』に名前に手を止め考え込んでしまう。


「貴族内紛………か」

「え?貴族内紛がどうかした?」


(ジュリは知っているのだろうか?貴族内紛の切っ掛けやノーム家の堕落の理由。聖竜が竜の欠片を回収したかったことなど。そういえば、ジュリは竜の欠片を知っていたんだよな?)


 参考書の項目をチェックしながらチラチラっと空の方を見ることを空自身が不振に思わない時間が進み、口が勝手に開いたように尋ねていた。


「なあ、ジュリはヘーラ・ノームって女性がどんな女性だったと思う?」


 ジュリはペンを掌で弄びながら一分ほど悩み、窓の外の風景の先を通り目をしながら眺める。


「私が調べたときは『凛としていて、同時に周囲に流されやすい人』って聞いたな。落ち着いているようで、周囲の意見に影響されやすくて、それがきっかけで貴族派のリーダーに祭り上げられた人。そういう意味じゃ私の中ではノーム家って少し可哀そうな人ってイメージが強くて」

「ひょっとしてテラに対して文句を言わなかったり、テラを助けるようにって言ったのもそれが理由?」

「う~ん………どうなんだろ。可哀そうな人達ってイメージは確かにあって、でもだからと言ってテラを許しているわけじゃないの………かな?」


 空は内心難儀な性格をしていると思う一方で、ジュリの言いたいことを完全に理解できないわけでは無い。

 優しいという事は理不尽な暴力に対しても許してしまう危うさがあるが、ジュリは決してすべての暴力許しているわけでは無い。テラが暴れる理由、進級できなかった事へのストレスや家柄ゆえの貧乏生活。元貴族として教えられながらも周囲から感じる不満。決してその全てにテラが理由なのではない。


 政府の考え方や祖先の行動も要因になっているストレス。


 テラの不満の原因を決してすべて許すわけでは無いが、一部に関しては許してもいい。ジュリは同情する環境下にテラが居るのも事実だと考えているのだろう。

 そして、それ自体は空とて多少は理解しているつもりだし、前ほどテラの行動に不満を持っているわけでも無い。しかし………。


 それでも空はテラを許すことが出来ない。


「多分。その人、その人に同情するわけじゃないけど、事情を鑑みると一方的に憎めないだけかな。まあ、私以外が殴られたら少し違うのかもしれないけど」


 照れくさそうに言ってのけるジュリの姿を微笑ましく思う一方で、ジュリは他人が殴られても心のどこかでブレーキを掛けそうな気がしてならない空である。


「俺は………分からないんだ」


 真上にある太陽がギリギリ見え、太陽に目を細める。


「許したくないという気持ちと、ノーム家に同情する気持ちがせめぎ合ってる。俺はテラを絶対に許せない。でも、ノーム家には同情する。同時に、俺は竜の欠片の継承者としてノーム家のようにはなりたくない」


 結局、自分の事なのに自分が良く分かっていないというのが事実で、空は自分がここにいる理由、聖竜が告げた「ここに来たのは()()()()()()」という言葉の意味を知りたいだけだった。しかし、同時に『竜の欠片』の事も知りたいと心の片隅では思っている。

 難しいもので、心というのは複数の想いを抱えることが出来る。


「俺は俺がこの世界に来た理由が知りたい。竜の欠片の事も知りたい」


 本心に違いない言葉をジュリは受け取るが、ジュリとしてはどこまで話していい物かどうかと悩む。

 実際ジュリ自身全てを把握しているわけでは無く、どこまで話したらいいものかどうかという悩み。同時に空自身が自分の意思で気づくことに意味があるとも思っている。

 手元のペンを回しながら思考した結果、余計なことをしゃべらない範囲で語ることにした。


「空君がどうしてここに来たのか私には推測しかできないから話さないけど、竜の欠片の事は空君より知ってる。ガイノス帝国の歴史上において唯一存在が確認された魔導であり、帝国にとって不都合な歴史故に『()()()()』と言われた」


 ()()()()()()()()()()()()()

 それこそが貴族内紛に繋がるのだと空は思考し、同時に隠された理由こそ帝国から発生した『エーファ剤』の存在を隠そうとした結果なのだろう。


 帝国にとって自らの手で呪術の一つを作り出したことは汚点であり、その上共和国樹立など諸外国間に知れ渡れば国際問題まで発展しかねない。


 しかし、同時に思う。これを諸外国が知らないとは思わない。

 いくら帝国の隠蔽能力が高かろうが、全てを隠しきれるとは思わない。


「魔導協会設立されたのがその五十年後だったから、魔導協会としては調べようがなかったし、その頃には共和国の呪術の製造法が一部の国々に分かっていて、帝国と争いを続けていたから。責任と追及したくてもできなかったんだよね。帝国が潰れれば魔導サイドとしては敗れたも同然だったから」


 そこまで言われれば空でも理解できる。


 帝国は当時から最強の軍事力を保持し、共和国率いる呪術連合とでもいうべき勢力と戦う事が出来たのは帝国のみ。しかも、その帝国が倒れれば世界の軍事バランスが崩れ、世界情勢は完全に崩壊していただろう。


 そういう追い詰められた状況では責めることもできず、むしろその責任を果たすように(実際はそんな気はなかったうえ、帝国としては諸外国がそのように動くと読んでいたのだろう)行動した。

 ペンをノートの上に置き、頭を悩ませながら帝国が抱える共和国関係の問題。それが解決に向かいつつある今、諸外国間の関係も変わろうとしている。


「まあ、そんな経緯で消えた竜の欠片だけど魔導としては最高級の能力の一つらしいよ。いくつかある能力の中でも私が一番気になったのは「ラウンズ」かな?呼び声と共に鎧人形が複数個呼び出す能力なんだけど」


 空はその話を聞きながら小声で「ラウンズ」と呟いてみた。



 結果から言えば呼び出せることは無く、ジュリから「何か特殊な条件がいるらしいの。私が見た本にもそこまでは書かれていなくて」っと苦笑いで言われた。最も、あの場で出せば大騒ぎになっていた事この上ない。


 その後も特に変わったことも無く夕方まで勉強してから帰ることにした。


 空はジュリを自宅まで送り届け、そのまま家まで帰宅しアベルから『今日は帰るのが遅くなる』というメッセージを受けとると、そのまま夕食を食べ、シャワーを浴びてベットに飛び込んでいた。

 朝から色々ありすぎて正直すぐにでも眠りたいという気持ちと、興奮が鳴りやまない状況が半々である。

 いまいち眠たくならない状況が続くと、窓の奥に見える夜空と帝城を眺める。

 白と青い帝城がライトアップされており、夜空とのコントラストが鮮やかで何度見ても見事というしかない。


 特に帝城への橋では小さなライトが点灯しており、これもまた古き良き帝国の情緒があふれる光景である。


「俺がここに来た理由」


 聖竜が告げた言葉の意味。

 それをいまいち理解できないまま土曜日を迎えようとしており、明日は皇帝陛下による終戦記念パレードの日であり、空は友人たちと共にパレードを見る予定になっていた。

 しかし、空は知らない。

 これから起こる事件を。

 その先に待つ………真実と命の戦いを。



 空が英雄になる日も……近い。


どうでしたか?次の話からクーデターへと移行していくことになります。では!

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