心の難しさ 1
今日から追いかけ掲載は一日四話。本日一日目。
袴着空は四月なのに寒々しい空気を鎧越しに感じ、鎧を解いてしまおうとするとジュリが鎧の両腕をつかんで眺める。
「この鎧左右の籠手のデザインが違うね」
空自身籠手をよく見ていなかったので気にならなかったが、どうやら右の籠手より左の籠手の方が分厚く、右の籠手は先端が多少尖っていて殴ると痛そうに見える。左の籠手はまるでシールドのように見える。
最も、こんな籠手でガードしたら下手すると骨が折れてしまう。
しかし、確かに明確な差がある。
「よく見ていなかったから気にならなかったな。だとしたら足も?」
「ううん。腕以外は同じだね。腕だけ違う。それより、この鎧のデザインは空が決めたんじゃないの?竜の欠片は大体初代の人間が決めるんだよ」
「そもそも竜の欠片だって知ったのはついさっきだし」
聖竜に聞かされて知ったとは言わない。
しかし、空は自分が勝手にデザインを決めたのだろうか?っと自身で疑問に思ってしまうが、何度問われても身に覚えがない。
(俺は中二病の才能があるのだろうか?)
なんて思いながらさらに「中二病の才能ってなんだよ!?」て内心ツッコミを入れてみるが、コミュニケーション能力の無い空にとってこんなツッコミさえ口に出せない。
さみしい思いを抱えながらションボリ項垂れていると、ジュリが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「何でも無いよ」
鎧を脱ぎ、これからどうしようかと思っていた時、空はバイクの駆動音が聞こえてくるのでそちらの方を見るとそこには警察と軍の混成部隊がやってくるのが見えた。
その中に空のバイクに乗るアベルの姿が見えた。
そこまで来て空はテラがどうなったのかっと確認してみると、テラはかなりやせ細っているが生きてはいるようで意識が朦朧っとしながらも息をしている。
その息は小さく虫のような息ではあるが生きていることに安心し、軍と警察が素早く展開し、周囲にいる倒れている人や動物に手当てが入り、アベルがバイクを空の隣へと止める。
バイクのヘルメット取ったところで空は自分のヘルメットを探し出す。すると、百メートルほど離れた所に投げ捨てられており、自分が咄嗟に投げたのだと判断できたが、近づいてそっと拾うと所々に傷がついている。
自分の取った行動が原因とは言え、少しだけ心が痛む。
「新しいのを買うか?」
いつの間にか隣に立つアベルとジュリ、空は横に首を振り断る。
「いい。俺の所為だし。それに、義父さんに買ってもらった物だから」
そう言って黙って抱きしめる。
内心「目立たなくすることはできそうだし」っと思うと、ジュリが先ほどの会話から疑問が生まれたらしく、数秒だけ悩んだ末聞いてみようとした。
「空君ってお父さんと何かあったの?」
「昔………死んだ。俺が一歳の時かな?俺の町っといってもいいのか分からないけど。俺の町は小さくてさ、周囲を木々と山に囲まれていて、と言っても隣町まで歩いて三十分だから気にならないんだけど。とにかく、町はうちの親戚しかいないぐらいで。でも、襲われた。当時宗教団体っていう今でいうところのテロ組織のような人たちが問題視されていて、実際テロ行為で多くの人が死んだ。父さんも………死んだ」
空の重苦しい言葉にジュリとアベルは黙ることしかできない。不用意な同意や言葉は無意味に傷つけるだけかもしれない。それに話半分。
「と言っても俺は父さんの事を覚えていないし、知らない。母さんが言うには顔は怖いけど不器用で照れくさそうにしているところが可愛かったらしい。警察官だった父は俺達の街を守ろうとして死んだ。結果から見たらみんなが救われたわけだし、そのことで俺達家族は不満はない。父さんが奮闘してくれなければ俺達集落の人間は死んでいたはずだし。でも、小さい頃何度となく思ったんだ。父さんに会ってみたい。話してみたいっと」
父さんに会いたい。それは空からすれば絶対にかなう事のない願い。
アベルが空の頭を撫でようと右手を伸ばし、ジュリは微笑みながらその光景を見ている。
「俺にもあと少しで生まれるはずだった子供がいた。昔、俺の故郷が襲われたことは言ったな。妻の腹の中には子供がいた。生まれていたらお前と同い年のはずだ。空が四月生まれだからな。あの子は四月か五月に生まれたはずだ」
ジュリは微笑みながらもふとどうしても気になってしまう事があった。
(アベルさんは故郷の人々を失い。空はお父さんが故郷の人達を守った?生まれるはずだったアベルさんの息子と空が同い年?これって偶然?ううん。偶然じゃないと思う。きっとこの二人は………ワールド・ラインが違うだけで、同じワールド・ラインなら親子ってこと?)
そう言われればっとジュリが思う中、空が言う顔が怖く、どこか不器用という言葉も会う上、空のお母さんとアベルさんの奥さんが似ている理由も納得できると感じる。
ワールド・ライン通しは似ているようでどこかが対になっている世界が選ばれやすい。
もちろん偶然という事もあるが、しかし偶然にしては出来過ぎている。
(ううん。これがワールド・ラインという事だよね)
世界そのものに意思はない。
しかし、命の偶然がまるで意思に見えるだけ。
空とアベルはワールド・ラインを隔てた実の親子。
(いつの日か二人が知る日も来るのかな?)
親子だけあって二人そろって鈍く。基本は気が付かない。
しかし、ジュリは心から思う。
二人が親子だと気づく日が来ると信じて。
シューターは事の成り行きをきっちり見届けると立ち上がり背を伸ばす。体を柔らかくしようと柔軟体操をしながら後ろにいたはずのブラック・ナイトに方に視線を向ける。ブラック・ナイトはブラック・ナイトでまるで興味を失ったような立ち振る舞いで立ち去ろうとする。
シューターはブラック・ナイトの容姿をジロジロと眺め、見比べるような視線を常に送る。ブラック・ナイトと空の鎧は色こそまるで違うが、形やデザインは全くの一緒。
左右の籠手の違いまでもがまるで一緒で、正直なことを言ってしまえば疑いが掛かってもおかしくないレベル。
しかし、空からテラへの敵意は本物であれが芝居なら役者を目指すべきレベルだろう。
シューターからすれば空がそんな立派な役者には見えないし、そもそも役者ならこっちの騎士様の方が似合っているような気がする。
「あの鎧とあんたの鎧全く同じデザインに見えるけど………?」
「さぁな。よくあるデザインなのだろう」
いまいち話をしていてよく分からないというのが正直の意見であり、信頼してもいいのかどうか、最も依頼主から金をもらって雇われている身としてはきちんと仕事はこなすしかない。
しかし、この人物を信頼するかどうかは全くの別で、実際シューターはずっと様子を見ているが、身を動かすどころか指一つすら動かさない。ひたすら戦闘を見届けると途端興味を失ったように立ち去ろうとする。
傭兵としてまだ短い時間だが、それでも信頼が重要なこの仕事、金をもらえるならいくらでも危険な場所にでも向かう。しかし、一緒に仕事をしても大丈夫かどうか悩んでしまう。
最も今更変更する術があるわけが無く、仕事をすると決めた以上どんな相手とでも組む覚悟である。
シューターがジト目の視線を送ると、ブラック・ナイトは顔だけを振り返りシューターから口から心臓が飛び出るのではないか?っというような衝撃がブラック・ナイトの口から飛び出た。
「最近は《《俺っ娘》》が流行りなのか?」
「ななな!?なんで!?」
シューターは生涯でここまで驚いたことは無いのではないかっというぐらいに驚きの声を放ち、動揺で口がうまく動かない。目がぱっちり開き、口元がけいれんでも起こしているのではないかというほど小刻みに動いている。
ブラック・ナイトはさほど気にする様子もなく立ち去っていく。
シューターは寒々しい空気を体全身で受けながら唖然とするだけで、シューターが女の子であることがバラされただけだった。
どうだったでしょうか?次は心の難しさ後半になります。




