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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
16/156

竜の欠片 4

ようやく長かった竜の欠片も取り敢えず終わりです。

 カウンターを狙っていることは空にも理解できた。


「彼女の攻撃手段は大きく分けて二つだ。突進攻撃と反撃攻撃の二パターンで、今のは反撃パターンだな。こちらから攻撃しなければ反撃しないだろう。まあ、この状態が続けば突然の突進攻撃に切り替えるとは思うが」


 要するにこちらから攻撃しないと突然の攻撃に対応しなければならない。しかし、突進攻撃で致命的な一撃を銜えられなかったのは記憶に新しい。

 むしろ、敵にこちらの隙を作る結果になってしまった。


 同じ作戦が何度も通用するとは思えないが、しかし、こちらからせめて勝てるとは思えない。仮にも当時最強の騎士。当時ほどの戦闘能力がないにしても、当時の記憶の無い残影だとしても、それでも最強の騎士の二つ名は伊達ではない。


 下手な攻撃をすれば反撃にあうだけだ。

 しかし、戦闘になれていない空からすれば、人ではないと言われれば無意識の手加減をしなくて済むのも事実で。今一度息を吸い込んで吐き出す。


 意識を鋭い剣のように研ぎ澄まし、風や敵の身動き一つ一つに神経を集中して、思考を回転させる。


 普通に攻撃しても同じ反撃を受けるだけだろうと思考したところで、シールドのカタチをよく見る。


 丸形の大型シールド。

 多少曲がっていて、攻撃を逸らしたり弾いたりできそうな形をしており、実際剣で切り裂いたりしても効果がなさそうだ。

 シールドとは本来の使い方はそれであっているのだろう。弾く。これが本来の用途だろう。

 受け止めるのが本来の使い方ではない。

 1on1での試合に対しては攻撃を受け流して隙を作る。


 あのシールドも同じ用途なのだろう。なのだとしたら攻撃手段はあると空は思う。

 走り出す準備をし、シールドに向かって走り出す。あくまでも攻撃する様に見せかけながら、しかし攻撃することなくシールドに向かっていく。


 シールドに足をかけ、空の体を外に弾こうと腕を横に振る。しかし、空はそこまで読めていた。

 攻撃を弾こうとするという事は、腕を動かすという事である。なら、動かす瞬間なら腕の移動方向を強引に変えることが出来る。


 空は剣をシールドに引っ掛け、軌道を強引に上の方へとずらし、シールドを蹴ることで軌道修正を確実にし、空はそのままシールドから剣を抜き、身体をうまく着地させ、ヘーラの背中をとる。


 今度はすかさず攻撃態勢に移す。

 斬撃と打撃の交互五連撃技『ストライク・スラッシュ・5th』を繰り出すと、ヘーラは体をよろけさせながらランスをバットの要領で振る。

 しかし、この攻撃を空はランスの上で体を捻ることで回避、振りかぶったせいで隙を生んだ体に今度は正面からシールドの打撃攻撃が来る前に、打撃の三連撃技『ストライク・ザ・3rd』を叩き込む。

 ヘーラは打撃攻撃を耐えながらシールドで空の頭部を叩こうとするが、空はそれを回避するのではなく、打撃が来る前に斬撃攻撃で両腕に向ける。


「そのままぁ!!」


 左腕から右腕に掛けて斬撃を繰り出す単純な二連斬撃『スラッシュ・ザ・2nd』を繰り出す。

 両腕が空を舞い、そのまま空は剣をヘーラの喉元へと突き刺す。

 ヘーラの体から黒い何かがあふれ出ていき、ヘーラの体が形を保てなくなりそのままヘドロのような何かに変化する。そこから一輪の黒と赤の禍々しい花が咲きだす。


 色彩の無い世界において再び異彩を放つ存在。


 空はしゃがみ込み、触れようと右手を伸ばすとそれを遮るように声が聞えてくる。


「その花の名前は『エーファ草』という名前の花だ。大陸南部の草原地帯の一部で発見された幻覚作用と筋肉増強効果のある花だ。いや、その亜種のようだな。禍々しい色までしていなかったはずだ。ふむ。品種改良を加えたようだな。いや、この場合は品種改悪の間違いか?」

「この花を知っているのか?」

「ああ。この花の原種が呪術の原点にあたる。錠剤型の呪術『エーファ剤』と呼ばれており、幻覚を与える代わりに筋肉を増強させる効果をうまく使い造られた」

「?あれでも確か呪術って」


 呪術は何かを犠牲にする形で手に入れる力。

 超常的な力を引き出す力。


「でも、何か違うような気がするけど」

「元々はその程度だっただけだ。闇市で高値で売り飛ばされていた。その内魔導、魔導機が出回るようになると錠剤の改悪が進むようになった。その過程で魔導の仕組みが取り込まれるようになる。その中心が『竜の欠片』で我々の祖先はその悪行を阻止したくて貴族内紛を起こした。それが貴族内紛の真実だ」

「え?」


 唐突に明かされる真実。

 貴族内紛が起きた経緯とそこに関わった魔導『竜の欠片』、それを素養に取り込み完成させた『エーファ剤』。


「エーファ剤が市場の一部に売り飛ばされていることは皇帝やガーランド家の調べで分かっており、ガーランド家は皇帝にノーム家に貴族権限の剥奪すべきだと訴えたのだ。最も、ガーランド家は元々ノーム家の堕落を目論んでいた所はあったのだろう」

「じゃあ。ガーランドさんは?」

「知っているはずだぞ。ガーランド家は代々その真実を受け継いでいるはずだ。ガーランド家が裏切ったのはそう言う経緯があったからだ。貴族権限の剥奪を受け入れながらも、ある程度の権利を残す。金や地位はそのままにしておくことをカードとして切ることで、一部の貴族を取り込んだ。エーファ剤の市場での地位を明らかにし、その原因がノーム家を含む軍派閥の貴族の行動にこそあると証明した」


 そして、軍派閥の貴族は皇帝を帝城に監禁することで、皇帝の代理者権限を手に入れた、という話だった。


「当初、ノーム家の当主であるヘーラは内紛には反対の立場であったが、最終的に軍内部の懇願には勝てず、押し切られる形で内紛がおきた。最初は軍が押し切れば勝てると判断した。しかし、ガーランド家と商業派の貴族が武装や技術を平民に与えた為状況が少しずつ変化し、最後には帝都を奪還されてしまう。そこまでされて、軍派閥の貴族のほとんどが帝国から離れて共和国を樹立するまでに至り、ノーム家の軍派閥の名門上流貴族は最後まで戦う道を選んだ」


 聖竜はそこで悲しそうな瞳を見えない帝城の方へと向けた。

 それが何を意味するのか空にはまるで分からず。


「この地での戦いを最後に彼らは敗れた。ほとんどの者は処刑。生き残った者は監視付きの監禁生活。それは今なお続いている。西区の旧市街地は監視員と監視対象であふれている」


 『西区に近づくな』っとアベルが三年前に行っていた言葉の意味を空は本当の意味で知った。

 治安が悪く、一般の人は西区の旧市街地には近づこうとはしない。

 その理由。


 それは西区がいわゆる帝国にとって危険思考を抱くと危惧される人物達を隔離する場所なのは確かのだろう。


 空が少し顎下に手を当ててふと考え事していると、聖竜は頭を低く空へと向けて謝罪の声を発した。


「すまなかった」


 咄嗟の謝罪に空は口を開いて唖然とすることしかできない。

 しかし、そんな態度とは別に聖竜は続けて出てくる言葉は空の意識を引き込むには十分だった。


「君を他の三十九人からはじいたのは私だ」


 空は聞いた当初口をパクパクさせながら真実を聞くことしかできないでいると、聖竜は空の瞳をまっすぐに見つめ重い言葉を空に投げかけた。


「しかし、言い訳をするわけでは無いが、この世界に来ることを望んだのは君自身なのだ。君はこの世界に行きたい。そう望んで君はいまここにいる。それだけは忘れないでほしい。この世界に君の心の奥に臨む願望が存在する」


 空は身に覚え内の無い言葉に混乱するだけで、いまいち言葉が頭の中に入ってこない。しかし、聖竜は語ることは無いとばかりに体を起こし、上へと視線を向ける。

 空もそのまま同じように上へと視線を向けると、白黒の青空と呼べばいい風景に亀裂が走り始める。


「この場所は呪術で完成された内部世界。記憶の世界と言ってもいい。呪術がくっついている遺伝子に刻まれている最も大事な記憶。呪術を君が壊し為に元の場所に戻そうとしているんだ。さて……」


 多少の沈黙を続け、聖竜はもう一度「すまなかった」っと口を開く。


「これから君は英雄となる。それはある意味色々な人々が望んできた結果でもある。たとえ挫折し、諦めそうになり、立ち止まってもこれだけは忘れないでくれ。君を想う人が多くいるという事を。それさえ忘れなければ………」


 そこから先はもう何も言わない。

 言うべきことは無いとばかりに聖竜は口を塞ぎ、空からの言葉すら届くことは無い。空は聞きたいこと、言いたいことがどんどん増えていき、分かれる瞬間に声を吐き出す。


「みんなは……三十九人の行方を知っているのか!?」

「ああ。知っている。しかし………それを君に語ることは無い。本人たちもそれを望んではいない」


 それだけ言うと聖竜は崩壊していく世界にまぎれるように消えていき、空は自身の望む答えを聞くことなく空の視界も真っ白に染め上げられていく。

 差し出された手を誰かが握りしめ、空はその人物を確かめようと詰め寄るとそこには優しく微笑むジュリが佇んでいた。

 柔らかな物腰に柔らかい表情に優しさが詰まっているが、空はようやく安心できジュリを抱きしめる。


「頼むから。危険なことをしないでくれ」

「ごめんなさい」

「君に………君達に何かあったら俺は……」


 空は鎧を挟んでいて温かさを感じることは無いが、どこか心がポカポカするような気がする。

 ジュリも体を預け。


「だったら空も私達を頼ってね。今度みたいに一人で挑んでいかないでね」

「約束する。絶対」


 心配させたのは空も同じこと。

 一人で戦い。一人で傷ついて。一人で背負おうとする空の生き方。

 それは優しさであり、遠慮でもあるのだろう。

 異世界人としての遠慮で、空は今でもその考え方がどこか抜けていない。


「いつだってみんなを想い。いつだってみんなに遠慮をして。いつだって負けず嫌いで。いつだって………一人で涙を流す」


 ジュリとレクターだけが知っている。

 登校最初の日。空は物陰で泣いていた。

 いつも気丈にふるまい。周囲の空気を読んで遠慮をするという事は逆に言えば、傷ついた時、一人で悩んでしまうという事だ。


「これからは……少しづつでいいからみんなで悩もう」

「うん」

「これからは私達も一緒に戦うから」


 今日は空にとってほんの少しだけ暖かい日になった。


どうでしたか?面白かったと言っていただけたら幸いです。まだまだ続く物語そろそろ短編一話目が書けそうです。では明日お会いしましょう!

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