最終話 辿り着いた未来 21
いよいよ最終話です!【呪炉の鐘の章】の最終話をご覧ください!
北区の新市街地にある高級レストラン、外装など色合いにも気を使ったデザインをしており、玄関から既に違う。
レットカーペットでも敷いていればそれこそ似合いそうな門構え。
それを潜り、スーツ姿のウェイターに「予約した『ソラ・ウルベクト』です」と告げると、そのまま予約した席へと案内される。
窓際は坂から新市街地どころか、帝城や帝池が見える。
夜景でライトアップされた街並みを窓越しに見て、俺はまず飲み物を注文した。
さすがにワインは飲めないので、炭酸系のジュースで乾杯。
「こんな高級そうな場所。どうしたの?」
「臨時収入を得たからな。それに父さんを通じて予約できたんだ。ここ、推薦がないと予約も取れないんだよ」
席を取るのも難しいレストランなので、ちなみに臨時収入とは父さんからのお小遣いとは決して言わない。
頭を下げて仕事を手伝ってもらったなんて口が裂けても言わない。
「ありがとう。こんないい場所連れてきてもらって」
「いいだよ。父さんに聞いてなここに来ようと決めてた」
俺がジュースを飲みながらテーブルに注文したメニューを待っていると、玄関から父さんと母さんが現れた。
一瞬こっちに気が付いたようだが、そのまま見ない振りをして別の席へと案内される。
「一緒のレストランだったね」
「まあ、俺が父さんから聞いたからここを選んだわけだし、父さんがその話で連想してもおかしくはないな」
弱い炭酸のシュワーという感覚が喉を通り過ぎ、腹を空かせた状態で背もたれに体を預けていると、奥からウェイターが前菜を持ってくる。
「そういえば目にレクター君が「前菜って前妻って書くと意味が変わってくるよね」て言っているのを聞いて少しだけ笑っちゃった」
またあいつはくだらないことを思いつく。
そんな口にしたら恐ろしいような言葉、よくも思いつく。
バツイチの男性の前で言えば人によっては殴ってくるところだ。
「美味しそう。ありがとうね!」
「いいんだよ、じゃあ食べようか」
二人で慣れない食べ方で食べ進めていきその内二つ目に移ると最後にデザートが運ばれてくる頃には俺達のお腹はある程度満たされていた。
「結構お腹一杯になったな。次で最後だけど食べれそう?」
「大丈夫。それよりこの後はどうする?」
「灯篭流しを見る為に士官学校の屋上に行かないか?あそこからなら灯篭流しがよく見える。それに堆虎達の灯篭は屋上から流すんだ」
そう言っているとデザートが俺達の目の前に運ばれてくる。
イチゴを使ったアイス。
一口口に運びながら七夏祭最後の灯火に目を細める。
「もうすぐしたら元の日常に戻るんだな」
「そうだね。でも、きっと明日も明後日もこれからだって楽しい毎日があるって思う」
「だと良いけどな。その分面倒くさい事件に巻き込まれそうな気がするけど」
「私達ならきっとどんな事件でも解決できるよ」
「そうだな。どうせレクターが面倒を持ってくるに決まっているし、でも当分大人しくしていて欲しいけどな」
「フフ。それがレクター君の良い所だよ」
「めんどくさい所の間違いだろ」
あいつが関わると必ず面倒がやってくるのだが、あいつが持ってくる場合とあいつがトラブルを作る場合の二つがあるから面倒なんだ。
「でも、そういう日常にもすっかり慣れたけどな」
「だね。正直ソラ君が来て毎日が楽しいよ。勿論辛い事や悲しいこともあるけど、それを含めて私達の源なんだって思う」
「うん。今ならそう思うよ。堆虎達がいて、王島聡がいて、木竜がいて今の俺達がある。彼らと戦い、みんなと一緒に作った毎日があるんだよな」
窓の外を見ると夜景で帝都が輝いて見える。
「クーデター事件だけじゃない。その前のジャック・アールグレイとの戦いだってその積み重ねだし」
「うん。本当にいろんなことがあった三年間だったし、これからもきっと色んなことがあるって信じてる」
「それが無いのが当たり前なんだけどな」
二人で微笑みながらデザートを食べていく。
区画間列車にのって南区に戻り、トラムに乗って士官学校へと真直ぐ向かい、時刻は夜の八時半を迎えていた。
学校内では灯篭流しの準備を終え、九時までカウントダウンを待っているような段階である。
俺達は二人そろって屋上に向かうために学校の中に入っていく。
大きなロビーに入ると一部の学生が七夏祭の片付け作業に追われており、俺達は人混みを避けながら階段までまっすぐ向かって行く。
「そういえば、初めて学校に来た日は不安しかなかったんだよな」
「そうだよね。異世界にきて全く見知らぬ人達がいるんだもん。私なら耐えられないけど」
「でも、レクターやジュリが居たから俺は心が折れなかったんだと思う」
二階に上がり、窓の外から微かにだがグラウンドが見えてくる。
グラウンドでも灯篭流しの準備を整えており、俺は窓にそっと触れて外の様子を眺める。
俺の隣ではジュリも同じように外の様子を眺める。
「エリーやレイハイムと出会って、キャシー達後輩と交流したり、マリアやデリアさん達に支えられながら生きてきた」
「いろんな人が居たね。皆覚えてる」
「初めてキャシーに出会ったのは聖竜誕生祭の武術イベントの決勝トーナメントの一回戦だった。まさかあの後しつこく挑まれるとは思わなかったけどな」
「デリアさんとの出会いだって結構インパクトあったでしょ?」
「まあな、あの人女好きなうえ結構激しいところあるし、マリアは幼女にしか見えないしな」
二人でクスクスと笑いながら再び階段を昇り始める。
「エアロードなんて初めての出会いの時を思い出せば今の体たらく」
「それもいい所だよ。竜だって生きているんだって私は実感できるな」
生きているからこそエアロードやシャドウバイヤのように生活に慣れていく。
「確かにな。この世界では竜達は一種の神様のような扱いだしな。こうして一緒に住んでみると神様なんかじゃなくて普通の命なんだって思うよ」
「だね。それこそ竜人戦争の時は多くの竜達は人と共に生きたんだって」
「そっか。少しづつ時間を掛ければ人と竜との関係だって変わるのかな?」
「それが出来るのも私達の役目かもね」
一歩ずつ前に。時折後ろを振り返り思い出しながらそれでも前に進む。
だからこそ辿り着いた未来なんだ。
「分かるよ。皆で辿り着いた未来だから価値があるんだよな。一人でやり遂げたら確かにそれは偉業なのかもしれないけど。達成した時のむなしさもあると思う」
「そうだね。皆で辿り着けばその分みんなで喜びを分かり合う事もできるわけだし」
「ああ、きっと王島聡だって、木竜だって諦めなかったから辿り着いたんだ」
俺達は諦めなかった。
きっといい未来があると皆が信じた。
堆虎達だって信じた。
探し出し、皆が諦めずに挑み続け、戦ったからこそ見つけ出した未来。
「それこそが価値のある未来なんだって思う」
一人じゃ何もできない。
屋上のドアをゆっくりと開け、俺は一番上まではしごで上がっていく。
上ってくるジュリの右を握りしめ、ゆっくりと上に持ち上げる。
「ここからなら色々と見えるな」
二人でゆっくりと腰掛け、携帯で時刻を確かめる。
九時まであと一分。
「あと少しだね」
俺の左手とジュリの右手が重なり合い、士官学校の屋上から帝都中の至る所から灯篭が空めざして昇っていく。
夜空に灯篭の輝きがまるで天の川のように広がっていき、風に流され一匹の体の長い龍に見える。
堆虎の名前が書いてある灯篭がまるで気球のように夜空へと昇っていく。
俺はふと右手を堆虎の灯篭へと伸ばすが、遠く昇っていくその姿。
「………好きだよ。ジュリの事。これからもずっと」
「私も好きだよ。ソラ君の事。ずっとこれからも」
俺達はお互いに見つめ合い。
唇を重ねる。
後日談。
翌日俺は新聞のニュースに乗っている各エリアの売り上げランキングを眺め、エリア1のナンバー1に俺達の出店の名前が載っていると確認すると息を漏らす。
父さんは嬉しそうに微笑んでおり、海やエリナさん達はきっと好きなモノを買ってもらうのだろう。
学校に行く前にマリアから魔導協会から仕事の話をしたいといっていたことを思い出しコーヒーを一口飲み込む。
そういえば今年の夏休みは一週間も長くレクターが色々な計画をたてている。
少しだけ鼻歌交じりに最後のサラダを食べて、荷物を持ったまま玄関に手を掛ける。
母さんと奈美が見送る中俺は振り返り大きな声で出かける。
「行ってきます」
眩しい毎日と楽しい日々が続く未来へと。
どうだったでしょうか?ひとまずひと段落。続編の構想もあるのですが、他のオリジナルがほったらかしになっているのでそちらを終えたのち新作にするか、ワールド・ラインの続編にするかを決めている最中です!取り敢えず自分が考えていた結末までたどり着けました。では!いずれどこかでお会いしましょう!では!




