辿り着いた未来 16
今までの決算となるお話が続きますがあと少しお付き合いください。
覚醒しきれない意識をブラックコーヒーで無理矢理覚醒させ、目の前で眠そうにしながら食パンを頬張りむしゃむしゃと口だけを動かしながら食べる父さん。全く同じ動きで俺の隣で食パンを食べている奈美。
親子なのだと実感させてくれる場面なのだが、其の両方が意識をほとんど放棄しているような顔つきで食べているのだと思うと全く心に来ない。
俺は食パンにピザソースを付けつつ、スクランブルエッグを載せて食べる。
そして止めとばかりにコーヒーで飲み込む。
「お兄ちゃん!今日は一日暇?」
「いや、出店に行くから無理。お前も今日の夕方は海と行くんだろ?だったら夕方までには帝城前広場にはいろよ」
「分かってるもん」
俺はベーコンを口の中に放り込みつつ、俺はサラダの方へと腕を伸ばす。
適当なドレッシングを掛けながら俺は今日行う試合の項目を頭の引き出しから思い出し、同時にレタスを口の中に放り込む。
父さんと奈美はドレッシングを掛けないままヤギのようにサラダを食べている。
俺は最後にブラックコーヒーをお代わりして一気飲みしてから家を出た。
出店の中ではすっかり試合をする気配に満ち溢れており、俺だけが全くやる気が出てこないでいる。
緑星剣を召喚しては消して、召喚しては消してを繰り返しながら口から「暇だな~」と呟く無駄な時間。
ジュリも家族とのお出かけでここにはいないので本当にやる気が起きない。
早く時間が過ぎ去ればいいのになんて考え、試合会場をそっと覗き込む。
大きく盛り土で作られた即席の舞台に周囲に被害が出ないようにと用意された魔導機が試合会場全体を球体の形で覆っており、その球体は透明な色合いをしている。
おそらく聖竜誕生祭で行われる武術の試合と全く同じ作りになっているのだろうが、本選で使われる大きさの半分も無いのが事実。
あの狭さでは戦い方次第では勝てない奴もいるだろうに。
俺としてはレクター相手に狭い舞台で戦おうと思えば、ほぼゼロ距離で戦うしかない。
ものすごく不利な状況である。
取り敢えず師範代たちが作った試合のルールブックに視線を向ける。
『1.プレイヤーは三回攻撃を受けたと魔導機が判定した段階で敗北とする。
2.プレイヤーは見えない防御シールドに覆われた状態で戦う事。
3.試合終了後の攻撃やシールドを壊すような強力な攻撃は禁止。
4.武器の種類は制限しないが、武器の質については剣道場基準の物を使う事』
以上の四項目が書かれており、俺については緑星剣の使用が認められているが、緑星剣以外の武器の変更は禁止、魔導の力も余計な所は使用しないことが義務付けられている。
どの程度までが余計な攻撃の範疇なのだろうかと思案してみるが、面倒なので思考することを辞め、無駄な力を使わなければいいのだと消極的な考え方に辿り着いた。
アナウンスによって最初の試合が選ばれるのだが、俺とレクターば場の見せ場、最も人が集まってくる昼時を狙って試合を組まされるので俺は暇そうに座っている。
早く終わればいいのに。
第一試合が行われ、観客から歓声が上がる声が控室まで聞こえてくる。
視界の組み合わせはある程度師範代クラスの人達で考えられており、実力の近い者同士が試合をする流れになっている。
はやり互角の戦いというのは心躍るものがあるようで、先ほどから歓声が鳴りやまない。
第一試合が意外と押しているようで、対戦車の二人が粘っているのかと思い覗き込むと、意外といい勝負をして観客を沸かせている。
それ以外の試合も順調に試合は進んで行き、観客のテンションが上がっていくのが控室からでもよく分かる。
時刻は十二時半。
集まっている観客が試合場を超えていき、たこ焼きの売り上げも準中に伸びてきている中、今後の売り上げに一番影響するであろう俺とレクターの試合が行われようとしていた。
しかし、よく考えるとこれは去年のリベンジマッチになるのではないだろうか?
試合会場に上ると反対側からレクターが上ってくる姿を捕らえる。
「では両者。試合準備を整えてください」
レクターは合図と一緒にナックルなどの武装チェックを行い、俺は緑星剣と星屑の鎧を召喚する。
俺が魔導を展開する過程で周囲から歓声が上がる。
レクターと今一度向かい合い、決して広くはない試合場の中でお互いに睨み合う。
「これって去年叶わなかった試合カードだよな?」
「ああ、まさかここで見れるなんて………!」
観客の中には去年の試合を見ていた人間もいたようで、去年叶わなかった決勝カードが
実現したことでテンションが最大まで上がっているようだ。
俺は緑星剣を握りしめる右手に汗が流れ、俺は決して滑り落ちないように強く握りしめる。
「これより今回の目玉試合を行います。両者全力を尽くし全身全霊で挑んで下さい!では………始め!!」
俺達はほぼ同時に地面を蹴った。
緑星剣が空を切るとレクターの体は俺の懐に潜り込んでおり、俺の鳩尾目掛けて拳を叩き込もうとするが、俺はそれを左腕で阻止する。
ギリギリでレクターの拳は俺の左をかすめていき、ダメージ判定は『なし』である。
ここで足を少しでも引けば勝ち目は一気になくなる。
勝つのならここでむしろ前に突っ込んでいくべきだ!
俺は全力で右足を一歩前に踏み出し、剣をレクター目掛けて振り下ろす。
レクターはそこで奇跡な体の動きを見せ、剣を体を捻って回避したと思ったらそのまま両足を真上に、両手で体を支える所謂逆立ちの体勢に移る。
そこでレクターが何をするつもりなのかなんて俺には本能でやばいと告げている。
しかしここで俺が体を引けばレクターは最後まで突っ込んでくるはずだ。
俺は相打ち覚悟で剣を捨てて拳でレクターから飛んでくる両足による攻撃から真っ向から受ける。
拳と足がぶつかり合い俺が少しだけ負けてしまった。
俺の体にダメージ判定こそつかなかったが、それでも俺もレクターも体勢を大きく崩す。
レクターは空中で体をグルグル回転させて受け身を取ろうとするが、俺は何とか走り出し着地地点を狙って剣を思いっ切り横なぎに振る。
またしても俺はレクターの驚異的な運動神経を見せた。
空中で体を捻って攻撃を受け流し、俺のこめかみ目掛けて裏拳を決めた。
初めてのダメージ判定を受けたが、俺はそれでも引くことなく思いっ切り右足で蹴りつける。
レクターもダメージ判定を受けるが、ダメージを受けた直後だというのに、レクターは思いっ切りジャブとストレートのコンボ攻撃を俺にむけて仕掛ける。
俺はそれを剣を引っ込めて両手で捌き切る。
再び嫌な沈黙が流れる。
お互いに人二人分の距離感を保ち、踏み込むタイミングとカウンターのタイミングを計る。
観客すらも声を出すことを忘れて試合に見入っている。
先に動いたのは俺、剣を逆さ持ちに変えてゼロ距離で左拳でレクターの視界を邪魔しつつカウンター狙う。
レクターも俺が逆さ持ちによるカウンターを狙っていると分かっているようで、攻撃を捌き回避するが反撃しようとしない。
シビレを切らしたレクターが横によけながら俺の左側を陣取り、攻撃が届かない範囲に踏み込んでくる。
俺はその行動に素早く反応し、逆さ持ちに切り替えていた右腕を思いっ切りレクター目掛けて振った。
レクターも負けじと思いっ切り拳を俺の剣目掛けて叩き込んでくる。
剣の刃が欠けそうになるほどの衝撃が俺の右腕に襲い掛かり、レクターも負けじと魔導機をフル稼働しナックルの強度を最大まで高める。
火花が散り、俺達はお互いに表情を崩しながらも負けじとより体を前に突き出す。
衝撃が周囲に伝わり、俺達の間を中心にまばゆい光が満たしていく。
勝敗の決着は誰にも分からなかった。
どうだったでしょうか?ソラ対レクターのリベンジマッチとなる今回のお話。次回はその決着とパーティーが中心に、その次で最終話となります。では!次回!




