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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
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辿り着いた未来 13

あれだけ戦闘は無いといったのに戦闘シーンを書くという度胸。スケジュールを書いているわけじゃないから、必要なシーン思いついたら書くしかないんです!だから後悔していません!

 演劇会場を満足な気持ちで立ち去り、母さんを家まで送っていけよという父さんからの指令をきっちり受け取り、一緒に三人で西区の繁華街の中を見て回る事にした。

「ソラと一緒にこうしてお出かけするのは久しぶりね」

「確かに、向こうに帰って来た時はあまり一緒に出歩く機会が無かったし、いい機会だからこの街で母さんが気になる場所を案内するよ」

 俺は母さんに「どこに行く?」と尋ねると母さんは顎下に指を置き、一分ほど考えると母さんは俺が予想もしなかった答えを告げた。

「堆虎ちゃん達が居たっていう場所に行ってみたいわ。駄目かしら?」

「だ、駄目じゃないとは思うけど………もう、堆虎達のご家族には案内しているはずだし……」

 俺はあまり乗り気のしない話ではある。何せあそこは俺には正直辛い場所でもあるのだから。

 しかし、俺はそれ故にあそこだけはなんとなく避けてきたつもりだ。

 だから外から見たことは一回だけあるが、中を見たことは一回もない。

「行ってみたいの。嫌ならいいわ。母さんが今度一人で行ってくるから」

 ここは俺が折れるしかなさそうだ。

 西区から東区まで移動するのに骨が折れたが、そのままあの場所まで移動するのは別段難しい事ではない。

 結局なんの備えも無いまま俺達は例の建物の前に来ていた。

 正面で護衛している女性の案内で中への扉を潜るが、その瞬間に俺の意識はまるでどこかに吸い込まれていく。


 建物の中だという事は分かるが、どこか古さというフィルムを通して映画を見ているような気分にさせてくれる場所だ。

 いや、これは何かがおかしい。

 そう思い振り返るとそこには懐かしい堆虎達一同が全員そろっており、俺は懐かしさからふと手を伸ばす。

 しかし、俺の手は彼女達貫通してしまう。

 記憶だ。これは『竜の欠片』が持っている堆虎達の記憶だろう。

 堆虎達まるで囚人のような扱いで建物の奥の方へと連れていかれる。そのまま場面が切り替わり、実験室のような部屋の中、手術台の上で五人の男女が薬品を投与され苦しんでいるのが見て取れる。

 薬品を使った実験なのだろう。

 しかし、見る事すら俺にとっては苦痛な話だ。

 正直見ていられない。

 声こそ聞こえないが、悲鳴が想像できてしまう。

 薬品を使った呪術を構築する実験、彼らが三十九人に何をしようとしていたのかを間接的に知っている俺、それを俺自身がこうして直接見ることになるは思わなかった。

 更に場面が切り替わり、涙を流して隆介の首を絞めて殺す堆虎と、笑って堆虎に殺されようとしている隆介の場面。

 もう………やめてくれ。

 堆虎はついに隆介を殺した。

 血だらけの部屋。

 中にはナイフやハンドガンなどが用意されており、同士討ちにして殺したのだろう。

 しかし、堆虎はその身を『黒衣の騎士』に包み込み、その右腕には禍々しいまでの剣が握られている。

 自然と俺は堆虎に手を伸ばし小声で「もう……もういいんだよ」と呟いてもこれは記憶、堆虎が聞いているはずもない。

 堆虎を迎えに来たファンド。

 俺はファンドを強く握りしめ、立ち去っていくと同時に場面は現実の部屋に戻る。

 そこは先ほど見えた堆虎達が閉じ込められていた部屋、俺はどうやら無意識で付いてきて、その場所毎の記憶を見たようだ。

 母さんは目の前に光景に息を呑んでおり、俺は母さんと同じ場所に目を向ける。

 そこは血で言葉が書かれており、俺はその言葉を知って涙を流してしまう。

 膝をつき、嗚咽をもらしどうしようもない感情を高まらせる。


『少年よ希望を抱け。そして………諦めるな』


 自分を恨まなかったわけでは無いし、自分が生きる未来を選ばなかった事を後悔していないわけじゃない。

 それでも、俺はこの言葉だけで十分だった。

 それだけでこれからも前に向かって進むことが出来る。


「分かったよ。諦めない。君達にもらったこの命を希望と一緒に抱きしめて生きる。君達が教えてくれたんだ。君達の生き様は俺が知っているから」


 どんな時だって俺がそれを知っているから。

 この言葉を胸に抱きしめる。


 母さんと一緒に施設から出ていくと、外で丁度ばったりと万理のご両親たちと逢ってしまった。

 どうやら母さんは付き合いがあったようで、母さんと中心に話し込むと、話題をおれの事へとシフトしていた。

 案の定というかあの帝城前広場での一件はあの人達も聞いていたらしく、ここにいること自体は本当に偶々だったらしい。

 俺はどこか気まずさを感じてしまい、その場から足早に立ち去っていく。

 そして、東区の工場地帯の一番高い場所で一人佇んでいるとふと目の前に黒衣の騎士が現れた気がした。

 俺は突然立ち上がり正面に真直ぐ目を向け、黒衣の騎士を睨みつける。

 まるで幻のような存在であるが、しかし明確な敵意を感じてしまう。

 幻ならこっちに襲い掛かってくることは無いだろう。

 そう思っていると黒衣の騎士は禍々しい剣を強く握りしめ、俺の方に向かって近づいてくる。

 幻だ。幻なんだ。あれは………偽物だ!

 そう思いながらも俺は黒衣の騎士の攻撃を剣で受け止めた。

 衝撃が体中を駆け巡り、俺は全身の力で踏ん張りながら睨みつけてくる黒衣の騎士に怯んでしまう。

「どうしてだ?なんで今更現れたんだ?お前達は死んだ………死んだんだ!」

 何も語らない。何も言わない。ただ殺意を俺の方に向けてくるだけ。

 俺は逃げるように別の足場へと移動して行き、鉄の足場に地面を付けてこちらに近づいてくる黒衣の騎士を前にして俺は逃げるだけだった。

「幻じゃないのか?でも……?」

 先ほど剣越しに感じた威力は間違いなく本物だ。

 痛みを確かに感じた。

 そして、あの鎧からは俺への殺意を確かに感じる。

「あれは幻ではない。お前の知り合いの記憶を軸に構築された呪術の残痕。最も、本人と全く同じ力を持っていると思っても良い」

「エアロード?なんでそんなことになったんだ?何が原因で?」

「落ち着け。そうやって混乱していると勝てる戦いも勝てなくなるぞ。お前があの場に来た時に見てしまった記憶。あれがトリガーとなったとみるべきだな。彼らが受けた『痛み』や『憎しみ』が癒されたわけじゃない。それが掘り起こされ。黒衣の騎士という形で再現されていた呪術が再構築されてしまった。最も本人ではない。あれには中身が存在しない」

「存在しない?でも………実際に衝撃を感じたぞ」

「それは感じるさ。鎧や剣は本物だ。しかし、あの武装については全くの本物だ。しかし、中身がちゅんとあるわけじゃない。あくまでも構築された偽物でしかない。中身は呪術の塊のような物だ」

「殺意は何で感じるんだ?」

「おそらくお前の罪悪感を感じ取ってしまったからだ。それさえなければあれが敵意を感じることもさほど起きなかったはずだぞ」

 俺の罪悪感を感じ取り、竜の欠片を模倣した存在である黒衣の騎士が作られた。

「恐らくお前の持っている『竜の欠片』の能力も模倣しているはずだ。前に戦った時と全く同じスペック………もしくはそれ以上だと考えるべきだろうな」

 今までの積み重ね。その全てがこの黒衣の騎士を作り出しているのだろう。

 ラスボス戦後の裏ボス戦と言った所か。

「気持ちを引き締めろ。油断していたら、今のままの精神状況なら負けるぞ。お前はここで負けるわけにはいかないだろう?お前を信じる家族、お前と共に歩いてきた友人たち、そしてこれからお前の隣で歩きたいと思う恋人の為にも、そして無念の思いと共に死んでいった彼女達の為にも……勝て!勝って前に進むことを決めろ」

 俺が逃げるわけにはいかない。

 そうだ。これは堆虎達が俺にむけてくれたメッセージなのかもしれない。

 俺は結局の所でグダグダと後ろめたい気持ちを抱いていた。

 俺の心の罪悪感と戦うと思えば俺は気持ちが多少が楽になる。

 俺は再び剣を握りしめ。向き合う場所は工場地区の一番上。

 

感想は次回!では二時間後に!

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