辿り着いた未来 11
後日談エピソードもついに十一話目です。記録更新しましたね。でも、あと少しで完結です!では!どうぞ!
事件と呼んでもいい一連の騒動を前に、多くの記者がガイノス帝国の警察や軍の対応を記事にしようと狙っている。
カメラが自分達の行動を狙っているという感覚が、犯罪をしている十人の男女のテンションを挙げているのだろう。
実際先ほどから要求する問題がドンドンエスカレートしていく。
ど真ん中の土台に乗って周囲に訴えかける大学生ほどの男性、大きな声を張り上げた瞬間である。目の前に竜を象ったような鎧を着た男が現れた。
それはあまりにも一瞬の事で、認識する前に鎧の着たソラはリーダー格と思われる男を思いっ切り池まで投げ飛ばす。
他の九人はあまりの事で身動きすらしない。
ソラは取り敢えず人質の中にいる三人を高速移動で排除し、外周の六人が銃をソラの方に向けるが銃の引き金は重く引くことが出来ない。
彼らはセーフティすらよく分かっていないのだろう。
ソラは彼らを踊らされた日本のどこかにいる大学生だろうと予測、身体能力も警察や自衛隊ほどではなく、むしろ体育会系が一人も見受けられない。
おそらく全員が文科系の学生だろうことは想像に難くない。
ソラはそのまま走り出し、ナイフを持っているメンバーから剣で胴体目掛けて打撃攻撃を繰り出し、身体にめり込む重そうな剣は文科系の体には強すぎたのだろう。
(手加減を間違えた。強すぎたか!?)
心の中で舌打ちをするソラ、目の前では倒れて呼吸すらまともに出来ない学生。
(剣を使うのは無しだ!全員殴り飛ばす)
瞬間移動で反対にいるもう一人のナイフ装備の女性に顎下になるべく痛みを感じさせないように、且つ素早くアッパーカットを決める。
女性は力を無くして地面に突っ伏す。
ソラはそのまま右で呆然としてる眼鏡の男性目掛けて走り出し、男性は恐怖から重そうに持っているアサルトライフルを適当に降る。
そんな攻撃が当たるわけが無く、ソラはそれを難なく躱して鳩尾と人中に打撃攻撃を与えて更に瞬間移動と打撃攻撃で沈黙させるのに五分と掛からなかった。
やはり大学生だったらしく、地方の小規模大学の一年生から三年生。全員が元々反社会運動家で、大学内で良く小規模な運動をしていて学校側から怒られていたらしい。
しかし、先の騒動で学校が事実上閉鎖、別の大学に無償で入ることが出来るのだが、どこの大学もほとんどが閉鎖状態で目的の大学が見つからなかったらしい。
そんな苛立ちが反社会運動家メンバーの条約締結への反抗に繋がった。
しかし、当初は悪戯程度の可愛らしいもので、こんなに大規模な事件を引き起こすつもりは無かったそうだ。
しかし、そんな彼らに日本在中米軍を退役したという米国男性かれあ入れ知恵が入ると、現在のような大掛かりになっていった。
武器の持ち込みは特に制限が無かったようで、空港のように検査機が導入されなかったので簡単だった。
本来は総理大臣の車を襲うつもりだったそうだが、さすがに大学生十人だけでは軍の布陣を突破する気にはなれず、簡単な人質を取るという結果を選んだ。
「おまえ達異世界人の所為で我々は多くの損害を得た!異世界人は我々に謝罪し慰謝料を請求するべきだ!」
「そうだ!対等な条約なんて結ぶだけ無駄だ!我々は被害者だ!」
ソラは捕まってもなおそうやって叫ぶ彼らの前で鎧を解き学生服をさらし出す。
大学生の十人は学生が自分達を捕まえたと驚き、中にはすっかり意気消沈してしまった者までいる。
「被害者なら殺し合いをしても許してもらえると?」
「我々は操られていたんだ!それに元々原因は………!」
「日本政府だよ。日本政府は昔から『呪詛の鐘』を使って違法な治安維持を行っていた。そのツケがやって来たというだけさ。勿論ガイノス帝国にも責任はある」
「その通りだ!我々は完全な被害者なんだ!」
ソラは『被害者』という言葉に怒りを覚え、まるでカエルを睨みつける蛇のような目で見つめる。
「被害者なら何でもしていいのか?日本政府は自分達が異能を手に入れる為に中学生四十人を犠牲にしたんだ。それすらも日本の所為じゃないと!?ふざけるな!!」
ソラはついに怒鳴り散らした。
我慢の限界だった。
「そんな事の為に堆虎達は犠牲になったのか!?そんなくだらない事の為にあいつらが犠牲になったと?お前は彼女たちに苦しみを知らないからそんないい加減な言葉を言えるんだ!彼女たちはこの二つの世界を救うために死んだんだぞ!!」
ソラはついリーダーの男性の襟首を強くつかみ持ち上げる。
男性だけでなく、周囲にいる多くの人の内日本人は口元を覆う者が多いが、ガイノス帝国民は既に皇帝から聞いている話である為特に驚かない。それでも、視線を逸らしたくなるのは事実でもある。
「何も知らないくせに偉そうに勝手な事を言うな!お前の行動が何より命を懸けて世界を救おうとした者達の侮辱だ!!俺の目の前で………その口を開くな」
その場で男性を捨ててソラは歩き出した。
堆虎達は決してこんな男達の為に死んだわけじゃない。
彼女たちは自分の家族や大切な人が未来を生きられるように、人や国を信じて死んだんだ。
そう思うと声を荒げて怒鳴り散らしていた。
あれを日本からの観光客はなんて思うだろうか?
何より堆虎達の家族は何かを想い、もしかしたら『袴着空』の生存を疑うのかもしれない。
軍の人から「良くやった」という言葉すらもまともに返すことが出来ず、フラフラと人混みから避けるように歩くと目の前にマリアが現れた。
士官学校の教職員用の制服を着ていて、幼さと相まって社会人ではなく小学生に見えてしまう。
「珍しく声を荒げておったな。お前さんらしくない」
「かもな」なんて声しか絞り出せず。
広場から離れて一旦マリアが用意した車に乗って南区駅前広場まで戻る道中、マリアと運転手の三人での移動。
運転手と俺達の間にはマジックミラーがあり防音設備も完璧らしい。
「何も知らないから………そんなことは分かっている。でも……」
「まあ、お主には耐えきれんことじゃろうな、辛い所じゃよ。何せ、お前さんは生きる者として全てを託されたのじゃからな」
重たいことだってある。
でも、それを口にすることは託した者達への裏切りで、それをしようとは思わない。
「でもさ………」
「儂の前でぐらい………強がらずともよいのじゃよ?お前さんは高校生なのじゃからな。儂は教師でありお前さんのサポート役じゃ」
「…………重たいよ」
絞り出されたような「重たい」という言葉と共に、今まで我慢してきた物が奈美だと嗚咽として吐き出される。
マリアは俺を抱きしめ涙を受け止める。
「高校生には荷が重かろう。機竜様からお前さんの事を心配して負ったよ。今回の一件は学生にとっては重すぎるのではないか?とな。勿論儂だって心配じゃったよ。お前さんは苦しみながらも前に進んだはずじゃ」
「分かっているよ…………逃げたくないんだ!どんなに苦しくても俺はこの道だけは歩かなければいけないんだよ!」
逃げたらそれこそ裏切りである。
「逃げよとは言わんよ。でもじゃな。辛いときに涙を流すことぐらい彼女たちとて許してくれるよ。それに、お前さんが苦しそうな表情で生きる方が彼女たちとて苦しかろう?」
逃げるな。立ち向かえ。抗い続け。生き続ける。
死ぬその瞬間まで戦い続ける一生で、守り続ける毎日を送っている。
「それでいいのじゃよ。じゃがな苦しい時には涙を流してスッキリさせるのがよかろう。儂で避ければ受け止めるよ。お前さんの苦しみをな」
「………ありがとう」
戦い続け、生き続ける。
誓いを胸に、生きた証を抱きながら前に………前に……!
感想は後編で!では二時間後に!