辿り着いた未来 10
今回はイリーナとヴァースの物語です!
奈美はイリーナの単独ライブが終わるまでその迄待っていると、周囲の観客はあっという間にイリーナの虜になっているようで、歓声があちらこちらから上がっている。
イリーナはこの一か月名前を売る事に集中しており、あちらこちらで小規模のライブを開催していた。
ほとんどがタダ同然のライブであるが、一部ではきちんとしたライブ会場が用意されており、本日はイリーナのライブという事もありグッズの販売が行われている。
つい奈美はライブ後、イリーナがやってくるまでの間にグッズを眺めていた。
イリーナのグッズを購入しようと思ったが、買ってしまうとイリーナが遠い存在のように思えてしまい止めた。
近くの椅子に座りながら呆けながら待っていると真正面からイリーナがサングラスで顔を最低限隠しながら歩いくる。
イリーナと一緒にジュースを購入後、円形状のテーブルにポテトを置いてヴァースと共につまんで食べている間にイリーナに相談した。
昨日海という幼馴染に告白された事、嬉しくて受諾したこと、今更恥ずかしくて会いにくいという事を。
「そっか………恥ずかしいって奈美でも思うんだね」
「ひどい!私だって思うよ。それに……海君がどうして私を選んだのか分からないし。海君昔は万理お姉ちゃんが好きだったはずだし……」
「らしくないね。奈美が卑屈なんてさ。私の知っている奈美は優しくて、男勝りな性格をしているから真直ぐ。でも、乙女な一面を持っている女の子だよ。こういう時の奈美ってむしろ好きな人の所にまっすぐ向かう何だと思ってた」
「だって………」
両頬を膨らませながら口を『モゴモゴ』と動かす。
イリーナはうまく聞き取れなかったのか、何を喋っているのかと耳を澄ませていると奈美はイリーナにだけ聞こえる声で呟いた。
「お兄ちゃんが、海君と付き合うのなら少しぐらい女の頃らしくしろってうるさいし。お母さんはお母さんで海君に迷惑を掛けないか心配っていうし。お父さんは慌てふためていて全然役に立たないし」
父親に対しての言葉だけ辛辣だったが、家族が奈美ではなく彼氏の海の方を心配していることにイリーナとして文句の1つでも言いたいところであるが、奈美の男勝りで真直ぐな性格を知っているためか反論しにくい。
しかし、イリーナが感じた想いは家族が基本的には付き合うこと自体に反対していないという事を感じた。
(家族は奈美が付き合うという事は反対しないんだ。優しい家族なんだね。奈美が家族に不服を感じていながらも文句を言わない理由分かるな)
「要するに奈美は海って彼氏にどう接すればいいのか分からないってことだよね?」
「うん。だって…………男の人と付き合うのって初めてなんだもん」
「それって、誰だって最初は初めてなんじゃない?なら初々しくすればいいと思うよ。そういう表情して会いに行った方が相手だって波野気持ちに築きやすいんじゃない?」
奈美は顔を真っ赤にして両手を膝の上でもじもじさせる。
その姿を見るとイリーナは微笑ましく思う。
ヴァースは呑気にジュースを飲んでおり、こういう姿を見るとイリーナとしてはからかいたくなる。
「それに案外男の子はからかうと動揺して本性が分かる者だよ」
「ほんと?」
「………今から証明してあげる」
イリーナは奈美の耳もとで呟くと、ヴァースに『近づいて』とジェスチャーで指示を出す。
何事かと顔を近づけ隙だらけの右頬にそっとキスをする。
するとヴァースの脳内で処理をする事三十秒、顔どころか全身真っ赤になったヴァースが鼻血を垂れ流しにしながら机に突っ伏す。
「ね!案外うぶな所があるでしょ?」
「これってこの人が特殊なんじゃ?」
「まあ、それもあるけど。案外クールぶっている人ほど内心ドキドキしている者じゃない?」
奈美は心の中で「そうなのかな?」と自分の兄を思い出すが、これと言って隠すようなことをしない兄しか思い出せない。
海が動揺する所など全然想像も出来ないので奈美としては簡単には頷けない。
「取り敢えず会いに行かない?恥ずかしいなら私達で一緒にあってあげるから。行こうかヴァー………ス!?大丈夫?すごい出血しているけど?」
机一面が血で真っ赤に染まっており、既に手の置き場の無いような状況であった。
ヴァースの鼻血が止まるのを待ち、お昼が過ぎてある程度お客さんの数が減った時間帯を狙って南区駅前広場に足を運んだ。
イリーナも奈美も相も変わらずの人の多さに息を呑む。
「前にも来たけど……すごい人の多さね」
「イリーナも来たんだ。私も最初に来た。でも………何か初日より人が増えてない?」
「まあ駅前だし、一番人通りの多い場所でもあるからね」
ソラ達が経営している出店は人が途絶える様子を見せず、店員は忙しそうにあちらこちら移動している。
さすがにあそこに入る気が無くなったのか、奈美は後ろの方で大人しくしている姿を見ていたイリーナ。
イリーナは奈美の右腕を捕まえて一緒に並び始める。
奈美は海から手渡されるたこ焼きをふと眺め、その後すぐに海の顔をそっと見ると海もまた奈美の顔を見られないほど真っ赤に染まっていた。
(同じ気持ちなんだ)
そう思うと正直安心してしまう。
たこ焼きを受け取ると奈美はようやく気が付いた。
ソラがいないという事に。
レクターとジュリ曰く、帝城で問題が起きたらしく軍関係者と一緒に帝城方面に向かったらしい。
最も帝城内は安全らしいが、帝城前で人質を使った条約反対運動が起きていると聞くと奈美は表情を曇らせた。
起こしているのは日本人の集団で、ガイノス帝国に慰謝料を請求するとか、条約はガイノス帝国の支配を受け入れる悪手だとか演説している。
警察や軍が交渉して止めようとしているが、全く効果が無い。
その為少々荒っぽいが止めるためにもソラが呼ばれたとのことだった。
帝城前広場では多くの人だかりができており、十人の男女が銃とナイフを振り回して複数の観光客を人質に取っている。
その中には日本からの観光客も含まれており、メガホンのようなアイテムで周囲にガイノス帝国との条約を反対するとずっと訴えている。
しかし、日本からの観光客すらその言葉に全く響いていないのが事実だった。
ソラは少し高めの建物の上で演説を眺めており、人質の中に自分の関係者がいないことを確かめると武装集団の配置を確かめている。
「円状に六人。ど真ん中に一人と人質の中に三人。厄介だな。それなりに理にかなった配置しているから困る。その上数が多くて制圧するのに時間が掛かるし、どうやってこの中から人質を解放させるか」
能力を使って制圧するのは簡単だが、人質になるべく怪我をさせたくない上、今帝城では条約が締結されている最中である。
下手な行動をすれば条約がうやむやになりかねない。
「政府はアメリカとか向こうの外国臨時政府が絡んでいるって読んでいるらしいけど………見た感じ彼らは操られているというより、唆された感じがするんだよな」
ソラはそんなことを想う一方でこんな行動をする彼らに同情だけは決していない。
ソラはそんな彼らの握る武器の安全弁が付いたままになっていることに気が付いた。
「素人だからかな?だとすれば問題はナイフだけってことになるな」
ソラは緑星剣を鞘から抜き出し、瞬間移動する場所を見定める。
息を吐き出してもう一度吸い込む。
肺一杯に空気を吸い込んで、自分の意識をあの集団のど真ん中に向ける。
ジュリと共に瞬間移動した時と同じ感覚で………一気に飛ぶ!
どうだったでしょうか?もうそろそろまとめに入って完結にしようと思います。キャラクターが多いので最低限の形でジャパンクライシス編に登場した各キャラクターの結末をきちんと描きたいと思っています。もう少しで完結となりますので、あと少しお付き合いしてください!では!次回!