辿り着いた未来 8
海と奈美のエピソードの結末です!
何故奈美を選んだのかというのは海自身よく分かっていない。ただ、奈美と万理との選択肢を前にして海は奈美の方を選んだというだけの話である。
肝心の海本人がどうして選んだのかをよく理解していない。
海が渡したプレゼントを開けながら喜ぶ奈美だが、奈美自身は海への好意を抱きながらも海が奈美への好意に鈍いために未だに告白で出来ずにいた。
奈美からすれば海がどうして自分にプレゼントを渡してくれたのか何て考えておらず。むしろ海はソラや万理にも渡しているとすら思っている。
鈍感である奈美と自分の心に全く気が付いていない海であるためか結局海は告白が出来ずにいた。
そのまま数時間がすぎパレードを軍の調査中に発見したという隠れた場所、広場がよく見える建物と建物の間に存在する小規模な広場に三つの家が揃い、結果から見ればいつもの人達でパレードを見ていた。
豪華な装飾と綺麗な人々が次々と北区の広場に入っていき、後方に控える帝城と一緒に見られるベストポジションを見る過程ですら海は自分から言い出せずにいた。
自分の想いに気が付かず、ソラや万理もどう介入するべきかどうかを悩んでおり、一部の人達も海の微妙な雰囲気に気が付いている。
ソラはチラッと二人の方を見るが、何も気が付かず海と一緒にはしゃいでいる奈美、奈美と一緒にパレードを見ながらもどうするべきかを悩む海。
(海にアドバイスを送るべきなのか、それとも奈美に海の想いをそっと告げるべきなのか。いや、そもそもこの二人の問題に俺が介入するべきなのか?何もしないことが正解だと思わない)
ソラも悩むが万理も人一倍悩んでいる。
(何とかしてあげたいけど………私自身気持ちの整理がつかない状態だからどんなアドバイスを送っても説得力が………)
結局そのまま時間だけ無慈悲に過ぎ去り、夕方を迎えたころアベルとガーランドとサクトの話し合いの結果、北区の門の外にある旧北の近郊都市でバーベキューをしようという話になった。
バーベキューをしようという話になったのは良いとして、何故この北の近郊都市でバーベキューをしなくてはいけないのか?
ガーランド邸の庭でも、サクト邸の庭でもいいわけで、よりによって現在この現在開発を急がれているこの場所でしなくてもいいような気がする。
最も開発はまだ始まったばかり、廃墟を壊したり土地の確認をしたりと正直バーベキューをするスペースは余裕で存在するのだが、正直な話を言えばここは堆虎達の眠る場所。
ここでしたくないというのが本音で在り、しかしここまで来て俺はそんなことを言いたくはない。
なので黙り込んで俺は食材の確認と買い出し係と道具の調達係の二組に分かれて行動すると話を聞いている。
そのまま俺は買い出し班としてエリナさんと父さんと一緒になって行動しており、海は奈美と別れて道具調達係として行動していた。
北区スーパーでは大量に購入するのに向いていないため、少々遠いが南区のショッピングモールに向かう。
パレードの後であるが未だに交通規制が掛かっているため、外回りに時間を少々かけて車で移動するのだが、こういう場合たいていの場合皆同じ考えなので必要以上に時間が掛かる。
ショッピングモールの中に入っていき、野菜コーナーで野菜を一通り購入しそのまま魚介コーナーと肉コーナーで購入しつつ店内を回っている最中俺は一人ドリンクコーナーで立ち止まった。
オレンジジュースを片手で握りしめ、ふと考え込んでしまう。
「どこまで介入するべきなのか………今更俺が二人間を取り持つなんて……………」
俺は今更自分がお兄さん面して上からアドバイスを送る事に戸惑いがあった。
堆虎がいなければジュリへの想いに俺は気が付かなかったし、ジュリがいなければ自分が恋を知ることは無かっただろう。
俺は多くの人との出会いが自分の恋心に気づかせる切っ掛けになったと自覚しており、それを自分の手柄のように語る事に躊躇いがある。
「最も海たちにどうアドバイスを送るべきなのか………それすら見つからないんだよな………海から聞いてくれれば簡単なのに」
いやこれも逃げだな。
難しいな。
俺はオレンジジュースを籠の中に入れて、アップルジュースや簡単な非炭酸飲料をいくつか籠の中に入れていく。
籠が重くなっていき、俺はそのままレジで購入を済ませて父さんとエリナさんが帰ってくるのを待っている。
フカフカのソファで座り、胡坐をかいている間に思考し続けるが、俺には答えなんて出てこなかった。
戻ったころにはすっかり夜になるんじゃないかという時間になっており、調理を終えた食材から焼き始める中、俺は堆虎達の墓の前で立ち尽くしていた。
「なあ堆虎………俺は今更二人の為に何かが出来るのかな?」
教えてくれるわけが無く、こんな事を言っても解決するわけが無い。
花束でも買ってくれば良かったな。
明日、堆虎達の両親がここにやってきて墓参りと堆虎達が亡くなった場所を案内するらしい。
しかし、ガイノス帝国政府の中には今回の一件に対して反対した者が多く、ガイノス帝国の立場を危うくさせると批判させた。
考え込んでいると横からいい匂いが俺の鼻孔の奥へと漂って来て、ふとそちらに視線を送るとそこでは賑やかな状態が見て取れた。
「でも、俺はきちんと話すべきだと思う。隠し事を今するべきじゃないし、それに………今後の事を考えればクーデター事件は明るみに出すべきだ」
隠すべきじゃない。
詳細を話すべきだと思うが、同時にそれをすればガイノス帝国と日本の条約締結に亀裂が走るのは間違いない事でもある。
明日、帝城内で日本政府とガイノス帝国間で初めて条約が締結される。
それだけ明日一日がどれだけ重要な一日なのかを物語っており、父さん達も護衛の為に呼び出されている。
「どこまで話すんだろうな?全部じゃないんだろうけど………」
独り言をブツブツ呟きながら今一度バーベキューに参加する意欲がやってこないのも事実。
すると肉を持って海がやって来た。
「これを持って行って欲しいとアベルさんが………」
父さんなりに俺と海を二人っきりにしようと試みているのが分かる。
俺は「ありがとう」と言いながら肉の入った皿を受け取り、塩コショウがタップリかかった如何にも『奈美が作りました』と自己主張している肉を食べようとは思わなかった。
「ソラ先輩はどうしてジュリさんに告白したんですか?」
海からの唐突な質問。
「………好きだからだけど………?」
「ジュリさんのどこが好きなんですか?どうして好きだって気が付いたんですか?」
ジュリのどこが好きで、何処に恋をしたのかなんて言われても困る。
「………沢山あるけどそれを説明してくれって言われたら恥ずかしいな。でも、好きって俺が思うに感覚みたいなものじゃないかな?好きな所ってその後に分かるモノだと思う。海だって好きだって思いは感覚で理解できると思うぞ。例えば『あの人』の優しい所が好きだとか。辛いときに側に寄り添ってくれる場所が好きだとか。海が好きだと思う人の思い出すシーンはどこなんだ?」
「……………多分。俺が辛いときに側にいてくれる時、一緒に泣いて一緒に笑おうとしてくれる所………かな。ううん。僕は一杯彼女を傷つけたと思う。多分これは彼女に償いたいと思っているだけなんだと思うんです」
「それは本心か?償いで人を好きになったなんてお前は本心で語っているのか?それは失礼だと思うぞ。そいつはお前が償いで自分を好きになってほしいと本気で思うのか?」
俺は少々本気の口調で語り掛ける。
海もさすがに考え込む。
「分からないんです。これが本心なのかなんて………だって人を好きになるほどかかわった人なんて先輩達ぐらいなんですもん!俺には先輩達しかしなかった!これが………奈美へのこの思いが恋心かなんて僕には……分からない」
親しい者が少ない海にとって好きになるほど親しくなった人間なんて俺たち以外に居ない。
前の両親だって海にとっては他人同然だった。
親しい者が少ない海にとって、奈美への想いが本当に恋心かなんて分からないのだ。
「そんなの………俺だって分からないさ。でも、俺が奈美なら償いで付き合って欲しいとは思わないぞ。好きになるって、恋ってそんな感情じゃ無いはずだろ?海……お前は奈美を好きだって思わないのか?なのにお前は奈美に恋心を抱いているのか?」
「好きですよ!でも………」
「だった!それは恋だろ?」
「え?」
「相手が好きだという感情以上に恋だと断定できるところがあるのか?お前はもう少し自分の気持ちに素直になった方が良いぞ」
海は俺に自分の分の皿を預けてきて、奈美の方へと近づいていき奈美の右手を強引に引っ張っていきそのまま人のいない場所まで連れていく。
俺は物陰から二人の様子をうかがう事にした。
「どうしたの?今日一日おかしいよ?」
「………僕こういう状況は初めてだからよく分からないんだ。だから、直ぐに同行したいわけじゃないんだ。でも、僕の想いをきちんと告げたいんだ」
海は意を決したように目を大きく開く。
「奈美が好きだ!」
奈美は驚きで目を大きく開き、口元を押さえながら何度も頷く。
言葉を返す余裕がないほどに衝撃を受け、涙を流しながら海に抱き着く奈美達を見ながら俺は心から良かったと思えた。
堆虎達にいい報告が出来そうだ。
どうだったでしょうか?今回は親しい者が少なかった海、好きだという気持ちすら疑ってしまう彼が何故が奈美を選んだのかを理解する話です。今回で四人のエピソードは終わりました。残りはジュリや七夏祭を通じてソラが選んだ未来の先を描きます。では次回!




