辿り着いた未来 7
海と奈美のエピソードの完結でもあります。まずは前編です!
「ねえ。奈美。向こうで話があるんだ」
「海?いいけどここじゃダメなの?」
海は黙って頷きながら奈美の右手を強く握りしめ、植物園の端っこの方へと移動して行くと二人は物陰に隠れてしまう。
海はポケットの中に入れておいた昨日購入したプレゼント、包装紙を丁寧に巻き付きリボンも丁寧に結ばれているのを感触として確かめる。
プレゼントを確かめながら、連れてきた場所で奈美の方を振り返る。
不思議そうな表情をしており、海はポケットから取り出したプレゼントを奈美へと差し出す。
「これ………プレゼント」
「いいの?貰っても………?」
「駄目かな?奈美が何が欲しのかよく分からなかったから」
海は一週間以上前にある人物との話を思い出していた。
~回想~
海は士官学校への編入をいち早く決め、六月の中旬には授業に参加していたのだが周囲への打ち解けにはまだうまくいなかったのは事実だった。
そんな中、海にいち早く声を掛けたのは同級生でナンバーワンの実力を持つキャシー。
キャシーは練習場に案内してやり、その練習場の中に入っていくとキャシーは木剣を海に渡したのち試合を申し込んだ。
「ここで私と一試合してほしいの。この学校ではある程度の所為とは武術に精通している人が多いの。私を含めて同級生の中でもそう言った生徒は多いわ」
「それは………ここに編入してなんとなくわかったよ。ソラ先輩達の世代も強そうな人が多いそうだし……」
「そうだね。私達の世代も強い人は多いけど、ソラ先輩達の世代の方が強い人が多いと思う。けど、この士官学校で軍方面に進むんならある程度強くなくちゃいけない。私は強さを知りたいの。あのソラ先輩と一緒に学んだ力見せてください」
木槍の先を真直ぐ海に向け、海は受け取った木剣を縦に構える。
沈黙が場を満たし、キャシーが地面を強く蹴り海への距離を詰めようとするが、海はそれを横のステップで回避する。
海とてこの二週間何もしなかったわけじゃない。
師範代と呼ばれている男性から付きっきりで面倒を見られて、初伝を手に入れる為に必要な技の習得や型は既に終わっている。
その全てを出し切る為の試験だという気持ちで回避すると同時に前に突っ込んでいく。
しかし、キャシーは回避をきっちり読み切り、木槍を海の腹目掛けて叩きつけようとする。
海は木剣でその攻撃を受け止め、何とか数歩下がる程度で済んだがその隙を見逃すキャシーでは無い。
キャシーは素早く走り出し、槍を横なぎに振るが海はそれを剣で弾きタックルを決める。
キャシーの目つきが先ほどまでの遊び心が残る目つきから真剣な目つきに変わっていく。
海は気持ちを切り替え、向かってくるキャシーの連撃を捌こうと必死になるが、しかしキャシーの素早く強烈な一撃を捌き切れない。
攻撃を受け止めて更に後ろに下がり、海は一撃を受ける覚悟で前に進みだす。
海はキャシーの右肩に、キャシーは海の鳩尾目掛けて攻撃を繰り出すが、その攻撃が直撃目前でレクターが受け止めた。
「ストップ!練習場での試合をする場合、防具無しで直接攻撃を禁止する!これは練習場の常識だよ」
そう言いながらレクターは二人を思いっ切り武器毎距離を開ける為に投げる。
同時に尻餅をつき、二人の視線は全く同時にレクターの方を向く。
レクターがニヤリと笑いながら手を振る。
「試合をするなら防具を付けないと、型や技の確認をするんなら必要ないけど………今の攻撃はどっちも大怪我をさせたと思うけど?」
キャシーと海は素早く立ち上がり深く頭を下げ「すみませんでした」と素直に謝る。
戦いの中でどちらもが少々頭に血が上っていたのは間違いない。
「まあ………俺は昔防具無しで試合して怒られたけどね」
((この人にだけは怒られたくないなぁ))
「ソラと一緒に怒られたんだよね。まあ、いいけど。余り無茶なことすると使用を禁止されるよ」
((要するにレクター先輩と同じ立ち位置に堕ちるという事ですね))
「ソラは直ぐに切り上げられたのに、俺だけその後も怒られたのは気に入らないんだけどね」
((ソラ先輩とレクター先輩の怒られ具合はだいぶ違うと思います))
「まあいいや!この練習場をこっそり使って技の確認をしようと思っていたんだ!じゃあね!バレる前に逃げるから!」
((この人に怒られたことだけは気に入らないけど。関わりたくないからいいか))
レクターが出ていく姿をそのまま見送り、二人は近くのベンチに座りながらスポーツドリンクを購入して口の中を潤す。
流石に冷静になった二人は先ほどまで自分達が大怪我をさせかねないことをしていたと反省し、二人共謝り合う中海は幼い頃の試合を思い出していた。
「海は幼い頃からソラ先輩と一緒に育ってきたんですよね?昔から強かったんですか?」「うん。多分当時の剣道の同学年でソラ先輩は全国区クラスの実力者だと思うよ。勿論きちんと型何かを真面目に覚えればだけど。あの人自分の好きなモノから習得するから」
「ああ、分かる。あの人と初めて試合をしたあの大会の決勝トーナメントの一回戦。初伝をもらったばかりの人たのに、なぜか中伝や上伝の技を使うの………でも、レクター先輩と戦っているソラ先輩は楽しそうだったな。私はあんな風に真剣に切り結ぶことが出来る人がいないから」
それは海にもよく分かる話である。
剣道場でも海は孤高の存在のようにある使われ、対等に見てくれる同級生など存在しなかった。
だからだろう。そんな存在でありながらそれを気にしないソラを羨ましいと思うようになり、ソラに勝ちたいと思うようになった。
「万里先輩がいつだってソラ先輩ばかりを見ているのは知っていたから、この人を振り向かせられれば勝てるような気がした」
「海は万里さんが好きだったの?」
「分かんない。本当は好きだって気持ちだって真剣に考えたことなんて無いし、女性の事を真剣に見たことなんて無いよ」
ソラに認めて欲しいと思い、その為に様々な努力を続けてきたつもりだった。
しかし、ソラと再会し認めてもらった今現在海は自分がどうするべきなのかが見失いかけている。
ソラに勝ちたいという気持ちはあるのは事実、しかしソラの目には今の海ではなく、レクターに勝つことが写っているのだろう。
「奈美ちゃんは?確か同級生なんでしょ?」
「………良くしてくれたよ。大会の時は必ずドリンクを用意してくれて、休憩の時は狩らずタオルを持ってきてくれるし。でも、奈美が試合に出るところ見たこと無いな」
「そういう事じゃ………」
キャシーは苦笑いを浮かべるしかなかった。
分かっていたことではあるが、海もまた鈍感なのである。奈美の想いに全く気が付いていない。
「海はどっちかを選べって言われたらどっちを選ぶの?優柔不断は男子として認めるわけにはいかないな。私のライバルなら選んで欲しい」
立ち上がったキャシーに「ラ、ライバル?」と言い返す。
「そうだよ。今認めた。今年行われる大会で中等部部門に出場して。そして………戦おう!」
自分の手に握られたスポーツドリンクを握りしめて考え込む。
奈美を選ぶのか、万理を選ぶのか。
キャシーは去り際にもう一度振り返る。
「ソラ先輩は選んだよ。私達は正直悔しかったけど……………それでも、あの人は選んだ。たった一人を選び取ったよ。このままズルズル引きずる様な人間になるの?」
ソラと比較されれば海とて逃げるわけにはいかない。
そう思った所で自分がキャシーの掌の上なのだと気が付いたが、ここで逃げればそれこそ一生かかってもソラに立ち向かう事が出来ない。
目を瞑り、今までの事を考えて………結論を出す。
~回想終わり~
感想は後編で!では二時間後に!




