竜の欠片 2
新作を書きながらこちらにも掲載する。仕事の合間を縫いながらの作業です。実は少しだけ楽しい。
軍が監視カメラの異常事態に気が付いたのは、異常なアラートが高らかに鳴り響き、誰かが目の前にあるパソコンの画面を監視カメラから送られてくる画像へと切り替えると、そこには黒い地面に沈む街並みが映し出され、飲み込んでいた飲み物を吹き出す。
「汚い!」
「それどころじゃない!これどうなっているんだ!?」
ゆっくりではあるが、六、七階のマンションなどの建物が沈んでいき、その中心に緑色の鎧を着た空と、沈んでいく化け物が映し出され、この状態では空が犯人のようにも見えるが、飲み物を吹きかけられた男性がその映像を見て冷静に分析する。
「一件この鎧の男が犯人に見えるけど、よく見るとこの……黒い何かが鎧にへばりつこうとしてる。恐らく飲み込もうとしているのがよく分かる」
「なら………犯人じゃない!?」
「可能性があるなら沈んでいるこの化け物かもしれないな。人間がやったと見るより化け物がやったと見た方がいいだろう。というか……この映像は上に報告しろ!!あと、過去の記録を見ればどうしてこうなったのか分かるだろう!!」
慌ただしく、軍本部は混乱の中事態解決のため動き始める。
アベルがだらけた気持ちで軍の正門をくぐった時、後ろからバイクのクラクション音が響き、気になって後ろを見るとそこには空のバイクが鎮座していた。
アベルは驚き、バイクに駆け寄る。
『非常事態につき、第二保持者であるあなたの元へと向かいました。現在空様は異常事態に襲われています』
バイクから監視カメラと思われる映像がリアルタイムで送られながら、その経緯が同時に映像として送られる。
そこには空がテラに襲われる場面、空がテラを撃退している場面、テラが苦しみ化け物へと変容していく過程が描かれており、最後には黒い血を足元から流しながら周囲の建物を飲み込もうとして空が斬りつけているのが良く分かる。
「空が足元を見ていなかったのか?それより………この鎧、まさか『竜の欠片』なのか?」
竜の欠片。
聖竜が与えることが出来る唯一の『継承型魔導』であり、帝国が唯一持っていながら誰も所有することが出来なかった魔導。
魔導と魔導機は全くの別物で在り、魔導をベースにして一般の人間でも同じような力を振るうことが出来るようにと開発されえた人工的な魔導が魔導機。
魔導機とは違い、魔導は生まれ育った環境が異常であったり、超常的な道具を媒体にして力を手に入れる場合と二つ存在し、後者の場合は道具を消耗することで力を手に入れ、遺伝継承が不可能である場合は道具に戻る傾向がある。
「竜の欠片はこのケースから逸脱するパターンだ。道具ではなく、生き物から力を授かるパターンだから。ただ………」
聖竜は用心深い。よっぽどでなければ信用しない性格をしており、それが理由で一度として竜の欠片を与えたことは無い。
竜の欠片の継承も基本は一人にしかできず、一度与えると聖竜の力でも奪うことはできない。ゆえに聖竜は人を信頼しない。
なのに―――――、
「聖竜が人に力を与えた?あれほどまでに信頼せず、その上異世界人に与える?しかし、これはどう考えても竜の欠片。まあ、竜の欠片と竜の焔は見分けがつかないからな。継承方法も同じだし、ぱっと見は見分けがつかない」
空に訓練を付けたことが、イメージの具現化の特訓を付けたことで、鎧が空の心のイメージを投影できてしまった。
あれが空の心の奥にあるイメージ。
頭部は竜の顔を思わせ、空の顔は金属のマスクで隠れていて、肩や胴体も竜の模様が描かれている。
竜は竜の欠片が現す力のイメージで在り、心の在り方はその模様にこそある。空の鎧は竜を使って謙虚に、同時に力強く書かれている。
同時に色はその人の本質に近く、緑色は安心感や安定を求めており、同時に周囲へとそれを求めようともしている。
いわば責任感なのだろう。
空は自分が幸せな生活を求めており、同時に安定している事にも安心している。同時にかつての同級生や家族に対して罪悪感を持っており、彼らを助けられないことへの責任を果たそうともしており。
謙虚さと力強さはその象徴だろう。
力強さを謙虚さで隠そうとしており、実際の所隠しきれていない。前に出ようとはしないが、いざとなったら前に出ていく。
目立っているのがその証拠であり、空は迷い未だに自分がどうしたいのかが分からない。家族に会いたいという気持ちと、この世界に慣れ親しみこの世界で生きたいという気持ち。同級生を探したいと思いながらも、この世界で知り合った人々を想ってうまく行動出来ない。
「空の不完全さの現れか、結果から見てちゃんとして見えてしまうあたりが問題だな。心の不完全さやそこからくる不安を見かけで隠そうとしていて、実際隠せている。実際自分のしたい事、他人のためにしたい事がぶつかっている。本当なら自分のしたい事をひたすら突き進みたいのだろう」
この世界でやりたいことを見つけ出した。
大切な仲間に囲まれ、やりたい進路を三年間で見つけ出した。しかし、それは結果から見てももう一つの世界にそこまで後悔があるという事なのだろう。
「空から聞いていたが、剣道?だったか?あれを辞めた理由も周囲との人間関係が理由だと言っていたな。要するに空は人間関係で失敗したという事なのだろう」
失敗した。
逃げたかった。
そんな気持ちを持った空はこの世界に来た。それは都合の良い結果で会ったのだろう。しかし、同時に不都合な結果でもある。
決してすべての人間関係にしくじったわけでも無い。
実際、家族や同級生の一部を気に掛けている。
人間関係の中でも重要な、未来への道を見付ける過程でしくじり、同時にその場所から逃げたいと考えている。
「よほど重要な場所だったのだろう。失敗してくじけて、その場所から逃げてしまうぐらいに。偶然なのか?これは」
空自身が望んだからこの場所に来たのか。
それとも、はやり偶然なのか。
聖竜は何も答えない。
アベル自身も助けに行くべきかどうか悩んでいた。それもまた難しい問題だった。
しかし、その時監視カメラ越しにも分かるぐらいそれがどこか遠く見つめるように首を動かした。
黒い騎士たちは沈みゆく建物の屋上から動く気配はなく、特に驚く気配もない。
こうなることはなんとなくは分かっていたし、そういう錠剤を与えたつもりでもあった。驚くべきは空が着こなす鎧である。
まるで空を守る様に具現化したその鎧、先ほどから黒い血を寄せ付けず。弾いている当たり、呪術に関わる全ての力を寄せ付けないようで。
「雇い主はこの展開が読めたと思う?」
「知っていた。しかし、あの鎧に関しては予定外。この作戦は錠剤を使ったテロを起こし、軍の行動に制限させる」
「制限するか?明日の作戦に影響が出ない?」
「出ない。今回のテロを防げばいいんだ。軍は遅くても必ず完遂する。この事態を収束する。そうすることで一連の騒動を潰すだろう。マフィアはつぶれ、雇い主は明日の作戦を無事遂行することが出来る」
「問題が起きたら皇帝陛下は出てこないでしょ?」
「いや、出てくる。これ以上長引かせるわけにはいかない。戦争が終息したのにも関わらず、いまだに皇帝陛下からの言葉がないのは不自然だからな。多少の危険には目をつぶる」
「でも、皇帝が危険なんだよ?やめるでしょ?」
「世論は不安がるし、あの戦争だって決して国民からの同意を得ていたわけでは無い。むしろ反発を抱いていたのはある。予想のつかなかった戦争の長期化、想定外の被害。特に地方から反発は強い。皇帝はここ数年戦争を理由に表に出てきていないのが現実だ。これ以上会見を長引かせられない」
「なるほどね。でも、そううまくいくかな?」
「いくさ。だが、明日の作戦は彼らの妨害を考えておく必要性がありそうだ」
緑色の鎧。
空が見つめる視線の先にはジュリが居た。
竜の欠片はまだあと二話ほど続きます。なので本日は全て竜の欠片になると思います。