辿り着いた未来 1
後日談は一か月後を迎えています。この七夏祭で『呪詛の鐘の章』は終了となります。あと少しですが最後までお楽しみに!
東京での戦いから一か月以上が経過し、ガイノス帝国首都では『七夏祭』の準備に追われていた。
南区の士官学校では灯篭流しの準備をすっかり終え、生徒はそれぞれの出店物の準備に明け暮れている。
ちなみに俺達の出店物である『たこ焼き』はメニューの詳細を終え、出店の準備も順調に終えていた。
士官学校の出店物は士官学園内で行われる武術演武と希望者のみの出店となった。
出店の無いような食べ歩きが出来るような食べ物や飲み物、生徒会長の方針でそういう方向性になったが、問題の俺達は学園内での販売ではなく、学園の外での販売という一風変わった方針を取る事になった。
というのも、自称店長であるレクターが「売り上げで打ち上げをしたい」という希望があったからである。
学校で販売する場合は売上は学校側に没収されてしまうという理由で、直接帝都庁に書類を提出した。
結局代表者は『ソラ・ウルベクト』のままで提出してしまったが、もう抵抗する気も起きなかった。
問題の誰が店を経営するのかという事である。
俺は妹や海、万理との約束や、家族でまわる予定が詰まっているし、ジュリやレクターも日程によっては家族での予定があるはずである。
レイハイムとエリーに頼んだのだが、二人は学校側の出し物と旧貴族関係の出し物がある為拒否。まあ、そもそもエリーに関しては一か月前のプールでの一件で完全に怒り心頭なのだが。
しかし学校での出し物と違い士官学生という制限が無いのも俺達のメリット、最終手段で俺達がどう出たのかと言うと………今年は出し物が無い南区の道場生を『売り上げが一定以上ならみんなで売り上げ』という商品を餌にして誘い出した。
出店場所は一週間前に各区で指定した場所でくじ引きが行われるが、士官学校など学校や軍など施設を所有しているところはクジに参加する必要はない。
くじ引きは各区で『エリア』という名前で指定されており、俺達は南区中央駅前の激選区画の駅前広場の出入り口から左に三つ目という結構いい場所が取れたりする。
場所の大きさもそこそこ良く、参加することになった師範代と父さん(ガーランドと売上勝負をすることになったらしい)達で当番制でいてくれるらしい。
という事もあり、前日の今日は俺は明日のチェックの為にバイクにまたがって出店まで急いでいた。
南区の旧市街地を南の新市街地方面目指して進んでおり、駅前広場は準備をしている人達でごった返している。
適当な駐輪場に停めて俺は小走りで出店の場所まで行くと、出店の所では複数の生徒が準備に明け暮れており、海もその中で混じって準備をしてくれている。
「おはよ。タコは届いた?」
「はい。その箱に調理済みの奴が大量に。ちなみに明日もいくつか来る予定ですよ」
念の為にとチェックする為にクーラーボックスに入っている調理済みのタコ、このタコは全部ジュリ達女性陣で調理しており、それ以外の具材をすっかり準備済み。
明日を待つばかりなのであるが、海はガーランドの方を手伝わなくていいのだろうか?
「海はガーランドの方を手伝わなくていいのか?」
「はい。父さんは正々堂々として勝負だから手を抜くなって。勝てたらいい物買ってやるって」
それはきっと息子の良い物ではなく、ガーランドの良い物だと思うが人様の家庭事情に口を出す必要は無いだろう。
ていうか南区と北区では売り上げ計上や売値が違ったりするので勝負にならない様な気がしてならない。
たこ焼きは南区では買いやすい値段であるが、北区は金持ちがくる可能性が高く、元々が金持ちが集まっている場所でもあるので商品の値段も高めに設定されている場合が多い。
「何を基準で勝負をするんだろうな。北区と南区では値段も違うだろうし………順位かな?」
「父さんは順位で勝負するって………でも」
「?何勝てそうにないとか?それなら気にするなって。どうせ父さん達が勝手に言い争いをして始まった勝負だろ?父さん達だけならともかくサクトさんが仲介役をしていたはずだし、賭け事はしていないはずだ」
そこはサクトさんである。
平等で無難な勝負に変えているのだろう。
しかし、海の懸念は全くの別だったりする。
「いや、父さんの出し物………『プロが教える戦闘術口座』なんですけど」
なんだろう。勝負をする前に負ける未来が見えそうにない。
そして、それを言い出した時の本人のドヤ顔が見えてくる。
「しかし、ここで手を抜けばガーランドに負ける可能性が高い。完封で勝つことに意味があるんだ!良いな!我々は最大の売り上げをたたき出す。目指す『エリア1№1』だ!」
父さんは俺達の後ろで燃えており、特に各売り上げをたたき出すことに必死なようだ。
まあ、言い出しっぺのレクターからして売り上げで贅沢したいと張り切っているのだから別にいいんだけど。
「聞いたところによるとガーランドは場所もいい所を確保できなかったようだ!これはチャンス!」
「何があったらあんなにやる気を出すんだろうな」
教えて欲しい。そのやる気の正体。
何が父さんをそこまでさせるのだろうか?
まあ、追及したらめんどくさそうなので追及はしないし、そのやる気が売り上げ向上になるのなら俺は文句は言わない。
「おはよう」
ジュリの声がするので海と一緒に振り返ると何故だろう。そこにはここにいないはずのマリアの姿があるような気がした。
「ナンデココニイルノデスカ?」
「何故片言なのじゃ?別によかろう?お前さんのサポートの為に学校の教師に任命されたからの」
「いや、それは学校の行事なら別だけど。これは個人的な出店物だよ?」
「言ったじゃろ。お前さんのサポートの為にここにいるのじゃぞ。お前さんが出店をするのなら手伝うのが儂のやるべきことじゃ。それより、ガーランドの出店物が変わったそうじゃぞ」
俺が初情報に耳を疑う。
「待ってくれ。出店の直前の変更ってあり?」
「認められているよ。出店の場所さえ変更しなければいいはずだし。何をするかは個人の自由だし」
「で?出店の内容は?」
俺は生唾を飲み込みながらマリアの言う一言をここぞとばかりに待っていた。
「………武術を使った演技らしく、演技内容は貴族内紛をなぞらえたものになるようじゃな」
「……………はい?」
思ったより普通の内容がやって来たので普通に反応に困る。
「どうやら出店に協力している人達から猛反発を受けたらしく、場所の悪さもあってもっとまともなのにして欲しいと苦情があったようじゃな」
「まあ、あの出店物じゃな。人が来ない所が笑いの種にしかならない気がする上、鐘も後が集まる区画でやるべきことは無い気がする」
「少しは警戒しておいた方が良いかもって思ってね。マリアさんと一緒にアベルさんに言いに来たの」
しかし、金持ちが集まる場所で演目である。これなら場所の悪さをある程度カバーできるだろう。
「でも、根本的な解決じゃないよな?そもそも場所が悪いというデメリットがあるわけだし」
「そうじゃな。それにこちらはエアロードとシャドウバイヤが目立つというのもある。間違いなく売り上げとしては最大の売り上げを叩きだせる可能性が高いじゃろう。しかし、だからこそ向こうが何か対策を打つと考えた方がよかろう」
確かに。
何か別の策を講じておく必要がありそうだ。
しかし、立地条件と人数と言う点はもはやこれ以上手の打ちようがないのは確かだ。
人が集まりやすい場所と目立つマスコット(エアロードとシャドウバイヤ)、捌き切るのに余裕な人数も確保済み。たこ焼きの具材の発注先も複数確保済み、念のためにと軍関係者にルートの確保もしてある。
「これ以上手の打ちようなんて………」
「それを今から考えよう。ね!」
感想は後編で!では二時間後に!