ワンフォーオール・オールフォーワン 9
後日談エピソードが中々終わりません!
道場から新市街地のメインストリートの方向へと海を入れた四人で歩いていく、別段路地裏のような雰囲気ではない路地なのだが、それでも人通りの少なさがそう見えるのだろう。
ビルが密集している大通り以外では大抵の路地が薄暗く見える。
最もメインストリートも都市高速が走っている為、都市高速下は多少暗さがある。
メインストリートまで出ていくと、四人で学校に案内しようという話になり、そのままトラムに乗って士官学校まで歩いて移動することにした。
「意外と高低差があるんですね」
海がつり革を持って立っており、隣に立つ俺に尋ねてくるので俺は「草原にできた場所だからそんなには無いぞ」とだけ答えた。
俺の正面に座るジュリが「小高い丘が少しあるから高低差がある所はあるの」と言いながら微笑む。
「実際、北区は緩やかだけど斜面にできているし、西区は荒野が近いからか高低差が一番酷いはずだし。南区は一番住みやすいって言われているよ」
「そうだね。実際南区に住んでいるから分かるけど坂がそんなにないから移動は楽だし」
トラムが左に曲がっていき士官学校の方まで近づいていくと、周囲の景色も少しずつではあるが軍色が強くなっていくのが見て取れる。
「あれが軍病院。その奥に軍が管理している空港」
俺が指をさして知っている限りの場所の説明をしてやるが、この辺は軍関係者が多く務めている場所が多くて俺も知らない場所があるので困る。
しかし、そこはジュリである。
俺の知らない場所でもしっかり網羅している。
「空港の左には軍が管理している森林地帯があってね、訓練用にって使われていたり、そこでしか取れない様な貴重な植物もあるんだよ。ちなみに私がソラ君と出会ったのはそこ。トラムを挟んで反対側に植物園があるんだけど。この辺は研究部署が多いから」
俺が「へぇ~」と言いながら、ジュリの隣に座っているレクターはすっかり爆睡している。
士官学校前で降りて正門をくぐってそのまま第一校舎までの道を進んで行き、第一校舎のロビーの中に入りそのまま学校の中を案内でもしようかと思ったのだが、学校の中が異様に騒がしいので何事かと周囲を見回している。
どうやら『七夏祭』の準備が既に学校内でも始まっているようで、今年はまだ学校が何をするのかを聞いていなかったりする。
俺達はそのまま一緒に教室周りを案内してみて、授業が大学のようなカリキュラム製を取っており、教室もそれぞれの用途ごとに違う特色があると説明。
「士官学校だけあって戦闘訓練用の設備が多いんだけどな。俺はあまり使わないけど」
興味ないし。
レクター辺りは使用禁止になっているはずだし。
「俺使用禁止になったら興味ない」
「え?戦闘訓練用設備をですか?何をしたら学校の設備を使用禁止になるんですか?」
海のもっぱらな疑問、分からないでもないけれどな。
「訓練用の備品を全部ぶっ壊したんだよ。こいつ」
俺が白い目でレクターを見ているが、本人は俺の方を見居ないふりをしてそのままフラフラと教室に入ったり出たりしている。
「こいつぐらいだよな備品をぶっ壊すのは」
「はぁ。道場でも思いましたけど凄い人なんですね」
「実力は確かだよ。学年どころか前後の学年でもレクターを超える実力者はいないだろうな。天然の才能だな。馬鹿なのが玉に瑕だけど」
馬鹿なんだよな。
それさえ何とかなれば完璧なんだけど。
馬鹿で問題児、トラブルメーカーでもあるから余計に手が付けられない。
「まあ飽きないけれどな。お前も友達を作れると良いな。それだけは俺がなんとも出来ないからな。でも、俺が言えることじゃないけれど友達は作れよ」
「はは。先輩向こうでは友達いませんでしたね」
「余計な事だ。最低限はいたさ」
「そうですか?知りませんでした」
俺が海と言い合いをしていると後ろでジュリが声を出して微笑んでいるのが分かる。
俺が「何?」と尋ねてみると、ジュリは「別に」と言いながら俺の前を歩き出す。
そのまま、学校を一周して中庭で休憩していると職員室にマリアっぽい人間を見た気がする。
まさかと思いながら俺は売店で買ったチーズをエアロードとシャドウバイヤに与えてやり、レクターと海は二人でグラウンドの方へと走っていく。
「珍しい組み合わせだよね。意外と先輩後輩の関係が一番うまくいくのかもね」
「ああ、海も本来は上下関係はしっかりしているし、レクターも基本は上下関係を尊重するからな。まあ、時折例外があるけどな」
「そうだね。イリーナさんも学校に通うのかな?」
「どうなんだろうな。通うとしたら士官学校ではないだろ。ちなみに万理は女学院らしいよ」
「え?決まったんだ」
「ああ、サクトさんに聞いた。奈美も女学院。父さんと母さんはおしとやかに育って欲しいらしい」
奈美は自由奔放な所がある上、あれは女子という枠組みを時折超えてくる。
女学院に通う事で少しでも女子らしさを育てて欲しいという両親の願いが進路に困られている。
「まあ、あの二人は俺や海がいるから剣道をしていたっていうのはあるしな。軍方面やその関係の道に興味は無いみたいだし」
「そっか。だよね。海君は士官学校なんだね?」
「ああ、やっぱりガーランドは海に軍を志望して欲しいらしいな」
海自身も軍を進むことに拒否は無いらしいし、一番上のエリナさんも軍方面を志望するつもりらしい。
「あ、そういえばソラ君はガーランドさんが『アックス』て言われるのを嫌がる理由聞いた?」
知らない。
「昔自分と同じ名前のヌートリアがいたらしくてね。そのヌートリアに石を投げたらケツを噛まれたんだって」
ツッコミどころが多くどこからツッコメば良いのだろうか?
取り敢えず飼っているヌートリアに石を投げるなというツッコミと、自業自得だろうというツッコミを入れたい。
「え?それが理由?」
「らしいよ。結構トラウマらしくて。当時幼かったのと、お父さんに怒られたというのもトラウマの理由らしいね。今でもヌートリアが苦手なんだって」
それは良い事を聞いた。
なるほど……なら今度家に行く際はゴンを常に携帯する必要があるだろう。
邪悪な微笑みを浮かべる俺と、苦笑いを浮かべるジュリ。
食べ終わったのだろうエアロードとシャドウバイヤは今度は「ジュース」とせがみ始める。
「あのさ。少しぐらいは物乞いをやめたらどう?」
「「無理。早くジュース」」
俺は諦めながら適当なジュースを買って与えてやり、俺自身とジュリの分まで買って渡す。
「え?良いの?」
「ああ、ついでだしな」
ジュリが「ありがとう」と言いながら微笑み、俺はジュリの隣に座る。
ジュースのプルタブを開け一口だけ飲んでいると、グラウンド方面から海とレクターが走って戻ってくる。
「ソラ!今年の『七夏祭』の最終日の灯篭流し聞いた?」
「まだだけど?特別なにかあるようなイベントでもないだろ?」
灯篭流し。
灯篭を気球のような要領で夜空に飛ばすイベント、亡くなった人が出た家族がその年の死人の名前を書いて建物の屋上や広い場所から灯篭を浮かせる。
「それがね。クーデター事件と向こうで亡くなった人の分まで灯篭を流そうって話になっているらしくて、各学校の生徒で担当がいるらしいよ」
俺は黙ってしまう。
俺は一人で堆虎達の灯篭を作ろうとは思っていたし、それについては俺がしたい事なのでレクター達に手伝って欲しいとは言わないつもりだった。
「俺達はクーデター事件で亡くなった三十九人とソラの同級生の生徒、東京での死人を調べて造るって。明後日の放課後から作るらしいよ」
俺は「そっか」としか言えなかった。
すると海が「あの~」と口を挟んできた。
「自分も参加してもいいですか?何かしたくて」
海も何かしたい。この事件に関わってしまった海なりの責任なのかもしれない。
「勿論」
感想は後編で!では二時間後に!