ワンフォーオール・オールフォーワン 8
後編です。今回も海のエピソードになります。
俺達はお昼頃まで屋台のメニューを探り出しており、お昼の一時を向かていた頃俺達はおおよそのメニューを『たこ焼き』に絞っており、細かい調整は後日という事で、俺達は学校側に残りのタコを一旦預け、そのまま歩いて『ある場所』へと向かう事にした。
腹ごなしがしたかったというのも事実だが、それ以上に昨日聞いた『百人斬り』を早く済ませて上伝を貰いたいという気持ちも大きかった。
三人で南区のガイノス流道場へと足を進めて師範代に直ぐにでも始めて欲しいと告げると、師範代は弟子たちに指示を出し俺も練習用の木剣を取り出す。
さすがに『百人斬り』に魔導や魔導機を持ち出すことは出来ない。
「私百人斬りって初めてなんだけど……これってどの武器でもあるモノなの?」
「そうだよ。俺の時もしたし。魔導機や魔導の使用は禁止。武器防具は道場で指定した物を使用する事。戦場は道場内の試合場に限定。判定は場外と膝をついたらだよ」
「結構細かいルールがあるんだね」
「まあな。ちなみにレクターは一回合格したんだっけか?」
レクターがピースサインを俺の方に向けてくるのが微妙に癪にさわったのだが、この後の試合があるのであえて何もしないことにした。
ここでこいつにツッコミをしたら体力が無くなってしまう。
「ではソラ・ウルベクト!試合場へと上がりなさい」
俺は土で盛られた試合場、正方形で作らており一面の長さが二十五メートルと長い試合場。
まずは俺が昇っていき、その後にまずは三人の下伝の生徒が上ってくる。
俺は息を整え、師範代は俺を含めた四人の準備が整った段階で腕を上にあげ、他の門下生が見守る中その腕が降ろされた。
海は南区のガイノス流の道場へと父であるアックス・ガーランドと一緒に車で向かっており、北区から帝池の外周を半周する形で南区に入り、そのままメインストリートをまっすぐ進んだ。
「南区は色々な物品が揃う。北区と違って値段もリーズナブルで種類も様々だ、おそらくこれからこの辺で買い物をする機会が多いはずだ」
南区の綺麗で美しい街並みとは違い、こちらは大きな道が縦と横に広がりそれ以外の殆どがアパートのような家が密集している。
所々裏路地への道が残っている旧市街地。
そして内壁を超えて新市街地へと入ると街の雰囲気が一変した。
高層ビル群と都市の中のあちらこちらを結び付けるように作られた高速道路、マンションやショッピングモールの並びはどことなく東京の街並みを連想させる。
(そういえば東区の新市街地はニューヨークのように見えたな)
なんて呑気な事を考えたのは、昨日ソラときちんと話が出来たのが理由なのだろう。
少しは気持ちが楽になった気がする。
剣道場もビルのような見た目をしており、正面の玄関上に『ガイノス流南区道場』と書かれている。
門前に車を止め中に入ろうと両開きのドアをガーランドが開ける。
すると奥から活気づいた声が響いており、腹の底まで響きそうな声が海を驚かせる。しかし、ガーランドも随分不思議そうな顔をしている。
「元々元気のいい道場だが、今日は随分はしゃいでいるようだな。誰かが昇級試験をしているのかもな」
「昇級試験?」
「ああ、下伝から最上級の称号である特上伝まで試験が存在する。大体賑わいを見せる時は昇級試験をしているときだろう」
何て言いながらガーランドが長い廊下の奥のドアを開くと、更に活気づいた声が廊下へと響き渡り目の前には疲労困憊のソラ、その周囲に様々な武器を持った男が二人。
ソラが地面を大きく蹴り、二人の間に入ると横なぎに攻撃を繰り出すが、二人のうち一人が攻撃を受け止め、もう一人は攻撃で場外まで吹っ飛んでいく。
空と男性がつば競り合いに入ると、ソラが剣を投げ出し男性の攻撃が空を切り、ソラはそのまま剣を再び拾い斬りつける。
男性の方は隙だらけになった体を守る事が間に合わず、ソラからの攻撃をまともに受ける。
「そこまで!ソラ・ウルベクト!昇級試験合格!ソラ・ウルベクトを本日付けでガイノス流上伝に任命する!」
ソラが右腕を真上に上げ、息を何度も吐き出しては吸い込む。
周囲からの歓声がソラを包み、試合場を包む空気とそれを眺める海。
「お前もあれくらい強くなれるさ」
「………なれるかな?」
「なれるという父さんの言葉を信じろ。何よりお前は私の子だ。お前にやる気さえあれば必ずなれる」
二人は試合場の上で疲れ果てているソラを見上げていた。
俺は師範代に紹介させている海を近くのベンチに座りながら見守っており、今日から海が俺と同じ道場に所属するのだと思うと少しだけ心躍るものがある。
ちなみに先ほどからレクターは海と手合わせしたいとウズウズしているようで、師範代たちの周りをグルグル回っている。
「ええい!鬱陶しい!今日は手合わせ無し!そんなに暇ならその辺の門下生と試合でもしていろ!」
レクターが「ええ!面白くない」なんて叫んでいるが、面白かどうかで行動を決めないで欲しい。俺が酷い目に合うから。
俺の方を向くレクター、俺は無理だとジェスチャーで返す。
ジュリが持ってきた飲み物をストローで飲み、口の中にスポーツドリンクが流れ込んでくる。
案の定暇なのかその辺の門下生と試合をし始めるが、その辺の門下生がレクターの相手が出来るとは思えない。
それに今日は土曜日であり、上伝以上の門下生はそもそも集まっていないし、集まっている門下生も下伝と中伝ぐらいである。
五人ぐらいが束になっても勝てないだろう。
案の定五人がレクターに挑むが面白ぐらいにすっ飛んでくる―――――、俺の方に向かって。
俺はジュリを担いでその場から素早く移動し、別のベンチへと非難する。
「お前な!試合するなら他の所に投げろ!俺の方に被害を出すな」
ちなみに一緒に付いてきていたエアロードとシャドウバイヤは近くのベンチで眠っており、すっかり惰眠を貪っている。
ゴンを連れてくるべきかどうかで悩んだのだが、試合中に乱入される可能性が高いので俺はやめておいて、かといって部屋において置いたら勝手に出歩くので学校に行くついでに父さんに預けた。
アベルはそのまま一人で帰っていき、海は試合をしている門下生達に挨拶をして回っている。
俺としては挨拶をするまでも無く知っている間柄なのだが、ここではあくまでも数年先輩。やはり自己紹介から始めるべきなのだろうか?
なんて悩んでいると海にレクターが突っ込んでいき、海の周りをグルグル回ってアピールをしている。
「俺はレクター!上伝!よろしくね!」
「あ、はい!よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる海に俺は心の中で「そいつには真面目に挨拶する必要ないぞ」と念を送ってみるが、そんな念が通じるわけが無い。
すると海は俺の方にも近づいてきて丁寧に頭を下げて挨拶してきた。
「カイ・ガーランドと言います。本日からこの道場に通う事になりました。ご指導のほどよろしくお願いします」
俺はここで偉そうに接するべきなのか、それとも昔みたいに親しく接するべくなのか。
ここで偉そうにすれば俺と海との溝は埋まらないだろう。しかし、ここで親しそうに接すれば海の今後の人間関係を面倒にしてしまうだけだろう。
いや、こんなことで俺と海の人間関係が複雑になることは無い。
「ソラ・ウルベクト。ガイノス流上伝。よろしく」
俺は海の伸ばす右手を握りしめ、あくまでもここでは先輩として接することにした。
海は俺の手を握りしめたまま涙を流し出すので俺は優しく肩を叩く。
「また、よろしくな」
「………はい!ご指導よろしくお願いします」
俺と海は元通りの関係に戻れるそんな気がした午後の事である。
どうでしたか?まだまだワンフォーオール・オールフォーワンは続くと思います。後日談エピソードが予想以上に長いですが『呪詛の鐘』完結まで突き進んでいきます!では!次回!